4 / 71
【紫苑視点】魔王とオークション
しおりを挟むこの歓楽都市エルドラドでは毎日のように競りが行われる。
ドレス、宝石、魔道具、武器 ーーー 人間、亜人、魔族、竜でさえ。
この国で手に入らないものはない。金さえ払えば。そしてその欲望を、僕の《眷属》たちは食べる。良い関係だよね。良き隣人だ。
そのオークションを覗いてみたのは偶然だった。
「エルフの生き残りが入荷したらしいですよお」
一の眷属であるセルが笑いながらそう言うから、仕方なく見に行った。帰りに酒場に寄ろうと餌をぶら下げられて。うん。屋敷で飲む酒も良いけど、酒場でパーッと飲むのも美味しいよね!
『さあ本日のメインディッシュは……な、な、な、なぁんと!!かの森人エルフ族の最後の生き残り!!しかも!王族です!!』
司会が興奮気味に言う。あー、もう、どうでも良い。早く飲みたいなあ。
ガラガラと台車で持って来られた『商品』の覆いが取られる。
「……うっ…!!」
「ヒィッ!!」
「ウッ……ゴホッ…!」
「…ゲエェ…!」
「キャ…ッ!?」
「……あーらら………コレはハズレ…かなあ?」
美女とか伝説の王冠とかで上がっていた会場のテンションが一気に下がる。ドン引きだ。セルが呆れたように笑った。
件の『エルフの王族』は肉塊だった。檻の中に入れられてるのがシュールすぎる。うん、ホント挽肉。しかもすでに腐っているのか酷く臭う。ミンチの中に埋もれるギョロリとした眼球を指差し、司会者が無理矢理明るく言った。
『ご覧下さい!このクロムスフェーンの瞳!!間違うことなき最後の王族です!さあ金貨一千枚から始めましょう!』
誰がミンチに白金貨十枚も出すわけ!?おかしいよ出品者!!
………あれ?…でも……あれ???おかしいな?
この競りが最後の商品だ。ミンチを買う気のない参加者はさっさと席を立ち始める。
『900枚!900枚、居ませんか!?』
おかしいなあ……
あのミンチの目が ーーー 塗り潰されてない。
首を傾げてる間に、ミンチの値段はどんどん下がっていく。
『100枚!!白金貨一枚!!居ませんか!?もう下げられませんよ!?これ以上は殺処分です!!』
ザワザワと会場に残った参加者が囁き合った。部位欠損回復薬が白金貨三枚、蘇生薬が七枚。それでもあれがもし本当のエルフだったら……。そんな博打だ。当たればデカイ。そう、あの眼球だけでも。
「よし買っ……!!」
「五千枚出そう」
「ふぇっ!?」
「なっ……!?」
ああーもう。小声で言ったのに響いちゃったよ、もう。あとセル、間抜けな声を出して僕を非難しないの!
『ご…五千枚!!!五千枚です!!他、ありませんか!!??』
おっふ。めっちゃテンション上がったね司会者。
「……っく!五千百!!」
「六千」
「六千二百枚!!」
「八千」
おおっと。盛り上がってきたねえ。オークションはこうでなきゃ!
「はっせんごひゃくまい!!!」
悲鳴のように上げる声にニッコリ笑った。認識阻害魔道具で見えないだろうけどね。
「一億」
『…………ッ!!!いちおくううううううう!!居ませんか!一億!一億です!!白金貨百枚!!金貨一枚でも上乗せすれば最高落札者ですよ!?』
途端にあのミンチを見る目がみんな変わる。まあ僕にとってはアレがエロフだろうと王族だろうと関係ない。だって見えるんだもの。
「え~っ?紫苑様あのグチャっとしたの気に入ったんですかあ?それともあの白葡萄ゼリーに血がついたみたいな目玉が欲しかったんですう?」
やめてブドウゼリーが美味しく食べられなくなっちゃう。
「ま、良いですよお?ここのオークションの落札金額の3割はうちの収益ですしい?残りの7割はボクが直々に搾り取ってあげますからあ♡」
「悪い子だ」
額にひとつキスをすると、セルは上機嫌で取引きのためにバックヤードに走って行った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
447
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる