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紳士さん
14話 〜ゼティフォールの苦労譚〜
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「まったく、自由なんだから……」
武道場に続く道。ローランはぼやいていた。
そう、さっきまで率先してゼティフォールを探していたのに、アリガトーレと意気投合してしまい、雷御はパーティーの準備に夢中になってしまったのだ。本当にパーティーをするのかは分からないが。
「元々ひとりでやるつもりだったんだから、良いと言えば、まあ、良いんですけど……」
兵達が鍛錬する時にはよく、陣形成や実践的な模擬戦闘をするために大きな広場が使われる。
だが、そうなれば軍としての強度は増すが個々としての強度がなかなか上がらない。
故に、定期的に師範を招いたり、隊長等を対戦相手にしたりして兵士達は腕を磨く。勿論、同じ隊同士や個ジンだけで利用しているモノもいる。準備室に色々な武道の指南書や、ダミー人形があるので、入隊したばかりで仲間がいないモノでも利用しやすい。
「確かここだな。……利用したことないから、少し緊張する」
ローランは大きな木製の扉に手をかける。ここはローランが眠る前に建てられたが、今はともかくその時代には、誰かに教えを乞うまでも無い程強かったので一度も利用した事がなかったのだ。
どれだけ強いかと言うと、その剣技だけで剣と魔法を使う勇者と渡り合う程だ。
「おじゃましまー……。って、これは!?」
そこには、倒れて動かないスケルトン達と、虫の息になってもがいているダンテがいた。
「ダンテ! 状況を教えて下さい」
ローランは剣を抜いて天井や壁、物陰に警戒しつつ、慎重にダンテに近づいた。
「……ぐっ! ローラン、か。無様だろ……?」
ローランがダンテの体を抱き起す。
「そんな事ありません! ひ、ひどい。こんなに消耗するなんて……」
「いくら骨を鍛えても、やられちまえば、世話ないぜ……!」
ダンテは悔しそうに拳を床に叩きつける。よほど屈辱的だったのか、当たった床にヒビが入った。
「無茶しないでください……!」
ローランがダンテを気遣う。
「気を付けろ、ローラン。やつはまだここにいる……!」
ダンテは苦しそうにしながらも、ローランに忠告をした。
「誰だ、皆に、ダンテにこんな事をしたのは! さあ、出て来るがいい。このローランが相手だ!」
ローランが激昂し、周囲のどこかにいるであろう相手に言い放つ。
「……怒ってくれて、凄く嬉しいんだがよ……。皆はオレがやったんだ……」
ローランの早とちりをダンテが訂正する。
「出てこい! 卑怯者め!」
「あいつらは訓練で……」
「皆にひどい事をしたのが誰だか知りませんが、覚悟はしているんでしょうね!」
「聞いちゃいねえ……。まあ、いいか……」
ダンテは諦めて、仰向けに倒れたまま一休みしはじめた。
「一ノ剣……」
ローランは剣を構え、青いオーラを纏う。
「どこだ……」
四方八方、天井、そして倒れているスケルトンの陰にも警戒する。
「……」
ローランはこれまでにない程集中し、オーラの力強さ、剣の鋭さが増す。
白雷の街での失態。あれから約一週間、ローランはあの時の悔しさを一瞬たりとも忘れた事は無かった。その悔しさを少しでも紛らわせる為、同じ失態を繰り返さない為、そして失ってしまった最高峰の剣技を取り戻す為に、毎日過酷な訓練もしている。骨の手だとグリップが抜けそうになるために、骨の手専用の手袋を作りもした。準備は万端。あとは剣を振るだけだ……。
────シュッ!
天井で何モノかが素早く動く。しかしローランは動じない。相手が攻撃した瞬間にカウンターを決めるつもりだからだ。
────シュッ!
再び天井で動く。さっきより近くなっている。初めに気配を察知した場所、移動距離、そして殺気。
「……!」
剣を握る強さが増す。ローランは確信したのだ。“必ず次に来る”と……!
─────シュッ!
