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 カイが目を覚ました時、隣には誰も居なかった。

 既にエリスは起きて食事の支度をしているようで、香ばしい匂いが部屋中に漂っていた。

「おはよう、エリス」

「あ、おはよう、カイ」

 昨夜のことをまだ気にしているようで、心なしかエリスの顔が赤い。

「今日は街でカイの寝具を調えようね」

「そうだね.  」

 僕はこのままでもいいけど...その言葉を言うのはまだ早いとカイは判断した。

「朝ご飯もうすぐ出来るからね。今の内に顔洗ってきて」

「うん、分かった」

 顔を洗ってテーブルに着くと、丸くて黒い見慣れない物が置いてあるのに気付く。

「エリス、これなに?」

「あぁ、それは盗聴用の魔道具の受信器よ」

「あ、クズの部屋に仕掛けたってヤツ」

「えぇ、監視する為にいつも持ち歩いてるの。朝から不快な声が聞こえたらゴメンなさいね」

 エリスが苦笑する。

「いや、構わないよ。というか、この時間じゃまだ寝てるんじゃない?」

「そうかもね。自堕落な生活してるようだから。さあ出来たわ。食べましょう」

「朝から肉なんだね...」

 その時、受信器から怒鳴り声が聞こえた。思わず二人で顔を見合わす。

「面白くなりそうね」

 そう言って笑ったエリスは、とっても悪い顔をしていた。


◇◇◇

 
 ガシャーーンッ!...朝っぱらから怒号と共に食器の割れる音が響く。

「こんな物が食えるかぁ!」

 マルクは苛立っていた。一週間程前から絶え間無く続くこの耐え難い痒みに頭がどうにかなりそうだった。ここ最近は満足に眠れていないし、食欲も湧かない。それに輪を掛けて屋敷の様子がおかしい。

 あちこち埃だらけだし、洗濯も満足にされていない。食事は不味くなる一方で、ただでさえ落ちている食欲がますます落ちる一方だ。

「シェフはなにをしている!」

「その...シェフは逃げました...」

 先代の時から屋敷に仕えている家令が申し訳なさそうに言う。

「なにぃ! 逃げただと!? けしからん! すぐ連れ戻せ!」

「それが消息不明でして...」

「なら違うヤツをすぐ雇え!」

「募集はしてるのですが誰も来なくて...」

 これはエリスが町長に、街の人が屋敷からの求人に応じないようにと指示したからである。離反者のリストの中にシェフが居たので、こうなることを見越していたのだ。

「なんだとっ! この屋敷で働ける名誉をいらんとぬかすかっ!」

 名誉を貶めているのが自分だと気付いていない。

「どいつもこいつもバカにしやがって! もういいっ! 隣の領地に募集を掛けろ!」

「それが...」

「今度はなんだ!?」

「御者が馬を連れて逃げました...」

「なんだと~!?」

 一体なにが起こっている!? どうなっているんだ!? マルクは自問した。やがて答えに辿り着く。そうだ! 一週間前、メイドの面接に来た女! あの女になにかされて気を失ってから全てがおかしくなった。つまみ食いしてやろうと思ったのが失敗だった。あの女を見付けなければ!

「御者と馬を早急に手配しろっ! それとあの女の手掛かりはなにか掴めたのか!?」

「いえ、まだなにも...」

「役立たずめっ!」

 ちなみに御者と馬もリストにあったので、募集に応じないよう指示済みである。


 怒鳴り散らして汗を掻いたマルクは風呂に入って汗を流すことにした。

「おい、風呂に入る。メイドに準備させろ。それと服が汗臭い。ちゃんと洗濯するように伝えろ」

「......」

「おい、まさか...」

「メイドも全員逃げました...」

 マルクはただ呆けて立ち尽くした。

 もちろんメイドも...以下同文。

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