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アリサの恋愛観は多分普通じゃありませんわ
しおりを挟む妊娠しても簡単なお仕事はできます。というか、わたくし、お仕事していない方が気を揉んでしまってストレスなのです。
朝起きて簡単に湯浴みをし、暖かい服装をして食堂へ向か……
んっ?
わたくしは足を止めます。今、見てはならないものを見た気がします。側妃宮の侍女と使用人たちはマダムサティンのデザインした、シンプルながらも可愛らしい制服です。このお仕着せが着たくて就職希望、ということもよく聞きます。
その可愛らしい白黒の制服が明らかにパツパツの侍女が…。はち切れんばかりの雄々しい胸元、サイズアウトのブラウスから見える割れた腹筋。太く逞しい首と、わたくしのウエストくらいある腕。
二度見して、淑女の鍍金が剥がれかけました。いけないいけない。わたくし、最近弛んでますわ。
「おかえりなさい鬼哭丸?随分と窮屈そうですわ」
「はっ!?もうバレた!?オレの変装は完璧だったはず…っ!」
いいえ、どうやっても隠し切れない筋肉でございますわ。
鬼哭丸は『武者修行』という名の情報収集に出したわたくしの私兵です。鬼哭丸はとある件でセバスに挑み、半殺しどころか瀕死にされて転がっていたのをわたくしが拾いました。わたくしの私兵になってからも強い方と戦いたいというので、境界地域という非常に危険な場所の調査を任せています。時折、絶滅したと言われている巨大トカゲの鱗や牙、何かわからないけれど美味しいお肉が届きますの。
「だってよお…オジョーサマに子ができたっていうからよぅ…(ぬぎぬぎ)」
廊下で脱がないでください鬼哭丸。
「安産祈願で一角兎狩って帰ってきた」
汚い麻袋から出したのは境界地域の絶滅危惧種ですね。確かに兎は多産と安産の象徴ですが、Sランク冒険者数名でも討伐失敗するような危険動物を独りで狩りましたか…。
「これの肉を食えば子供は魔力で覆われて絶対流れないって聞いたし、毛皮はあったけぇし、真っ白だからオジョーサマに良いなって思ってよお」
ニカッと少年のように笑いますが、そろそろ上着を着なさい。侍女たちが赤くなって目を逸らしているではないですか。
「キャアッ!?」
あらあら、ほら、ご覧なさい?わたくしを迎えにきたアリサが悲鳴を上げました。
「えっ……あ、あ…え…エマ、様………こ、こちらは…?」
真っ赤になりながらアリサは鬼哭丸を凝視しています。前世で言うとガン見です。
「アリサ、わたくしの私兵の鬼哭丸です。鬼哭丸、こちらはアリサ・アーミテイジ嬢。わたくしの秘書で伯爵令嬢です」
「おう、別嬪さん、よろしくな!」
「は…はひ……よ、よろしくお願いします…」
こうしてアリサと鬼哭丸のボーイ(三十路越え)ミーツガール発生。その日のアリサはアリサらしくないミスの連発でした。
「べ…別嬪、さん……なんて…は、初めて言われました…それに、かっこいいし、む、むきむきしゅごい……ああああ…エマ様、わたくしわかりましたわたくしに足りないのは筋肉でしたのね褐色の肌に傷跡だらけの体もお顔も素敵だしあの大きな手!はあぁん素敵笑顔もそこらのモヤシとは大違いどうしようどうしようどうしましょうもうこれはプロポーズするしかありませんね!!」
アリサ、落ち着いて…!
「でもね、アリサ?鬼哭丸はわたくしの私兵で、境界地域を調査しているから滅多に帰ってこれないのよ?」
「良いではありませんか!!最高です!エマ様の私兵で長期出張!ということはわたくしがエマ様第一で行動しても「俺と仕事どっちが大事だ」なんてうざいこと訊かれませんし普段は家にいないって、わたくしがバリバリ仕事して帰りが遅くなっても泊まりになっても大丈夫!そういうことですわ!!」
あらあら、まあ……アリサの恋愛観は多分普通じゃありませんわ。
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