「来た! ────刹那、ってあれ!?」
床から突然あらわれた黒いぬかるみに足をとられ、ローランはバランスを崩してしまった。
「まずい!」
気配から一瞬気を逸らしてしまった。ローランは慌てて周りを警戒しようとするが、
「うがぁっ!」
もう遅かった。
「うっ!? あ、くすぐった、はひっひゃひゃひゃひゃ~!」
何モノかがローランの首に噛み付いた。
「やめてくだっ! って、あれ? 本当にやめちゃいました……」
その何モノかはすぐに興味を失い、何処かに去って行ってしまった。
「はあ、はあ、はあ……。いったい何だったんでしょう……?」
襲ってきたあのモノの目的は何か、息を整えつつローランは思案した。答えは出ないかもしれないが、目的の手掛かりくらいは見つかるかもしれない。
「しかし、突然過ぎて顔を見られませんでした。……失態です」
先日に続き、今回の失敗。ローランは悔しかった。
「いや、今回はまだ動ける。前回とは違うんです。諦めませんよー!」
ローランは気持ちを切り替え、やる気を奮い立たせた。
「ん、ぬかるみが消えているな? やはり魔法でしたか……。魔力の残滓を見るに、闇魔法の使い手ですね」
ローランはバッグからアンテナと目盛りのついた魔機を取り出して、残っていた魔力の残滓を計測する。
「魔力が不安定ですね。もしかするとこの魔法を使ったヒトは、魔法が得意でないか、もしくは体調万全でないのか……。そうか、体調が優れないからトマトを盗み食いしたのかもしれませんね……。そう、ビタミンCは風邪予防にも効きますし、塩分とりすぎにカリウム、リコピン等の抗酸化作用によって疲労回復にも役立ちますからね!」
ローランが手掛かりになりそうな事柄をメモ帳に書き込んでいると、ふたつの影が近づいてきた。その相手は……。
「チャピラン殿、ぴーころ殿! 探してたんですよ、どこに行っていたんですかー!」
ローランが声をかけるも、ふたりはそれに反応しない。
「どうしたんですか、大丈夫ですか? あ、もしかしてさっきのヒトにやられたんですね!」
ローランはチャピランとぴーころを心配するが、当のふたりは尚も返事を返さない。
それどころか、ぴーころは予備動作のひとつもなく、音速を優に超えるスピードで詰め寄り、
「にゃう!」
「うっひゃー!? あははははっ、かま、噛まないでくださっ、ははっ。って、なめないで~!?」
ぴーころはローランの首に噛み付き、ついでになめた。
「にゃぴっ!」「うへっ?」
満足したぴーころは噛みつくのをやめ、ローランの頭を踏み台にして跳んで行ってしまった。
「なんだったんでしょう……? まあいいか。ぴーころ殿の行動が読めないのはいつものことだし。あ、チャピラン殿!」
いつのまにかチャピランはローランの傍まで寄って来ていた。
「大丈夫ですか? 体調優れない所悪いんですが、ゼティフォール様が見当たらないんで、すー!!?」
今度はチャピランが噛み付いていた。
「やめて、あっ? 吸われている~!!」
くすぐったい以外の実害の無かった先のふたりと違い、チャピランはローランの魔力を吸いまくった。
「でりしゃす!」
そう言うとチャピランは吸うのをやめて、
「とう!」「うへ!」
ローランの頭をジャンプ台にして、どこかへ跳んでいってしまった。
そして、魔力の切れてしまったローランはその場で倒れてしまう。
「……」
ローランが横を向くと、いつから見ていたのか、ダンテと目が合う。
「……」
起き上がれないふたりに暫しの沈黙が流れたが、突然ダンテが嬉しそうな顔をしたと思ったら、
「へっ。仲間だな!」
と言ってダンテは爆笑し始めた。
「……。今日はなんだかよく眠れそうです」
上に向き直り、思わずため息を吐くローランであった。
ポッコリお腹を直すため、落ちた体力を戻すため、仕事の合間にジョギングをしているみのたうろす。
「えっほっ、えっほっ!」
魚型の怪物を倒した後に、いくつもの避難所をモンスターの危機から救い、街を守るのに大きく貢献したみのたうろす。
「おにくっ、おにくっ! えっほっ、えっほっ!」
建物をいくつも消し飛ばして給料は減ったものの、その活躍が認められた事で、事態が落ち着き次第賞与が入る運びとなったのだ。
故に、ほどほどの節約で食費も賄えるため、断食の日する日を設けなければならないのではないかと危惧していたみのたうろすはゴキゲンであったのだ。
「あ、お~い! チャピラン、ぴーころー!」
みのたうろすは遠くで走っているふたりと、
「ぶむ? あれは、だれだ?」
四足歩行で俊敏に走るヒト影を見つけた。しかし、皆みのたうろすに返事を返さない。
「あれ、こっちにくる……?」
