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幼女+紳士さん
50話 ~コンビニトラブルと缶コーヒー~
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夕方頃、ステラはお客さんに商品をオススメしていた。
「このケーキはねえ、くりーむがとってもあまくておいしいから、たべてみて!」
「店員さんのオススメですか?」
「そう、おすすめ!」
「じゃ、買ってみようかな」
「ありがとーござま~す」
ステラは度々こんな風にオススメしていて、お客さんも殆ど買ってくれているのでお店としても大助かりだ。
ステラはお手伝いをする前、お腹が空いたと店内の目ぼしい食べ物を沢山買って、たらふく食べていたのだが、それがこうして役に立っているのだ。
「ありがとうございました!」
オルランドはレジ対応を終えて、比較的爽やかに挨拶をする。
あれから何度も試行錯誤を重ね、何とか怖ろしい印象を取り除く事ができたのだ。
「何かの行事でパートのヒトが一気に休む事になって、初めはどうなるかと思いましたけど、本当に助かりましたね」
少しお店が落ち着いたのを見て、サムが店長に話しかけた。
「そうだね。サム君も優秀だけど、彼らが数か月働く事になったら、バイトリーダーの立場危うくなるんじゃない?」
店長が冗談っぽく言う。
「くぅ~。それ、言っちゃダメなやつですよ。冗談でもあのヒトらだと冗談にならないから!」
複雑な顔でサムが笑う。
「そう? じゃあ、サム君にはもっと頑張ってもらおうかな?」
「ったく。店長はヒト使いが荒いですね! でも、オレ、バイトリーダーで満足しないんで、見ててくださいよ。その内、店長の座とりますから!」
サムがニヤリと笑う。
「お、頼もしいね」
ふたりがこうして話しているその時。
「おい、弁当を手で食えってのか!?」
男性の怒鳴り声が店内に響いた。
「いえ、そうではなく────」
「口答えすんじゃねえ! お前が箸を付けないのが悪いんだろ? なあ、俺間違った事言ってるか?」
どうやら、オルランドがお客さんに絡まれているようだ。
「む? 私が『お箸はお付けしますか』訊いたら、お客様が『何でもかんでも入れるな。ゴミになるだろ』と言ったのではないですか」
「あ? ……そんな事いってねぇ!」
そのお客さんは自分がそんなことを言ったような気もしたが、怒鳴りつけた手前引っ込みがつかず、主張を押し通す事にしたようだ。
「どうかなされましたか?」
店長が慌ててオルランドたちの元に駆け付けた。
「お前は誰だ?」
「わたしはこの店で店長をしているモノです」
「丁度いい。こいつがよ、自分が箸を入れ忘れたくせに、俺のせいにしようとしてんだよ。侮辱したんだよ。どう責任とってくれんだ? 誠意見せてくれんだろうな?」
そのお客さんはニヤケながら言っている。もう、オルランドとは違う意味で悪い顔だ。
「申し訳ございません。ほら、君も謝って」
「……確認が不十分であったことは私の責。申し訳ございませんでした」
ここでトラブルになればお店や店員、紹介してくれたトニー、他のお客さん、それにステラにまで迷惑が掛かってしまう。なので、オルランドは反論したい気持ちを抑えて謝った。
「けっ。“誠意”って言ってんだろ。謝って済むなら、警察や衛兵はいらねえんだよ!」
「では、私に教えて頂けますか? 誠意というものを。この場合、お箸をお渡しして謝罪するのが誠意だと思ったのですが、どうもお客様と私たちでは認識のズレがあるようですので」
オルランドが落ち着いたトーンで言った。
「そんなの自分で考えろ! 俺はな、このコンビニの本部のヒトと知り合いなんだぞ。俺がその知り合いに頼んだら、お前はこの店で働けなくなるぞ、いいのか?」
「…………」
