婚約破棄することにしたので、私は悪役令嬢になります。

5.

二人とも椅子に腰掛け一息ついたところで、まず口を開いたのはクロードでした。

「素敵なお庭ですね。ダドリー家には中庭がないので羨ましいです。」

「何をおっしゃいます。クライフ家の庭などダドリー家に比べたら何分の一か分かりません。」

「ただ広いだけですよ。庭師達の手入れは大変そうですけどね。」

と言ってクロードは軽く微笑みました。

彼は私よりも二つ下の十六歳、サネットは更に一つ下の十五歳です。ロータスを含め四人とも同じ貴族学校に通っていて、私とロータスは今年で卒業になります。

「ところで、」

クロードは急に神妙な顔つきで言いました。

「最近、兄とはうまくいっていますか？」

「えっ、なんで？そんな、」

いきなりの質問に先日あんな現場を目撃してしまった私は動揺しました。

「唐突に申し訳ありません。私もサネットも兄には苦労してまして、エミリアさんのことが心配なんです。」

「ごめんなさい。うまくいってるとは言えないかもしれませんね。でもこれは両家が決めたことですから、仕方ありません。」

私はあの時の記憶が蘇り、目から涙がこぼれていました。

婚約破棄も考えてるとはいえ、ここまで話が進んでしまった以上、今の私には勘当覚悟でクライフ家を出るくらいしか、この決定を覆すこともできません。

「やはり、すでにエミリアさんにも、、」

「兄は昔から女性関係がだらしなさ過ぎる！最近はさらに酷くなって、私たちも貴族学校でそんな噂をされるので、とても迷惑してるんです。」

サネット嬢はかなりご立腹のようで語気を荒げて、そう言いました。

「婚約が決まって落ち着くと思ってたのですが、変わってませんね。この事をまだ父は知りません。私達もエミリアさんに協力しますので、何でも言ってくださいね。」

「有難うございます。」

私は思いがけない申し出に涙が止まりませんでした。