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5.家庭教師くらい真面目にやってください。
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自分が解いた問題で埋め尽くされたノートを見て、私は心なしか感動していた。
やっぱり教えてくれる人って大事だなって痛感する。
悔しいけどあずき先輩の教え方は分かりやすくて、散々悩んでいた問題がすんなり解けるくらいには理解できていた。
「自分でできるようになったじゃん。偉い偉い。」
私の頭を優しく撫でて、先輩は立ち上がる。「嫌じゃない」とは言ったけど、「好き」とも言ってないのに。
多分あずき先輩は私が頭を撫でられるのが好きなことと、どんな撫でられ方が好きなのかまで見抜いてる。
「何がいい? コーヒーと紅茶……うん、カフェオレかな。」
「なんで聞いたんですか?」
キッチンから聞こえてきた声はどう考えても私に尋ねるものだったのに、勝手に決める自由な人。
「他は?」
「え?」
「他の科目。」
ああ、まだ教えてくれるんだ。
「……数学。」
「理系科目が苦手なのか」
笑い声が飛んでくる。先輩は苦手じゃなかったのかな。
「得意なんですか?」
「まーな。」
へぇ。初めて知った。
「じゃあ、理系ですか?」
「うんにゃ、文系。」
理系科目が得意なのにどうして文系に? と聞こうとして振り返ると、キッチンに立つ先輩の表情は感情が抜け落ちたものに見えて。
私に気づいてすぐ「ん?」と首を傾げたから、一瞬しか見えなかったけど。
でも確かに、さっきの先輩の目はここを見ていなかった。この前の狂気とも違う、もっと深くて暗い色をしていたような。
「千夜子?」
「……なんで眼鏡掛けてるんですか?」
先輩が見せたそれに触れる勇気がなくて、私は話題を変えた。
踏み込むような関係性に立ってない。だから、気づかなかったフリをする。
「千夜子、お前眼鏡掛ける意味知ってるか?」
「馬鹿にしてますね。目悪いんですか?」
神妙な面持ちで聞いてくる辺りイラッとする。絶対分かっててなんでそういうこと言ってくるかな。
「多少な。生きてく上では全く問題ねぇ。」
私の前にカフェオレが入ったカップが置かれる。
「ありがとうございます。」
カップを手に取って、火傷しないようにそっと飲む。甘さと温かさがじんわり広がって心地いい。
ふぅ、と一息ついてちらりとあずき先輩を見れば、自分でカフェオレと言ったくせにブラックコーヒーを飲んでいる。甘いの苦手なのかな。
私はコーヒーは絶対にブラックじゃ飲めない。紅茶もできればミルクティーがいい。甘い方が好き。ココアは最高。
そういえば、ココアは選択肢に無かったな。
やっぱり教えてくれる人って大事だなって痛感する。
悔しいけどあずき先輩の教え方は分かりやすくて、散々悩んでいた問題がすんなり解けるくらいには理解できていた。
「自分でできるようになったじゃん。偉い偉い。」
私の頭を優しく撫でて、先輩は立ち上がる。「嫌じゃない」とは言ったけど、「好き」とも言ってないのに。
多分あずき先輩は私が頭を撫でられるのが好きなことと、どんな撫でられ方が好きなのかまで見抜いてる。
「何がいい? コーヒーと紅茶……うん、カフェオレかな。」
「なんで聞いたんですか?」
キッチンから聞こえてきた声はどう考えても私に尋ねるものだったのに、勝手に決める自由な人。
「他は?」
「え?」
「他の科目。」
ああ、まだ教えてくれるんだ。
「……数学。」
「理系科目が苦手なのか」
笑い声が飛んでくる。先輩は苦手じゃなかったのかな。
「得意なんですか?」
「まーな。」
へぇ。初めて知った。
「じゃあ、理系ですか?」
「うんにゃ、文系。」
理系科目が得意なのにどうして文系に? と聞こうとして振り返ると、キッチンに立つ先輩の表情は感情が抜け落ちたものに見えて。
私に気づいてすぐ「ん?」と首を傾げたから、一瞬しか見えなかったけど。
でも確かに、さっきの先輩の目はここを見ていなかった。この前の狂気とも違う、もっと深くて暗い色をしていたような。
「千夜子?」
「……なんで眼鏡掛けてるんですか?」
先輩が見せたそれに触れる勇気がなくて、私は話題を変えた。
踏み込むような関係性に立ってない。だから、気づかなかったフリをする。
「千夜子、お前眼鏡掛ける意味知ってるか?」
「馬鹿にしてますね。目悪いんですか?」
神妙な面持ちで聞いてくる辺りイラッとする。絶対分かっててなんでそういうこと言ってくるかな。
「多少な。生きてく上では全く問題ねぇ。」
私の前にカフェオレが入ったカップが置かれる。
「ありがとうございます。」
カップを手に取って、火傷しないようにそっと飲む。甘さと温かさがじんわり広がって心地いい。
ふぅ、と一息ついてちらりとあずき先輩を見れば、自分でカフェオレと言ったくせにブラックコーヒーを飲んでいる。甘いの苦手なのかな。
私はコーヒーは絶対にブラックじゃ飲めない。紅茶もできればミルクティーがいい。甘い方が好き。ココアは最高。
そういえば、ココアは選択肢に無かったな。
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