【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)

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幼女+紳士さん

38話 〜星に星を添えて〜

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 ラブラドリーテ町長宅。オルランドは自室として使っている客室にて、アクセサリー作りに集中していた。
「…………」
 ペン型の研磨機で少しずつ丁寧に削り、表面を滑らかにしている。
「…………」
 ステラは机の横で、静かにそれを見守っている。
 朝は外で遊んでいたが、昼過ぎにオルランドから今日中に完成しそうと聞いて、居ても立ってもいられずに帰ってきたのだ。
「…………ふぅ~」
 オルランドは研磨機を机に置き、大きく息を吐いた。
「……」
 ステラはオルランドと机に置かれたを交互に見る。
 完成したかどうか気になってしょうがないのだ。
「…………」
 オルランドは研磨で出た粉を払い、ルーペで削り損ねやヒビがないか念入りにチェックする。
「……ごくっ」
 ステラが思わず生唾を飲んだ。完成かそれともやり直しか、緊張の瞬間である。
「……完成だ」
 オルランドは静かに呟く。
「え……? できたの?」
 ステラが一瞬理解できずに言葉の意味を確認した。
「そうだ。できた、ようやくできたぞ……!」
 オルランドの顔が明るくなる。
「え、できた!? できた、できた~!」
 ステラが喜びのあまり小躍りし始めた。
「はははっ。できた、できた! かんせ────」
 オルランドも気分が上がって勢いよく立ち上がったのだが、一変。急に背中を押さえて床でうずくまってしまう。
「わわ!? どうしたの、おるにゃん!?」
 ステラはそんな様子に心配し、小躍りを辞めてオルランドの元に駆け寄った。既にスプレー型回復薬も取り出している。
「うっく……。背中を、つってしまったようだ……」
 うずくまりながらオルランドが言う。長い間同じ姿勢をしていたために、筋や筋肉が凝り固まってしまったようだ。
「なおせるかな?」
 ステラが回復薬を構えて首を傾げる。
「どうであろうか……。一応、試してもらえるか?」
「うん。じゃあ、シュー!」
 ステラがオルランドの背中に、服の上から回復薬を吹きかけた。
「ぉ、おお~。効いているようだ……」
 どうやら、回復薬で体の引きつりや凝りも治るらしい。
「よかったね~」
「ああ。一瞬息が止まってしまっていたぞ。ははっ」
 オルランドは身体も機嫌も治し、元気よく立ち上がってこれ見よがしにストレッチを始めた。
をたべちゃって、おなかこわしたとおもっちゃった! あはっ」
 ステラは笑って胸を撫でおろす。
「よし、完成もしたしさっそく────」
 コンコン。
 机に置いてあるを手に取ろうとしたその時。誰かが扉を叩く音がした。
「トニーかな?」
 ステラがオルランドの方を向いて首を傾げる。
「かな? ……入って構わないぞ」
 オルランドは扉向こうのヒトに入室を許した。
「どうもオルランド殿」
 トニーが笑顔で入ってきた。
「トニーか。どうしたのだ?」
「ああ、お礼と報酬の話をしようと思いましてね」
「報酬……。いったい何の話だ?」
「がははっ。何の話って、依頼の件ですよ。さっそく達成していただいて、ありがとうございます」
 トニーは笑っているが、冗談を言っているようではない。
「ああ……」
 オルランドは話を聞くために、ひとまず合わせておくことにした。
「薬草畑をあらしていたがいなくなり、畑の持ち主や近隣の住民から感謝の手紙やメールがいくつか届いているんですよ。しかし、オルランド殿はやはり強いですねえ」
 トニーが感心した。が、その横でステラがギクッとした顔をしている。
「そ、そうか……」
 オルランドはステラに意識をとられながらも、ここでは指摘せずにトニーとの会話を続けることを選んだ。
