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幼女+紳士さん
26話 〜お金の大切さ〜①
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ラブラドリーテ町長宅の食卓にて。オルランドとステラ、トニーは朝食を終え、食後の余韻を楽しんでいるところであった。
「ミルクジャム、なくなっちゃったね」
ステラが空になった瓶を振りながらオルランドに見せる。
「ああ。美味しかった故、ついつい付け過ぎたな」
牧場で貰ったミルクジャムだが、毎日トーストに付けて食べていたら、一週間ともたず無くなってしまったのだ。
「かいにいく?」
そう訊くとステラは瓶をテーブルに置いた。
「ふむ。気に入ったのか? 気に入ったなら買っても良いが、今は余裕が無くてな……」
オルランドは財布事情を思い出して苦笑いする。
シロプルに倒されてから2日。目を覚ましてから二時間程プルプルを倒し、あの日の戦績はプルプル8体、プルプルの“グミボール”が6個、“結晶”がゼロで、次の日のお昼代にもならなかったので、この家のキッチンを借りて、ふかした芋をふたりで食べた。
そしてその経験をバネにして、昨日はシロプルに現を抜かすことなく、ストイックに普通のプルプルと戦い続け、ようやく一日の討伐体数が二桁の14体になった。
とは言っても、まだプルプルが複数体で攻めてくれば撤退を余儀なくされることもしばしばあったのだが。
「おや、お困りですか? お金なら預かっていますので、言ってくださればいいのに……」
パルトネルでニュースを見ていた所を顔を上げてトニーが言った。
「まあ、余り世話になりすぎてもなと……。旅に出るというのに、食費すら己の力で稼ぎ切れぬのは不甲斐なくてな」
コーヒーカップを置いてオルランドが言う。
「ここは出現するモンスターの強さや落とす素材の割りに物価が高くなっていますから、それは仕方のないことです。基本的に皆、商品の売買で生計を立てるか、それが向いていないなら別の町に出ていってしまいます。オルランド殿たちは旅に出るんですよね? では尚更今は頼ってくれていいんですよ。この先どれだけお金が必要になるか分からないですからね、少なかったとしても無いよりは良い」
「そうか……」
「確かに貴方の手助けに対する報酬は頂く事になっていますが、僕自身、オルランド殿とはこの先仲良くやっていきたいと思っているんです。お昼代やジャム代なんて大した金額でもありませんし、僕が出させて頂きます」
「いいのか?」
オルランドが確認する。
「ええ。ああ、そうだ! お金が必要でしたら、今やっているプルプルの魔力測定も明日で終わりにするつもりですし、宜しかったら僕にまわってきた仕事を少し手伝ってみますか?」
トニーが手を叩いてオルランドに提案した。
「もう1週間経つのか。そういえば、トニーはここの町長の叔父であったな、当の町長はどうしたのだ?」
「あの怪物対策で、町や村の衛兵の派遣数を増やすとかで手続きをしていたんですが、それも昨日には済んで、早朝ディアマンテの街から出発したそうです」
「そろそろ着くのか? この家を使わせてもらっているからな、挨拶と礼は言っておきたい」
「どうでしょう、もう少し時間がかかるかもしれません」
「何故だ?」
「人数が少し多いみたいなので、テレポートを使わず車で移動しているんです」
「そうか。着きそうになったら教えてくれ。ああ、済まない。仕事の話であったな」
「はい。世界公認の仕事ですので、報酬も良いんですよ。どうされますか?
「ほう。内容にもよるが、それは助かる。して、どのような仕事だ?」
報酬が良いことを聞いたオルランドの顔が明るくなる。
「いや、今すぐご紹介できるわけではありませんので、決まり次第お話しさせて頂きます」
「そうなのか」
「委託しても良いか確認しなければなりませんし、それに危険な依頼で万が一ステラさんが危ない目にあっては困りますからね」
「そうだな。わかった、楽しみにしておく」
オルランドはコーヒーを一口飲んだ。
「そうだ、あのチラシの装具店には行かれましたか?」
「装具店? ああ、前にステラが持って来てくれていた紙の店か。まだだが、それがどうかしたのか?」
素材の売価が他の店の何倍にもなっている、オルランドがシロプルに挑むキッカケにもなった店だ。
「僕の知り合いといいますか、腐れ縁のような相手のやっている店でして、僕の名前を出せば少し色をつけてくれるかもしれませんよ」
「ほう」
「それに、ほら見て下さい」
トニーはチラシをカバンから取り出し、オルランドに見せる。
「何だ……?」
オルランドは出されたチラシに目を向ける。
「ほら、ここです。お似合いだと思いますが……」
トニーがある場所を指で示す。そこには、
「黒いトップハットか。ええ、頑丈でありながら優秀な魔法耐性を備えている魔法装備。炎、水、雷、闇、……光!? しかも、大特価の一点限りだと!?」
────ガタッ!
