絶対記憶~彼は今日も知識欲を満たす

高戸

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26話

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 勇者の1人が同じ勇者の腕を切り落とした事は城内で有名になり、城内の人間はクラスメイトから使用人まで俺を見下す傾向になりつつある。

 俺以外の、異能力組を合わせた全員が持っているLレジェンドスキルの【限界突破】が無かったことや俺がいつも見学しかしていないことも噂が広がり、俺のあだ名が無能になったらしい。

 勇者の腕を切り落とせる時点で凄いって事にはならなかったのだろうか。


 召喚から1週間が経過している。
 現時点で勇者のレベルは全員が1だ。魔物を一匹も討伐していないのだから上がる訳はない。

 今までの1週間で勇者の持つLレジェンドスキルに加え勇者たちは武器スキルや魔法スキルが充実していった。

 一週間の内召喚された日を除いて、3日を前衛の見学に、3日を後衛の見学に使った。

 つまり今の俺は勇者の中で唯一訓練に参加せず遊び歩置けている無能のごく潰しという認識だ。
 いや、使用人のコソコソ話ってどうしてあんなに声がでかいのだろうか。
 わざとなの!?


 そして俺が何故さっさと勇者を殺害してこの国を潰さないかの理由だが理由は単純に俺がスキルを習得するよりもクラスメイト39名が同時にスキル習得を行った方が俺が楽に大量のスキルを俺の者に出来るからだ。

 そしてシエラ先輩がこの城に居る時に下手に手を出すと人質にされたり俺の広範囲魔法にうっかり巻き込まれる可能性が捨てきれないのも理由になる。
 ちなみに今のシエラ先輩は後衛組の教官をしている。この国でシエラ先輩以上に魔法の理解が深い人材はいないだろう。

 そして明日は朝から勇者一同を集めて実践訓練を行うそうだ、内容はスキル有りで2対2の摸擬戦らしい。

 人数が40人だが不良の亮君が片腕無くなって完治にもう1週間かかるらしくリタイア、2対2の摸擬戦で1人あぶれる訳だが、勿論あぶれたのは俺だった。
 訓練に一度も参加せず無能の烙印まで持っている俺と組みたい奴は居なかったようだ。



 今日は後衛組の訓練を見学している訳だが、視線が痛い。

「アルト君、だよね? 訓練参加しなくてもいいの? 明日摸擬戦でしょ」

 シエラ先輩が話かけて来た、この人は心配性なとこがあるし、それに俺は摸擬戦で1人だから心配してくれているんだろう。

「シエラさんの方が俺なんかよりよっぽど辛そうですよ?」

「そうかな?」

「伊達に3日も見ていたわけじゃ無いですし」

「……」

「何か悩み事でも?」

「解る?」

「はい、失恋でもしましたか?」

「え? そんな事まで解っちゃうの!?」

「いえ、言ってみただけです。でもその反応は正解っぽいですね」

「うん」

 その後は名前こそ出さなかったがクライ先輩の事を本当に辛そうな顔をしながら聞かせてくれた。
 10分ほどで話は終わり勇者どもに質問があると引っ張られて行った。

 異能力組みが後衛組にも混じっていて、俺と前衛に行った3人以外の6人が後衛組に参加した。
 能力は【すり抜け】【ドリームゲート】【レーザー】【光学迷彩】【巻き戻し1分】【エコーロケーション】、とまあ殺傷性の能力は少ないように見受けられる、だがこの6人も【限界突破】や他のスキル、魔法も使えるのだから、少しは自分のスタイルが出来て来た頃合いではないだろうか。






 摸擬戦の日になった。
 摸擬戦は2対2で一組ずつ行われる。
 ここには王族が3名で、国王、第一王女、シエラ先輩と騎士が数名いる。第一王女と国王の名前は聞いて【絶対記憶】で覚えているが思い出したくはないし思考であっても呼びたくないので、愚王と王女にする。

 俺の試合はなぜか1試合目になっている。大方、見せしめとか勇者1人を潰した罰とかその辺りだろう。

「では試合開始!!」

 俺の試合を見ている連中はシエラ先輩を除いて全員がニヤついている、ま、クラスメイトは基本的に1人残らずって方針だし、適当に痛めつけるか。

「『大型火球』」

 俺の相手の2人は前衛と後衛が1人ずつで名前は前衛が倉田君後衛は加藤さんという名前だ。
 後衛の加藤さんは回復は出来ないが火力はまあまあ、メ〇ミってところだ。

 この威力の魔法は通常であれば避けるか、守るかだが、ただの魔法なんて【魔法魔素化】で消せる。

「消えろ」

 俺が呟いた瞬間、火球は光の粒になり露散した。

「な、!!」

 消えた事に一瞬声を上げたが加藤さんは次の魔法の詠唱を開始している、それに合わせて前衛の倉田君がショートソードで切り付けてくる、ちなみにちゃんと刃の着いた切れる剣だ、俺は武器なんて持っていないがな。ズルくね?
 まあいいか。

 それを避けて蹴り飛ばす、脚力がゴミで経験値の絶対量が違うため(15年分)で避けるのも蹴り飛ばすのも簡単だ。
 次は後衛の魔法が飛んできたのでさっきと同じ様に露散させる。

「この程度の魔法しか出せないのか?」

 【覇気】を使って脅すように強い魔法を要求する。

 俺は少し移動してシエラ先輩が後ろに来るような位置に立つ。
 加藤さんの詠唱が30秒ほどで完了して、その時間だけでデカイ魔法が来るのがわかる。

「【獄炎魔法】『サン』」

 太陽を意味する魔法、恐らくオリジナルで更にLレジェンドスキルを使っている。
 Lレジェンドスキルを使った魔法は【魔法魔素化】で消す事は出来ない。

 あの魔法の温度は太陽って名前には全く及ばないが3000度を超える熱量は持っていると思われる。まず太陽なんて出したらここら辺が砂漠になるわ。
 まともに食らうと全開じゃない俺は少しだけダメージを受けるだろう。

 って事で避けた。魔法は俺を通り過ぎてシエラ先輩の方向に突っ込む。

「キャッ!!!」

「『ゲート』」

 悲鳴と共にシエラ先輩は消えた。勿論燃え尽きたわけでは無く空間属性の魔法でクライ先輩のいる宿屋に飛ばしただけなのだが。ここに居る勇者や騎士を含めた全員はそのことに気が付いては居ないらしい。
 ま、魔法感知のスキルを全員が持っていない事を確認してそれでも絶対にばれないように魔法を使ったのだからばれるはずがない。

「そんな…」

「殺したのか?」

「何やってんだよ」

 と勇者たちは加藤さんを睨みつけている、何故か半分ほどは俺を睨んでいるけれど。

「いやああああぁぁぁぁ!!」


 悲鳴は伝染し、一気に勇者たちが叫び始めた。加藤さんは放心状態から帰ってきていない。

 騎士がシエラ先輩の燃えた場所を調べたところ燃えた衣服の一部が見つかり国王に向かって首を横に振っている。
 それを見た勇者が余計に騒がしくなる。

 が何故か、矛先は俺に向いた。

「おい、いま、わざとシエラさんを背にするように立ち回らなかったか?」

 クラスメイトの田中だ。詳しくは知らん。

 俺の行動から俺に施行をを推察されたのかと焦ったが、そんな事がたかが勇者の1人に出来るはずも無く、コイツが理解しているのは俺がわざとシエラ先輩に攻撃を誘導したんじゃないかと疑う事だけのようだ。

 だが、亮君の腕を切り落とした俺の意見など誰が聞く訳でも無く、何故かこの場に居る殆ど全員が俺に鋭く睨むような視線を向けてくる。それはシエラ先輩に魔法を当てた加藤さんと、そのパートナーの倉田くんも同じだった。

「そうだ!、コイツがわざとやりやがったんだ」

 大声を上げた方向を見ると片方の腕が無い人間がいた、不良の亮君だ。
 彼は腕を一本失いはしたが俺の応急処置で炎魔法で切断部分を焼いて塞いでいるので出血多量やHPの減少で死ぬといった事は無い。

 だが今回はそんな恩も忘れて俺を陥れたいらしい。
 切ったのも直したのも俺で直した恩を返せとか完全に詐欺師のそれですけどね。

「どうやら、その可能性もありそうだね。 だがここは国王様や王女様の意見を聞いてみるべきじゃないかな?」

 と、ここでクラスの決定権を持つ玉木が出てくるのは自然な流れだろう、そしてこの国の腐った王族の思考は容易く読み取れる。

「この国にとってこれほどの被害を出す人間を勇者だからと言ってこのまま放置するわけにはいきません。 危険人物は早く殺してしまうべきでしょう」

 と王女様は織田信長てきな考えらしい。

「そうじゃな。勇者諸君!、彼はワシの愛おしい娘を殺した許されざる犯罪者じゃ、ここで捕らえるべきじゃと思う。そして勇者を止められるのは同じく勇者である諸君らだけじゃ、頼むワシの娘の仇を取ってくれ」

 前言撤回、『殺してしまえホトトギス』はシエラ先輩だけを除いた、この国の王族全体の意見らしい。
 本当に国王はアホなんじゃ無いだろうか。愛しの娘が文字通り燃え尽きても全く顔色を変えず俺の殺害を提案するとか、何処まで打算的なんだよ。

 それに愛しの娘に勇者召喚させたり、勇者の教師にしたり無理矢理学校から退学させたりと、実は血が繋がって無いと言われた方が納得できるレベルだ。

 そう考えるとシエラ先輩って全然ここの王族の思考を受け継いで無いよな、なんでなんだろうか?
 ただいい人だと思うにはこの場所の環境は劣悪過ぎるだろ。学校で人格が変わるような事が有ったのだろうか。
 だが今それを俺が考えても答えは出ないだろう、考える意味は無いな。

「解りました、アルト君を拘束もしくは殺害します」

 コイツ何言っちゃってんの?
 クラスの決定権ってそこまでの代物なの!? 日本人として殺害とか王族の言いなりとかどうかと思うよ。

 まあ、俺を殺すとか言ってんだから殺されても文句は言えないよな、それにこれ以上こいつ等を生かしておいてもメリットになりそうなスキル覚えそうにないしな。
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