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それでもあなたは悪くないのかしら?
しおりを挟むその日のデザートは小ぶりのチョコレートケーキ。わたくし、チョコレートが大好きなのですが、妊娠中は少量にした方が良いとのこと。小さなチョコレートケーキに真っ白いクリームと銀色のアラザン。まあ素敵…とケーキにフォークを入れようとして嫌な予感がしました。
シーグローブは幸運の一族です。おかしいくらいに運が良く、直感が優れています。
その血が濃いと言われるわたくしが『嫌だ』と思ったのです。
わたくしはフォークを置き、パティに視線を送ります。ケイレブが厨房に走り、パティがケーキを下げてミルクティーを入れてくれました。ああ、美味しい。でもチョコレートケーキ食べたかったですわ…。
ほどなくして、厨房スタッフが全員、わたくしの前に並べられました。
わたくしはじいっとスタッフたちを見つめます。不思議そうにわたくしから目を逸らさないスタッフたち。………ふむ。
「……エイラ以外は厨房に帰っていいわ。ごめんなさいね、作業を中断させて」
「……っ…エ、エマ、様っ……!」
エイラが叫びます。どうしたの?心当たりがございますでしょう?
ケイレブの指示で厨房のゴミが押収されます。でもまさか証拠品はその辺には捨てませんわね?パティがエイラのコックコートのポケットに手を入れると…
「ありました、エマ様」
手のひらに隠れるほどの小さな小瓶です。
「ち…違うんですエマ様!それはケーキ用のリキュールです!か…隠し味に……」
「…そう?隠し味?ラベルも貼ってない隠し味、ね?わたくし、ケーキに何か入っていたとは言っていませんよ?」
「‥…っ………!」
エイラが息を飲んで真っ青になりました。
この光景は記録されています。従兄弟叔父様が結婚祝いに下さった映像記録装置を使っています。コトリとパティがテーブルに小瓶を置きました。
「ち…違う!違うんです、エマ様!私…私、あの……こ、婚約者に、言われて……!」
「まあ、婚約者?その方に言われて?得体の知れないものをわたくしに食べさせようとしたの?」
「違う、違う!!だってそうしないと婚約を破棄するって…!私じゃない!彼が、そうしろって!私は嫌だって!駄目だって言ったのに!彼がやれって!結婚したければやれって!!」
エイラは平民です。側妃宮に上がってから騎士爵の男性と婚約したそうですが……まあ、わかりやすいハニートラップに引っ掛かってしまったのですね。
「ねえ、エイラ?その『彼』のせいなの?『彼』のお名前は?」
「っ……バ、バーニー………バーニー・アッシュウッド………ね、ねえ!お願い!私じゃない!私じゃないんです!バーニーが!彼が……!」
ケイレブの視線で側妃宮騎士が走ります。良い動きです。やはり大粛清後の騎士は良く働きますわ。
「そう。バーニーさんが悪いのね?」
「は…はい…!」
エイラはあからさまにホッとしました。
「ねえエイラ?今、わたくしのこのお腹には、王太子殿下のお子が宿っているのをわかっていたわね?」
「は、はい……でも………お、お腹を、壊す程度だって。苦味のあるチョコレートに混ぜればわからないって…バーニーが……」
「そう、でもねエイラ。バーニーさんがそう言っても、実際にわたくしの料理に何かを盛ったのはあなたなの」
「でもっ…!」
「あなたは拒否することもできたし、こっそりパティや料理長に相談することもできたはずよ?それはあなたが選んだの。『自分が辛いおもいをするより、側妃に薬を盛ろう』とね?その結果、わたくしが死んだり、殿下のお子が流れたりしたかも知れない。それでもあなたは悪くないのかしら?」
「だって……だって、彼が………愛してるならやれって…わ、私、私は、嫌だって言ったのに……!私…私じゃない!私が悪いんじゃない!バーニーが!彼がやれって!大丈夫だって!毒じゃないって!!」
「……そう、お話にならないわね」
わたくしは笑うのをやめました。エイラは腕の良いパティシエです。とても……ええ、とても残念です。
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