オルランドが神妙な面持ちで急に立ち上がった。
「ど、どうされましたか……?」
オルランドが急に立ち上がったので、トニーは驚き、少し引いてしまっている。
「おでかけ?」
カフェラッテを飲んでいたステラが、カップを置いてオルランドに訊く。
「ああ、おでかけだ。この大特価のトップハット、絶対に手に入れるぞ……!」
オルランドは燃えていた。この一点限りのトップハットを手に入れれば、かの憎きシロプルの目眩ましの光魔法を耐えられるかもしれないのだ。それさえ攻略できれば、勝てるかもしれないのだ。
後々自身の力で耐えられるようにならなければいけないのは分かっている。だが、少なくともこれを手に入れればこの先、不意の光魔法に怯える必要が無くなるかもしれない。
それは、光魔法が苦手なオルランドにとって死活問題ともいえるのだ。
「まあ、あまり急がなくても大丈夫だとは思いますが……」
今は朝の7時半で、開店は8時。それに、地図を確認してみるとここから店まで5分もかからない場所にあった。
「何を言っている! 先に店の前に他の客が並んでしまったらどうするのだ!?」
オルランドは何時になく早口だった。
「は、はあ。すみません」
これにはトニーも苦笑いするしかなかった。
「ステラ、カフェラッテはもう飲み終えたな?」
オルランドはステラに訊く。
「うん、のんだ!」
ステラはコップが空になったのをオルランドに見せた。
「よし。プルプルが落とした素材がしかとウエストポーチに入っているか確認しなさい。それとパルトさんもな」
「……だいじょうぶ!」
ステラは椅子の下のカゴに入れていたピンクのウエストポーチを開けて確認した。
ちなみにこのウエストポーチは、ステラが魔王国から出る際に道具入れとして貰ったものだ。
「よし、よし! では、すぐに出発するぞ!」
オルランドが早足で部屋を出ようとする。
「あ、おるにゃん! はみがきは?」
オルランドはいつもステラに、『食事が終わったら歯磨きをしなさい』と言い聞かせていた。
「時間がない故、今回は無しだ。気になるなら夕食の後に念入りに磨けばいい」
「わかった!」
そうしてふたりは慌ただしく家を出て行った。
「では、気を付けて……」
勧めたのは自分なのだが、何故そこまでトップハットが欲しいのか分からないトニーであった。
「いちばん!」
装具店前に到着したステラは、よくわからないポーズを決める。
「よし、他の客はまだ来ていないようだな……」
オルランドは、安堵の息を漏らす。
「まだあいてないの?」
そう言いつつステラが店のドアに手を掛けようとしたが、オルランドがそれを制止する。
「まだだ。開店は8時であるからな」
現在7時半。走ってここまで来たため、町長宅を出発してまだ2分も経っていない。
「そか」
「……」「……」
しばし沈黙が訪れる。
「まだ?」
数分経ったところでステラが訊く。
「開店準備中と札が出ている。まだだ」
オルランドは冷静に答えた。
「……」「……」
また沈黙が訪れるが、
「もうちょっと?」
それをステラが破る。
「まだだ。先程訊いてからまだ3分もたっていないであろう?」
「そか……」
ステラがその場で座ろうとする。
「こら、そのような所で座れば、服が汚れてしまうであろう。砂汚れはなかなか落ちぬからな、気を付けて欲しい」
だが、オルランドがやめさせる。
ステラと行動するようになって、オルランドは自分のだけでなくステラの洗濯物も担っていた。
「はーい」
ステラは面白くなさそうに返事をして立ち上がった。
「闇魔法が使えれば話は別なのだがな」
オルランドは肩をすくめる。
「なんで?」
下を向いていたステラが、顔を上げてオルランドに尋ねた。
「闇魔法はな、対象を侵食したり吸収したり引っ張る力がある。故に、繊維の細かい部分に入り込んだ汚れを取り去る事ができるのだ」
「へー。おもしろいね!」
「だろ? 因みに服だけではなくてな、風呂が無い場合、闇魔法で身体をきれいにすることができるぞ」
オルランドは指を立てて、得意げに言った。
「したことあるの?」
ステラが少し首をかしげて訊く。
「ああ。昔はどこでも風呂に入れたわけではないからな」
オルランドは腕を組んで昔を思い出す。
オルランドの言う昔とは魔王になる前辺りで、色々な場所に旅をしている時だ。ざっと500年くらい前で、その時は風呂が備え付けられていない家が少なく無かった。多くのヒトが水浴びで済ませ、風呂に入るのは1週間や長くて1か月に一度、家に風呂を取り付けている金持ちの家に行くか、お金に余裕があり、且つ近くにあるのであれば大衆浴場を利用したのだ。
「そか。いまは、おふろいっぱいあるから、はいれるね」
「そうだな。村は知らぬが、町にさえはいればどこにでも風呂があるらしいからな、良い時代になったものだ」
