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 ギルバートを叩き出した後、エリザベートが呆れたようにこう言った。

「アンリエット、いくらなんでも人が良過ぎるわよ...あなた...」

「そうかもね。でもいいのよ。これでもう二度と関わることも無くなるんだから」

「まぁ、あなたがそれでいいならいいけど...」

「エリザベート、はいこれ。半分になっちゃったけど、教会に寄付しといて」

 私は現金の入った袋をエリザベートに渡そうとしたが、

「えっ!? ちょっと待って! なんか私まで帰る流れになってない!?」

「だって玄関まで来たんだからちょうどいいじゃないの?」

「イヤよ! 私はお兄様にお会いするまでテコでも帰らないからね!」

「いいから帰りなさい。兄はいつ帰るか分からないんだから。それと急にお兄様呼ばわりすんのも止めろ」

「じゃあ『ジョン・ドウ』様!」

「それはもっと止めろ」

 私はすっかり目がハートマークになってしまったエリザベートの肩を押して外に出した。

「イヤよ~! 帰りたくな~い!」

 エリザベートが駄々をこね始めた。あぁ、ホント面倒臭いな...兄の正体明かすの早まったかな...私はギャアギャアと騒ぎ続けているエリザベートをセバスチャンに任せて、自分の部屋に戻りベッドに突っ伏した。

 なんかドッと疲れが出た私は、そのまま夜まで眠りこけてしまった。


◇◇◇


 兄が帰って来たのは夜遅くなってからだった。

「ただいま...」

「お帰り。随分遅かったのね!? なんかあった!?」

 今日の兄は後継者に復帰するに当たって、関係各所に挨拶回りをしに行っていたはずだ。間違ってもこんな遅い時間まで掛かるはずがない。

「関わりの深い貴族相手の挨拶回りはすぐ終わったんだが、最後の出版社がな...」

「なんか問題でも!?」

「行き掛かり上、俺の正体を明かす必要があったから、俺が『ジョン・ドウ』だって明かしたら途端に大騒ぎになってな...刷り上がったばかりの俺の本全てにサインさせられるわ、引退するって言ったら泣いて引き留められるわ、挙げ句に接待と称してこんな時間まで色んな店に連れ回されるわで本当に大変だったよ...あぁ、疲れた...」

「それはまた...大変だったわね...」

 そっちでも『ジョン・ドウ』関連か。兄の苦労している情景が簡単に頭に浮かんだ私は、兄に同情しながらも伝えなければならないことがあった。

「兄さん、疲れてるところ悪いんだけど...」

 私はエリザベートとの一件を兄に話した。

「そうだったのか...エリザベート嬢が...」

「うん、きっとこれからウザ絡みして来ると思うからよろしくね?」

 兄は心底イヤそうな顔をした。
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