嫁いだら旦那に「お前とは白い結婚だ」と言われました

真理亜

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「痛たたたっ! おい、人を馬車から放り投げるとは何事だ! 貴様ら絶対に許さんからな!」

 デュランが連れて来られたのは貧民街の一角、教会による炊き出しが行われている場所だった。

 馬車はデュランを降ろした後、くるりと踵を返してしまった。

「お、おい、貴様ら! ちょ、ちょっと待て! ど、どこだここは!?」

 置いてきぼりを食らった格好のデュランは慌てて周りを見渡す。そこには今の自分と同じように草臥れた服を着た連中が、なにやら列を作って並んでいた。そしてその列の前方の方からは、

「は~い、皆さ~ん! 順番に並んで下さいね~! 横入りや割り込みはしちゃダメですよ~! ちゃんとマナーを守って下さいね~! 慌てなくても大丈夫ですよ~! 量はたっぷりと用意してますからね~! 全員に行き渡りますから安心して下さい~! ちなみに今日はみんな大好き豚汁ですよ~!」

 そんな声と共に、シスター服を着た女性達が大鍋から一人一人に豚汁を配っていた。

 それでやっとデュランは気付いた。これが世に言う炊き出しなるものなのだと。貴族の端くれだった身として聞いたことはある。だが知識としては知っていたとしても、実際に自分の目で見るのは初めてだった。

 つまりこれまで参加したこともなければ寄付をしたこともない。貴族としての義務をどれだけ疎かにしていたのか推して知るべしである。

「クソッ! 屈辱だ! なんだってこの僕がこんな施しを受けにゃならんのだ!」

 デュランは列に並びながらブツブツと愚痴っていた。プライドだけは未だに高いままであるデュランにとってはさぞ業腹なことだろうが、そうは言っても背に腹は代えられない。プライドなんかでお腹は膨れないのだ。

 ちなみにこの時、弟のフィリップは裏で食材の仕込みをしていたので、デュランの方からは見えなかった。それはフィリップの方も同様である。

 父親の「献身的に貴族の義務を果たす弟の姿を見て少しは反省しろ」というメッセージは残念ながらデュランには伝わらなかった。

「うん? あれは...」

 列に並んでボンヤリと辺りを見回していたデュランの目に、見覚えのある女の後ろ姿が映り込んで来た。

「おい、お前ちょっと顔を見せろ!」

 その後ろ姿に向かって叫ぶと、

「あ、ヤベッ!」

 その女は振り返るや否や一目散に逃げ出した。

「やっぱりアイラか! お、おい、ちょ、ちょっと待て~!」

 アイラだった。どこに行ったのかと思ってたら、シレッと炊き出しの列に並んでいたのだ。

 慌てて追い掛けたデュランだったが、ほどなく疲労と空腹で足が縺れて倒れ込んでしまい、まんまと取り逃がしてしまったのだった。
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