奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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11.何もしたくない日だってあります。

11-2

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「痛った……」

目が覚めてからしばらく、私は枕に顔を埋めて鈍い腰の痛みに呻いている。
起きた頃にはもうお昼になろうとしていて、今日が休日で本当に良かった。

……あの後、あずき先輩は「わりぃ、もっかい」って言って。いつもなら1回で終わってたのに。しかも全然「もう1回」じゃなかったし。何回も「もう無理」って言ったのに。

途中から記憶がないから、何がどうなったのか覚えてないんだけど。いつもならあずき先輩より私の方が早く起きてるのに、今日は私の方が遅かった。
朝はどちらかというと弱い方なんだけど、目覚ましと気合いで頑張って起きてたのに……。

全部、何から何までいつもと違った。

うーん……と再び唸っていると、ガチャリと扉の開く音が聞こえた。

「起きた?」

ベッドから振り返れば、きまり悪そうな顔のあずき先輩。シャワーを浴びてきたところなのか、半裸で髪が濡れている。

「悪ぃ。無理させた。立てる?」
「なんとか……」

軋む身体を気合いで起こす。病は気から、私もシャワーを浴びて気分をさっぱりさせれば幾分マシになるだろう。
それより若干申し訳なさそうな顔をしている先輩を見納めておこう。滅多に見れるもんじゃないからね。
先輩の横を通り過ぎようとした時、浮遊感がしたと思ったら私は身体を横抱きにされていた。

「え!? あの、大丈夫ですから!?」

さすがに一糸まとわぬ裸でってのは恥ずかし過ぎる!!
しかも先輩の肌と密着して、伝わる体温から昨日を思い出しそうだし……!!
慌てて降りようともがくけど、身体が痛んでやめざるを得ない。そんな私を見下ろしながら、先輩は「なんもしねーから大人しくしとけって」と一言。

疑ってないと言えば嘘になるけど、先輩は本当に私をお風呂に運んでくれただけだった。

無気力にシャワーを浴びながら、私は鏡の中の自分の身体に赤い痕がいくつもあるのを見つける。

「……」 

鎖骨、胸元、おへその近く……内太もも……視認できるのでもこれくらい。
何の意図があってこんな痕を残したのか考えたけど、あの人のことだ。多分何も考えてないのが正解かな。
あずき先輩を正しく理解したつもりはない。けど、少なくとも私の目から見る先輩はそういう人だ。

熱いお湯に打たれてると頭がさっぱりしてくる。だらだら髪と身体を洗って、少しは気分も身体もだるくなくなったところでお風呂を出た。

ふわふわのタオルに顔を埋めて、「はぁー……」と息をつく。

今日は何もしたくないな。うん、何もしない日にしよう。
着替えて、髪を拭きながらリビングに戻る。
私に気づいたあずき先輩が手招きした。

「ここ座って」

ソファに腰掛ける先輩のちょうど前に、私は座らされた。
なんだろう、と考えていると、温風が私の髪を撫でる。
髪乾かしてくれるんだ。じゃあ、遠慮なく甘えよう。
人に髪を触られることってそんなに無かったから、先輩の指が髪を梳く感触が心地良い。

少しうとうとし始めたところで、先輩はドライヤーを置いた。

「眠い?」
「少し。でも大丈夫です。」

だって、さっき起きたばっかりだし。ここでまた寝たら、だらだらしすぎなんじゃって思う。

それでもあずき先輩は隣に座った私を自分の膝を枕に横たわらせて、「寝とけ」とか。

なんか、すごい甘やかされてる……? なんで今日そんなお兄ちゃんしてるの……?

なぜか優しいあずき先輩に戸惑うあまり、睡魔は遠のいてた。
どうすればいいのか困惑していると、先輩はパソコンを弄る片手間に私の頭を撫で始めて。しばらくそうされているとまた瞼が重くなってきた。

ちょっとくらい、いいかな。今日は何もしないって決めたもん。ちょっとくらい、いいよね。



瞼を閉じるとすぐに意識は深いところへ落ちていった。
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