「はい。グリーンベアは、腕のそこそこ立つ戦闘職の方かディアマンテから来た衛兵3ニンいなければ苦戦を強いられ、ひとりだと勝つのは難しいと言われているんですよ。とは言っても、世の中には強い方が沢山いますから、その限りではないですけどね」
「まあ、確かに私の知り合いにも強いモノがいるな」
 オルランドはそう言いながら、逃げ出そうとするステラを捕獲する。
「おお、それは頼もしいですね。僕もグリーンベアをひとりで倒せますが、この程度で大きな顔をすると恥をかきそうです。がっはっは~!」
「まあ、お互い頑張ろうではないか」
「ありがとうございます。では、報酬はステラさんのパルトに入れておけばいいですか?」
「ああ、そうだな……。ステラ、報酬を貰いなさい」
 オルランドは、ステラにパルトを出すように促した。
「うん……」
 ステラはオルランドの顔色を窺いながらパルトネルをポケットから出す。
「では、入金しますね……」
 トニーはパルトを何度かを指で操作した後、ステラのパルトにかざした。
 ────ティロン。
 軽快な音を立てて、パルトネルが入金完了の画面に切り替わった。
「では、僕はもう少し仕事が残っているんで、これで失礼します」
「ああ。仕事の合間だったのか、手間をかけたな。ありがとう」
「ありがと、トニー」
 オルランドとステラは、わざわざ途中で来てくれたトニーを労う。
「いえいえ、こちらも助かりました」
 トニーはそう言って笑顔で部屋を後にした。
「……ステラ?」
 オルランドは、ステラをホールドしたまま無表情で訊いた。勿論、グリーンベアのことだ。
「えと、その、あの……。グリーンベアはね、ステラをゆうかい? しないよ?」
 ステラは言葉に詰まりながらも、自分なりに弁明する。
「あのな、確かに外に出ないよう注意した際『万が一誘拐されたら困るからな』と念押ししたが、流石にグリーンベアがヒト攫いなんてしないだろう。……多分。ま、それは置いておくとして、もしステラより強いモンスターが来たり、不意を突かれて怪我をしたらどうするつもりだったのだ?」
 オルランドはしゃがんで、ステラの目線に合わせて諭すように訊く。
「でも、グリーンベアよわかったよ?」
「そうだとしても、マーナちゃんも一緒にいたのだろう。もしステラでなくマーナちゃんが襲われでもしたら、怪我だけで済まないかもしれぬぞ。……まさかマーナちゃんまでステラのように強かったりはしないよな?」
 オルランドは話している途中で少し不安になる。ステラの友達なのだから、同じ位強くてもおかしくないと思ったのだ。
「マーナちゃんはつよくないよ? なんで?」
 落ち着いた話し口調だったのに、急に切羽詰まったような声を出すオルランドを、ステラは不思議そうな顔で見つめる。
「そ、そうか……。いや、何でもない。それより、どうなのだ。マーナちゃんが怪我したら、と思わなかったのか?」
 オルランドは心の平穏を取り戻しつつ話も本題に戻した。
「かんがえてなかった……。だいじょうぶって、おもったから」
「そうか。確かに、この辺りにいるモンスターの強さならステラに敵うモノはいないかもしれない。“強さだけ”ならな」
「どういうこと?」
「もし、モンスターがステラの持っている回復薬で治せないを使ってきたらどうするのだ?」
「ど、どく!?」
 ステラは目を見開いて戦慄する。食いしん坊なステラにとって、毒は食べ物をダメにする、最も恐ろしい存在なのだ。
「それに、ステラを弱くしてしまう魔法を使ってくるやもな。今は無事にこうしているが、この先出てこないとも限らぬ」
 オルランドが指を立ててゆっくり言い聞かせる。
「どく……」
 だが、ステラは毒のことで頭いっぱいで、もうそれどころではない。
「故に、無闇に出歩いて危険な事を……。聞いているのかステラ?」
 オルランドはようやく上の空なステラにようやく気が付く。
「おるにゃん!」
「おお!?」
 急に大きな声を出したステラに、オルランドは少し驚いてしまう。
