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12.義妹の誕生日です。
12-2
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1週間て短いと思う。1週間が短いんだから、1ヶ月もあっという間なわけで。
義妹の誕生会で、私は人形のように綺麗な格好をして人形のようににこにこ微笑んでいる。
内心? 帰りたくてたまらない。
父親の会社の人とか、取引先の人に笑顔で挨拶ばかりしてたから表情筋が痛いし。毎年私より茉白の誕生会の方が豪華な事も、私のは家を出たからって今年は無かった事も全部どうでもいいから、こうして呼ぶのもやめてほしい。
今日は初雪さんは私の隣にいるけれど、視線はずっと茉白に向いている。今日私がここにいる意味を教えてほしい。別にいなくても成り立つよね?
幸せの最中にいるであろう私の義妹を遠い目で見つめながら、私は初雪さんに気づかれないようにため息をついた。
誕生日は、形式ばかりの大きな会よりお母さんに「おめでとう」って言われる方がずっと嬉しかった。
誕生日の朝、お母さんの病室に行くと優しい笑顔で「誕生日おめでとう。お母さんのとこに産まれて来てくれてありがとね」って抱き締めてくれるだけで嬉しかったんだ。
昔は隣にいる許嫁も優しい眼差しで祝ってくれた。いつの間にか、形式的なものになってしまったけど。
「姉さま! 姉さまもこっちで一緒にお話しましょ!」
花が咲いたような笑顔の茉白に手を取られれば、「行っておいで」と初雪さん。逃げ場のない私は曖昧に微笑んでされるがまま。
この華やかな場所にそぐわず、私の心は憂鬱だった。
早く、終わらないかな。
茉白とあの子が招待した何人かの友達に囲まれながら話を聞くのに疲れてきた頃。茉白が父親に呼ばれたのをいいことに、私はそっと会場から離れた人のいないところに避難する。
「ふぅ……」
やっと落ち着けそう。どうにも思ってないことを言ったり作り笑いをずっとしたりするのが私は苦手で、ただそこにいるだけでも結構疲れてしまう。
最近は初雪さんと茉白にも気を使ってばかりだったから余計に。
お母さんに会いたいな。なんの気も使わないで、私の全部を話せる唯一の人だった。私が引いた境界線の、唯一内側にいる人だった。
「ちぃがお母さんと違って健康な身体で良かった」と母は会う度に言っていた。
そしてその細い身体で私を抱き締めながら、「1人で生きてけるようになるんだよ? それと、人に決められた幸せは本当の幸せじゃないからね?」といつも私に言い聞かせていた。
お母さんは私に家を出てほしかったのかな? 思い返せば、初雪さんとの婚約の話もお母さんはいつも渋い顔をしていた気がする。
大人になったら初雪さんと結婚するのが当然の事なんだと思い込んでいた当時の私には、お母さんの言葉は難しかった。
そうだ、年が明ける前にお母さんのお墓にお参りに行こう。
「そこで何をしている?」
突然呼びかけられて、でも平静を装って振り返れば不可解そうな表情の初雪さんが立っている。
「あー……人の多さに少し酔ってしまって」
当たり障りの無い言葉と笑顔を返す。すぐいなくなるだろうと思ったのに、どういうわけか初雪さんは私の隣に腰掛けてきた。
「えっと……?」
「たしかに今日は人が多い。茉白を目に止める輩も多くなると考えると会場にも留まり辛くてな。」
あーなるほど……。つまり、そこにいると人に囲まれる茉白を見てられないから来たってわけね。初雪さんの方から近くに来たことに一瞬でも胸の高まりを覚えた私の気持ちは、スっと底に冷えていく。
……1人にしてほしいなぁ。
私の隣で初雪さんは茉白のことや家のことをずっと話してる。私に言われても分かんないんだけどなぁ。こういう催しが無ければ、こっちに全然顔出さなくなったし。
「──それで、その総会にも紅の息子は顔も出さないで」
ん?
「まったく、あんな奴が紅の跡継ぎなど考えられない。あの家も落ちぶれたものだな。」
あずき先輩の話かな?
目だけを隣の初雪さんに向ける。
「紅家の方にお会いすることもあるんですね。」
「ああ。父が今手掛けてる事業に向こうの家も関わっていてな。将来的には俺たちも関わる話だというのに、紅の長男は一度も姿を見せない。一体何をしているんだ。」
何って、遊んでますね。あの人は。
あずき先輩が何やってるって、遊ぶ以外何もしてないよ。受験勉強も学校にいる間しかしてないっぽいし。
そう言いたいところだけど、紅家と繋がりがあることを初雪さんに話すわけにもいかない。
「お会いしたことはあるんですか?」
「何度かな。あの人を馬鹿にしたような顔を忘れるわけがない。」
あー……。悲しいかな、簡単に想像がつく。
「そうでしたか。」
何て言ってみようもなく、それだけ返した。
私も聞こうとも思ってないし、あずき先輩からも話さないから紅家の事情は分からない。氷榁と仲が悪いせいで、初雪さんから入ってくる情報は一方向からのものでしかないし。
そんな話をして少しは気が紛れたのか、初雪さんはまた会場に戻っていった。
私はもう少しだけここにいよう。
義妹の誕生会で、私は人形のように綺麗な格好をして人形のようににこにこ微笑んでいる。
内心? 帰りたくてたまらない。
父親の会社の人とか、取引先の人に笑顔で挨拶ばかりしてたから表情筋が痛いし。毎年私より茉白の誕生会の方が豪華な事も、私のは家を出たからって今年は無かった事も全部どうでもいいから、こうして呼ぶのもやめてほしい。
今日は初雪さんは私の隣にいるけれど、視線はずっと茉白に向いている。今日私がここにいる意味を教えてほしい。別にいなくても成り立つよね?
