悪役令嬢の末路

ラプラス

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燃えて、なくなれ【2】

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 あつい…。
 木々が燃える音。獣の鳴き声。そして、燃える私の居場所。
 その全てが、私の心臓をぎゅうっと締め付ける。
 何も出来ない。無力な自分。
 逃げることしか頭になくて、でも、居場所を失った私は、どこにいけばいいのかわからなかった。

 私はその場にへたり込む。
 もう、駄目だ。頭はもう酸欠状態で上手く回らない。呼吸も、だんだん浅くなって…。
 なにも考えられない。呆然と見ているだけしか。

 朦朧とした意識の中で、いつの間にか私は目を閉じ、草の上に倒れこんでいた。


 だれか、助けて………!

 縋る人なんているはずもない。
 だけど、助けを求められずにはいられなかった。



 ーー心地良い振動が身体を揺すっている。
 いつのまにか、私の身体を包んでいた熱気は何処かへと消えていて、代わりに温かななにかに包まれていた。
 そう、とてもホッとする何かに。
 私はまた、意識を手放していた。




 意識が浮上してきて、自分がいつの間にか寝ていたことに気づく。
 
 鋭い日差しが目にかかる。あまりの眩しさに目を閉じた。
 そのまま、肺いっぱいに息を吸い込でみる。



 ーー森の匂いだ。


 息をゆっくりと吐き出し、瞼をゆっくりと持ち上げると、そこはいつもとなんら変わりない森の中だった。
 しかし、さっきまでと打って変わった静けさに困惑する。

 一体、何がどうなっているの?


 「良かった。目が覚めたのね」

 上から降ってきた言葉に、体を強張らせる。
 慌てて起き上がろうとすると、ズキっとした痛みが頭を襲った。

 「っつ……!」
 「まだ起き上がってはだめ」

 涙で潤んだ瞳が捉えたのは、黒い人影。逆光で顔形は見えないが、シルエットから言って女性だろう。

 「大丈夫。ここは安全よ」

 この人は、一体誰だろう。

 「あなたに何があったのか私は知ってる。可哀想に、喉をやられたのね。今、喉を潤してあげる。少し待っていて」

 そう言って、彼女は何処かに行ってしまった。 
 閑かだ。
 あの悪夢のような火の海とは全く違う。
 けれど、ここは一体何処なのだろう。
 頭には疑問だけが残った。
 少しだけ心に余裕が戻ったのか、顔を横に向けてみる。
 一面の緑に涙腺が緩む。

 『泣いてるの?』
 「ぇ…」

 気づけば、目の前には寝転びながらこちらを覗き込んでいる人型の水(?)がいた。びっくりして喉が鳴ったけれど、掠れた声しか出てこなかった。

 『あ、驚かせちゃった?あたしミシア。見たとおりの水の精だよ。よろしくね!…って、ありゃ。喉が痛いんだね。そっかそっか。確かにそれじゃ無理して声出したら悪化しちゃうね。ちょっと失礼するね』

 すると、手の形を成していた水が、突然重力を思い出したように崩れて、ゆっくり、スローモーションのように私の口の中へ落ちていった。

 『そのままゆっくり飲み込んで』

 言われたままに嚥下する。
 水が身体の隅々まで染み込んでいく、満たされた気持ちになって一息ついた。

 『そう。いい子いい子。もう大丈夫!喋っても平気だから』

 「ほ…んと?」

 びっくりして、喉を抑える。
 さっきまでのヒリヒリとした痛みも消えて。すっきりしていた。

 「すごい…」
 「えへへ。よかったね!…人が来るみたい。見つかる前に私行かなきゃ。これあげる。じゃあね!」

 そういうか早いか、ミシアはいつの間にかいなくなっていた。手渡された小瓶に目を移す。
 この液体は何のために使うんだろう?
 首をかしげていると、さっきの女性がやってきた。

 「お待たせ…って、あなたさっきまで喉が…治ってる?」

 信じられないというような目に、私もよくわからないと首をかしげる。

 「とにかく、治ってよかったわ。あなた、帰り方はわかる?」

 ふるふると首を振る。

 「行き方も帰り方もよくわからない。無意識(?)で来たから。今更だけど、ここはどこ?」
 「死後の世界の手前の世界よ。正式な名前はないの。死んだ人が、全員ここにくるわけじゃないから、この世界のことを知ってる人も限られてるわ。あなたは…きっと飛んできたのね」
 「飛んで…?私羽なんか生えてないけど…」
 「そうじゃなくて、時空を跳躍するのよ。過去から未来まであらゆる時間に飛んでいけるの。きっとこの世界に来たのも、その能力のせいね」

 なんでか一人で納得している…。

 「あの。それで、どうやって帰れば…」
 「そうね…。確か、強い意志を持って願えば、元いた場所に帰れるはずだけど…。今回は特別に私が送ってあげるわ」

 送ってもらえるのか…。
 ということはあんまり珍しくもない力なのかも。

 ーーと、考え事をしていれば地面に穴が空いてた。
 
 
 すると「よっ」といった声とともに背中に衝撃が走る。
 次の瞬間。身体がふわっと浮いたかと思えば落下した。



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