反応は示さないが、皆一様にこちらへ走って来る。しかも一切スピードを落とさずに。
だが、みのたうろすが『これはおかしい』と思って、逃げようとしたときには遅かった。
「うがぁ!」「ぶむ?」
「にゃぴ~!」「ぶめ!」
「ぴょい~ん!」「ぶも!?」
みのたうろすの頭をジャンプ台にして、何処かに跳んでいってしまった。
「あれ、ゼタさま? いや、ちがうか……?」
先頭を走っていたモノの金髪が、見覚えのある気がしたみのたうろすであった。
「まったく……。ローランまでどこに行ったんだ?」
セモリーナから『ローランと連絡がとれず、行方もわからなくなってしまった』と連絡がはいり、たまたま時間の空いていたゼプトはすぐに見つかるだろうと安請け合いをしてしまった。
だが蓋を開けてみれば、ローランだけでなく、ゼティフォール、トマト泥棒、今日一回も見かけてないから心配だとチャピラン、ぴーころ探しも加わり、いつもお昼の時間に一番乗りなのに結局来なかったダンテ探しも加わって、少し後悔してしまうゼプトであった。
「皆いったいどこに……」
ゼプトが窓から外の景色を見ながら長い廊下を歩いていると、前方から凄まじい勢いで走って来る3ニンが現れた。
「ああチャピランさんと、ぴーころさんか。それと、もうひとりは……?」
後ろを走っているふたりは特徴的なシルエットの為に、遠くからでもすぐにわかった。だが、先頭を四足歩行で走るモノには、何故か影がかかって見えにくくなっていた。
「誰だ? ……あれは!」
廊下を光で更に明るくして、ゼプトは目を凝らしてよく見てみた。すると、目が慣れて正体が判明する。
「ゼタなのかい!?」
驚いてしまったゼプトは初動が遅れてしまい、襲い掛かられてしまう。
「うがあ!」
首を噛みつかれそうになったが、すんでのところで制止する。
「やっぱりゼタか。……俺は、美味しくないよ!」
少しもみあいになったが、ゼプトはいなし、軽く投げ飛ばす。
「ぐはっ!」
受け身を取らなかったゼティフォールは、勢い余って壁に激突してしまった。
「まさか、もう暴走してしまう程時間が無かったなんて……」
ゼプトが剣に魔力を込める。
「血の気が引いて、瞳孔も定まらず、相手が判らなくなる程正気を失っている。……このまま放っておけば長くはなさそうだ」
ゼプトは剣を抜いた。
ゼティフォールはゼプトを警戒してうなりを上げている。
「ゼタがいないんじゃ血の相手も分からないし、最悪この前みたいな怪物と、魔王不在で戦う事になるな」
ゼティフォールと血液の相性の良い相手を探すのは、本人の感覚に頼るしかないので、暴走してしまえば探す事は不可能に近い。
ゼティフォールに止めを刺すか、それとも一縷の望みを賭けて封印するか……。ゼプトは選択を迫られていた。
「封印するしかないか……。なあゼタ、君をこんな所で死なせる訳にはいかないんだ。ごめん」
一旦ゼティフォールを封印して身体の崩壊までの時間を稼ぐ。そしてその間にできるだけ多くの血を集め、ゼティフォールが死なない程度に投与。それでダメなら再度封印からやり直し。相性の傾向は本人にしか判らないので、暴走して話ができない以上、片っ端から実験する必要があるのだ。
しかし、時間がかかり過ぎたり、失敗が多くなると身体が耐えきれずに結局死が待っている。
どう考えても分の悪い賭けをするしかないのだ。
「でも、少しでも希望があるなら……!」
ゼプトが剣を構えると、神々しく輝いた。
「ぐるるる……」
さっきまで警戒していたゼティフォールが、通路の先に気をとられる。
「よそ見かい? こんな状況なのに、なめられたもんだね……」
ゼプトの剣の輝きが極限にまで高まるが、ゼティフォールは通路の先に気をとられて気付かない。
いや、もうそれ以外認識できていないようだった。
「暫しのお別れだ。またね、ゼタ……!」
ゼプトが剣が、光が今まさにゼティフォールに振りかかろうとした、その時。
「うにゃい!」
ぴーころが爪で、ゼプトの剣を切り裂いた。
まさかぴーころが攻撃してくるとは思わなかったために、ゼプトは大きく動揺してしまった。
「まずい!」
光が制御と剣を失ったために暴走してしまう。このまま放置すれば、城が半壊などでは済まされない多大な被害を生んでしまうだろう。
「くっ! ぴーころさん、何をしたのかわかっているのか……!?」
ゼプトは全神経を集中させ、新たに魔力で包み込むことで、何とか光の制御を持ち直しす。
そして、封印の光をようやくゼティフォールに向けるが、
「ぼんばー!」
チャピランの魔法が炸裂。城の天を砕いて雲を貫き、地に底が見えぬ程の大穴を作った。
爆風でゼプトは壁を突き破って放り出され、さらに大きく吹き飛んだ。
