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「クソッ! クソッ! みんなして僕をバカにしやがって!」

 まるで野良犬をシッシと追い払うかのように、炊き出し場から強制退場させられたデュランはイライラしながら当て所もなく歩いていた。

「クソッ! クソッ! クソォッ! なんで僕だけがこんな目にぃ!」

 惨めだった。実の父親からは勘当され、実の弟からは蔑んだ目で見られ、愛を誓って子供まで作った女には逃げられ。

 金も無く帰る家も無い。腹は減るし着の身着のままの服は汚れ放題だ。

「なにもかも全てはサリアのせいだ! あの女に関わってからロクなことがない!」

 完全に八つ当たりだが、この時のデュランの精神状態はマトモではなかった。

「今に見てろ! 裁判で目に物見せてやる!」

 なんの根拠もないが、なぜかデュランは自信たっぷりに暗く嗤っていた。

 
◇◇◇


 そして迎えた離婚訴訟裁判の当日。

 サリアは久し振りに見たデュランの変わり果てた姿にビックリしていた。服は薄汚く汚れまくっており、体は痩せ衰えてしまっている。顔は眼窩が窪んでまるで骸骨のようだ。しかしなぜか目だけはギラギラと異様に輝いている。

「さて、それでは離婚訴訟の裁判を開始します。被告人は前に」

 裁判長が入廷し、いよいよ裁判がスタートする。

「結婚式を挙げたその日の夜、被告人デュランは原告サリアに対して『お前とは白い結婚だ』『お前は黙ってただ僕と愛人との子供を育ててりゃいいんだ』などと酷いことを言ったそうですが、これは事実ですか?」

「いいえ、裁判長! 事実無根です! その女がウソを吐いているんです!」

 そう叫んでデュランは原告席のサリアを指差した。証人となり得るアイラや見張りとして雇った三人衆の姿がこの場に無い以上、言った言わないで有耶無耶になり乗り切れるはずだと、浅はかにもデュランはそう思い込んでいた。だが、

「裁判長、証人をこの場に呼んでも構わないでしょうか?」

 原告席から立ち上がったサリアは冷静にそう言った。

「許可します」

 そして例の見張り三人衆がおずおずと法廷に現れる。デュランは目を剥いた。

「あなた方は被告人の言葉を聞きましたか?」

 裁判長が静かに問い掛ける。

「へ、へい...聞きやした...」

 三人の内の一人が恐々と答えた。

「原告の訴えは事実ですか?」

「へ、へい...事実です...」

 次の瞬間、

「貴様らぁ! 良くも裏切りやがったなぁ!」

 被告席から勢い良く飛び出したデュランが、怒りに任せて三人衆に掴み掛かかろうとした所を、寸前で官吏に阻まれて事なきを得た。

「静粛に! 被告人は席に戻りなさい! 法廷侮辱罪を適用しますよ!」

 裁判長が木槌をガンガンと鳴らしながら怒鳴った。
 
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