8 / 12
8
しおりを挟む
神官長との話し合いを終え、悄然としたまま神殿を出ようとしたフリードリヒだったが、
「あ、あの...すいません...」
そんな少女の声に呼び止められ足を止めた。そこに立っていたのは見覚えのある少女だった。
「そなたは...」
そう、あの日アンジュに素気無く病気の母親の治療を断られた少女だった。
「あ、あの...聖女アンジュ様はいらっしゃいますか?」
「いや...その...アンジュは...今ちょっと外出している...」
実はまだアンジュを追放したことを公式には発表していないので、このように曖昧な言い方になってしまう。
「そうですか...一言お礼を言いたかったんですが...いらっしゃらないんじゃ仕方ありませんね。出直すことにします」
「お礼!? いやしかしそなたは...」
治療を断られたのになんでお礼なんかするんだ? フリードリヒの頭は混乱した。
「あぁ、確かに最初は素気無く断られたんで、なんて酷い人だって思っていました。もうお母ちゃんを助けられないと思って絶望しました。でもあの後すぐ、なんとアンジュ様は私の家にやって来てくれたんです!」
「な、なんだって!?」
フリードリヒは信じられないとばかりに目を剥いた。
「そして『今回だけですからね』とおっしゃってお母ちゃんを治してくれたんです! 更に『これでなにか美味しい物でも食べさせてあげなさい』とお金まで渡して下さったんです! 更に更に『仕事が無いなら良い職場を紹介してあげましょう』とおっしゃって下さって、商家の丁稚奉公先を紹介して下さったんです! お陰様で今はお母ちゃんと二人で働かせて貰っています!」
言われてみれば確かに、初めて神殿に来た時の小汚ない格好とは違って、今の少女は清潔な服を着ている。
「本当に感謝しかありません! あの方は真なる聖女様です!」
目をキラキラさせながら嬉しそうに話す少女を、フリードリヒは複雑な思いで見詰めていた。
口ではあんな辛辣なことを言っていても、ちゃんと弱い者には手を差し伸べていたアンジュの懐の深さに舌を巻いていた。
もしかしたら自分はとんでもない勘違いをしていたのではないか? アンジュはただ金に卑しい聖女ではなかったのではないか? そんな自責の念に駆られながら、
「そうか...聖女アンジュにそう伝えておこう...」
フリードリヒが少女にそう言うと、
「お願いします!」
少女は眩しい笑顔を浮かべながらそう言って神殿を後にした。
残されたフリードリヒはその場に踞ってしまった。
「あ、あの...すいません...」
そんな少女の声に呼び止められ足を止めた。そこに立っていたのは見覚えのある少女だった。
「そなたは...」
そう、あの日アンジュに素気無く病気の母親の治療を断られた少女だった。
「あ、あの...聖女アンジュ様はいらっしゃいますか?」
「いや...その...アンジュは...今ちょっと外出している...」
実はまだアンジュを追放したことを公式には発表していないので、このように曖昧な言い方になってしまう。
「そうですか...一言お礼を言いたかったんですが...いらっしゃらないんじゃ仕方ありませんね。出直すことにします」
「お礼!? いやしかしそなたは...」
治療を断られたのになんでお礼なんかするんだ? フリードリヒの頭は混乱した。
「あぁ、確かに最初は素気無く断られたんで、なんて酷い人だって思っていました。もうお母ちゃんを助けられないと思って絶望しました。でもあの後すぐ、なんとアンジュ様は私の家にやって来てくれたんです!」
「な、なんだって!?」
フリードリヒは信じられないとばかりに目を剥いた。
「そして『今回だけですからね』とおっしゃってお母ちゃんを治してくれたんです! 更に『これでなにか美味しい物でも食べさせてあげなさい』とお金まで渡して下さったんです! 更に更に『仕事が無いなら良い職場を紹介してあげましょう』とおっしゃって下さって、商家の丁稚奉公先を紹介して下さったんです! お陰様で今はお母ちゃんと二人で働かせて貰っています!」
言われてみれば確かに、初めて神殿に来た時の小汚ない格好とは違って、今の少女は清潔な服を着ている。
「本当に感謝しかありません! あの方は真なる聖女様です!」
目をキラキラさせながら嬉しそうに話す少女を、フリードリヒは複雑な思いで見詰めていた。
口ではあんな辛辣なことを言っていても、ちゃんと弱い者には手を差し伸べていたアンジュの懐の深さに舌を巻いていた。
もしかしたら自分はとんでもない勘違いをしていたのではないか? アンジュはただ金に卑しい聖女ではなかったのではないか? そんな自責の念に駆られながら、
「そうか...聖女アンジュにそう伝えておこう...」
フリードリヒが少女にそう言うと、
「お願いします!」
少女は眩しい笑顔を浮かべながらそう言って神殿を後にした。
残されたフリードリヒはその場に踞ってしまった。
95
あなたにおすすめの小説
婚約破棄したいって言いだしたのは、あなたのほうでしょ?【完結】
小平ニコ
恋愛
父親同士が親友であるというだけで、相性が合わないゴードリックと婚約を結ばされたキャシール。何かにつけて女性を見下し、あまつさえ自分の目の前で他の女を口説いたゴードリックに対し、キャシールもついに愛想が尽きた。
しかしこの国では制度上、女性の方から婚約を破棄することはできない。そのためキャシールは、ゴードリックの方から婚約破棄を言いだすように、一計を案じるのだった……
【短編完結】妹は私から全てを奪ってゆくのです
鏑木 うりこ
恋愛
お姉様、ねえそれちょうだい?
