80 / 276
80
しおりを挟む
ギルバートを叩き出した後、エリザベートが呆れたようにこう言った。
「アンリエット、いくらなんでも人が良過ぎるわよ...あなた...」
「そうかもね。でもいいのよ。これでもう二度と関わることも無くなるんだから」
「まぁ、あなたがそれでいいならいいけど...」
「エリザベート、はいこれ。半分になっちゃったけど、教会に寄付しといて」
私は現金の入った袋をエリザベートに渡そうとしたが、
「えっ!? ちょっと待って! なんか私まで帰る流れになってない!?」
「だって玄関まで来たんだからちょうどいいじゃないの?」
「イヤよ! 私はお兄様にお会いするまでテコでも帰らないからね!」
「いいから帰りなさい。兄はいつ帰るか分からないんだから。それと急にお兄様呼ばわりすんのも止めろ」
「じゃあ『ジョン・ドウ』様!」
「それはもっと止めろ」
私はすっかり目がハートマークになってしまったエリザベートの肩を押して外に出した。
「イヤよ~! 帰りたくな~い!」
エリザベートが駄々をこね始めた。あぁ、ホント面倒臭いな...兄の正体明かすの早まったかな...私はギャアギャアと騒ぎ続けているエリザベートをセバスチャンに任せて、自分の部屋に戻りベッドに突っ伏した。
なんかドッと疲れが出た私は、そのまま夜まで眠りこけてしまった。
◇◇◇
兄が帰って来たのは夜遅くなってからだった。
「ただいま...」
「お帰り。随分遅かったのね!? なんかあった!?」
今日の兄は後継者に復帰するに当たって、関係各所に挨拶回りをしに行っていたはずだ。間違ってもこんな遅い時間まで掛かるはずがない。
「関わりの深い貴族相手の挨拶回りはすぐ終わったんだが、最後の出版社がな...」
「なんか問題でも!?」
「行き掛かり上、俺の正体を明かす必要があったから、俺が『ジョン・ドウ』だって明かしたら途端に大騒ぎになってな...刷り上がったばかりの俺の本全てにサインさせられるわ、引退するって言ったら泣いて引き留められるわ、挙げ句に接待と称してこんな時間まで色んな店に連れ回されるわで本当に大変だったよ...あぁ、疲れた...」
「それはまた...大変だったわね...」
そっちでも『ジョン・ドウ』関連か。兄の苦労している情景が簡単に頭に浮かんだ私は、兄に同情しながらも伝えなければならないことがあった。
「兄さん、疲れてるところ悪いんだけど...」
私はエリザベートとの一件を兄に話した。
「そうだったのか...エリザベート嬢が...」
「うん、きっとこれからウザ絡みして来ると思うからよろしくね?」
兄は心底イヤそうな顔をした。
「アンリエット、いくらなんでも人が良過ぎるわよ...あなた...」
「そうかもね。でもいいのよ。これでもう二度と関わることも無くなるんだから」
「まぁ、あなたがそれでいいならいいけど...」
「エリザベート、はいこれ。半分になっちゃったけど、教会に寄付しといて」
私は現金の入った袋をエリザベートに渡そうとしたが、
「えっ!? ちょっと待って! なんか私まで帰る流れになってない!?」
「だって玄関まで来たんだからちょうどいいじゃないの?」
「イヤよ! 私はお兄様にお会いするまでテコでも帰らないからね!」
「いいから帰りなさい。兄はいつ帰るか分からないんだから。それと急にお兄様呼ばわりすんのも止めろ」
「じゃあ『ジョン・ドウ』様!」
「それはもっと止めろ」
私はすっかり目がハートマークになってしまったエリザベートの肩を押して外に出した。
「イヤよ~! 帰りたくな~い!」
エリザベートが駄々をこね始めた。あぁ、ホント面倒臭いな...兄の正体明かすの早まったかな...私はギャアギャアと騒ぎ続けているエリザベートをセバスチャンに任せて、自分の部屋に戻りベッドに突っ伏した。
なんかドッと疲れが出た私は、そのまま夜まで眠りこけてしまった。
◇◇◇
兄が帰って来たのは夜遅くなってからだった。
「ただいま...」
「お帰り。随分遅かったのね!? なんかあった!?」
今日の兄は後継者に復帰するに当たって、関係各所に挨拶回りをしに行っていたはずだ。間違ってもこんな遅い時間まで掛かるはずがない。
「関わりの深い貴族相手の挨拶回りはすぐ終わったんだが、最後の出版社がな...」
「なんか問題でも!?」
「行き掛かり上、俺の正体を明かす必要があったから、俺が『ジョン・ドウ』だって明かしたら途端に大騒ぎになってな...刷り上がったばかりの俺の本全てにサインさせられるわ、引退するって言ったら泣いて引き留められるわ、挙げ句に接待と称してこんな時間まで色んな店に連れ回されるわで本当に大変だったよ...あぁ、疲れた...」
「それはまた...大変だったわね...」
そっちでも『ジョン・ドウ』関連か。兄の苦労している情景が簡単に頭に浮かんだ私は、兄に同情しながらも伝えなければならないことがあった。
「兄さん、疲れてるところ悪いんだけど...」
私はエリザベートとの一件を兄に話した。
「そうだったのか...エリザベート嬢が...」
「うん、きっとこれからウザ絡みして来ると思うからよろしくね?」
兄は心底イヤそうな顔をした。
33
あなたにおすすめの小説
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる