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30話 開戦
しおりを挟む敵軍の数は約600。戦士風、魔法使い風、斥候風が6:3:1だ。飛行型ゴーレムには写真を撮るの機能が付属されていたので、細かな情報も入手することができた。
敵軍との距離は5kmほどで『遠視』ならギリギリ影が見える距離にまで迫ってきている。
敵軍にも【狩人】の者がいるだろうから、こちらの大まかな動向はばれているだろう。
仕込みは完了している。壁は作った他にも、トラップの類は仕掛け終わったし、作戦も積めた、これで負けるのならどうあがいても負けるだろう、撤退はもう無理だ。
踏ん張りどころだ。
敵軍の最前列が村と500mほどの距離になった。
壁は主に俺が全力を出して頑張った。漢方薬みたいな味がする魔力ポーションを10本以上飲んだが、飲んだかいは有っただろう。
『拡声』の空魔石が内蔵されているメガホンを手に持ち、構える。
『直ちに進軍を中止せよ!! 要求を拒否する場合攻撃を開始する!』
『拡声』に驚いたようで軍隊は一瞬硬直したが、すぐに平静を取り戻し、4名程がこちらに向かってきた。
やばい、あのまま行けばトラップの範囲に到達する!!
『話し合いに応じる気があるのなら中間の場所で話を聞く!!』
4人は理解したようで歩みを遅め、歩いてこちらに向かってくるようだ。
直ぐに魔石に送っていた魔力を切り、後ろを振り返る。
ここで出来た仲間たちが、自信をくれる。
「さあ行くぞ。 エリス、シリア、付いてきてくれ」
「はい!」
「うん……」
「アリアと白樹はゴーレムで敵に動きが無いか監視していてくれ、何かあれば直ぐに『送信』の魔石を叩いてくれ、叩く回数は……」
「交戦的な動きの場合が1度 撤退的な動きの場合が2度 その他が3度だったかね?」
「りょーかい!」
「ああ、頼んだ」
「頼まれた」
計7人が中間地点に集まった。
「それじゃあ話を聞こうか? 僕はノルカ・セト・レイジング、【勇者】だ」
「ああ、俺はネイト。 ここの【王】だ」
相手側の使者は4人、鑑定はすでに済ませている。
1人が【賢者】★★★★★
1人が【神官】★★★★★★
1人が【錬金術師】★★★★★
最後が【勇者】で固有職
全員が薄ら笑いを浮かべている事からチームワークは良さそうだ。
ランクは賢者がB錬金術師がA神官がCとまばらではあるが、高い能力を有していることに変わりはないだろう。賢者はDランクで闇魔法を持っているので、精神干渉があるのかは解らないが、MNDにステ振りして弾ける体制を整える。
「こちらの要求は1つ、この村に被害を与えない事。交易などの申し込みなら話を聞くが?」
「それなら進軍は止められない。この場所はレキアの国土である、よってそこに築かれた物はレキアの資産である。つまりこの場所を明け渡してもらいたい」
それがそっちの大義名分ってわけか。それならこっちも大義名分を掲げてみるか。
「俺は、この場所に新国家を設立した。 よってこの場所はレキアの法律に侵害されない。 そもそも話し合いで解決するとは思っていない、ここには万が一戦争じゃなかった時の確認に来ただけだ」
「僕たちと戦争すると?」
「勝てる勝負を降りるわけ無いだろ」
「本気ですか?」
話しかけて来たのは【神官】の女、自分たちと戦うと言った事に疑問を覚えたようだ。
「勿論だ、総合的に見て俺達に負けは無い」
「そうですか」
「一つ聞きたいんだが、どうやってこの場所を知ったんだ?」
「国家機密だけど、一般の職業以外の力を使ったとだけ」
要するに『千里眼』みたいなスキルがあるって事か、面倒な。どれくらい見れるかは知らんが此処に来ていないのなら勝算は崩れん、だが遠方とやり取りできる能力か道具なんかがあるとこっちの策が全部筒抜けの可能性もあるな。
「話はここまでみたいだな、こっちはここでタイマンでもいいけど、どうするよ」
