奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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3.優しくするって言ったじゃないですか。

3-1

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「なァ、お前まさかあれで終わりとか思ってねーよな?」

学校の昼休み。
私は不機嫌な紅先輩に呼び出されて怒られているというか愚痴られているというか。
煙草片手に相変わらず気だるそうな先輩。

言っておくけど私とこの人はまだ会って2日目だ。

「裸晒しただけで十分じゃないですか。」
「は? 裸は俺も晒してただろーがよ。自分ばっか気持ち良くなって終わりとかふざけんなよ。」
「でも痛かったですよ」

先輩が不機嫌な原因は私にある……らしい。
昨日の夜のアレは私としては初めてなわけで、中学時代をすべて家から出たい一心で勉強に捧げた私はそっち方面の知識はもちろん皆無。

……あんなに痛いとは思わなかったんだもん。あれでも、頑張って我慢したのに。

「痛かっただァ? まだ指しか挿れてなかったろ。おまけにさっさといなくなりやがって」
「学校あるんですからそんないつまでもいないですよ。登校準備何もしてないのに。」

この場に私たちしかいないとはいえ、そんな具体的な話するのやめてほしい。
思い出すと、今になって恥ずかしくなってくる。

「マジで初雪の奴とヤッたことねーの?」
「無いですよ! 初雪さんは貴方みたいに節操無い方じゃないので」
「逆にどこまでしたことあんの?」

どこまで? どこまで……初雪さんと会った時の記憶を辿る。小さい頃は手を繋ぐことも多々あったけど、それは男女の、というより子供のそれにすぎない。

「……何も、ですかね。」

私がそう答えると、先輩は馬鹿にしたように鼻で笑った。

「どーりでお子様なわけ。初雪も根性ねーな。」
「あの人を悪く言わないでください。単純に、私が初雪さんの好みじゃないだけですから。」

言ってて、悲しくなってくる。言わなきゃ良かったな、自分で認めるみたいなこと。
そんな私を見据えた先輩が、指をくいっと曲げて私を招く。
なんだろう、と近づくと、腰を引き寄せられた。

「ん、」

先輩の舌が甘い煙草の匂いと共に入ってくる。
昨日と同じ、私の知らない深いキス。

「ふっ………あ、」

息が上手く吸えない。全身から力が抜けて、立っていられなくなる。そんな私を片手で支えながら、紅先輩はさらに追い打ちをかけてきた。
ようやくキスから解放された私は、紅先輩の腕の中で息を切らしてどうにか立つ。

「やっぱいいねェ、純粋無垢な女のコは」

見上げれば、面白そうに細められた闇色の瞳に捉えられて。初めてその中に狂気を見た気がした。

「俺さぁ、お前みたいに男知らない子を快楽に堕とすの好きなんだけど。相手が氷榁の婚約者だって思うともっとゾクゾクするねェ。」
「だから、私と初雪さんは……、」
「関係ねーよ。不仲だろーがなんだろーが、今正式な婚約者はお前だろ?」

紅先輩の端整な顔が、私の耳元にグッと近づいた。

「今夜も来いよ、千夜子。お前の「初めて」、全部あいつから奪ってやるからよォ」

「行かなかったら?」と一応聞けば、「バイトしてんのバラすに決まってんじゃん?」ととびきりの笑顔で脅されて。

私に拒否権も選択権も無いってこと?

あの瞬間の、狂気を孕んだ紅先輩の瞳を思い出して背中がぞくりと震えた。
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