【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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幼女+紳士さん

26話 〜お金の大切さ〜②

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「暗いな……」
 装具店入ってみると開いているにも係わらず中は真っ暗で、外の明るい雰囲気と裏腹に、妙な静けさと暗いジメジメとした空気が不気味さを漂わせていた。
「なんかこわいね……」
 ステラは声を小さくして、オルランドの服の裾を掴む。
「ああ。ここは本当に装具店なのか? 一軒隣に間違えてきたのか……?」
 オルランドも声を小さくし、ステラの肩に手を置きつつ周囲を警戒する。
「……」「……」
 沈黙が訪れる。しかし、今回は先程までの気の抜けたものではなく、一切気の抜けない、今にも戦いの火蓋が切られそうなものであったが。
 ────ガサ。
「何だ……!?」
 何かが奥で動く音がした。
 オルランドは杖に手をかけ、ステラは裾を持つ手が強くなった。
 ────ガサガサ。
「何かいる……」「ごくり……」
 店のモノか、それとも別の何かか。店のモノであったとしても、この異様な事態だ、何かあったのかもしれない。オルランドは慎重に近づいた。
 ────ガサ、ガサガサガサ。
「……」「……」
 オルランドはジェスチャーでステラに離れるよう伝え、ステラはゆっくり頷いた。
 ────────ガサ。
 物音がした場所で赤く光がふたつ揺らめいた。
「ふー……」
 オルランドは杖を構え、今にでも攻撃できる態勢に入っていた。
 ────────その時。
「────あっら~ん! お客様ね~?」
「何だ!?」「なになに!?」
 ──バババッ! 
 声に反応したのか、突如店内が明るくなる。
「もう、お客様なら、先に言ってよね! 衛兵さん達かと思って、ビクビクしちゃったじゃな~い」
 レジに隠れて居たバリトンボイスの声の主が、そう言いながら顔を出した。
「……て、店員なのか?」
 オルランドが冷や汗を垂らしながら、恐る恐る訊く。
「そうねえ。店員でもあり、店長でもあり、看板でもあり、用心棒でもあるわ……」
 黒と白のストライプのローブで全身を包み、フードも深々とかぶっているそのジンブツは、オルランドの顔を穴が開いてしまうのではないか、という程に凝視している。
 しかし、先程まで赤く光っていた瞳は今は真っ黒になっており、不気味さを演出するのはもはや張り付いたような笑顔だけになっていた。
「えと、おるにゃん。もうだいじょうぶ……?」
 陰に隠れて居たステラが顔だけ出し、小さな声でオルランドに訊いた。
「あ、ああ。多分だが……」
 歯切れの悪い返事をする。異様な雰囲気は持ち合わせているものの、警戒や敵意といったものはもう皆無といってよかった。
「そか……」
 ステラがそれを聞いて出て来くる。
「あっら~ん! 今日は大繁盛! しかも、こんな可愛らしいお嬢さんが来るなんて、いつぶりかしら? いえ、初めてかもしれないわ!」
 店のヒトと名乗ったそのモノは、ハイテンションで嬉しがる。が、顔周りはよく動いているのに、身体が微動だにしていないのは不気味であった。
「……念の為確認するが、そなたはという事で間違いないだろうか?」
 オルランドは杖をしまわず訊いた。
「ええ。だから、そういってるじゃない」
「そうか、それはなによりだ」
 オルランドは杖をしまって、ハンカチで汗を拭いた。
「そうだ、なんでこのお店に来てくれたか訊いてもいいかしら? ここね、商品も価格も他に負けないくらいイイはずなのに、お客さんが全然こないのよ~! 来たと思っても、直ぐに帰っちゃうの。冷やかしはごめんだわ!」
 店主は憤慨している様子だった。
