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【セオドア視点】
しおりを挟む珍しくケイレブから「話がある」と言われた。ああ…あれか。エマの妊娠。私としては待望の『私たち』の子供なのだが、ケイレブの表情はどこか晴れない。
「なにを今更…と思われるかもしれないが……怖い。漠然と恐ろしいんだ…」
ケイレブが珍しく酒に口をつけた。いつもは「仕事に支障が出る(キリッ)」とする堅物が。
「エマに宿っているのは俺たちの子供だ。俺の……あの親父の…シェパード公爵代理の血が流れている…」
ケイレブと初めて会ったのは3歳。その時のケイレブは身体中包帯だらけでいつも何かに怯えていた。母親の死と、父親の裏切り。前シェパード女公爵が病死してすぐにシェパード公爵邸に乗り込んできた父親の浮気相手とその子供たちは、それはもう凄惨にケイレブを甚振り倒したらしい。父親は庇うどころかケイレブを放逐した。そのおかげでケイレブの命は助かったが心を病んだ。
ケイレブが成人するまでの『代理』であったシェパード公爵代理は書類を改竄し、自らが当主として収まっている。ケイレブが成人しても異議申し立てをしないのを良いことに偽シェパード家はやりたい放題だ。
「ケイレブ、血筋のことは気にするな。あれはエマの産む子供だ」
「………」
「考えてもみろ、あのエマだ。正直引くほどの幸運の持ち主だ。道を歩いているだけで天才呪術師やSランク冒険者を拾ってくるエマだぞ?悪い血など引き当てるはずがない。それより私が気になるのはお前の態度だ。もっと喜べ。一線を引くな。私などエマを抱き上げてくるくる回って踊りたいほど嬉しかったのに、必死で押し殺したんだぞ?堂々と喜べる立場のお前が辛気臭い顔をするな。胎教に悪いだろうが」
「……そう、だな。エマの子だ…俺たちの……」
ケイレブが酒精の強い酒を一気に呷る。めんどくさい。酔いつぶしてしまえ。空になったグラスに並々と注いでやった。
さあ、どうするか。
私は偽シェパード家をこのままにするつもりはない。王家の血を、勇者の血を一滴も引かない偽物の『保険』。彼らがシェパード家を乗っ取ったから私たちはケイレブに会えた。そこは感謝しよう。だが私の中で燻るこの感情とは別だ。
エマもケイレブも私のものだ。私とエマ以外がケイレブを傷付けることは許さない。
シェパード家乗っ取り以外の悪事は行っていないようだが、さあどのタイミングでどの罪状を被せてやろうか。
私は笑う。
父親の首を刎ねてやればケイレブは泣くだろうか。それとも笑うだろうか。じわりと仄暗い喜びが私を満たす。
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