「今ですじゃ!」
チャピランは通路の先に声をかける。すると、声に応えてひとつの扉から、とあるヒトが出てきた。
「吸血鬼さん、こっちだよ!」
ゼティフォールを呼ぶ声の主。それは、赤髪で、金色の瞳、そして瞳と同じ色の翼を持った女性。
今朝方ゼティフォールの為に血液を提供していた、先見の民であった。
「があっ!」
ぴーころに避難させられていたゼティフォールは、その女性に向かって一心不乱に駆けて行く。
「うぐ……。危険だ。今のゼタは何も判っていない。逃げてくれ……!」
大ダメージを受けて、動けなくなったゼプトは、せめてと、声を上げた。
だが、女性には届かない。いや、届いたとしても、逃げる事はなかっただろう。
「間に合わない……!」
ゼティフォールの牙が鋭く光り、女性に迫る。しかし女性は逃げるどころか、受け入れるように大きく手を広げた。
「ぐるぁあ!!」
牙が頭ひとつ分くらいに迫った時、女性は目を見開き翼をはためかせる。
すると、突風が巻き起こり髪が大きく棚引いた。
「どういう事だ……?」
「ほう。これはスゴイですな……」
「なう」
ゼティフォールは空中で静止していた。いや、極端に時間がゆるやかになっていたのだ。
女性とゼティフォールの周辺だけが。
「やっと、やっと会えたね。吸血鬼さん……!」
女性は涙をこらえながら微笑み、ゼティフォールを抱き寄せた。
「約束どおり、助けに来たんだよ。もうひとつはまだ先になるけど……」
ゼティフォールは勢いを無くし、ケモノのような荒々しさも抑えられ、ゆっくりと女性の血を飲んだ。
「いたっ! お話で読んだのと同じ。やっぱり首からなんだ」
痛そうにしながらも、女性は拒む事はしなかった。
血を飲んだゼティフォールの顔色がみるみるうちに良くなっていき、
「うっ!? ここは? それに君は……?」
とうとう正気を取り戻した。いつの間にか時間の流れも正常に戻っている。
「ここはあなたのお城でしょ」
女性は悪戯っぽく笑う。
「確かに。おっと、怪我をしているな。すまない、治しておこう」
ゼティフォールも笑い返しながら、優しく首の傷を治した。
「私の名前はまだ教えられないの」
女性が残念そうに言った。
「よし、治った。痛みは無いか?」
「うん、ありがとう。もう痛くないよ」
「……それで、何故教えられないのだ?」
ゼティフォールは怪訝そうに訊く。
「あの時に知るはずだから、今は知らないはずなの。だから、その時までは教えられない。多分、教えない方が良いとおもうんだ」
「……そうか」
ゼティフォールは少し考えて、
「分かった。その時とやらがいつかは知らぬが、いずれ機会がやって来るのだろう? ならば、その時まで楽しみにしていよう」
そう言って、左の口角を上げた。
「ありがとう」
女性はほっとしたような顔になる。
「ふむ。君が私に血を飲ませてくれたのだろう?」
「そう。朝に牛乳でも飲むみたいに美味しそうに飲んでたわ! 憶えていたの?」
「いや。暴走していた時の記憶は無くなっている。だが、君が血をくれたのは、見ればわかる。そうだな、例えるなら“朝日を見て朝だと認識できる程容易”だ」
ゼティフォールは柄にもなく冗談を言った。
「そっか。それは良かった。ふふふっ」
楽しそうに笑う。
「そうだ。……名前を教えられないと言っていたが、何故私が飲んで大丈夫と知っていたのか、何故今ここに来たのか、何故私の知らない私を知っているような口ぶりなのか、色々聞かせて欲しいのだが、それは言えるのか?」
ゼティフォールは言葉を選んで女性に質問した。
「……今言えるのは、今は干渉できないって事だけなの」
「ふむ。私の知らない大きな事情や思惑があるようだ。そして、下手に動けば何か悪い事が起きると見た」
「……」
女性は返事をしたくてもできないようで、困った表情をしていた。
「返事は無くともよい。ただの独り言のようなものだ。して、君に礼をしたいのだが、どうすれば良いか?」
ゼティフォールは切り口を変えた。
「……その時の私を助けてあげて」
女性は言葉を選んで、ゆっくりと慎重に答える。
「分かった。事情から察するにもう行くのであろう?」
「うん。ごめんなさい、あんまり長居できないの……」
女性は残念そうに言う。
「そう残念そうにするな。これは今生の別れではない。そうであろう?」
「でも、これから先はどうなるか……」
もう涙をこらえるのも精一杯の様子で、女性は絞り出すように言った。
「……君は教えられなくとも、私は名乗って問題ないな?」
「え?」
「私はゼティフォール。吸血鬼であり、最強の魔王だ……! 故に、どんな過酷な運命や苦労があろうと、約束は必ずやり遂げる。そして、今ここに約束しよう。私はその時の君を救い、これからの君を迎えに行くと……!」
