聖女である私を追放する? 別に構いませんが退職金はしっかり払って貰いますからね?

真理亜

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 神官長との話し合いを終え、悄然としたまま神殿を出ようとしたフリードリヒだったが、

「あ、あの...すいません...」

 そんな少女の声に呼び止められ足を止めた。そこに立っていたのは見覚えのある少女だった。

「そなたは...」

 そう、あの日アンジュに素気無く病気の母親の治療を断られた少女だった。

「あ、あの...聖女アンジュ様はいらっしゃいますか?」

「いや...その...アンジュは...今ちょっと外出している...」

 実はまだアンジュを追放したことを公式には発表していないので、このように曖昧な言い方になってしまう。

「そうですか...一言お礼を言いたかったんですが...いらっしゃらないんじゃ仕方ありませんね。出直すことにします」

「お礼!? いやしかしそなたは...」

 治療を断られたのになんでお礼なんかするんだ? フリードリヒの頭は混乱した。

「あぁ、確かに最初は素気無く断られたんで、なんて酷い人だって思っていました。もうお母ちゃんを助けられないと思って絶望しました。でもあの後すぐ、なんとアンジュ様は私の家にやって来てくれたんです!」

「な、なんだって!?」

 フリードリヒは信じられないとばかりに目を剥いた。

「そして『今回だけですからね』とおっしゃってお母ちゃんを治してくれたんです! 更に『これでなにか美味しい物でも食べさせてあげなさい』とお金まで渡して下さったんです! 更に更に『仕事が無いなら良い職場を紹介してあげましょう』とおっしゃって下さって、商家の丁稚奉公先を紹介して下さったんです! お陰様で今はお母ちゃんと二人で働かせて貰っています!」

 言われてみれば確かに、初めて神殿に来た時の小汚ない格好とは違って、今の少女は清潔な服を着ている。

「本当に感謝しかありません! あの方は真なる聖女様です!」

 目をキラキラさせながら嬉しそうに話す少女を、フリードリヒは複雑な思いで見詰めていた。

 口ではあんな辛辣なことを言っていても、ちゃんと弱い者には手を差し伸べていたアンジュの懐の深さに舌を巻いていた。

 もしかしたら自分はとんでもない勘違いをしていたのではないか? アンジュはただ金に卑しい聖女ではなかったのではないか? そんな自責の念に駆られながら、

「そうか...聖女アンジュにそう伝えておこう...」

 フリードリヒが少女にそう言うと、

「お願いします!」

 少女は眩しい笑顔を浮かべながらそう言って神殿を後にした。

 残されたフリードリヒはその場に踞ってしまった。

 

 
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