「一応警告したし僕らが攻める大義も問題無いと判断した。最終的には最高戦力同士の一騎打ちになると思うけど今は勘弁。僕らが連れて来た軍の物量で終わってくれた方が僕が楽だしね」
「そうかよ」
両者ともが背を向け、自営に戻った。
御国に帰って来た俺は早速作戦を実行する。
「まずは召喚、クリス!」
クリス、とは迷宮で出会ったクリスタルドラゴンである、名前が長いので簡略した。
「我。参上!」
人型に羽を生やしたようなドラゴンが敵軍と俺の間の空中に現れた。全身が透き通った青色をしている。迷宮内では暗がりだったせいでここまで美しくはなかったが、日の光が透過してガラスのような透明度を見せている。クリスから放たれる存在感と威圧感はその大きさを町一つ分はあるように見せてしまう。敵軍の心を折るには十分だったようで大半の兵士はその足を止めた。
「よし、クリス敵との距離は約400メートルだ、遠距離攻撃ででかいのを頼む!」
「了解した」
そういうとクリスは大きく息を吸い込み口を開いた。少しすると口内に光の粒が集まって行き、それは1つの光り輝く大きな球体となった。
「結晶龍咆哮」
クリスの雄たけびの意味が分かったのは、謎翻訳を受けている俺と白樹だけだっただろう。クリスはドラゴンの言葉を話しているようだが、伝わらない自覚があるらしく普段は人間の言葉を使ってくれているそうだ。今回は真剣になって、もしくは浮かれて、その余裕も無くなってしまったようだ。
そんなけたたましい声と共に極太のレーザのような光が一直線に敵のど真ん中に激突した。
光は地面に吸い込まれると一時的に収束し。次の瞬間、直地点から周囲200メートル程をクレーターに変えるほどの大爆発を起こした。幸い村の魔物用結界は魔物の攻撃であれば、遠距離攻撃も投擲以外は弾くので、ブレスの被害は地震で家の中が多少ごちゃごちゃになっただけで済んだ。
だが直撃を受けた敵軍が無事なはずもなく、球状に広がった爆発から逃れたのは空中に全速力で逃げた【賢者】とピンク色で半透明の結界を張り【勇者】と自分を守り切った【神官】、『錬成』であらかじめ作られていたであろう、アイアンゴーレム3体とミスリルゴーレム2体を犠牲に生き残った【錬金術師】、更には着弾点から最も遠くにいた一般兵も数十名ほど残っているようだ。
「シリア、【賢者】を狙え」
「はい」
直ぐにシリアに指示を出し、『必中』の狙撃で【賢者】を狙わせる。
他の奴らは何らかの障害物を有しているので『必中』があっても本人に当たらない可能性が高かった。
バン!
銃声と共に発射された銃弾は、音を置いて【賢者】を責め立てる。どんな感知に引っかかったのか【賢者】は銃弾を目で捉え、追う事に成功していた。
その上で一直線にしか飛ばないと結論をだしたようで、すぐさま飛行魔法に横に移動する力を加えた。
本来、狙われた人物が弾の軌道から外れてしまえば弾丸が命中する事は無い。その固定観念が【賢者】に一瞬の隙を生んだ。弾から目を離したのはほんの一瞬ちらりと銃弾が放たれた方向に居る人物、つまりシリアを見た。1秒にも満たなかっただろう、それでも一瞬のうちに30度以上も角度をずらした変則的な銃弾を見失うには充分だった。【賢者】が割り出した、今銃弾が有るはずの場所に銃弾が無かったがためだろう、1度見失った数十ミリかけ数ミリの小さな弾をもう一度見つけるよりも、着弾の方が速かった。
開戦は約450の兵士を滅し、【賢者】の眉間を打ち抜いた、こちら側に軍配が上がったようだ。
「ハハ、反射速度と動体視力に1500ずつ振って、やっと見えるようになった弾丸を補正無しで捕らえるってどんな神経してんだよ【賢者】、見た目は爺のクセに、この世界の老人強すぎだろ」
なんにしても最初に倒せてよかったな、全く。
長期戦で一番めんどうなの確実にアイツだっただろ。
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