オルランドは何も言わない。『私がここで働くのは今日限りです』なんて言おうものなら、火に油を注ぐようなもの。次に何をしでかすか判らない。
「それにな、お前は俺を侮辱したんだ。警察呼んでもいいんだぜ? げへへ」
お客様、もとい悪い顔の男性は、自分が優位に立ったと思って疑わず、何か金銭的代償を貰えると確信している。
「どうしたの? おきゃくさん、いっぱいならんでるよ」
ステラが怪訝そうな顔でこちらにやって来た。
よく見ると、ステラの言った通り、もうひとつのレジには沢山お客さんが並んでいて、サムが高速でレジをこなしているが間に合っていない。
「なんだ、ガキが。関係ねえやつは引っ込んでろ!」
「かんけいあるもん!」
「はっ。制服着てごっこ遊びか? おままごとは家に帰ってしろや!」
悪い顔の男性はステラを睨む。
「む~! ちゃんと、おしごとしてるよ! さっきもサムとレジしてたけど、こっちにおきゃくさんがいけなくてこまってるから、こっちにきたのに!」
ステラの言う通りサムの横で揚げ物を入れたり、お箸やフォークなどを出したり、売り場で商品が見つからないというヒトを助けたりもしていた。
「もう良いよ。オルランド君レジお願いできる?」
店長がオルランドの胸ポケット辺りをトントンと叩く。
「む? ああ、はい。わかりました」
「おい、逃げんのか? お前がすぐに誠意見せりゃいいんだろが! ほら、店長困ってんぞ!」
レジに入ろうとするオルランドを悪い顔の男性が止める。
「……」
オルランドは流石に怒りを感じながらも、何とか我慢する。
「おい、店長さんもよ、こいつが逃げないように見張っとけ!」
店長も呼び止められてレジに入れない。
「おじさん、みんなこまってるから! おこるなら、ほかのところにして!」
ステラは怒り心頭に至ったみたいで、叫びながら地団駄を踏んでいる。
「ガキは引っ込んでろって言ってるだろ! お前、脳みそないのか? 耳はないのか? 親はどうした、こんなバカみたいなガキ放っておいて、親もバカなんじゃねえの~? こんなのを雇ってる店も店だな、げへへへ」
悪い顔の男が、顔に負けぬ悪い笑いを浮かべて、ステラの肩をベシッと叩く。
「なにするの!?」
「────貴様ぁ!」
その時、迷惑を掛けないように我慢していたオルランドだが、とうとう我慢の限界を超えてしまった。
「なん、だ……。ひぃっ!?」
悪い顔の男性は、オルランドの方を向いて小さく悲鳴を上げた。
「これは、魔王と言われてるのも納得だね……」
店長も引いてしまっている。
何故なら、オルランドは目を禍々しく光らせ、身体から漏れ出た魔力が闇の渦となり、しかも叫びのような音を発しているからだ。
「か、かっこいい……!」
店内の皆は恐がっている。だが、ステラにはとっても好評みたいで、目を輝かせて見入っている。
「侮辱と言うならば、貴様とて同じこと……。箸が無い程度で怒り、金を無心するなど亡者にも劣るわ。迷惑をかけぬ為と下手に出て聞いておれば、好き勝手に喚きおって。それだけに飽き足らず、ステラにまで手を出すとは。到底許される事ではないと知っての狼藉か!」
オルランドの怒りは衰えることなく苛烈さを増していく。
それに呼応するように闇の渦は濃さも勢いも増し、悪い顔の男性を飲み込まんと迫っている。
「な、なんだ、やんのか?」
負けじと食い掛るが、もはや虚勢。悪い顔の男性は、血の気が引いている男性にどんどん変わっていく。
「やる? ふんっ、笑止。本部に知り合いがいるなどと言う仮初めの威を借り、嘘でヒトを貶めようとする外道なぞ、触れるのも汚らわしい」
「今なんつった! もっかい言ってみろ!」
上ずった声で男性は文句を言う。
「貴様には耳と脳みそがないのか? 二度言ってやる義理も無い。ただ、これだけは言っておく」
オルランドが口角を上げた。だが、目は殺気に満ち溢れている。
「なんだ……?」
「すでに警備会社を呼んでおいた。そして、もう来ているぞ。ふんっ、せいぜい己の愚かさを悔やむがいいわ!」
