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第2話 とりあえず自室に立てこもります!
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「やった、やったわ。ついにやったわよっ!!」
そのままくるりとアルフレッドに背を向け、一目散で駆け出した私。
待たせていた家の馬車に飛び乗ると、大急ぎでリオンヌ家に戻り、そのまま自室に閉じこもったのだった。
「お、お嬢様……、急に戻っていらしていったいどうなさったのですか? 今日は王子様と湖にいらっしゃったはずでは……?」
メイドのアンナがティーポットを手に、おろおろしている。
アンナは私より一つ年上で、いつも私の話し相手になってくれる。
おさげ髪のアンナは、私が唯一心を許せる人物だ。
「アンナ、私はやったわよ! アイツ……、アルフレッド様に言ってやったわ!
婚約を破棄してやるって!!」
「そ、そんなっ!」
アンナの顔が青ざめる。びっくりしすぎたのか、白いティーカップから紅茶があふれてしまっている。
「ちょっと、アンナ!」
「あっ、申し訳ありませんっ」
布巾でテーブルを拭こうとしたアンナの手を、私はがしっとつかんだ。
「アンナ、私の決意は固いわ。だから……、しばらく部屋から出ないことにするからよろしくね!」
「はっ!? お嬢様っ!? ……なぜ、婚約破棄すると、部屋から出ないのですか?」
至極まっとうな疑問を、アンナは口にする。
「決まってるじゃない! もちろん、お父様にもお母様にも誰にも相談せずに勝手に婚約破棄を言い渡したからよ!
おそらく……、これから、お母様から私への怒涛の攻撃が繰り出されるに違いないわ……。だから身を守るためにも、私はこの部屋に立てこもりますっ!」
「たて、こもり……」
「大丈夫! そんなに心配そうな顔しないで。私もちゃんと考えてるのよ!」
私は立ち上がると、テーブルの引き出しからハサミを取り出した。
そして背中まであった長い髪を、無造作にじょきじょきと切り落としていった。
「ぎゃあああああ!!!! お嬢様っ、お気をっ、お気を確かにっ!」
アンナが慌てて私からハサミを取り上げようとする。
「気は確かよ! もともと好きで伸ばしていた髪じゃないんだから。くせっ毛でまとまりはないし、
ほら、このくらい短い方がすっきりよ」
肩あたりで切りそろえると、ずいぶん頭が軽くなった気がする。
床には、くせっ毛のオレンジ色の髪がたくさん落ちていた。
「お嬢様あ、お嬢様あっ! やっぱり、これまでの王子様の冷たい仕打ちに、すごくショックを受けていらっしゃったんですねっ!
自ら髪を切り落とすだなんてえっ!」
アンナは床にはいつくばって私の髪をかき集める。
「何を言ってるの。王都では、今短い髪が流行だそうよ。
どう? 似合う?」
「王都の娘と公爵家のご令嬢は違いますっ! ずっとずっと伸ばされていた髪を、ああ、ああーっ! 私はいったいどうすれば―っ!」
号泣するアンナの前に、私はしゃがみこんだ。
「ふふっ、これも作戦のうちよ! お母様に言ってやるのよ! 婚約を解消して、私は修道院へ入る予定ですってね」
「お嬢様っ!!」
アンナは息を呑んだ。
「ね、そういえば、お母様もぐうの音も出ないでしょう?」
「そんな、お嬢様が修道院だなんて……」
アンナがぶるぶるを震えだす。
「大丈夫、これも作戦……」
アンナはきっと私の目を見据えた。
「修道院はとても朝早くからおつとめがあるんですよっ! お寝坊さんのお嬢様が修道院だなんて、絶対につとまるはずはありませんっ!」
「わかってる、わかってるわよ……」
私は小さく息をついた。
「だから、私が修道院なんていくわけないでしょ! だいたい、今のところ煩悩だってありまくりなんだから……。
これはお父様とお母様に私の婚約破棄の決意がどれだけ固いかってことを、わからせるためってことなの」
短くなった髪をくるくる指で弄ぶ私。アンナはゆっくりと顔を上げた。
「そう、なんですね、じゃあ、お嬢様はずっとここにいてくださるんですね!」
「もちろんよ、アンナ! 私達はずっと一緒よ!」
――だが、その時、私の部屋のドアがドンドンと叩かれた。そして聞こえてきたのはもちろん、怒りに満ちたお母様の声。
「シルヴィ! シルヴィっ! アルフレッド殿下が湖でおぼれたって連絡がさきほどあったわよ!