お人形のように美しい妹のロクサーヌは私から全てを奪って行く。お父様もお母様も、そして婚約者のデイビッド様まで。
全て奪われた私は、とうとう捨てられてしまいます。
そして、異変は始まるーーー。
(´・ω・`)どうしてこうなった?
普通のざまぁを書いていたらなんか違う物になり困惑を隠し切れません。
婚約者は妹を選ぶようです(改稿版)
鈴白理人
恋愛
アドリアナ・ヴァンディール侯爵令嬢には妹がいる。
アドリアナが家格の同じ侯爵家の三男であるレオニード・ガイデアンの婚約者となり半年経つが、最近の彼は妹のリリアーナと急接近し、アドリアナをないがしろにし始める。
どこでも泣き出すリリアーナにアドリアナは嘆息してしまうが、レオニードはリリアーナをかばい続け、アドリアナを非難する言葉ばかりを口にするようになった。
リリアーナのデビュタント会場で、とうとうそれは起こるべくして起こった。
「アドリアナ・ヴァンディール侯爵令嬢!僕は君との婚約を破棄して、妹のリリアーナ・ヴァンディールと婚約を結び直す!」
宜しいのでしょうか、レオニード・ガイデアン侯爵令息?
その妹は──
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
妹に幼馴染の彼をとられて父に家を追放された「この家の真の当主は私です!」
佐藤 美奈
恋愛
母の温もりを失った冬の日、アリシア・フォン・ルクセンブルクは、まだ幼い心に深い悲しみを刻み付けていた。公爵家の嫡女として何不自由なく育ってきた彼女の日常は、母の死を境に音を立てて崩れ始めた。
父は、まるで悲しみを振り払うかのように、すぐに新しい妻を迎え入れた。その女性とその娘ローラが、ルクセンブルク公爵邸に足を踏み入れた日から、アリシアの運命は暗転する。
再婚相手とその娘ローラが公爵邸に住むようになり、父は実の娘であるアリシアに対して冷淡になった。継母とその娘ローラは、アリシアに対して日常的にそっけない態度をとっていた。さらに、ローラの策略によって、アリシアは婚約者である幼馴染のオリバーに婚約破棄されてしまう。
そして最終的に、父からも怒られ家を追い出されてしまうという非常に辛い状況に置かれてしまった。
婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~
琴葉悠
恋愛
ストーリャ国の王子エピカ・ストーリャの婚約者ペルラ・ジェンマは彼が大嫌いだった。
自由が欲しい、妃教育はもううんざり、笑顔を取り繕うのも嫌!
しかし周囲が婚約破棄を許してくれない中、ペルラは、エピカが見知らぬ女性と一緒に夜会の別室に入るのを見かけた。
「婚約破棄」の文字が浮かび、別室に飛び込み、エピカをただせば言葉を濁す。
ペルラは思いの丈をぶちまけ、夜会から飛び出すとそこで運命の出会いをする──
妹に簡単になびいたあなたが、今更私に必要だと思いますか?
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるルーティアは、ある時夫の不貞を知ることになった。
彼はルーティアの妹に誘惑されて関係を持っていたのだ。
さらに夫は、ルーティアの身の周りで起きたある事件に関わっていた。それを知ったルーティアは、真実を白日の下に晒して夫を裁くことを決意する。
結果として、ルーティアは夫と離婚することになった。
彼は罪を裁かれるのを恐れて逃げ出したが、それでもなんとかルーティアは平和な暮らしを手に入れることができていた。
しかしある時、夫は帰ってきた。ルーティアに愛を囁き、やり直そうという夫に対して彼女は告げる。
「妹に簡単になびいたあなたが、今更私に必要だと思いますか?」
【完結】義家族に婚約者も、家も奪われたけれど幸せになります〜義妹達は華麗に笑う
鏑木 うりこ
恋愛
お姉様、お姉様の婚約者、私にくださらない?地味なお姉様より私の方がお似合いですもの!
お姉様、お姉様のお家。私にくださらない?お姉様に伯爵家の当主なんて務まらないわ
お母様が亡くなって喪も明けないうちにやってきた新しいお義母様には私より一つしか違わない双子の姉妹を連れて来られました。
とても美しい姉妹ですが、私はお義母様と義妹達に辛く当たられてしまうのです。
この話は特殊な形で進んで行きます。表(ベアトリス視点が多い)と裏(義母・義妹視点が多い)が入り乱れますので、混乱したら申し訳ないですが、書いていてとても楽しかったです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる