奪ってみてよ、先輩。

七夕 真昼

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12.義妹の誕生日です。

12-1

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「亜主樹ぃ、もうおれのことは眼中に無いね?」

昼休みを学校の屋上でさっきの授業の分からなかったことを先輩に聞くのと、教科担任の愚痴を言うことに費やしていると栗生先輩がやってきた。

「あ? うざ。」
「酷くない? ねえ、ちよこちゃんも酷いと思うよねえ?」
「くりゅーてめェ鬱陶しさが大地に似てきたな。うぜェ。」
「それはヤなんだけど? そんな事言いながらおれらと一緒に遊んでくれる亜主樹がおれは大好きだよー。」
「……」

にっこにこな笑顔の栗生先輩を前に、あずき先輩の表情は氷点下だ。

「邪魔してごめんて。この前も氷榁の坊ちゃん見て機嫌が悪くなったと思ったら、ふら~っといなくなって帰ってきたらご機嫌なんだもん。何してた?」

私が初雪さんと出かけてた日のこと?
あの日の事とその夜の事を思い出して私の顔はボッて音がしそうな勢いで赤くなる。

「おやおや~?」

それを楽しそうに見る栗生先輩と、ため息をつくあずき先輩。

「……くりゅー。そっから飛び降りてみる? 今なら押してやるけど?」

揺らめく殺気とともに後ろのフェンスを指す先輩。無慈悲。友達なんだよね?

「やめとくよ。ぐちゃぐちゃになっちゃいそうだし。」
「遠慮すんなって。なァ?」

冗談だか本気なんだか分からない言い方に私の方がヒヤヒヤする。なのに栗生先輩はずっと笑ってて、あずき先輩もだけどこの人も大丈夫?

「悪かったって。亜主樹の機嫌損ねたいわけじゃないからさー。ちょっとした冗談。」

亜主樹先輩に蹴られてもなお笑ってる栗生先輩。ほんとにこの人正気なのかな。

「で? 用事ねェなら帰るかそっから落ちろ。」

まだ言うの? 友達なんだよね?

「どうしてもおれを屋上から落としたいみたいな言い方やめてよー。」
「落としてェな。切実に。」
「ごめんてば。用事ならちゃんとあるからさー。」

それを早く言えよ、と大層気だるげにあずき先輩が栗生先輩を見やる。

「もーすぐ冬休みじゃん? 亜主樹んとこの別荘に皆で遊びに行こーよー。おれら高校最後の冬休みだし!」
「やだね。めんどくさ。」
「ノリわっるいなぁ。高校生活もそろそろ終わりなんだよ? 今やれることやんないと!!」
「だるい。夏もそう言って夜な夜な酒飲んで騒いでただけだろーが。勝手にやってろ。」

心底面倒臭そうなあずき先輩。たしかにお酒飲むのはだめだけど……。

「行ってきたら良いじゃないですか。栗生先輩が言うみたいに、高校生でいられるのも残り短いんですし。」
「ちよこちゃんも言うことだし、ね! あと、ちよこちゃんも行くんだよ?」
「え?」
「はァ??」

私以上に理解不能な顔をしたのはあずき先輩だった。

「なんで千夜子が……いや、くりゅー。『皆』って誰。」
「んっとね、おれとー、亜主樹とー、ちよこちゃんとー、大地とー、零緒」
言い終わる前にあずき先輩が舌打ちをした。

「あとアカネ。」
「アカネを巻き込むんじゃねェよ」
「いーじゃん。アカネもたまにはおにーちゃんとどっか行きたいかもよー?」
「どーだか。とにかく俺は行かねェ。」

ちょっと待ってよ。そこになんで私が入ってるのかって話を聞きたいんだけど。

「えー? いいのぉー? おれらが大事な大事なアカネたんにあんな事やこんな事してもさー。」
「やってみろよ。返り討ちにされるだけだろ。」
「お酒とか煙草とか勧めたら手出しちゃうかもね。」
「チッ」

どんどん不機嫌になってくあずき先輩。先輩が言い負かされてるの珍しいから、傍から見てる分には結構面白い。ごめんね。
苛立ったように煙草を取り出して当たり前のように吹かし始めるあずき先輩。ここ学校ですけど。

「めんどくせェな……行きゃいいんだろ? でも千夜子は連れてかねェからな」
「そうですよ。なんで私も行くことになってるんですか。」
「あぁ……それはねぇ、ガラの悪いお兄さんたちがちよこちゃんに会ってみたいって言うからさー。」

ガラの悪いお兄さん?

「あ、結構です。」

当然だと言うように隣で鼻を鳴らすあずき先輩。自分のこと棚に上げすぎですよ。どう考えても貴方も十分「ガラの悪いお兄さん」ですからね?

あの後結局栗生先輩が「連れて来なかったら毎日家に押しかける」とか言って、私が先に折れて、それでもあずき先輩は渋ってたけど最終的には折れてた。
ものすっごい不機嫌になってたけど。

「亜主樹はねー、アカネの事になると弱いんだよー。」

と栗生先輩。お兄ちゃんも大変だなぁ。

栗生先輩は「亜主樹の機嫌取り持っといて」って言ってきたけど断った。自分で損ねた機嫌は自分でどうにかしてもらいたい。
茉白の誕生日とか先輩たちと出かける話とか、今年の冬はゆっくりできなさそうだなぁ……。
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