そう言ってゼティフォールは、ふっと笑った。
「……ありがとう、ゼティフォールさん!」
女性が光の粒子に包まれる。もうすぐ別の何処かに行ってしまうのだろう。
「……私は君をまだ知らない。君の知っている私も知らない。だが、私は君をひと目見て、君の声や話を聞いた時から、君と、この先を知りたいと思ってしまっている。だから、もう泣かずとも良い。……少しだけ離れるだけだ。未来に続く道は、既に歩み始めているのだから……」
ゼティフォールは優しく涙を拭いた。
「少しだけ、少しだけ……。約束だからね!」
女性がゼティフォールの胸に飛び込み、そしてゼティフォールは女性を抱きとめた。
「ああ、約束だ」
ゼティフォールは力強く宣言する。
それを聞いた女性は、涙をふいて嬉しそうに笑い、
「またね……!」
そして光の粒子と共に去って行った。
「また会おう……!」
武道場に続く道。ローランはぼやいていた。
そう、さっきまで率先してゼティフォールを探していたのに、アリガトーレと意気投合してしまい、雷御はパーティーの準備に夢中になってしまったのだ。本当にパーティーをするのかは分からないが。
「元々ひとりでやるつもりだったんだから、良いと言えば、まあ、良いんですけど……」
兵達が鍛錬する時にはよく、陣形成や実践的な模擬戦闘をするために大きな広場が使われる。
だが、そうなれば軍としての強度は増すが個々としての強度がなかなか上がらない。
故に、定期的に師範を招いたり、隊長等を対戦相手にしたりして兵士達は腕を磨く。勿論、同じ隊同士や個ジンだけで利用しているモノもいる。準備室に色々な武道の指南書や、ダミー人形があるので、入隊したばかりで仲間がいないモノでも利用しやすい。
「確かここだな。……利用したことないから、少し緊張する」
ローランは大きな木製の扉に手をかける。ここはローランが眠る前に建てられたが、今はともかくその時代には、誰かに教えを乞うまでも無い程強かったので一度も利用した事がなかったのだ。
どれだけ強いかと言うと、その剣技だけで剣と魔法を使う勇者と渡り合う程だ。
「おじゃましまー……。って、これは!?」
そこには、倒れて動かないスケルトン達と、虫の息になってもがいているダンテがいた。
「ダンテ! 状況を教えて下さい」
ローランは剣を抜いて天井や壁、物陰に警戒しつつ、慎重にダンテに近づいた。
「……ぐっ! ローラン、か。無様だろ……?」
ローランがダンテの体を抱き起す。
「そんな事ありません! ひ、ひどい。こんなに消耗するなんて……」
「いくら骨を鍛えても、やられちまえば、世話ないぜ……!」
ダンテは悔しそうに拳を床に叩きつける。よほど屈辱的だったのか、当たった床にヒビが入った。
「無茶しないでください……!」
ローランがダンテを気遣う。
「気を付けろ、ローラン。やつはまだここにいる……!」
ダンテは苦しそうにしながらも、ローランに忠告をした。
「誰だ、皆に、ダンテにこんな事をしたのは! さあ、出て来るがいい。このローランが相手だ!」
ローランが激昂し、周囲のどこかにいるであろう相手に言い放つ。
「……怒ってくれて、凄く嬉しいんだがよ……。皆はオレがやったんだ……」
ローランの早とちりをダンテが訂正する。
「出てこい! 卑怯者め!」
「あいつらは訓練で……」
「皆にひどい事をしたのが誰だか知りませんが、覚悟はしているんでしょうね!」
「聞いちゃいねえ……。まあ、いいか……」
ダンテは諦めて、仰向けに倒れたまま一休みしはじめた。
「一ノ剣……」
ローランは剣を構え、青いオーラを纏う。
「どこだ……」
四方八方、天井、そして倒れているスケルトンの陰にも警戒する。
「……」
ローランはこれまでにない程集中し、オーラの力強さ、剣の鋭さが増す。
白雷の街での失態。あれから約一週間、ローランはあの時の悔しさを一瞬たりとも忘れた事は無かった。その悔しさを少しでも紛らわせる為、同じ失態を繰り返さない為、そして失ってしまった最高峰の剣技を取り戻す為に、毎日過酷な訓練もしている。骨の手だとグリップが抜けそうになるために、骨の手専用の手袋を作りもした。準備は万端。あとは剣を振るだけだ……。
────シュッ!
天井で何モノかが素早く動く。しかしローランは動じない。相手が攻撃した瞬間にカウンターを決めるつもりだからだ。
────シュッ!
再び天井で動く。さっきより近くなっている。初めに気配を察知した場所、移動距離、そして殺気。
「……!」
剣を握る強さが増す。ローランは確信したのだ。“必ず次に来る”と……!
─────シュッ!
