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燻玉もお気に召したらしい

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食料はあるが味覚が違うと知って、真っ先に俺が始めたのは酵母作りだ。なにしろモールドレ産の酵母は臭……いや、刺激的すぎる。素材は素晴らしいのに手を加えると壊滅的になる食物。残念すぎる。味覚が違うとこうも違うのか。

何はともあれ酵母だ。良い匂いのするやつ。暁様に蒸しパンじゃない白くてふかふかのパンを食べさせてやりたい。

煮沸消毒した大きめの瓶にリンゴを切って入れる。種も皮もヘタも適当に。沸騰させて湯ざまししておいた水を入れて蓋を閉める。完成。

馬鹿みたいに簡単だろ?でもこれで終わりなんだ。リンゴの皮の周りに付いてる白い汚れっぽいのがポイントだと、前世の姉ちゃんが言ってた。


前世のことはもうふわっとしか覚えてない。馬鹿みたいに広い田舎の一軒家。じいちゃんばあちゃんが畑と田んぼやってて、山も持ってて、両親が村役場で共働きで、姉が3人兄が5人と大家族だった記憶がある。

俺は「ゆうくん」と呼ばれてて、チャリで行ける距離の隣町でアルバイトなんかしてた。フリーアルバイター。30歳を越えても正社員にはなれなかった。言い訳をしておく。不況だったんだ。まあ家で飯を作れば金には困らなかったし、定職を持っていた兄姉たちは俺がこの実家を継ぐんだって思ってた。俺もまあ良いかと思ってスローライフを楽しんでた。じいちゃんの山があるし、猟銃免許もわな猟免許も持ってたから、アルバイトをやめたって食ってはいけるゆるゆる生活だ。

良い歳越えて結婚どころか恋人さえ出来なかった兄姉たちは、忙しすぎて食に癒しを求める両親は、都会の料理が食べたいじいちゃんばあちゃんは、事あるごとに「あれ食べたい、これ食べたい」と俺にねだった。買ってこいよ、って言うと、「ゆうくんが作れるのになんで?」とネットで調べたレシピと材料を渡された。……買ってこいよ…。

その前世のよくわからないスローライフを活かして暁様を餌付k……ゴホン。お仕えしようと思う。推しに貢ぐのは基本だって姉ちゃんも言ってたし。

今作っているのはベーコンだ。干し肉、燻製肉自体はこの世界でもあるんだが、なんでか燻製通り越してガッチガチに乾燥させるんだよ。ゴブどもの燻製は黒胡椒を刷り込みまぶして黒く焦がす。焦がすな、燻せって言いたいけど、こればかりは味覚が違うんだから仕方ない。良いんだよ。俺は暁様の専属奴隷なんだから。


「……ユスぅ…まだぁ?」


そしてその件の暁様。俺が飯作ってる間は離れない。今も一緒に燻製機の煙を見てる。


「燻製は時間かかるからなあ……はい、これでも食べてて」


燻製機の上段から味付け玉子の燻製を取り出す。程よく褐色になった燻玉を一緒に頬張る。

うん。うまい。しかも暁様は今日も天使だ。




幸せってこう言うことだと思う。







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