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【シーグローブ公爵視点】
しおりを挟むほぼ全ての根回しが終わりつつあるな。
執事が持ってきた書簡に目を通し終わり、私は息を吐いた。あの食わせ者の王太子が乱心した際はもう終わりかと思ったが ーーー なかなか…まあ、落ち着くところに落ち着きつつある。
エマが取り乱しもせずに対処したのも大きい。
あのジュリアの子供が結婚、か…。エマが生まれた瞬間を思い出す。この子をお願いします、と言ってジュリアは神の御許へ旅立った。
宝石瞳どころか、紺碧の瞳さえ持たずに生まれた王女。妻と離婚したばかりの私の元に、捨てられるように嫁いだ哀れな娘。出来損ない、と母である王妃にも疎まれた娘。けれど皮肉なことに、ジュリアの産んだ子供は宝石瞳だった。
ジュリアの命と引き換えに生まれた子供を疎むことも憎むことも出来なかった。共にいた時間はたった1年。仕方なく引き取ったはずのジュリアを私は愛してしまった。ジュリアの、彼女の残り香を愛せないはずがない。愛しい愛しいジュリアの子供。私は愛した。先妻の娘である長女もエマを溺愛した。可愛い可愛いエマ。この子が宝石瞳でなかろうと、王家の血を引いてなかろうと。この子は世界で一番尊い子供。
ジュリアの告別式に使者さえ寄越さなかった王家が手のひらを返したのは、エマが宝石瞳と知られてからだった。特に隠すつもりはなかった。その頃の王太子の ーーー ジュリアの兄の妃は宝石瞳だったから。だからこの子の価値は王家にとっては低いだろう、と。けれど、王太子妃の生んだ王子は宝石瞳ではなかった。そして二度と出産は不可能だと医師に告げられるほどの難産だったらしい。
エマを寄越せと言われた。王家から奪った宝石瞳を持つ姫を返せと。
私は王家の使者の首を刎ね、丁寧に包装して送り返してやった。それからディアナとエマを連れて、屋敷も身分も領地も領民も……全て捨てて亡命しようと荷物を纏めた。元々シーグローブは領地どころか家さえも持たぬ根無草の一族だ。土地から土地を、国から国を渡り歩き、気紛れに知識と幸運を与える『財宝の番人』。
『シーグローブ公爵家』など先代のルネライト国王が、『財宝の番人』と呼ばれる我が一族を縛るために領地と爵位を与えたにすぎない。公爵などと大層な名を持たされているが、実際はそこらの平民よりもルネライトでは新参者だ。
反逆罪?上等だ。娘を奪われるくらいなら帝国へ渡ると言うと、王家は渋々と引き下がった。だが舌の根乾かぬうちに王家が出した提案が『宝石瞳を持たない王子との婚約』だった。
腑が煮え繰り返る。
もう一度荷物を纏めようとする俺にセバスが囁いた。
「では主人、このような案は如何ですか?」 ーーー と。
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