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舞台裏
【第三十二話】その日、子爵邸は血に彩られる
しおりを挟む【ティア視点】
『ルルティア』の部屋に仕込んでおいた転移陣からソーンヒル子爵邸に乗り込んだ。斥候の話では子爵邸には今結界が張られていて外部から遮断されている。だが直接内部に乗り込んでしまえば結界など意味をなさない。
邸の中は酷い有様だった。
そこかしこで使用人たちが倒れ、夥しい血が壁や床、調度品を汚していた。動き回っている護衛たちは全員事情を知っている者だ。転移陣で一緒に子爵邸入りしたカミーユ陛下の親衛隊たちが難なく取り押さえていく。優秀ね。レジーナもあの『影』を過信せずに自分だけの私兵を作ればよかったのに。いまだに『女が男の上に立つことは許されない』なんて言っている旧世代の人間よ?レジーナを飼い主だって認めるわけないじゃない。情報は抜かれ、捜査され、握り潰される。……まあ、こちらもそれを利用させていただいたんだけれど。
投げ込んだ石の一つ目は『手紙』。先王派閥の薄ら暗い資料がある…なんて言ったらきっと死にものぐるいで探すでしょうし。……まあ、あるのだけれど。それをどこかに隠すなんて馬鹿な真似はしないわ。『レジーナとの思い出の場所』なんて、それこそ『影』を総動員しても探し切れないわ。それとあの手紙で、レジーナにはルルティアが死んでいないと伝わるでしょうし。『わたくし』、死んでしまいたいと思ったことはあるけれど、死のうと思ったことはないの。案外図太いのよ、『わたくし』。
二つ目の石は『魔術師塔の反乱』。こちらはリリエンティアが上手く手懐けてくれたわ。今頃『塔』はもぬけの殻。先王の言いなりの都合のいい道具はお終いよ。元々リリエンティアのものだったんだもの。問題ないわ。今回の作戦では『隠形』を使ってメンゲルベルグ王宮に入り込み、レジーナの耳元で『泥棒猫は鼠の巣穴へ』と囁いてもらっている。その後は「一目散にヴァイスへ逃亡!」と指示を出しているから大丈夫でしょう。……それにしても危ういわね。これが暗殺者だったらどうするのかしら。後で宰相さんに手紙でも送ろうかしら…。
邸の中を全て見回る。どこもかしこも死体だらけ。時々殺人者。
食堂へと続く大きな廊下の真ん中で、銀色の鎧を真っ赤に染めた、一際大きな鼠を見つけた。
……そう、あれは…確か……
護衛隊、隊長。ルルティアに唯一辛く当たった男。裏を返せば、ルルティアの存在を無視せずに憎悪を向けた人物。
……そう。残念ね。きっと彼はララティアの『魅了』に打ち勝てる精神力の持ち主なのにね。でも仕方ないわ。だって馬鹿なのだもの。頭の悪い鼠は愛でられないわ。
私がハンドサインを送ると、カミーユ陛下の乳兄弟のヴェステマン卿がとても嬉しそうに『了解』と返してくる。この方……おとなしそうに見えてアレなのよね…。私は『影渡り』で護衛隊長の背後に回り、
「こんにちは」
と、最後の挨拶をした。
ヴェステマン卿が人間離れした動きで護衛隊長を拘束する。
「吊る?吊っちゃいます?妃殿下?」
飼い犬のように嬉しそうに。あら、いやだ。尾っぽをブンブン振っている幻が見えそうよ。あとヴェステマン卿、私は『ヒデンカ』とかいう名前じゃあないのよ。いつになったら覚えてくれるのかしら?
「ええ、吊って頂戴。溝鼠は泥棒猫みたいに吊ってあげるって決めているの」
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