「来た! ────刹那、ってあれ!?」
床から突然あらわれた黒いぬかるみに足をとられ、ローランはバランスを崩してしまった。
「まずい!」
気配から一瞬気を逸らしてしまった。ローランは慌てて周りを警戒しようとするが、
「うがぁっ!」
もう遅かった。
「うっ!? あ、くすぐった、はひっひゃひゃひゃひゃ~!」
何モノかがローランの首に噛み付いた。
「やめてくだっ! って、あれ? 本当にやめちゃいました……」
その何モノかはすぐに興味を失い、何処かに去って行ってしまった。
「はあ、はあ、はあ……。いったい何だったんでしょう……?」
襲ってきたあのモノの目的は何か、息を整えつつローランは思案した。答えは出ないかもしれないが、目的の手掛かりくらいは見つかるかもしれない。
「しかし、突然過ぎて顔を見られませんでした。……失態です」
先日に続き、今回の失敗。ローランは悔しかった。
「いや、今回はまだ動ける。前回とは違うんです。諦めませんよー!」
ローランは気持ちを切り替え、やる気を奮い立たせた。
「ん、ぬかるみが消えているな? やはり魔法でしたか……。魔力の残滓を見るに、闇魔法の使い手ですね」
ローランはバッグからアンテナと目盛りのついた魔機を取り出して、残っていた魔力の残滓を計測する。
「魔力が不安定ですね。もしかするとこの魔法を使ったヒトは、魔法が得意でないか、もしくは体調万全でないのか……。そうか、体調が優れないからトマトを盗み食いしたのかもしれませんね……。そう、ビタミンCは風邪予防にも効きますし、塩分とりすぎにカリウム、リコピン等の抗酸化作用によって疲労回復にも役立ちますからね!」
ローランが手掛かりになりそうな事柄をメモ帳に書き込んでいると、ふたつの影が近づいてきた。その相手は……。
「チャピラン殿、ぴーころ殿! 探してたんですよ、どこに行っていたんですかー!」
ローランが声をかけるも、ふたりはそれに反応しない。
「どうしたんですか、大丈夫ですか? あ、もしかしてさっきのヒトにやられたんですね!」
ローランはチャピランとぴーころを心配するが、当のふたりは尚も返事を返さない。
それどころか、ぴーころは予備動作のひとつもなく、音速を優に超えるスピードで詰め寄り、
「にゃう!」
「うっひゃー!? あははははっ、かま、噛まないでくださっ、ははっ。って、なめないで~!?」
ぴーころはローランの首に噛み付き、ついでになめた。
「にゃぴっ!」「うへっ?」
満足したぴーころは噛みつくのをやめ、ローランの頭を踏み台にして跳んで行ってしまった。
「なんだったんでしょう……? まあいいか。ぴーころ殿の行動が読めないのはいつものことだし。あ、チャピラン殿!」
いつのまにかチャピランはローランの傍まで寄って来ていた。
「大丈夫ですか? 体調優れない所悪いんですが、ゼティフォール様が見当たらないんで、すー!!?」
今度はチャピランが噛み付いていた。
「やめて、あっ? 吸われている~!!」
くすぐったい以外の実害の無かった先のふたりと違い、チャピランはローランの魔力を吸いまくった。
「でりしゃす!」
そう言うとチャピランは吸うのをやめて、
「とう!」「うへ!」
ローランの頭をジャンプ台にして、どこかへ跳んでいってしまった。
そして、魔力の切れてしまったローランはその場で倒れてしまう。
「……」
ローランが横を向くと、いつから見ていたのか、ダンテと目が合う。
「……」
起き上がれないふたりに暫しの沈黙が流れたが、突然ダンテが嬉しそうな顔をしたと思ったら、
「へっ。仲間だな!」
と言ってダンテは爆笑し始めた。
「……。今日はなんだかよく眠れそうです」
上に向き直り、思わずため息を吐くローランであった。
ポッコリお腹を直すため、落ちた体力を戻すため、仕事の合間にジョギングをしているみのたうろす。
「えっほっ、えっほっ!」
魚型の怪物を倒した後に、いくつもの避難所をモンスターの危機から救い、街を守るのに大きく貢献したみのたうろす。
「おにくっ、おにくっ! えっほっ、えっほっ!」
建物をいくつも消し飛ばして給料は減ったものの、その活躍が認められた事で、事態が落ち着き次第賞与が入る運びとなったのだ。
故に、ほどほどの節約で食費も賄えるため、断食の日する日を設けなければならないのではないかと危惧していたみのたうろすはゴキゲンであったのだ。
「あ、お~い! チャピラン、ぴーころー!」
みのたうろすは遠くで走っているふたりと、
「ぶむ? あれは、だれだ?」
四足歩行で俊敏に走るヒト影を見つけた。しかし、皆みのたうろすに返事を返さない。
「あれ、こっちにくる……?」
反応は示さないが、皆一様にこちらへ走って来る。しかも一切スピードを落とさずに。
だが、みのたうろすが『これはおかしい』と思って、逃げようとしたときには遅かった。
「うがぁ!」「ぶむ?」
「にゃぴ~!」「ぶめ!」
「ぴょい~ん!」「ぶも!?」
みのたうろすの頭をジャンプ台にして、何処かに跳んでいってしまった。
