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幼女+紳士さん

34話 ~勇者はどうやら強いらしい~

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 ステラとマーナが出会った次の日の午後。オルランドはアクセサリー作りに悪戦苦闘していた。
 と言うのも、最初の切り出しで大まかな形にするのは上手くいったのだが、きれいに整えたり部品同士を引っ付けるのがなかなか難しいのだ。
「うっ、く……」
 オルランドは椅子に座ったまま背伸びをして凝り固まった肩や腕を解していく。
「まずい、集中が続かなくなってきているな……」
 オルランドは次に目頭を押さえる。
「ひとりで作業をするとなると、どうしても緊張感が足りなくていかぬな」
 トニーは町長を迎えに行くと言って出かけたきりで、ステラはマーナと一緒に公園で遊ぶと言って、朝からゴキゲンで出かけていった。
 なのでこの家はオルランドしかいないのだ。
「気分転換にストレッチでもするか……」
 オルランドが関節をポキポキと鳴らしながら立ち上がる。
『オルランド殿ー! 戻りましたよー』
 その時、屋敷の入口の方でオルランドを呼ぶ声がした。
「トニーが帰ってきたのか。町長に挨拶せねばな」
 オルランドは首と肩を回して、腰をトントンと叩きながら部屋を出た。
「おお、貴方がオルランドさんですか! トニー叔父から話を聞いています。なんでも、叔父の恩ジンの友にあたる方で、勇者の力になるために魔王国から遥々やってきたとか」
 オルランドがリビングに入ると、鎧を着た髭もじゃのドワーフが話しかけてきた。
 トニーやドワーフの他にも、執事や何人かの鎧を着たモノもリビングに集まっている。
「ああ、私がオルランドだ。貴方がラブラドリーテの町長で宜しいか……?」
「すみません。自己紹介していませんでしたな。わしこそラブラドリーテの町長“セヴェーロ”です。よろしくお願いします」
「ああ、宜しく。それと聞いているかもしれぬが、数日前から部屋を貸して頂いている。ありがとう」
 オルランドとセヴェーロが握手を交わす。
「オルランドさんは、確かお仲間が来るまで滞在の予定でしたね。それまではどうするおつもりですか?」
「ああ。仲間が来るまでトニーの仕事をいくつか手伝わせてもらうつもりだ。それがどうかしたのか?」
「そうですか。もしお急ぎなら、東にあるアガタヴェルデ村に行ってはどうかと思ったんですよ」
 セヴェーロは脱いだ鎧を執事に渡しながら言う。
「アガタヴェルデ村?」
「ええ。そこは最近勇者になったという“アルフォンソ”の故郷です」
 鎧を脱ぎ終わったセヴェーロが椅子に座る。
「確か、トニーがこちらに呼んでくれると言っていたが……?」
 オルランドも促されるままに椅子に座る。
「すみませんオルランド殿。屋敷に帰る前にこちらに来れるか電話で訊いたんですがね。アガタヴェルデ周辺はここより強いモンスターやラードロが出るらしく、暫くは移動できないと言われたんですよ」
 トニーは執事からお茶を受け取ってテーブルに並べる。
「もう帰っていいぞ。長い間ご苦労様。帰ってゆっくり休みなさい」
 セヴェーロが鎧を着た兵士たちに帰るよう促す。
「「「はっ!」」」
 兵士たちは返事と敬礼をして帰って行った。
「ふむ……。アガタヴェルデ村はここから、徒歩でどれくらいの時間がかかるのだ?」
 兵士たちが部屋を出ていったのを確認してオルランドがふたりに訊いた。
「徒歩だと……。モンスターと遭遇せずスムーズにいっても、半日以上はかかると思います」
 トニーが答えた。
「では戦闘するとなると数日は見た方がよさそうか」
「そうなります」
「ではとりあえず、トニーから受けた依頼の、薬草畑を荒らすモンスターの退治と、コンビニ? の手伝いは期限が設けられている故、それが終わり次第向かうとしよう」
 それに、この辺りより強い敵が出るのなら、今のオルランドの実力では危険極まりない。
「分かりました。ではアルフォンソにはそう伝えておきます」
 トニーが携帯万能機パルトを取り出してアルフォンソに繋げると、電話をする為に部屋を出ていった。
「そうだ、確かステラというお嬢さんもここに泊まっているんでしたね?」
 セヴェーロがオルランドに確認した。
「ああ」
「子どもと一緒に旅に出るのは危険ではないですか? 腕に相当な自信がおありなのか、それとも止むを得ぬ事情がおありならば、わしが口を出すまでもないことですが……」
