奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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10.お買い物に行きました。

10-3

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寒さも本格的になってきて、秋の終わりを嫌でも感じるようになってきた。

私とあずき先輩の関係は、何一つ変わってないけれど。
珍しく初雪さんから連絡が来て、茉白のことかと思えば案の定。茉白への誕生日プレゼントを買いたいから付き合えとのこと。
私だってそんなに茉白の好きなもの知らないんだけど。

月一以外の会合で出掛けるなんて、昔だったら手放しで喜んだ。今はなんというか、憂鬱。婚約者が自分じゃない想い人へのプレゼント買うのに付き合うなんて、憂鬱になるのが普通だよね。

鏡の前でハーフアップにした髪を確認して、私のお気に入りを入れてる箱の中から桜の花を象った小瓶を手にする。

「……」

お母さんから私に遺された、唯一形あるもの。少し眺めてから、シュッと1回だけ押して香りを浴びる。
微かに甘い、桜の香り。もうじき冬なのに、桜? って感じもするけど。
でもこの匂いは、私にとってお母さんの匂い。この香水を付ける時は、お母さんが傍にいてくれるような気がして勇気が出るんだ。

必要な物は持ったか確認して部屋を出る。
あずき先輩は朝から見てないけど、あの人は自由人だからどこで何してるかなんていちいち気にしてない。

「すみません、待たせました?」
「いや、そうでもない。」

この前家の車に迎えに来てもらった所と同じとこで、初雪さんと待ち合わせた。
初雪さんもどうかと思うけど、他の男の家から婚約者との待ち合わせ場所に行く私もだいぶどうかしてる。
だからお相子だよね。初雪さんは私とあずき先輩との事を知らないのもあるけど、それでもお互い咎めない時点でこの婚約は有って無いようなものだ。

運転手さんに扉を開けてもらって、氷榁家の車に乗り込む。隣には初雪さん。
手を伸ばせば触れる距離にいるのに、いつの間にかこの人との距離はすごく遠いものになってしまった。

浮気の定義ってなんだろう。
ちらりと、横に座る初雪さんを見る。

キリッとした目つきとか、凛々しい眉毛とか、全体的に真面目な印象を与える整った顔立ち。あずき先輩は若干中性的な感じの美形だけど、初雪さんは男らしさのあるクールな人。

こんな人でも、婚約者を尻目に他の女性に想いを寄せる。

明らかな好意を茉白に示す初雪さんと、恋愛感情はなくともそういう行為は致してる私。
気持ちの関係があれば浮気なのか、身体の関係があれば浮気なのか、はたまたその両方か。

あずき先輩? あれは論外。女の子なら誰でもオッケーみたいな構えをしてるわりには、「彼女? いたことないよ。彼女いない歴=年齢」とか言ってるからちょっともう知らない。
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