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探し人《夢》【10】
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「ねえさま」
この子にミルクを与えていると、エレインがやってきた。
「ん?なぁに?」
「赤ちゃんの名前、もう決めた?」
「え?まだだけど、何かつけたい名前でもあるの?」
「うんっ」
レディ・ローズって駄目かな?
すると、赤ちゃんはピクッと反応してエレインのほうを向いた。
「いいんじゃない?この子も自分が名前呼ばれたのかなって思って振り返ってるよ」
「やったぁ」
こうして、私そっくりの赤ちゃんはレディ・ローズと命名された。
レディはとっても頼もしい保護者とアイシアナ、そしてほかの家族に見守られ、すくすくと育っていった。
首がすわって、はいはいができるようになって、立って、歩いて、言葉を話して、泣いて、笑って、怒って、たくさんのレディのはじめてを、みんなでお祝いした。写真も撮って、壁に掛けたり、アルバムにまとめたりもした。けれど月日はすぐに流れる。
*************
「アイシアナ、こっちにおいで」
「はい。婆様」
ある日の午後、婆様に呼ばれて部屋を尋ねた。
「どうしました?」
「協会から、仕事じゃ。名指しでな」
「仕事…?婆様ではなく私が?」
「ああ。2年前の辺境にあるソンニの村へ、ある調査をしてもらいたいらしい」
この頃から、私は協会から調査で過去に飛ぶことが多くなった。
協会ーータイムリープによる問題発生の未然防止と、問題解決のために創設された施設。そこでは、過去や未来に関する情報を扱い、保護している。例えるなら図書館が良い例だろう。
協会はたくさんの人が利用する。能力者や警察、時には死神まで。私はまだ会ったことはないけれど…。
「わかりました。それでは、準備が出来次第行って来ます」
「ああ。くれぐれも気をつけて、行って来なさい」
「はい」
「アイシアナ」
「なんですか?」
「レディにおまえの水晶を首にかけてあげな。あの子はまだここに来たばかりだ。力も暴走しやすい。一人で何処かに行ってしまいそうで怖いからな」
「はい。わかりました」
どこか微笑ましく感じて、口元が緩む。
婆様の部屋を出た後、私はまだこの家に来たばかりのことを思い出していた。
ーーー
「婆様、次はいつ戻って来るんですか?」
婆様は、よく家を留守にすることが多かった。
帰って来るのは、早くて3日、すごく遅くて一ヶ月。
「今回は少し時間がかかりそうだからなぁ…。10日くらいかな。アイシアナ、留守中家を頼むよ」
「…はーい」
けれど、10日で戻ると行った師匠は、結局3周間も帰ってこなかった。
「……婆様遅いよ」
その日は、婆様が家を留守にして10日目。
婆様が帰って来ると思って、いっぱい料理を作って、待っていた。
テーブルいっぱいを占める料理と、椅子の上で蹲る私が、対照的に映る。向かい側の席には、いつも婆様が座ってて…。けど、今その席は空っぽ。
「はやく、帰って来てよ」
そんな小さな呟きが、一人しかいない静かな空間に消えて行った。
婆様は帰ってこない。
それでも、『今日帰って来るかもしれない。もしかしたら、お腹を空かせているかも』そう思うと、料理も片付けるわけにはいかなくて、私も寝ていられなかった。
婆様にちゃんと「お帰りなさい」って言いたかったから。
お仕事のお話、聞きたかったから。
ーー待っていたけれど、一人の時間は施設に入ったばかりのことを思い出させられる。
一人で眺める月は、どこか悲しい。
自分しかいない部屋は、どこか寂しい。
ふと、いつのまにか自分にそんな感情が芽生えてえていたことを知った。
そっか、私にとって婆様はもう家族になってたんだ。気づかないうちに、いろんな感情を教えてもらっていたんだ。
自分が既に家族と思えるほど人に心を開けていたのが、単純に嬉しかった。
けれど、途端に不安が私を襲う。
もし、婆様が帰ってこなかったらどうしよう。
また一人になったら、今度こそ私はどうやって生きていこう。
やっと知ることができた、家族がいる喜び。
ーーそれは、失われてしまうの?
そんなの、嫌だ。
婆様、帰ってきて。
私を、置いてかないで。
家族がいる喜びを知ってしまった私には、一人でいることは、苦痛の何者でもないんだ。
もう、一人でいたくない。
……一人でいたくないよ。
そうして、私の魔のお留守番が終わったのは翌日のことだった。婆様が帰ってこないとあれ程ぼやいていたくせに、3週間はあっという間のことだった。
婆様によると、私は睡魔に勝てず結局椅子の上で蹲ったまま寝ていたという。
もう、大人しく寝ていればこんなに悶々と考えなくても済んだのでは…と思ったのは後の祭り。
けれど、"待つ"ことって今までしたこともなかったことだから、待つ人がいるって嬉しいことだなって再認識したのは、その後のお留守番でのことだ。
帰ってきた婆様を出迎える瞬間に、ひっそりと感じるのは、悲しみでも、寂しさでもない。ホッとしたような、嬉しさであるということ。
そして、今度は自分が待たれる側になることに、また別の嬉しさを感じた。
この子にミルクを与えていると、エレインがやってきた。
「ん?なぁに?」
「赤ちゃんの名前、もう決めた?」
「え?まだだけど、何かつけたい名前でもあるの?」
「うんっ」
レディ・ローズって駄目かな?
