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第2章*専属メイドのお仕事?
26・途中で止められると気になります!
しおりを挟む「ま……マクシミリアンっ!?」
ルーナの腕をとったまま、城の廊下をマクシミリアンは進んでいく。
一体どこへ向かっているのか、ルーナにはさっぱり分からない。
(あああ、あの、腕! 掴まれたままなんですがっ!)
細いルーナの腕を掴む、大きなマクシミリアンの手のひら。
こんな小さなことでも、ルーナはどうしても意識してしまう。
昨夜のことを思い出してしまえば尚更。
「あの……腕……っ」
「あ、ああ……! 申し訳ありません」
ルーナの声に、腕を掴み続けていると言うことにマクシミリアンもようやく気づいたらしい。すぐにぱっと手を離した。
赤い絨毯が敷かれた廊下の途中。
マクシミリアンが立ち止まるから、ルーナも足を止める。
「その……ありがとうございます」
掴まれていた手首が、まだ熱を持っているような気がする。
お礼を口にしながら、ルーナは反射的にマクシミリアンが掴んでいた手首を、反対の手でぎゅっと握りしめた。
「……勝手に連れ出して……ご迷惑ではありませんでしたか?」
申し訳なさそうに、マクシミリアンが尋ねてくる。
ルーナは即座に首を左右に振った。
「そんなわけありません! 助かりました!」
(ほんとに助かった!)
あのままアステロッドと話していても、何も進展することはなかっただろう。
それどころか、怒りだけを煽られた挙句、言葉巧みに丸め込まれてしまいそうだ。
(もしくはまた蛇を出される。それは勘弁!)
「なら、良かったです。…………あの」
「……?」
マクシミリアンは何かを言いかけて……口を閉ざす。
ルーナは訳がわからずに、ただ首を傾げるしかできない。
「……なんですか?」
(な、何? 気になるじゃない)
一度言いかけたのなら、途中でやめないで欲しい。
言葉の先を促すようにルーナがマクシミリアンを見つめると、マクシミリアンは黒い瞳をすっと逸らした。
「いえ……なんでもありません」
(いや、なんでもなくないよね!?)
微妙な間と、逸らされた視線。
それほどまでに言い難いことなのだろうか。
そんな態度をとられると、どうしても気になってしまう。
「本日も殿下には多数のご予定がございます。ルーナさん、行きますよ」
「え、あっ、マクシミリアン!? 待ってくださいよ!」
すたすたと歩き始めたマクシミリアンの後を、ルーナは慌てて追った。
……マクシミリアンが何を言いたかったのかは、結局ルーナには分からないまま。
****
王子の私室へ入ると、王子は既に支度を整えているようだった。
さすがパーフェクトプリンス。
朝から完璧な王子状態で、ルーナは感心してしまう。
(まったく隙を見せないな、王子……)
「マクシミリアン、珍しく遅かったな。何かあったのか?」
「おはようございます、殿下。申し訳ありません、少々アステロッド様に捕まっておりまして」
「ふうん?」
自分から尋ねておいて、王子はさほど興味がなさそうに返事を返した。
マクシミリアンに続いて、ルーナも王子に挨拶をする。
「おはようございます、王子」
「ああ、ルーナ。おはよう」
(眩し……っ!)
きらきらきら……と、効果音でも聞こえるかのようだ。
中身は腹黒ドS王子だと知っていても、彼の爽やかな笑顔の破壊力は凄まじい。
(というか、昨日対面した時よりきらきら度合いが増していない!?)
窓から差し込む朝日の効果だろうか。
流れる金髪が輝いて、まさに絵本から抜け出てきた王子状態だ。
「マクシミリアンから、晩餐会の最中に体調を崩したって聞いたけど、大丈夫?」
(は?)
いや、決して間違いではないが……。
マクシミリアンにちらりと視線を投げると、無言で訴えられてルーナは何となく事情を察した。
(適当に、誤魔化してくれたのかな?)
きっと、そうなのだろう。
ルーナは王子の言葉に合わせるように、言葉を返した。
「え、ええ、大丈夫です。専属メイドになったばかりですのに、ご心配をお掛けして申し訳ありません」
「それは別にいいよ」
(おお……、優しい)
ルーナが感動したのもつかの間。
「それより僕こそごめんね。昨日の続き、また後でって言ったのに出来なくて」
(続き……?)
一瞬なんの続きだろうと考えて、ルーナはすぐに思い出す。
昨日いきなり、王子に手を出されかけたのだということを。
「いえ! それはお気づかいなく!」
(いらないいらない!)
即座にぶんぶんと首を振って拒否したルーナに、王子は楽しそうに笑った。
作り笑いではなく、本来の彼の笑顔で。
「ははっ、やっぱりお前は面白い。しばらく暇を潰せそうだ」
「は、はは……」
(まずいな……なんか気に入られている気がする)
頼むから、からかって遊ぶレベルに留めてくれ。
ルーナは苦笑しながら心の中で祈った。
「王子、貴方は暇ではありませんよ」
マクシミリアンが王子を窘めるように口を挟んでくる。
それに王子は頷きを返した。
「分かっている。今日の予定は?」
「ディクソン侯爵令嬢とのお茶会でございます」
「分かった」
二人はどんどん話を進めていく。
スケジュールの確認が終わると、マクシミリアンはルーナのほうに視線をやった。
「それでは、参りますよ。ルーナさん」
「行くよ、ルーナ」
「えっ? か、かしこまりました」
突然話を振られてドキリとする。
さっさと部屋を出ていく二人のあとを、ルーナは急ぎ足でついて行った。
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