もしかして、貴方が突き落としたんじゃないでしょうねっ!?」
そのままくるりとアルフレッドに背を向け、一目散で駆け出した私。
待たせていた家の馬車に飛び乗ると、大急ぎでリオンヌ家に戻り、そのまま自室に閉じこもったのだった。
「お、お嬢様……、急に戻っていらしていったいどうなさったのですか? 今日は王子様と湖にいらっしゃったはずでは……?」
メイドのアンナがティーポットを手に、おろおろしている。
アンナは私より一つ年上で、いつも私の話し相手になってくれる。
おさげ髪のアンナは、私が唯一心を許せる人物だ。
「アンナ、私はやったわよ! アイツ……、アルフレッド様に言ってやったわ!
婚約を破棄してやるって!!」
「そ、そんなっ!」
アンナの顔が青ざめる。びっくりしすぎたのか、白いティーカップから紅茶があふれてしまっている。
「ちょっと、アンナ!」
「あっ、申し訳ありませんっ」
布巾でテーブルを拭こうとしたアンナの手を、私はがしっとつかんだ。
「アンナ、私の決意は固いわ。だから……、しばらく部屋から出ないことにするからよろしくね!」
「はっ!? お嬢様っ!? ……なぜ、婚約破棄すると、部屋から出ないのですか?」
至極まっとうな疑問を、アンナは口にする。
「決まってるじゃない! もちろん、お父様にもお母様にも誰にも相談せずに勝手に婚約破棄を言い渡したからよ!
おそらく……、これから、お母様から私への怒涛の攻撃が繰り出されるに違いないわ……。だから身を守るためにも、私はこの部屋に立てこもりますっ!」
「たて、こもり……」
「大丈夫! そんなに心配そうな顔しないで。私もちゃんと考えてるのよ!」
私は立ち上がると、テーブルの引き出しからハサミを取り出した。
そして背中まであった長い髪を、無造作にじょきじょきと切り落としていった。
「ぎゃあああああ!!!! お嬢様っ、お気をっ、お気を確かにっ!」
アンナが慌てて私からハサミを取り上げようとする。
「気は確かよ! もともと好きで伸ばしていた髪じゃないんだから。くせっ毛でまとまりはないし、
ほら、このくらい短い方がすっきりよ」
肩あたりで切りそろえると、ずいぶん頭が軽くなった気がする。
床には、くせっ毛のオレンジ色の髪がたくさん落ちていた。
「お嬢様あ、お嬢様あっ! やっぱり、これまでの王子様の冷たい仕打ちに、すごくショックを受けていらっしゃったんですねっ!
自ら髪を切り落とすだなんてえっ!」
アンナは床にはいつくばって私の髪をかき集める。
「何を言ってるの。王都では、今短い髪が流行だそうよ。
どう? 似合う?」
「王都の娘と公爵家のご令嬢は違いますっ! ずっとずっと伸ばされていた髪を、ああ、ああーっ! 私はいったいどうすれば―っ!」
号泣するアンナの前に、私はしゃがみこんだ。
「ふふっ、これも作戦のうちよ! お母様に言ってやるのよ! 婚約を解消して、私は修道院へ入る予定ですってね」
「お嬢様っ!!」
アンナは息を呑んだ。
「ね、そういえば、お母様もぐうの音も出ないでしょう?」
「そんな、お嬢様が修道院だなんて……」
アンナがぶるぶるを震えだす。
「大丈夫、これも作戦……」
アンナはきっと私の目を見据えた。
「修道院はとても朝早くからおつとめがあるんですよっ! お寝坊さんのお嬢様が修道院だなんて、絶対につとまるはずはありませんっ!」
「わかってる、わかってるわよ……」
私は小さく息をついた。
「だから、私が修道院なんていくわけないでしょ! だいたい、今のところ煩悩だってありまくりなんだから……。
これはお父様とお母様に私の婚約破棄の決意がどれだけ固いかってことを、わからせるためってことなの」
短くなった髪をくるくる指で弄ぶ私。アンナはゆっくりと顔を上げた。
「そう、なんですね、じゃあ、お嬢様はずっとここにいてくださるんですね!」
「もちろんよ、アンナ! 私達はずっと一緒よ!」
――だが、その時、私の部屋のドアがドンドンと叩かれた。そして聞こえてきたのはもちろん、怒りに満ちたお母様の声。
「シルヴィ! シルヴィっ! アルフレッド殿下が湖でおぼれたって連絡がさきほどあったわよ!
もしかして、貴方が突き落としたんじゃないでしょうねっ!?」
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