すると、赤ちゃんはピクッと反応してエレインのほうを向いた。
「いいんじゃない?この子も自分が名前呼ばれたのかなって思って振り返ってるよ」
「やったぁ」
こうして、私そっくりの赤ちゃんはレディ・ローズと命名された。
レディはとっても頼もしい保護者とアイシアナ、そしてほかの家族に見守られ、すくすくと育っていった。
首がすわって、はいはいができるようになって、立って、歩いて、言葉を話して、泣いて、笑って、怒って、たくさんのレディのはじめてを、みんなでお祝いした。写真も撮って、壁に掛けたり、アルバムにまとめたりもした。けれど月日はすぐに流れる。
*************
「アイシアナ、こっちにおいで」
「はい。婆様」
ある日の午後、婆様に呼ばれて部屋を尋ねた。
「どうしました?」
「協会から、仕事じゃ。名指しでな」
「仕事…?婆様ではなく私が?」
「ああ。2年前の辺境にあるソンニの村へ、ある調査をしてもらいたいらしい」
この頃から、私は協会から調査で過去に飛ぶことが多くなった。
協会ーータイムリープによる問題発生の未然防止と、問題解決のために創設された施設。そこでは、過去や未来に関する情報を扱い、保護している。例えるなら図書館が良い例だろう。
協会はたくさんの人が利用する。能力者や警察、時には死神まで。私はまだ会ったことはないけれど…。
「わかりました。それでは、準備が出来次第行って来ます」
「ああ。くれぐれも気をつけて、行って来なさい」
「はい」
「アイシアナ」
「なんですか?」
「レディにおまえの水晶を首にかけてあげな。あの子はまだここに来たばかりだ。力も暴走しやすい。一人で何処かに行ってしまいそうで怖いからな」
「はい。わかりました」
どこか微笑ましく感じて、口元が緩む。
婆様の部屋を出た後、私はまだこの家に来たばかりのことを思い出していた。
ーーー
「婆様、次はいつ戻って来るんですか?」
婆様は、よく家を留守にすることが多かった。
帰って来るのは、早くて3日、すごく遅くて一ヶ月。
「今回は少し時間がかかりそうだからなぁ…。10日くらいかな。アイシアナ、留守中家を頼むよ」
「…はーい」
けれど、10日で戻ると行った師匠は、結局3周間も帰ってこなかった。
「……婆様遅いよ」
その日は、婆様が家を留守にして10日目。
婆様が帰って来ると思って、いっぱい料理を作って、待っていた。
テーブルいっぱいを占める料理と、椅子の上で蹲る私が、対照的に映る。向かい側の席には、いつも婆様が座ってて…。けど、今その席は空っぽ。
「はやく、帰って来てよ」
そんな小さな呟きが、一人しかいない静かな空間に消えて行った。
婆様は帰ってこない。
それでも、『今日帰って来るかもしれない。もしかしたら、お腹を空かせているかも』そう思うと、料理も片付けるわけにはいかなくて、私も寝ていられなかった。
婆様にちゃんと「お帰りなさい」って言いたかったから。
お仕事のお話、聞きたかったから。
ーー待っていたけれど、一人の時間は施設に入ったばかりのことを思い出させられる。
一人で眺める月は、どこか悲しい。
自分しかいない部屋は、どこか寂しい。
ふと、いつのまにか自分にそんな感情が芽生えてえていたことを知った。
そっか、私にとって婆様はもう家族になってたんだ。気づかないうちに、いろんな感情を教えてもらっていたんだ。
自分が既に家族と思えるほど人に心を開けていたのが、単純に嬉しかった。
けれど、途端に不安が私を襲う。
もし、婆様が帰ってこなかったらどうしよう。
また一人になったら、今度こそ私はどうやって生きていこう。
やっと知ることができた、家族がいる喜び。
ーーそれは、失われてしまうの?
そんなの、嫌だ。
婆様、帰ってきて。
私を、置いてかないで。
家族がいる喜びを知ってしまった私には、一人でいることは、苦痛の何者でもないんだ。
もう、一人でいたくない。
……一人でいたくないよ。
そうして、私の魔のお留守番が終わったのは翌日のことだった。婆様が帰ってこないとあれ程ぼやいていたくせに、3週間はあっという間のことだった。
婆様によると、私は睡魔に勝てず結局椅子の上で蹲ったまま寝ていたという。
もう、大人しく寝ていればこんなに悶々と考えなくても済んだのでは…と思ったのは後の祭り。
けれど、"待つ"ことって今までしたこともなかったことだから、待つ人がいるって嬉しいことだなって再認識したのは、その後のお留守番でのことだ。
帰ってきた婆様を出迎える瞬間に、ひっそりと感じるのは、悲しみでも、寂しさでもない。ホッとしたような、嬉しさであるということ。
そして、今度は自分が待たれる側になることに、また別の嬉しさを感じた。
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