悪役令嬢の末路

ラプラス

文字の大きさ
21 / 68

夢【2】

 木の根に腰を下ろすと、さっきまでの高揚感が落ち着いて、のんびりと目の前を眺めてみた。
 黄金色の小麦畑が広がっていて、そこに太陽の光が当たり、さらに輝いているように見える。

 「…とっても綺麗だわ」
 「そうだろう。今は春に播種はしゅした春小麦の収穫時期なんだ」
 「それじゃあ、目の前の小麦畑ももうすぐ見れなくなるのね」

 いずれ見れなくなる小麦畑に思いを馳せると、彼が微笑んだ気がした。

 「大丈夫だよ。今年の小麦畑はもう終わるけど、また来年があるんだ。来年、再来年、またその次の年…って、ずっと受け継がれて行くものだから、消えて無くなったりはしないんだよ」
 「そっか…そうよね」

 あったことをなかったことにすることはできないし、なかったことをあったことにすることもできない。例えそれが失われても、そこにあった記憶は無くならない。
 彼の言葉に、言われようのない安心感を抱き、再び私たちは長細い農道を歩いって行った。



***********


 「さぁ。この坂を上がったら別荘だよ」
 そう言われ、急な坂を登って行く。
 彼をチラッと見れば、慣れているのか、呼吸を崩した様子は微塵も感じない。
 普段からこんなに体を動かしたりしていない私は、既に息切れを起こしていた。
 「もう少しだよ。頑張って!」
 「頑張ってって言ったって、こんな坂無理よー!!」

 叫んだ瞬間、突然腕を引っ張られたと思ったら、坂は消えていた。

 「えっ、あれっ?」
 「登れたじゃん」
 「それはーー」
 ーーあなたがーーと言おうとすると、目の前の屋敷からいきなり人が飛び出してきた。

 「坊っちゃまっ!今までいったいどこをほっつき歩いていたのですか?!午後はご婚約者様が訪ねてくるとあれほどっ!」
 「わ、わかってたよ?バーサ、休んでなきゃダメじゃないか。それに、思わぬ事態が発生したから、人助けをしていただけだよ」
 「休んでなどいられません!……人助け?」

 そこで、やっと私の存在に気づいたらしく、バーサさん(?)は顔を赤くした。

 「至らないメイドで申し訳ございません。お嬢様。さぁさ、中へどうぞ」
 「あ、ありがとうございます」

 なんだか、メアリや屋敷の使用人達みたい。
 主人(?)の為だったら、怒ったり泣いたり、笑ったりする心優しいメイド達。



 バーサさんを見て、自分の周りには、こんなに優しい人たちがいることを、忘れていたことを恥じた。


感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った

mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。 学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい? 良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。 9話で完結

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」