「ステラね、これからはちゃんとする! おそとにでるとき、おるにゃんにいうね! あと、あと、マーナちゃんはつよくないから、もう、まちのおそとであそばない!」
 ステラは覚悟を決め、真剣な面持ちでオルランドに宣言した。
「そ、そうか。……できるなら良いのだ」
 オルランドは圧倒されながらも納得し、ステラの頭を撫でた。
「どく、いやだもんね!」
 ステラは鼻息荒くむくれている。どうやら、毒の存在に憤りを感じているようだ。
「ああ。……ふむ、そうだステラ」
 オルランドはそれをスルーしつつ、ステラに声を掛ける。
「なあに?」
「反省は十分にした。ならばもう、面白くない話をしても仕方ない」
 オルランドは机に置いていたものを手に取る。
「ん?」
 ステラは首を傾げてオルランドを見る。
「ステラ、よくぞ何日間も我慢して待っていられたな。えらいぞ」
「あ、うん! むふふ~」
 ステラはオルランドの手にあるものがアクセサリーだと気付き、思わず笑みがこぼれてしまう。
「では……私が生まれて始めて作った、この貴重なアクセサリーをステラに授けよう!」
 オルランドは姿勢を正す。そして、そのアクセサリーを両手に持ってステラにうやうやしく手渡した。
「ぅぉおお! きれ~……!」
 ステラは目を輝かせてアクセサリーを受け取る。
 半透明の白黄色をした星の装飾が施された、可愛らしい髪留めだった。そして心なしかキラキラと輝いていて、とてもきれいだ。
「気に入ってくれただろうか?」
「うん! これ、頭につけるのだよね? つけて、つけて~!」
 ステラは髪留めをオルランドに渡し、ニヤケ顔で頭を差し出す。
「ふふっ。分かった。さっそくつけてやろう」
「うん!」
「…………よし、できた!」
 オルランドはステラの前髪を優しくかき分け、星がちゃんと見えるように髪留めをつけてあげた。
「どう? かわいい?」
 ステラは頭についている髪留めを手で確認しながらオルランドに訊く。
「ああ。似合っているぞ」
「やた!」
 ステラは満足そうだ。
「その髪留めに魔法を掛けておいたのだが。何かわかるか?」
「わかんない」
「まあ、今の私の実力では大した魔法が使えなかったのが残念だったが……」
 オルランドはそう前置きして続ける。
「まず光の魔法でその星の装飾が少し光るようにした。今は分かりにくいかもしれぬが、夜にでもまた見てみるといい」
 オルランドは昨日魔法が再び使えるようになったが、それは得意な闇魔法ですらまともに使えない程につたないものだった。光魔法に至っては全く使え無かった。
 しかし、オルランドは寝る時間を惜しんで練習し、早朝ようやく弱い光魔法を使えるようになったのだ。
「ほんものみたい!」
「それと、ステラの願いが叶うようにおまじないもしておいたぞ。いつも助けになってくれているからな、ほんのお礼だ」
「ありがと、おるにゃん!」
「おっと!」
 ステラがお礼を言いつつ、オルランドに抱きつく。
 いつもならダメージを受けてしまう抱きつきだが、今回は加減してくれたのかとても優しいものだった。
「…………」
「これ程喜んでくれるとは思わなかった。ステラ、こちらこそ貰ってくれてありがとう」
「…………おるにゃん、やっぱりいいヒトだね」 
 ステラが顔を上げてオルランドに言う。
「そうか? それは良かった」
 オルランドはニヤリと笑う。
「ふふっ。でも、わるいかおしてる!」
「それは元からだ!」
 オルランドは怒るが、少し笑ってしまっている。
「あははっ。あ、そうだ! トニーにもみせびらかしてこないと!」
 ステラは抱きついていた手を離す。
「見せびらかすって……。まあ、いいか。仕事の邪魔だけはしないようにな」
「うん!」
「いってらっしゃい」
 オルランドが手を振る。
「いってきま~す!」
 ステラも手を振って、ゴキゲンで部屋を出ていった。
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