外には警備会社の車が停まっている。胸ポケットに警備会社を呼ぶボタンがあるのだが、オルランドは男性が目を離した隙に押していた。
「は……?」
男性が外を見て狼狽える。
「何とかなった、か……?」
オルランドは少し気が抜けたのか、先程まで大きく成長していた闇の渦は消えてしまった。
「警備会社です。どうされました?」
会社のロゴが入ったミスリルメイルを着たヒトたちが駆け付けた。
「助かりました。こちらの男性に言いがかりをつけられ、誠意とやらを要求されました。それだけでなく、こちらの従業員が暴力を振るわれたんです」
オルランドが警備会社のヒトに軽く説明した。
「いや、俺は、俺は悪くない! こいつらが俺を侮辱したから!」
警備会社のヒトが男性を囲む。
「それは確認したら判る事ですから」
警備会社のヒトが男性を外に連れ出す。
「お、俺は……」
男性は何か言おうとしたが、諦めて力なく連れて行かれた。
「証拠は防犯カメラに写ってるので、確認お願いします」
店長が警備会社のヒトを事務所に案内する。
「あ、オルランド君。時間来ちゃってるけど、少しレジお願いできる?」
「わかりました」
「じゃあお願いね」
「……ステラ怪我は無いか? もうしわけない、手を出される前に止められなくて」
オルランドが無力さに憤りを感じ、ステラに怖い目を合わせてしまった事を謝罪した。
「だいじょぶだよ、おるにゃん。いたくなかったもん。あのね、おるにゃんかっこよかったよ。あの、くろいぐるぐる~ってなってるの」
ステラは無邪気に笑う。
「そうか、ありがとう。これからはこんな事が起こらないようにしないとな。……では、最後のレジ業務をやってしまおうか!」
「うん!」
オルランドとステラは、ぴったり息を合わせてレジをこなした。
それはもう、沢山ならんでしまったお客さんを15分で捌いてしまう程に。
そしてお客さんも減り、警備会社の対応も終わった頃。オルランドはようやく仕事を終える事ができた。
「お疲れ様。オルランド君、ステラ君」
事務所にて、店長がオルランド達から制服を受け取りつつ言った。
「いえ、何だか大ごとになってしまって……。お客さんが減らなければ良いのですが」
「そんなことないよ。ああいうクレーマーを放置する方が客さんは減るんだよ」
「そうなんですか?」
「そう。警備のヒトとかに連れて行ってもらうことでね、このお店は『何かあってもしっかり対応できる』ってなって、安心して買い物してもらえるんだよ」
「ほう」
「ステラ君、怪我はない?」
「ステラはだいじょーぶ。でもね、おじさんのおてて、あかくなってた」
後から判明したことだが、男性はステラを叩いた事で、なぜか手を痛めてしまっていたらしい。
「そ、そう……。でも、もし後からおかしいなってなったら、面倒くさがらずに病院に行って、診断書もらってきてね。治療費とか貰えるだろうし」
「よくわかんないけど、わかった!」
ステラは元気よく返事をした。店長は苦笑いしている。
「私は分かったので問題ありません」
「それは良かった。それと、いっぱい頑張ってくれたからね、その分お給料を増やすのと、ステラ君がお客さんにオススメしてた商品って、先にお店で買ってくれてたのだよね? 試食と言う形で処理しておいたから、お代は返すよ」
「いいんですか?」
オルランドが言う。
「どういうこと?」
「ステラ、お手伝いする前にお弁当とかケーキとか買っていただろう? その分のお金をかえしてくれるそうだ」
「え、そうなの? やた! またごはんたべれるね!」
ステラは喜んでいる。
「じゃあ、また気軽に寄ってね。君たちならいつでも歓迎だから。お疲れさまでした」
「お疲れ様でした」
「おつかれさまれした!」
オルランドとステラは店長にお辞儀をして事務所を出る。
「ステラさん、オルランドさん、お疲れ様! 今日は災難だったね。はい、どうぞ」
