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伯爵家の執事は躊躇いがちに己の主人の執務室を訪れていた。
「旦那様、失礼致します...その...お坊っちゃまが...」
「なに!? まだ居るのか!?」
伯爵は嫌悪に満ちた表情を浮かべて呆れながらそう聞き返した。
「はい、門に凭れ掛かっているそうです...門衛からどうしたら良いものかと問い合わせが来ておりまして...」
「フゥ...」
伯爵は大きなため息を一つ吐いた後、
「ここまで愚かなヤツだったとは...完全に育て方を間違えたな...儂の責任でもあるのか...」
そう言って自嘲気味に笑った。
「頻りに『腹が減った』と呟いているそうですが...」
困り顔になった執事がそう続けた。
「そうか...だったらちょうど良い。今日、フィリップは貧民街の炊き出しに行ってるんだろう?」
「はい、教会主宰の炊き出しにご参加なされております。貴族の義務だとおっしゃって」
「それが貴族として当然の姿なんだ。儂も若い頃には良く参加したもんだ。もちろん寄付金持参でな」
そう言って伯爵は懐かしむように遠い目をした。
「フィリップ様も寄付金を持参されておりました。さすがは伯爵家の次期当主となられるお方。良く分かっておられますな」
執事がどこか誇らし気にそう言った。
「そんなフィリップの姿をヤツに見せてやれ。今更遅過ぎるが...それでも...なにか少しでも感じる所があれば、今後ヤツが成長する糧になるだろうて...」
伯爵はちょっと疲れたような表情を浮かべながらそう言った。これはせめてもの親心といったところだろうか。
「畏まりました...そのように伝えます...」
◇◇◇
「どわっ!? な、なんだなんだ!?」
凭れ掛かっていた門が急に内側に開き、支えの無くなったデュランの体がコテンと転がる。
すると門衛小屋から屈強なガタイをした門衛が二人出て来た。更に一台の馬車もやって来た。
門衛は物も言わずにデュランの体を担ぎ上げると、馬車の中へと押し込んだ。
「うわっぷっ! な、なんなんだ貴様ら! この僕を誰だと思っている! こんな仕打ち絶対許さんぞ! お父上に報告してクビにしてやるからな! 覚悟しろ!」
デュランはこの期に及んでもまだ自分を貴族の、そして伯爵家の家族の一員であると思い込んだままだった。
親の心子知らずとはこのようなことを指して言うのだろう。
「おい、聞いてんのか?! 貴様ら、一体この僕をどこへ連れて行くつもりだ!?」
喚き散らすデュランを無視して、馬車は炊き出しの行われている貧民街を目指した。
「旦那様、失礼致します...その...お坊っちゃまが...」
「なに!? まだ居るのか!?」
伯爵は嫌悪に満ちた表情を浮かべて呆れながらそう聞き返した。
「はい、門に凭れ掛かっているそうです...門衛からどうしたら良いものかと問い合わせが来ておりまして...」
「フゥ...」
伯爵は大きなため息を一つ吐いた後、
「ここまで愚かなヤツだったとは...完全に育て方を間違えたな...儂の責任でもあるのか...」
そう言って自嘲気味に笑った。
「頻りに『腹が減った』と呟いているそうですが...」
困り顔になった執事がそう続けた。
「そうか...だったらちょうど良い。今日、フィリップは貧民街の炊き出しに行ってるんだろう?」
「はい、教会主宰の炊き出しにご参加なされております。貴族の義務だとおっしゃって」
「それが貴族として当然の姿なんだ。儂も若い頃には良く参加したもんだ。もちろん寄付金持参でな」
そう言って伯爵は懐かしむように遠い目をした。
「フィリップ様も寄付金を持参されておりました。さすがは伯爵家の次期当主となられるお方。良く分かっておられますな」
執事がどこか誇らし気にそう言った。
「そんなフィリップの姿をヤツに見せてやれ。今更遅過ぎるが...それでも...なにか少しでも感じる所があれば、今後ヤツが成長する糧になるだろうて...」
伯爵はちょっと疲れたような表情を浮かべながらそう言った。これはせめてもの親心といったところだろうか。
「畏まりました...そのように伝えます...」
◇◇◇
「どわっ!? な、なんだなんだ!?」
凭れ掛かっていた門が急に内側に開き、支えの無くなったデュランの体がコテンと転がる。
すると門衛小屋から屈強なガタイをした門衛が二人出て来た。更に一台の馬車もやって来た。
門衛は物も言わずにデュランの体を担ぎ上げると、馬車の中へと押し込んだ。
「うわっぷっ! な、なんなんだ貴様ら! この僕を誰だと思っている! こんな仕打ち絶対許さんぞ! お父上に報告してクビにしてやるからな! 覚悟しろ!」
デュランはこの期に及んでもまだ自分を貴族の、そして伯爵家の家族の一員であると思い込んだままだった。
親の心子知らずとはこのようなことを指して言うのだろう。
「おい、聞いてんのか?! 貴様ら、一体この僕をどこへ連れて行くつもりだ!?」
喚き散らすデュランを無視して、馬車は炊き出しの行われている貧民街を目指した。
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