オルランドはしみじみと言う。
「……もうちょっとかな?」
思い出したステラが、またオルランドに尋ねる。
「それ程気になるのであれば、パルトさんで確認すれば良かろう。しかし、確かに待ちくたびれたな。他に客が並んでくる様子も無し、もう少しゆっくり家を出ても良かったかもしれぬな……」
今更ながら、オルランドは急いで家を出たことを後悔する。
「えっとね……。ななじ、ごじゅう、さんぷん!」
ステラはパルトを取り出し、時間を確認した。
「あと7分か。もう少しだな……。少し早めに開いたりしないだろうか?」
オルランドは、ちらちらと店の扉を確認する。扉に掛けられている掲示板には、まだ“開店準備中”と書かれている。
「はみがき、できたねえ」
ステラが足で石ころをいじりながら言う。
「まあ、そうだな。しかし、そわそわしながら準備するのも、嫌ではないか?」
「うん……」
「……いい天気であるな」
「うん。ステラ、ねむたくなってきちゃった」
ステラが大きなあくびをした。
「私もだ……」「……」
オルランドはあくびを噛み殺して、眉間を抑えた。
「……そろそろかな」
「……ん? お!」
ぼーとしていたオルランドが突然大きな声を出した。
「なに?」
ステラが目をこすりながら訊いた。
「店が開いたぞ。ほら、掲示板の文字が“営業中”に変わっている。ステラ、さっそく入ろう!」
オルランドはもう待ちきれないと、ステラを急かす。
「……うん!」
扉を開け、オルランドとステラは装具店に入った。
「ミルクジャム、なくなっちゃったね」
ステラが空になった瓶を振りながらオルランドに見せる。
「ああ。美味しかった故、ついつい付け過ぎたな」
牧場で貰ったミルクジャムだが、毎日トーストに付けて食べていたら、一週間ともたず無くなってしまったのだ。
「かいにいく?」
そう訊くとステラは瓶をテーブルに置いた。
「ふむ。気に入ったのか? 気に入ったなら買っても良いが、今は余裕が無くてな……」
オルランドは財布事情を思い出して苦笑いする。
シロプルに倒されてから2日。目を覚ましてから二時間程プルプルを倒し、あの日の戦績はプルプル8体、プルプルの“グミボール”が6個、“結晶”がゼロで、次の日のお昼代にもならなかったので、この家のキッチンを借りて、ふかした芋をふたりで食べた。
そしてその経験をバネにして、昨日はシロプルに現を抜かすことなく、ストイックに普通のプルプルと戦い続け、ようやく一日の討伐体数が二桁の14体になった。
とは言っても、まだプルプルが複数体で攻めてくれば撤退を余儀なくされることもしばしばあったのだが。
「おや、お困りですか? お金なら預かっていますので、言ってくださればいいのに……」
パルトネルでニュースを見ていた所を顔を上げてトニーが言った。
「まあ、余り世話になりすぎてもなと……。旅に出るというのに、食費すら己の力で稼ぎ切れぬのは不甲斐なくてな」
コーヒーカップを置いてオルランドが言う。
「ここは出現するモンスターの強さや落とす素材の割りに物価が高くなっていますから、それは仕方のないことです。基本的に皆、商品の売買で生計を立てるか、それが向いていないなら別の町に出ていってしまいます。オルランド殿たちは旅に出るんですよね? では尚更今は頼ってくれていいんですよ。この先どれだけお金が必要になるか分からないですからね、少なかったとしても無いよりは良い」
「そうか……」
「確かに貴方の手助けに対する報酬は頂く事になっていますが、僕自身、オルランド殿とはこの先仲良くやっていきたいと思っているんです。お昼代やジャム代なんて大した金額でもありませんし、僕が出させて頂きます」
「いいのか?」
オルランドが確認する。
「ええ。ああ、そうだ! お金が必要でしたら、今やっているプルプルの魔力測定も明日で終わりにするつもりですし、宜しかったら僕にまわってきた仕事を少し手伝ってみますか?」
トニーが手を叩いてオルランドに提案した。
「もう1週間経つのか。そういえば、トニーはここの町長の叔父であったな、当の町長はどうしたのだ?」
「あの怪物対策で、町や村の衛兵の派遣数を増やすとかで手続きをしていたんですが、それも昨日には済んで、早朝ディアマンテの街から出発したそうです」
「そろそろ着くのか? この家を使わせてもらっているからな、挨拶と礼は言っておきたい」
「どうでしょう、もう少し時間がかかるかもしれません」
「何故だ?」
「人数が少し多いみたいなので、テレポートを使わず車で移動しているんです」
「そうか。着きそうになったら教えてくれ。ああ、済まない。仕事の話であったな」
「はい。世界公認の仕事ですので、報酬も良いんですよ。どうされますか?