「……入った時に店が暗かったが、いつもああなのか?」
「ん? そうねえ、お客様がいる時だけね、灯りをつけるのは。アタシ、暗いのがス・キ・ナ・ノ」
 店主はオルランドにウィンクし、オルランドは苦笑いで返した。
「おるにゃん、このヒト、わるいヒトじゃないけど、なんかこわい」
 ステラがオルランドの後ろに隠れながら言う。
「まあ、底知れなさはあるな……。だが、あまりヒトに怖いとか言わないでおきなさい。傷ついてしまうからな」
 オルランドはステラの頭に手を置いて言った。
「このイロオトコ!」
 店主が突然大きな声を出した。
「ひゃ!?」「うおっ!」
 それに思わずふたりは声を上げてしまう。
「ハンサムなのにオトメ心を気遣えるなんて、そんなの反則よぅ! 惚れちゃいそ……」
 店主の頬が、気のせいでなければ赤くなっている。
「そうか。まあ、顔にはそれなりに自信があるからな」
 オルランドは得意げな顔になった。
「まあ、アタシはオトメじゃないんだけど! うふぅっ」
 店主は楽しそうに笑う。
「そうなのか?」
「ええ、アタシに性別という縛りはないのよ。こう見えて、だから!」
 店主はまたもオルランドにウィンクした。
「悪魔か。通りで中性的だと思ったぞ」
 オルランドは納得して頷いた。
「あくま?」
 ステラは分からないようで、オルランドに訊いた。
「ああ。そうだな……。まず前提として、ヒトや動物は肉体が有り、肉の心臓がある。モンスターの体は肉であったり無機物であったりエネルギー体であったりするのは勿論の事、基本的に心臓部が魔石になっているのだ。それはわかるか?」
「あれ、でもプルプルはませき、おとさないね?」
「一応あのスライム状の部分が魔石の代りだが、まだ固まる程魔力が濃くなっていないのだ。そして他のモンスターの体に当たる部分が“グミボール”。内と外が逆になっているような感覚だ。それと、“結晶”は、魔力ののようなモノがグミボールに付着して固まったもので、それが育つと他のモンスターになることもある」
「へー! どんな?」
「そうだな……。一番多いのは他のプルプルの種類。例えば、シロプルもそうであろうな。後は、ゴーレム、妖精、精霊の類もそうだし、邪鬼、オーガのようなモノにもなるようだ。ああ、ミノタウロスもプルプルの近縁種から変異したらしい」
「すごいね」
「ああ。それで本題の悪魔だ。悪魔は厳密には少し違うが、魔力やマナが意思を持ったモノで、身体が無いから基本的にそれだけでは自由に動けない。故に、何か媒体になるものに宿って行動をとるのだ」
「そう。だから、この身体を壊されてもアタシは倒せないの。ま、この身体は気に入っているし、もし無くなったら泣いちゃうケド」
 店主はステラに向かってウィンクをしながら手を振った。
「宿る媒体には性別があったりするが、本体にはない。聞いた話だが身体に使っている媒体の相性によって能力が上下するとか」
「ふーん。なんで、わるいかんじじゃないのに、あくまなの?」
 ステラはそう言いながら恐る恐る店主に手を振り返した。
「優しい子ね。確かにアタシは誠実な悪魔と評判だけど、中にはとついてもおかしくない、とっても悪い子もいるわ。でもね、って呼び名の由来はそこじゃないの」
 店主は腕を組んで腰掛にもたれ、ため息を吐いた。
「アタシ達はね、濃縮された魔力に意思が宿ったモノのようなものだから、まだアタシ達に名前も無い昔、ヒト達は大魔法を使う時に巨大な魔石の代用品として使おうとしたワケ。そんな事されたらアタシ達だってタダじゃ済まないから、勿論抵抗したわ。そしたら魔法が暴走しちゃって、爆発を起こしたり、逆流した魔力が使用者に跳ね返ってモンスターに変わったりしたの」
「こわいね」
 ステラの眉の端が下がる。
「そう、魔法を邪魔したりヒトをモンスターに変えてしまう得体の知れないモノとして恐れられた。それでいつからか、邪悪な魔力のモンスター、と呼ばれるようになったのよ」