「あれ、ゼタさま? いや、ちがうか……?」
先頭を走っていたモノの金髪が、見覚えのある気がしたみのたうろすであった。
「まったく……。ローランまでどこに行ったんだ?」
セモリーナから『ローランと連絡がとれず、行方もわからなくなってしまった』と連絡がはいり、たまたま時間の空いていたゼプトはすぐに見つかるだろうと安請け合いをしてしまった。
だが蓋を開けてみれば、ローランだけでなく、ゼティフォール、トマト泥棒、今日一回も見かけてないから心配だとチャピラン、ぴーころ探しも加わり、いつもお昼の時間に一番乗りなのに結局来なかったダンテ探しも加わって、少し後悔してしまうゼプトであった。
「皆いったいどこに……」
ゼプトが窓から外の景色を見ながら長い廊下を歩いていると、前方から凄まじい勢いで走って来る3ニンが現れた。
「ああチャピランさんと、ぴーころさんか。それと、もうひとりは……?」
後ろを走っているふたりは特徴的なシルエットの為に、遠くからでもすぐにわかった。だが、先頭を四足歩行で走るモノには、何故か影がかかって見えにくくなっていた。
「誰だ? ……あれは!」
廊下を光で更に明るくして、ゼプトは目を凝らしてよく見てみた。すると、目が慣れて正体が判明する。
「ゼタなのかい!?」
驚いてしまったゼプトは初動が遅れてしまい、襲い掛かられてしまう。
「うがあ!」
首を噛みつかれそうになったが、すんでのところで制止する。
「やっぱりゼタか。……俺は、美味しくないよ!」
少しもみあいになったが、ゼプトはいなし、軽く投げ飛ばす。
「ぐはっ!」
受け身を取らなかったゼティフォールは、勢い余って壁に激突してしまった。
「まさか、もう暴走してしまう程時間が無かったなんて……」
ゼプトが剣に魔力を込める。
「血の気が引いて、瞳孔も定まらず、相手が判らなくなる程正気を失っている。……このまま放っておけば長くはなさそうだ」
ゼプトは剣を抜いた。
ゼティフォールはゼプトを警戒してうなりを上げている。
「ゼタがいないんじゃ血の相手も分からないし、最悪この前みたいな怪物と、魔王不在で戦う事になるな」
ゼティフォールと血液の相性の良い相手を探すのは、本人の感覚に頼るしかないので、暴走してしまえば探す事は不可能に近い。
ゼティフォールに止めを刺すか、それとも一縷の望みを賭けて封印するか……。ゼプトは選択を迫られていた。
「封印するしかないか……。なあゼタ、君をこんな所で死なせる訳にはいかないんだ。ごめん」
一旦ゼティフォールを封印して身体の崩壊までの時間を稼ぐ。そしてその間にできるだけ多くの血を集め、ゼティフォールが死なない程度に投与。それでダメなら再度封印からやり直し。相性の傾向は本人にしか判らないので、暴走して話ができない以上、片っ端から実験する必要があるのだ。
しかし、時間がかかり過ぎたり、失敗が多くなると身体が耐えきれずに結局死が待っている。
どう考えても分の悪い賭けをするしかないのだ。
「でも、少しでも希望があるなら……!」
ゼプトが剣を構えると、神々しく輝いた。
「ぐるるる……」
さっきまで警戒していたゼティフォールが、通路の先に気をとられる。
「よそ見かい? こんな状況なのに、なめられたもんだね……」
ゼプトの剣の輝きが極限にまで高まるが、ゼティフォールは通路の先に気をとられて気付かない。
いや、もうそれ以外認識できていないようだった。
「暫しのお別れだ。またね、ゼタ……!」
ゼプトが剣が、光が今まさにゼティフォールに振りかかろうとした、その時。
「うにゃい!」
ぴーころが爪で、ゼプトの剣を切り裂いた。
まさかぴーころが攻撃してくるとは思わなかったために、ゼプトは大きく動揺してしまった。
「まずい!」
光が制御と剣を失ったために暴走してしまう。このまま放置すれば、城が半壊などでは済まされない多大な被害を生んでしまうだろう。
「くっ! ぴーころさん、何をしたのかわかっているのか……!?」
ゼプトは全神経を集中させ、新たに魔力で包み込むことで、何とか光の制御を持ち直しす。
そして、封印の光をようやくゼティフォールに向けるが、
「ぼんばー!」
チャピランの魔法が炸裂。城の天を砕いて雲を貫き、地に底が見えぬ程の大穴を作った。
爆風でゼプトは壁を突き破って放り出され、さらに大きく吹き飛んだ。
「今ですじゃ!」
チャピランは通路の先に声をかける。すると、声に応えてひとつの扉から、とあるヒトが出てきた。
「吸血鬼さん、こっちだよ!」
ゼティフォールを呼ぶ声の主。それは、赤髪で、金色の瞳、そして瞳と同じ色の翼を持った女性。
今朝方ゼティフォールの為に血液を提供していた、先見の民であった。
「があっ!」
ぴーころに避難させられていたゼティフォールは、その女性に向かって一心不乱に駆けて行く。
「うぐ……。危険だ。今のゼタは何も判っていない。逃げてくれ……!」
大ダメージを受けて、動けなくなったゼプトは、せめてと、声を上げた。
だが、女性には届かない。いや、届いたとしても、逃げる事はなかっただろう。