「ほう。内容にもよるが、それは助かる。して、どのような仕事だ?」
報酬が良いことを聞いたオルランドの顔が明るくなる。
「いや、今すぐご紹介できるわけではありませんので、決まり次第お話しさせて頂きます」
「そうなのか」
「委託しても良いか確認しなければなりませんし、それに危険な依頼で万が一ステラさんが危ない目にあっては困りますからね」
「そうだな。わかった、楽しみにしておく」
オルランドはコーヒーを一口飲んだ。
「そうだ、あのチラシの装具店には行かれましたか?」
「装具店? ああ、前にステラが持って来てくれていた紙の店か。まだだが、それがどうかしたのか?」
素材の売価が他の店の何倍にもなっている、オルランドがシロプルに挑むキッカケにもなった店だ。
「僕の知り合いといいますか、腐れ縁のような相手のやっている店でして、僕の名前を出せば少し色をつけてくれるかもしれませんよ」
「ほう」
「それに、ほら見て下さい」
トニーはチラシをカバンから取り出し、オルランドに見せる。
「何だ……?」
オルランドは出されたチラシに目を向ける。
「ほら、ここです。お似合いだと思いますが……」
トニーがある場所を指で示す。そこには、
「黒いトップハットか。ええ、頑丈でありながら優秀な魔法耐性を備えている魔法装備。炎、水、雷、闇、……光!? しかも、大特価の一点限りだと!?」
────ガタッ!
オルランドが神妙な面持ちで急に立ち上がった。
「ど、どうされましたか……?」
オルランドが急に立ち上がったので、トニーは驚き、少し引いてしまっている。
「おでかけ?」
カフェラッテを飲んでいたステラが、カップを置いてオルランドに訊く。
「ああ、おでかけだ。この大特価のトップハット、絶対に手に入れるぞ……!」
オルランドは燃えていた。この一点限りのトップハットを手に入れれば、かの憎きシロプルの目眩ましの光魔法を耐えられるかもしれないのだ。それさえ攻略できれば、勝てるかもしれないのだ。
後々自身の力で耐えられるようにならなければいけないのは分かっている。だが、少なくともこれを手に入れればこの先、不意の光魔法に怯える必要が無くなるかもしれない。
それは、光魔法が苦手なオルランドにとって死活問題ともいえるのだ。
「まあ、あまり急がなくても大丈夫だとは思いますが……」
今は朝の7時半で、開店は8時。それに、地図を確認してみるとここから店まで5分もかからない場所にあった。
「何を言っている! 先に店の前に他の客が並んでしまったらどうするのだ!?」
オルランドは何時になく早口だった。
「は、はあ。すみません」
これにはトニーも苦笑いするしかなかった。
「ステラ、カフェラッテはもう飲み終えたな?」
オルランドはステラに訊く。
「うん、のんだ!」
ステラはコップが空になったのをオルランドに見せた。
「よし。プルプルが落とした素材がしかとウエストポーチに入っているか確認しなさい。それとパルトさんもな」
「……だいじょうぶ!」
ステラは椅子の下のカゴに入れていたピンクのウエストポーチを開けて確認した。
ちなみにこのウエストポーチは、ステラが魔王国から出る際に道具入れとして貰ったものだ。
「よし、よし! では、すぐに出発するぞ!」
オルランドが早足で部屋を出ようとする。
「あ、おるにゃん! はみがきは?」
オルランドはいつもステラに、『食事が終わったら歯磨きをしなさい』と言い聞かせていた。
「時間がない故、今回は無しだ。気になるなら夕食の後に念入りに磨けばいい」
「わかった!」
そうしてふたりは慌ただしく家を出て行った。
「では、気を付けて……」
勧めたのは自分なのだが、何故そこまでトップハットが欲しいのか分からないトニーであった。
「いちばん!」
装具店前に到着したステラは、よくわからないポーズを決める。
「よし、他の客はまだ来ていないようだな……」
