悪役令嬢の末路

ラプラス

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夢【6】

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 転げ落ちた後、バーサ言われたことを思い出した彼は、がばっと身を起こそうとして手をついた。が、第三者から見れば、それはまさに床ドン…。別荘のメイド達が見たら、きっと黄色い声を上げていただろう。

 「………………」
 「………………」

 しばらくの間、二人の間に沈黙が落ちる。
 身体はフリーズしていても、彼の頭はネット回線が如く、キャパオーバーしそうなほど働いていた。結果的に、彼が彼女を押し倒している体勢になってしまったのは偶然だか、彼女を守ろうとして地面に接する面積を少なくしようと、咄嗟に彼女を包み込むように抱きしめたのは他でもない彼である。


 これは、セーフなのか?教えてくれ、バーサ!!


 今ここにいない乳母に助けを求める彼…。



 そこで、フリーズしていた彼女の方も、だんだん状況が掴めてきたのか、反応を見せた。


 「…ご、ごめんなさい!今退けるから」


 そう言って、彼女は仰向けのまま、手足を器用に使って芋虫のように彼の陰から這い出た。


 「怪我は…」

 そう言いかけた途端、彼女の周りを照らす光景に、目を奪われる。
 彼女もそれに気がついたのか、言葉を忘れたように見入っていた。
 そんな彼女が、ぽつりと呟く。

 「綺麗だね…」
 「ああ…」
 「!」

 彼女は、そこで驚いたように僕を見つめたけど、僕は構わずその光景を見ていた。



 いつの間にか、蛍の群生の中に二人は飛び込んでいたらしい。
 彼は、さっきのか細い光とは違う、もっと力強い何かを感じていた。


 「…もう、何が綺麗なのかわかるようになったね」
 「ああ、君のお陰だ」
 「私も、そろそろ帰らなきゃ」
 「行くのか?」
 「うん。思い出したの、私がやらなければならないことを」
 「そうか…」
 「でもね、今日この日の思い出をしっかり目に焼き付けておこうと思うの。だから…エスコート、お願いね?紳士さん」
 「っ、まさか会話を…」
 「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、うっかりね…」
 「そうか。うっかりなら仕方ないな」
 「怒ったりしないの?」
 「バーサの教えだ。紳士たるもの寛容にあれ、小さなことで騒ぐなと」
 「あなたは本物の紳士ね」


 「…また、何処かで会えるといいね」
 「そうだな」
 「最後だから聞くけど、どうしてそんなに警戒心薄いの?」
 「えっ?!突然何を言い出すんだ」
 「だってね。初めて会ったとき、親切に私に声をかけてきたところまではいいのよ?…けど、流石に名前は~とか色々聞いたほうがいいと思うのよ。あなた"別荘"っていう言葉ワード使ってたから、推測でお坊ちゃまだってバレバレだったのよ?バーサさんもお坊ちゃまって言っていたし…」
 「聞かなかったか?」
 「聞いてないわっ!それにあなたも名乗ってないわよ!今更だけど!!」
 「じゃあ、今更だけど…。僕はローディー・シュトワネーゼ。君は?」
 「事前に断っておくけど、私の名前、少し長いわよ。私の名前はアイシアナ・シュラバス・スコッティング・アリセラ・モゼットよ。アイラでいいわ」
 「よろしく」
 「ええ、よろしく。…ってそうだわ!花火!もうすぐ始まっちゃうんじゃないの?!」
 「そういえばそうだった。さっき居たところ、あそこ花火が綺麗に見えるんだ。早くここを登ろう。立ち上がれるか?」
 「ええ。大丈夫よこれくらい」

 こうして、二人は先程転げてきた坂を登り始めた。あと少しで頂上…というところで、背後からヒュ~という音が聞こえたと思ったら、真っ赤な赤い花が空を染めた。


 「あ…花火よ!…綺麗ね」
 「そうだな」
 
 ローディーがいそういうと、アイラは微笑んだ。

 「『綺麗』って思える気持ちを、ローディーと共有出来るようになって、嬉しいわ」

 花火が上がるたび、歓声が広がった。
 しかし、違和感に気づくには遅すぎた。
 

 異変に気が付いたのは、ローディーの方だった。


 「ちょっと待て、今の音、花火の数と合わない…」
 「どういうこと?」
 「さっきから聞こえてた。悲鳴みたいな、歓声みたいな声、あれは…」

 ローディーは急いて頂上に登った。
 目に入ってきた光景に、固まる。

 「屋台のテントが燃えてるわ!」
 ローディーの後を追って登ってきたアイラが悲鳴をあげた。
 見えたのは、さっきまで自分たちのいた場所が火の海に変わり、逃げ惑う人々の姿。

 「アイラ、逃げるぞ!」

 ローディーはアイラの手を引いて、走り出した。

 「燃える火の中に、見知った集団を見た」
 「どういうこと?」
 「最近、村の周りをうろついている不審な連中の存在は知っていた。一回、そいつらを遠目だが見たことがある。その時のやつらと服装が全く同じだった」
 「同一人物ってこと?」
 「そうだ」
 「それならあなた、余計に私に構ってる暇無いじゃない!」

 アイラはローディーを引き止めた。

 「村の無事を確かめに行って!この風向き…村の方に向かっているでしょう?此処から村まで、そんなに距離はないわ。このまま村に火が迫ってくるかもしれない。もしかしたら、あなたの言う不審な集団が、もう村にまで襲撃しに行っているかもしれない。お願い!たくさんの命がかかっているの!私なら、そこらへんに隠れて上手くやるから、バーサさんや別荘のみんなが心配なの!」

 ローディーは暫く黙っていて、意思を定めたように、私の手を離した。

 「…わかった。本当に、大丈夫なんだな?」
 「うん」
 「それだけ聞けたらいい。くれぐれも気をつけろ。…それから、これが終わったら、アイラに言わないといけないことがあるんだ。だから、死ぬな。生きて戻れよ」
 「そっちこそ!…お願い、死なないで。貴方が死んでも、私お花手向けになんか行かないからね」


 「わかった。絶対に死なない。約束だ」
 「うん」

 そこで、彼と別れた。
 気がつけばそこは、私と彼の出会った場所で、何かの因果を感じたんだ。

 木の根元に腰を下ろして、幹に背を預ける。
 そうして、目を瞑った。


 次に目を覚ました時には、争いごとも、全部終わっていますように。誰も傷ついたりしていませんようにって。お願いしたの。


 ローディー……。
 約束、守れなくてごめんなさい。
 あなたとはもう…。


 目を閉じて暗闇に沈んだはずなのに、どうしてか、白い光に包まれ、いつの間にか意識は消えていた。


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