 店主は一瞬目を細めて、肩をすくめた。
「モンスターとは違うのだがな。昔はヒトや動物とモンスター以外の概念が無く、そう分類されてしまったのだ」
「じゃあステラ、あくまっていわない! なんていったらいい?」
 ステラは拳を握り、決心した顔で店主に言う。
「あら、嬉しいわ。そうね、アタシ達もヒトと同じように意思があるわ。だから、と仲間の間では言っているの。良かったら、それを使ってちょうだい」
 店主は初めて本当の意味での笑顔を見せ、嬉しそうにステラに言った。
「わかった!」
「あと、アタシ自身の事は、と呼んでくれたら、もっと嬉しくなっちゃうわね!」
「ベラちゃん?」
「そう! 良い子ね。アタシ今凄く機嫌がイイから、お嬢さんに何かあげちゃおうかしら!」
 店主ベラちゃんはそう言って店内に良いものがないかし始めた。
「あ、忘れていたがベラちゃん。このチラシに書いてあるトップハットが欲しいのだが、まだ残っているだろうか? それに、素材も売りたい」
 オルランドは話に気を取られて、肝心のここに来た理由の方を忘れてしまっていた。
「ん? ああ、あるわよ。ちょっと待っててちょうだい」
 そう言うと、商品の山をかき分けて店の奥に入って行った。
「おるにゃん、なにくれるのかな?」
 ステラがオルランドを、とんとんと叩いて訊いた。
「さあ……。だが、貰ったらしかと礼を言うのだぞ」
「うん!」
 2、3分経った頃、ベラちゃんが奥から騒がしく出てきた。
「おまたせ~!」
「ふむ。思ったより早かったな」
「ね」
「急いだからね!」
 ベラちゃんはふたりに1回ずつウインクする。
「それで、あったのか?」
 オルランドが手を広げてベラちゃんに訊く。
「あったのか?」
 ステラがオルランドのマネをして言った。
「……?」
 マネをされると思ってなかったオルランドは少し驚いてしまった。
「あら、せっかちさんなんだから~。ちゃんとイイモノ、見つけて来たわよ!」
 ベラちゃんは語尾にハートが付きそうな言い方をする。
「いいもの?! やた!」
 条件反射のようにステラが喜び、狭い通路で踊りだす。
「ステラ、商品を壊すといけない故、踊りは外に出てからにしなさい」
 オルランドはステラをなだめ、自身の横に連れ戻す。
「まずは、ハンサムさんのトップハット。これは1000ディアよ」
 ベラちゃんは、アンティークの木のテーブルに傷ひとつないきれいな黒のトップハットを置いた。
「1000ディアか……。ステラ、パルトさんに入っているお金の残高と、プルプルから手に入れた素材がどれだけあるか見せてくれるか?」
「はい、どーぞ!」
 ステラがウエストポーチと、画面を電子マネーの欄にかえたパルトネルをオルランドに渡す。
「ありがとう。ふむ……」
 オルランドが、指を曲げて何度も確認する。
「おるにゃん?」
 真剣な表情に、ステラが少し困惑する。
「1000ディアだったな……」
 ウエストポーチの素材入れと、パルトを何度も見比べる。
「ハンサムさん?」
 その姿にベラちゃんまでも困惑してしまう。
「1000ディアか……」
 今にもため息が出てしまいそうな表情でオルランドが言う。
「ベラちゃん、おるにゃんどうしたのかな?」
 ステラがベラちゃんの所にそっと行き、耳打ちする。
「おるにゃん? ああ、このハンサムさんの名前ね? アタシにもわからないわ……」
 ベラちゃんもステラに耳打ちで返す。
 オルランドの指を曲げたり伸ばしたりするスピードは、次第に早くなり、もうプロも顔負けのレベルに達する。
 そんなオルランドをふたりが遠巻きに観察していた。
 ────その時。
「せ、せ、1000ディアだとぉー!!?」
「おるにゃん?!」
 その声は、店の前まで届いていたという。
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