サムがオルランドに缶コーヒー、ステラにはリンゴジュースを渡した。
「これは?」「りんご!」
「これくらいしかできないけど、労いの気持ちだよ。またさ、嫌じゃなかったら寄ってって。飲み物くらいなら奢るしさ。今回は暇が殆どなかったけど、話もしたいしさ」
「ありがとうございます」
「サム、ありがと!」
「じゃ、レジにヒト来ちゃったから、いかないと。またね、お疲れ様!」
サムはふたりに手を振った。
「お疲れ様でした」
「おつかれさまれした!」
「……大変で、トラブルもあったが、悪くない職場であったな」
「そだね。おてつだいつかれたけど、てんちょも、サムも、いいヒトだった。また、ここのごはんかおうね!」
「ああ。では、帰ろうか」
「うん!」
こうして、オルランドとステラの、短くも長いコンビニ生活が幕を閉じた。
「このケーキはねえ、くりーむがとってもあまくておいしいから、たべてみて!」
「店員さんのオススメですか?」
「そう、おすすめ!」
「じゃ、買ってみようかな」
「ありがとーござま~す」
ステラは度々こんな風にオススメしていて、お客さんも殆ど買ってくれているのでお店としても大助かりだ。
ステラはお手伝いをする前、お腹が空いたと店内の目ぼしい食べ物を沢山買って、たらふく食べていたのだが、それがこうして役に立っているのだ。
「ありがとうございました!」
オルランドはレジ対応を終えて、比較的爽やかに挨拶をする。
あれから何度も試行錯誤を重ね、何とか怖ろしい印象を取り除く事ができたのだ。
「何かの行事でパートのヒトが一気に休む事になって、初めはどうなるかと思いましたけど、本当に助かりましたね」
少しお店が落ち着いたのを見て、サムが店長に話しかけた。
「そうだね。サム君も優秀だけど、彼らが数か月働く事になったら、バイトリーダーの立場危うくなるんじゃない?」
店長が冗談っぽく言う。
「くぅ~。それ、言っちゃダメなやつですよ。冗談でもあのヒトらだと冗談にならないから!」
複雑な顔でサムが笑う。
「そう? じゃあ、サム君にはもっと頑張ってもらおうかな?」
「ったく。店長はヒト使いが荒いですね! でも、オレ、バイトリーダーで満足しないんで、見ててくださいよ。その内、店長の座とりますから!」
サムがニヤリと笑う。
「お、頼もしいね」
ふたりがこうして話しているその時。
「おい、弁当を手で食えってのか!?」
男性の怒鳴り声が店内に響いた。
「いえ、そうではなく────」
「口答えすんじゃねえ! お前が箸を付けないのが悪いんだろ? なあ、俺間違った事言ってるか?」
どうやら、オルランドがお客さんに絡まれているようだ。
「む? 私が『お箸はお付けしますか』訊いたら、お客様が『何でもかんでも入れるな。ゴミになるだろ』と言ったのではないですか」
「あ? ……そんな事いってねぇ!」
そのお客さんは自分がそんなことを言ったような気もしたが、怒鳴りつけた手前引っ込みがつかず、主張を押し通す事にしたようだ。
「どうかなされましたか?」
店長が慌ててオルランドたちの元に駆け付けた。
「お前は誰だ?」
「わたしはこの店で店長をしているモノです」
「丁度いい。こいつがよ、自分が箸を入れ忘れたくせに、俺のせいにしようとしてんだよ。侮辱したんだよ。どう責任とってくれんだ? 誠意見せてくれんだろうな?」
そのお客さんはニヤケながら言っている。もう、オルランドとは違う意味で悪い顔だ。
「申し訳ございません。ほら、君も謝って」
「……確認が不十分であったことは私の責。申し訳ございませんでした」
ここでトラブルになればお店や店員、紹介してくれたトニー、他のお客さん、それにステラにまで迷惑が掛かってしまう。なので、オルランドは反論したい気持ちを抑えて謝った。
「けっ。“誠意”って言ってんだろ。謝って済むなら、警察や衛兵はいらねえんだよ!」