オルランドは、安堵の息を漏らす。
「まだあいてないの?」
そう言いつつステラが店のドアに手を掛けようとしたが、オルランドがそれを制止する。
「まだだ。開店は8時であるからな」
現在7時半。走ってここまで来たため、町長宅を出発してまだ2分も経っていない。
「そか」
「……」「……」
しばし沈黙が訪れる。
「まだ?」
数分経ったところでステラが訊く。
「開店準備中と札が出ている。まだだ」
オルランドは冷静に答えた。
「……」「……」
また沈黙が訪れるが、
「もうちょっと?」
それをステラが破る。
「まだだ。先程訊いてからまだ3分もたっていないであろう?」
「そか……」
ステラがその場で座ろうとする。
「こら、そのような所で座れば、服が汚れてしまうであろう。砂汚れはなかなか落ちぬからな、気を付けて欲しい」
だが、オルランドがやめさせる。
ステラと行動するようになって、オルランドは自分のだけでなくステラの洗濯物も担っていた。
「はーい」
ステラは面白くなさそうに返事をして立ち上がった。
「闇魔法が使えれば話は別なのだがな」
オルランドは肩をすくめる。
「なんで?」
下を向いていたステラが、顔を上げてオルランドに尋ねた。
「闇魔法はな、対象を侵食したり吸収したり引っ張る力がある。故に、繊維の細かい部分に入り込んだ汚れを取り去る事ができるのだ」
「へー。おもしろいね!」
「だろ? 因みに服だけではなくてな、風呂が無い場合、闇魔法で身体をきれいにすることができるぞ」
オルランドは指を立てて、得意げに言った。
「したことあるの?」
ステラが少し首をかしげて訊く。
「ああ。昔はどこでも風呂に入れたわけではないからな」
オルランドは腕を組んで昔を思い出す。
オルランドの言う昔とは魔王になる前辺りで、色々な場所に旅をしている時だ。ざっと500年くらい前で、その時は風呂が備え付けられていない家が少なく無かった。多くのヒトが水浴びで済ませ、風呂に入るのは1週間や長くて1か月に一度、家に風呂を取り付けている金持ちの家に行くか、お金に余裕があり、且つ近くにあるのであれば大衆浴場を利用したのだ。
「そか。いまは、おふろいっぱいあるから、はいれるね」
「そうだな。村は知らぬが、町にさえはいればどこにでも風呂があるらしいからな、良い時代になったものだ」
オルランドはしみじみと言う。
「……もうちょっとかな?」
思い出したステラが、またオルランドに尋ねる。
「それ程気になるのであれば、パルトさんで確認すれば良かろう。しかし、確かに待ちくたびれたな。他に客が並んでくる様子も無し、もう少しゆっくり家を出ても良かったかもしれぬな……」
今更ながら、オルランドは急いで家を出たことを後悔する。
「えっとね……。ななじ、ごじゅう、さんぷん!」
ステラはパルトを取り出し、時間を確認した。
「あと7分か。もう少しだな……。少し早めに開いたりしないだろうか?」
オルランドは、ちらちらと店の扉を確認する。扉に掛けられている掲示板には、まだ“開店準備中”と書かれている。
「はみがき、できたねえ」
ステラが足で石ころをいじりながら言う。
「まあ、そうだな。しかし、そわそわしながら準備するのも、嫌ではないか?」
「うん……」
「……いい天気であるな」
「うん。ステラ、ねむたくなってきちゃった」
ステラが大きなあくびをした。
「私もだ……」「……」
オルランドはあくびを噛み殺して、眉間を抑えた。
「……そろそろかな」
「……ん? お!」
ぼーとしていたオルランドが突然大きな声を出した。
「なに?」
ステラが目をこすりながら訊いた。
「店が開いたぞ。ほら、掲示板の文字が“営業中”に変わっている。ステラ、さっそく入ろう!」
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