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【オストハウプトシュタット王太子視点】
しおりを挟むあの日から、このオストハウプトシュタットは随分と騒がしくなってしまった。
そう、あの日 ーーー 。
私の美しい弟を、あの忌々しいアレスゲーテの死神辺境伯が奪い去ったあの日。あの男がアレスゲーテの独立を宣言した日から。
宣言をして即座に国交を閉じたアレスゲーテから一切の物資が届かなくなった。アレスゲーテは肥沃な土地だ。魔王領に隣接しているために魔力の地力が豊富な上に、魔物も狩る。今までは税としてその半分以上を吸い上げていたが、今は懇意にしていた商人さえも入れなくなった。父上や議会が再三領主を召喚しようと使者を出したが、その全てが首だけになって帰ってきた。
そして商人から齎された『情報』に、母上や貴族たちは目を剥いた。
「エーデルハウプトシュタットの第五王子の薬効は不老不死の妙薬である。指一本食せば不治の病を退け、その生き血は永遠の若さと美しさを保つ」
あれだけアールツナイを「穢れた子」と騒いでいた母上は、「認知しても良い」とてのひらを返し、誰がどれだけ金貨を積めばどの部位を食せる…などと悍ましい相談までしている。無理もない。部位欠損や不治の病の治癒など、大聖女が攫われて以来、そのように強い治癒の能力を持つものは存在しないのだから。
父上はどうあっても愛する女性との子供を取り返したいらしく、討伐軍の編成を計画中だ。
姉上は……ああ、悍ましい。あれは気狂いだ。近付きたくない。
アールツナイ。私の弟。あのなんとも形容し難い美しい深緑の双眸。幼いながらも絵画の天使のように美しくあどけない顔。
さあ、どこをどう利用すれば、アールツナイは私の腕に転がり込んでくるだろうか。
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