公爵令嬢は奪われる2 〜悪役にならなかった元公爵令嬢が辺境伯に嫁いでからのアレコレ〜

とうや

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元公爵令嬢と神降ろし(3)

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全身を押し潰すかのような重圧が急に消える。

一気になだれ込んだ空気に気管支と肺が悲鳴をあげる。

「ごほっ…ぐ……っ、は…ぁ……はっ………!」

「マリ!!」

私が涙目で咳込んでいる間にも銃声は続く。苦しくないのに涙って出るもんだね…とか ぼんやり思う。

グレンに支えられながら見ると、目の前のピンク女神 ーーー 『物語と愛の守護神』の顔に穴が開いていた。それも数カ所…。

タマ

「……は、こちらに」

聞いたこともないような冷ややかなに振り向くと、チョロ兄が居た。

ガシャッと手に持ったものから鉄の塊が落ちて、小鉄さんから受け取ったものを付ける。

え……あれ、拳銃…!?



「舐めた真似しやがって糞が」



………………あ…れ………?

ゾゾゾゾゾゾオオオオオっと悪寒が足のつま先から頭のてっぺんまで這い上がる。

がたがたと体が震え出す。

銃声は響き続ける。止まらない。

「マリ、大丈夫か!?」

私が震えているのは、あのピンクに殺されかかったからだとグレンは思っているだろう。

そうじゃない!



…。




ヤバい…。本気で怖い。

の口元は笑ってるのに目が笑ってない。

女神ピンクの顔を蜂の巣にしながら、笑いながら怒ってる。なんで!?

「お、お…お兄ちゃん!もういいよ!私は平気だから!大丈夫だから!!」

届かない。

声が届かない。

「お兄ちゃん!!」

『ご…の………グゥ………g……………アアアアアア………………!ガッ!ぁぐ!』

ガチン、ガチン!と音がすると弾切れらしく、また小鉄さんが追加を差し出す。

流れるような連携。

グチュグチュと破壊された肉が蠢いて再生を試みるけれど、それ以上に銃弾が撃ち込まれる。

怖い。グロい。でもそれ以上にお兄ちゃんが怖い。

心なしか、グレンも小鉄さんも顔色が悪い。

異様な光景に参列者一堂動けない。

『武と英雄の守護神』様だってドン引きだ。

「ははっ…レプリカでもさあ、多少は効くもんだなぁ『神殺し』の神器って…。なあ小鉄ぅ、コレさあ、

「ギルドに依頼を出しておきます」

「ん、頼んだわ」

どうしよう…どうしようどうしようどうしよう!

お兄ちゃんがおかしい!

なんで!?どうして!?なんでこんなに怒ってるの!?

「グ、グレン…!」

震える手でグレンに縋り、助けを求める。

「マリ…。マリの、神様を呼んでくれ」

「……え…?」

私の、かみさま?

「無理だ、もう。お義兄さんはもう止められない。『武』様も動けないほど威圧されてる…。マリと お義兄さんの神様じゃないと、きっと無理だ…!」

「で…でも!私の神様は…!『ほこらのかみさま』は…!」

ここにはいない。ここには来れない。

「俺がいる!」

グレンが私の手をギュッと握った。

「俺が一緒に降ろす!地球が遠くても きっと捕まえて、降りてきてもらう!そうじゃないと……そうしないと、お義兄さんは『神殺し』の大罪を背負ってしまう!」

握られた手からあたたかいなにかが流れ込んでくる。

「うん…!」



ああ、神様。

私は地球の、あの小さな祠を思い起こす。

 ーーー 『ほこらのかみさま』はね、父さんとお兄ちゃんが お世話をしないといけないんだ。かおるみたいな可愛い女の子が お世話をすると お嫁に攫われてしまうからね

お父さん…。もう、お顔が思い出せないよ、お父さん。

かみさま。

ほこらのかみさま!

お兄ちゃんを助けて!







かみさま!!















願った。強く。








そして ーーー 




















そらが、裂けた。


























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