「では、私に教えて頂けますか? 誠意というものを。この場合、お箸をお渡しして謝罪するのが誠意だと思ったのですが、どうもお客様と私たちでは認識のズレがあるようですので」
オルランドが落ち着いたトーンで言った。
「そんなの自分で考えろ! 俺はな、このコンビニの本部のヒトと知り合いなんだぞ。俺がその知り合いに頼んだら、お前はこの店で働けなくなるぞ、いいのか?」
「…………」
オルランドは何も言わない。『私がここで働くのは今日限りです』なんて言おうものなら、火に油を注ぐようなもの。次に何をしでかすか判らない。
「それにな、お前は俺を侮辱したんだ。警察呼んでもいいんだぜ? げへへ」
お客様、もとい悪い顔の男性は、自分が優位に立ったと思って疑わず、何か金銭的代償を貰えると確信している。
「どうしたの? おきゃくさん、いっぱいならんでるよ」
ステラが怪訝そうな顔でこちらにやって来た。
よく見ると、ステラの言った通り、もうひとつのレジには沢山お客さんが並んでいて、サムが高速でレジをこなしているが間に合っていない。
「なんだ、ガキが。関係ねえやつは引っ込んでろ!」
「かんけいあるもん!」
「はっ。制服着てごっこ遊びか? おままごとは家に帰ってしろや!」
悪い顔の男性はステラを睨む。
「む~! ちゃんと、おしごとしてるよ! さっきもサムとレジしてたけど、こっちにおきゃくさんがいけなくてこまってるから、こっちにきたのに!」
ステラの言う通りサムの横で揚げ物を入れたり、お箸やフォークなどを出したり、売り場で商品が見つからないというヒトを助けたりもしていた。
「もう良いよ。オルランド君レジお願いできる?」
店長がオルランドの胸ポケット辺りをトントンと叩く。
「む? ああ、はい。わかりました」
「おい、逃げんのか? お前がすぐに誠意見せりゃいいんだろが! ほら、店長困ってんぞ!」
レジに入ろうとするオルランドを悪い顔の男性が止める。
「……」
オルランドは流石に怒りを感じながらも、何とか我慢する。
「おい、店長さんもよ、こいつが逃げないように見張っとけ!」
店長も呼び止められてレジに入れない。
「おじさん、みんなこまってるから! おこるなら、ほかのところにして!」
ステラは怒り心頭に至ったみたいで、叫びながら地団駄を踏んでいる。
「ガキは引っ込んでろって言ってるだろ! お前、脳みそないのか? 耳はないのか? 親はどうした、こんなバカみたいなガキ放っておいて、親もバカなんじゃねえの~? こんなのを雇ってる店も店だな、げへへへ」
悪い顔の男が、顔に負けぬ悪い笑いを浮かべて、ステラの肩をベシッと叩く。
「なにするの!?」
「────貴様ぁ!」
その時、迷惑を掛けないように我慢していたオルランドだが、とうとう我慢の限界を超えてしまった。
「なん、だ……。ひぃっ!?」
悪い顔の男性は、オルランドの方を向いて小さく悲鳴を上げた。
「これは、魔王と言われてるのも納得だね……」
店長も引いてしまっている。
何故なら、オルランドは目を禍々しく光らせ、身体から漏れ出た魔力が闇の渦となり、しかも叫びのような音を発しているからだ。
「か、かっこいい……!」
店内の皆は恐がっている。だが、ステラにはとっても好評みたいで、目を輝かせて見入っている。
「侮辱と言うならば、貴様とて同じこと……。箸が無い程度で怒り、金を無心するなど亡者にも劣るわ。迷惑をかけぬ為と下手に出て聞いておれば、好き勝手に喚きおって。それだけに飽き足らず、ステラにまで手を出すとは。到底許される事ではないと知っての狼藉か!」
オルランドの怒りは衰えることなく苛烈さを増していく。
それに呼応するように闇の渦は濃さも勢いも増し、悪い顔の男性を飲み込まんと迫っている。
「な、なんだ、やんのか?」
負けじと食い掛るが、もはや虚勢。悪い顔の男性は、血の気が引いている男性にどんどん変わっていく。