 セヴェーロがお茶をひと口飲んで訊く。
「ああ。確かに危険かもしれぬが、あの子の父親探しを手伝っているのだ。まあ、まだまともに旅も始まっていない故、父親探しはこれからなのだが……」
「オルランドさんの娘ではないんですか?」
「一応保護者という事にはなるがな」
 オルランドもお茶を飲む。
「はぁ、複雑なんですね。その、ステラさんの父親の容姿とか、どんな仕事をしているという情報はありますか? 宜しかったら手伝いますよ。これでも顔はそこそこ広いですからね」
「すまない。どのような容姿かも、何をしているかも判らぬのだ。唯一判っているのは、ステラ曰く父親は“最強”らしい事だけだな」
「最強……? もしそれが本当だとしても、戦闘においてなのか、特定の魔法でなのか、スポーツやボードゲームなどの競技でなのか、それがわからないと探しようがないですね……」
「そうだな」
「また何か有力な情報でもあればお手伝いします」
「気遣い感謝する」
「それと、それに限らず何か困った事があればわしか、トニー叔父にでも連絡をください。できる限りでですが、お手伝いします」
 セヴェーロは笑顔で言った。
「ありがとう。だが、何故そこまでしてくれるのだ?」
「わしは町長として町を守るのが仕事で、それは世界がどうこうなっては達成できないのです。と、なると、世界を救う勇者と、それに協力する方々をお支えするのは、何も不思議ではない。そう思いませんか?」
「まあ、そうであるが……」
「それにディアマンテの街に行った時、直接会う事はできませんでしたが、陛下から『勇者一行に会う事があれば協力せよ』と命を受けたのもあります。協力した場合報酬も出るようですし、オルランドさんは何も気負う必要はないですよ」
「そうか。それは助かる」
 オルランドは口角を上げてお茶を飲む。
『だが、今まで受けた恩も、これから受ける恩も、いずれ必ず返さねばならぬな』
 とオルランドは心に決意する。
「オルランド殿、ちゃんとアルフォンソに伝えましたよ」
 電話を終えたトニーがリビングに戻ってきた。
「そうか。何か言っていたか?」
「ええ。オルランド殿は相当な実力者だと言ったら、『それは頼もしい。早く会いたい』って言ってましたね。それと、すぐに会いに行けない事を謝っていました」
「ふむ……。気にしなくてもいいのだがな」
 オルランドの実力は弱いモンスターシロプルになんとか勝てる程度。あまり持ち上げられても困ってしまう。
 ただ、言われてしまったものは仕方ないので、アルフォンソと会うまでに何とかして誤魔化せる程度の実力をつけなければならない。
「そうだ、すみません。夕飯までには戻ってきますが、少し出かけてきます。役所に色々伝えねばならない事があるので」
 セヴェーロはお茶を飲み干して立ち上がった。
「構わない。こちらを気にせず行ってくれ。ステラは帰ってきたら紹介させてもらうとしよう」
「はい。では後程……」
 セヴェーロは軽く頭を下げると、笑顔で部屋を出ていった。
「ふむ……。トニー、ひとつ訊いても良いだろうか?」
 セヴェーロを見送った後、オルランドがトニーに尋ねた。
「なんでしょう?」
「アルフォンソの実力はどの程度なのだろうか?」
「どの程度、難しい質問ですね……。ただ、最近ゴブリンの群れを倒したと聞きましたよ。それがどうかしたんですか?」
「いや、ただ実力が気になっただけだ。この先共に戦う事になるであろうからな。質問ばかりですまないが、ゴブリンと三つ目オオカミではどちらの方が強いのだ?」
「三つ目オオカミ? まあ、単体で戦うなら辛うじて三つ目オオカミの方が強いですかねえ? とは言っても、ゴブリンは基本群れで行動するので、三つ目オオカミはだいたいですが……」
「そうか。群れとは恐ろしいものだな……」
 三つ目オオカミとオルランドなら、オルランドの方が。なら、今オルランドがゴブリンに挑めば、手も足も出ないだろう。
「そうですね。数は力になりますから」
 そんなゴブリンの群れに勝つ勇者アルフォンソと今すぐ合流してしまったら、弱いのがバレるのは必至。
『アクセサリー作りもいいが、少しの合間にでもトレーニングをして実力をつけねばならぬな……。時間が欲しい。それか身体がもうひとつでもあれば……』
 と、苦虫を噛みつぶしたような顔で思うオルランドであった。
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