幸せの最中にいるであろう私の義妹を遠い目で見つめながら、私は初雪さんに気づかれないようにため息をついた。
誕生日は、形式ばかりの大きな会よりお母さんに「おめでとう」って言われる方がずっと嬉しかった。
誕生日の朝、お母さんの病室に行くと優しい笑顔で「誕生日おめでとう。お母さんのとこに産まれて来てくれてありがとね」って抱き締めてくれるだけで嬉しかったんだ。
昔は隣にいる許嫁も優しい眼差しで祝ってくれた。いつの間にか、形式的なものになってしまったけど。
「姉さま! 姉さまもこっちで一緒にお話しましょ!」
花が咲いたような笑顔の茉白に手を取られれば、「行っておいで」と初雪さん。逃げ場のない私は曖昧に微笑んでされるがまま。
この華やかな場所にそぐわず、私の心は憂鬱だった。
早く、終わらないかな。
茉白とあの子が招待した何人かの友達に囲まれながら話を聞くのに疲れてきた頃。茉白が父親に呼ばれたのをいいことに、私はそっと会場から離れた人のいないところに避難する。
「ふぅ……」
やっと落ち着けそう。どうにも思ってないことを言ったり作り笑いをずっとしたりするのが私は苦手で、ただそこにいるだけでも結構疲れてしまう。
最近は初雪さんと茉白にも気を使ってばかりだったから余計に。
お母さんに会いたいな。なんの気も使わないで、私の全部を話せる唯一の人だった。私が引いた境界線の、唯一内側にいる人だった。
「ちぃがお母さんと違って健康な身体で良かった」と母は会う度に言っていた。
そしてその細い身体で私を抱き締めながら、「1人で生きてけるようになるんだよ? それと、人に決められた幸せは本当の幸せじゃないからね?」といつも私に言い聞かせていた。
お母さんは私に家を出てほしかったのかな? 思い返せば、初雪さんとの婚約の話もお母さんはいつも渋い顔をしていた気がする。
大人になったら初雪さんと結婚するのが当然の事なんだと思い込んでいた当時の私には、お母さんの言葉は難しかった。
そうだ、年が明ける前にお母さんのお墓にお参りに行こう。
「そこで何をしている?」
突然呼びかけられて、でも平静を装って振り返れば不可解そうな表情の初雪さんが立っている。
「あー……人の多さに少し酔ってしまって」
当たり障りの無い言葉と笑顔を返す。すぐいなくなるだろうと思ったのに、どういうわけか初雪さんは私の隣に腰掛けてきた。
「えっと……?」
「たしかに今日は人が多い。茉白を目に止める輩も多くなると考えると会場にも留まり辛くてな。」
あーなるほど……。つまり、そこにいると人に囲まれる茉白を見てられないから来たってわけね。初雪さんの方から近くに来たことに一瞬でも胸の高まりを覚えた私の気持ちは、スっと底に冷えていく。
……1人にしてほしいなぁ。
私の隣で初雪さんは茉白のことや家のことをずっと話してる。私に言われても分かんないんだけどなぁ。こういう催しが無ければ、こっちに全然顔出さなくなったし。
「──それで、その総会にも紅の息子は顔も出さないで」
ん?
「まったく、あんな奴が紅の跡継ぎなど考えられない。あの家も落ちぶれたものだな。」
あずき先輩の話かな?
目だけを隣の初雪さんに向ける。
「紅家の方にお会いすることもあるんですね。」
「ああ。父が今手掛けてる事業に向こうの家も関わっていてな。将来的には俺たちも関わる話だというのに、紅の長男は一度も姿を見せない。一体何をしているんだ。」
何って、遊んでますね。あの人は。
あずき先輩が何やってるって、遊ぶ以外何もしてないよ。受験勉強も学校にいる間しかしてないっぽいし。
そう言いたいところだけど、紅家と繋がりがあることを初雪さんに話すわけにもいかない。
「お会いしたことはあるんですか?」
「何度かな。あの人を馬鹿にしたような顔を忘れるわけがない。」
あー……。悲しいかな、簡単に想像がつく。
「そうでしたか。」
何て言ってみようもなく、それだけ返した。
私も聞こうとも思ってないし、あずき先輩からも話さないから紅家の事情は分からない。氷榁と仲が悪いせいで、初雪さんから入ってくる情報は一方向からのものでしかないし。
そんな話をして少しは気が紛れたのか、初雪さんはまた会場に戻っていった。
私はもう少しだけここにいよう。
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