「間に合わない……!」
ゼティフォールの牙が鋭く光り、女性に迫る。しかし女性は逃げるどころか、受け入れるように大きく手を広げた。
「ぐるぁあ!!」
牙が頭ひとつ分くらいに迫った時、女性は目を見開き翼をはためかせる。
すると、突風が巻き起こり髪が大きく棚引いた。
「どういう事だ……?」
「ほう。これはスゴイですな……」
「なう」
ゼティフォールは空中で静止していた。いや、極端に時間がゆるやかになっていたのだ。
女性とゼティフォールの周辺だけが。
「やっと、やっと会えたね。吸血鬼さん……!」
女性は涙をこらえながら微笑み、ゼティフォールを抱き寄せた。
「約束どおり、助けに来たんだよ。もうひとつはまだ先になるけど……」
ゼティフォールは勢いを無くし、ケモノのような荒々しさも抑えられ、ゆっくりと女性の血を飲んだ。
「いたっ! お話で読んだのと同じ。やっぱり首からなんだ」
痛そうにしながらも、女性は拒む事はしなかった。
血を飲んだゼティフォールの顔色がみるみるうちに良くなっていき、
「うっ!? ここは? それに君は……?」
とうとう正気を取り戻した。いつの間にか時間の流れも正常に戻っている。
「ここはあなたのお城でしょ」
女性は悪戯っぽく笑う。
「確かに。おっと、怪我をしているな。すまない、治しておこう」
ゼティフォールも笑い返しながら、優しく首の傷を治した。
「私の名前はまだ教えられないの」
女性が残念そうに言った。
「よし、治った。痛みは無いか?」
「うん、ありがとう。もう痛くないよ」
「……それで、何故教えられないのだ?」
ゼティフォールは怪訝そうに訊く。
「あの時に知るはずだから、今は知らないはずなの。だから、その時までは教えられない。多分、教えない方が良いとおもうんだ」
「……そうか」
ゼティフォールは少し考えて、
「分かった。その時とやらがいつかは知らぬが、いずれ機会がやって来るのだろう? ならば、その時まで楽しみにしていよう」
そう言って、左の口角を上げた。
「ありがとう」
女性はほっとしたような顔になる。
「ふむ。君が私に血を飲ませてくれたのだろう?」
「そう。朝に牛乳でも飲むみたいに美味しそうに飲んでたわ! 憶えていたの?」
「いや。暴走していた時の記憶は無くなっている。だが、君が血をくれたのは、見ればわかる。そうだな、例えるなら“朝日を見て朝だと認識できる程容易”だ」
ゼティフォールは柄にもなく冗談を言った。
「そっか。それは良かった。ふふふっ」
楽しそうに笑う。
「そうだ。……名前を教えられないと言っていたが、何故私が飲んで大丈夫と知っていたのか、何故今ここに来たのか、何故私の知らない私を知っているような口ぶりなのか、色々聞かせて欲しいのだが、それは言えるのか?」
ゼティフォールは言葉を選んで女性に質問した。
「……今言えるのは、今は干渉できないって事だけなの」
「ふむ。私の知らない大きな事情や思惑があるようだ。そして、下手に動けば何か悪い事が起きると見た」
「……」
女性は返事をしたくてもできないようで、困った表情をしていた。
「返事は無くともよい。ただの独り言のようなものだ。して、君に礼をしたいのだが、どうすれば良いか?」
ゼティフォールは切り口を変えた。
「……その時の私を助けてあげて」
女性は言葉を選んで、ゆっくりと慎重に答える。
「分かった。事情から察するにもう行くのであろう?」
「うん。ごめんなさい、あんまり長居できないの……」
女性は残念そうに言う。
「そう残念そうにするな。これは今生の別れではない。そうであろう?」
「でも、これから先はどうなるか……」
もう涙をこらえるのも精一杯の様子で、女性は絞り出すように言った。
「……君は教えられなくとも、私は名乗って問題ないな?」
「え?」
「私はゼティフォール。吸血鬼であり、最強の魔王だ……! 故に、どんな過酷な運命や苦労があろうと、約束は必ずやり遂げる。そして、今ここに約束しよう。私はその時の君を救い、これからの君を迎えに行くと……!」
そう言ってゼティフォールは、ふっと笑った。
「……ありがとう、ゼティフォールさん!」
女性が光の粒子に包まれる。もうすぐ別の何処かに行ってしまうのだろう。
「……私は君をまだ知らない。君の知っている私も知らない。だが、私は君をひと目見て、君の声や話を聞いた時から、君と、この先を知りたいと思ってしまっている。だから、もう泣かずとも良い。……少しだけ離れるだけだ。未来に続く道は、既に歩み始めているのだから……」
ゼティフォールは優しく涙を拭いた。
「少しだけ、少しだけ……。約束だからね!」
女性がゼティフォールの胸に飛び込み、そしてゼティフォールは女性を抱きとめた。
「ああ、約束だ」
ゼティフォールは力強く宣言する。
それを聞いた女性は、涙をふいて嬉しそうに笑い、
「またね……!」
そして光の粒子と共に去って行った。
「また会おう……!」
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