「やる? ふんっ、笑止。本部に知り合いがいるなどと言う仮初めの威を借り、嘘でヒトを貶めようとする外道なぞ、触れるのも汚らわしい」
「今なんつった! もっかい言ってみろ!」
上ずった声で男性は文句を言う。
「貴様には耳と脳みそがないのか? 二度言ってやる義理も無い。ただ、これだけは言っておく」
オルランドが口角を上げた。だが、目は殺気に満ち溢れている。
「なんだ……?」
「すでに警備会社を呼んでおいた。そして、もう来ているぞ。ふんっ、せいぜい己の愚かさを悔やむがいいわ!」
外には警備会社の車が停まっている。胸ポケットに警備会社を呼ぶボタンがあるのだが、オルランドは男性が目を離した隙に押していた。
「は……?」
男性が外を見て狼狽える。
「何とかなった、か……?」
オルランドは少し気が抜けたのか、先程まで大きく成長していた闇の渦は消えてしまった。
「警備会社です。どうされました?」
会社のロゴが入ったミスリルメイルを着たヒトたちが駆け付けた。
「助かりました。こちらの男性に言いがかりをつけられ、誠意とやらを要求されました。それだけでなく、こちらの従業員が暴力を振るわれたんです」
オルランドが警備会社のヒトに軽く説明した。
「いや、俺は、俺は悪くない! こいつらが俺を侮辱したから!」
警備会社のヒトが男性を囲む。
「それは確認したら判る事ですから」
警備会社のヒトが男性を外に連れ出す。
「お、俺は……」
男性は何か言おうとしたが、諦めて力なく連れて行かれた。
「証拠は防犯カメラに写ってるので、確認お願いします」
店長が警備会社のヒトを事務所に案内する。
「あ、オルランド君。時間来ちゃってるけど、少しレジお願いできる?」
「わかりました」
「じゃあお願いね」
「……ステラ怪我は無いか? もうしわけない、手を出される前に止められなくて」
オルランドが無力さに憤りを感じ、ステラに怖い目を合わせてしまった事を謝罪した。
「だいじょぶだよ、おるにゃん。いたくなかったもん。あのね、おるにゃんかっこよかったよ。あの、くろいぐるぐる~ってなってるの」
ステラは無邪気に笑う。
「そうか、ありがとう。これからはこんな事が起こらないようにしないとな。……では、最後のレジ業務をやってしまおうか!」
「うん!」
オルランドとステラは、ぴったり息を合わせてレジをこなした。
それはもう、沢山ならんでしまったお客さんを15分で捌いてしまう程に。
そしてお客さんも減り、警備会社の対応も終わった頃。オルランドはようやく仕事を終える事ができた。
「お疲れ様。オルランド君、ステラ君」
事務所にて、店長がオルランド達から制服を受け取りつつ言った。
「いえ、何だか大ごとになってしまって……。お客さんが減らなければ良いのですが」
「そんなことないよ。ああいうクレーマーを放置する方が客さんは減るんだよ」
「そうなんですか?」
「そう。警備のヒトとかに連れて行ってもらうことでね、このお店は『何かあってもしっかり対応できる』ってなって、安心して買い物してもらえるんだよ」
「ほう」
「ステラ君、怪我はない?」
「ステラはだいじょーぶ。でもね、おじさんのおてて、あかくなってた」
後から判明したことだが、男性はステラを叩いた事で、なぜか手を痛めてしまっていたらしい。
「そ、そう……。でも、もし後からおかしいなってなったら、面倒くさがらずに病院に行って、診断書もらってきてね。治療費とか貰えるだろうし」
「よくわかんないけど、わかった!」
ステラは元気よく返事をした。店長は苦笑いしている。
「私は分かったので問題ありません」
「それは良かった。それと、いっぱい頑張ってくれたからね、その分お給料を増やすのと、ステラ君がお客さんにオススメしてた商品って、先にお店で買ってくれてたのだよね? 試食と言う形で処理しておいたから、お代は返すよ」
「いいんですか?」
オルランドが言う。
「どういうこと?」
「ステラ、お手伝いする前にお弁当とかケーキとか買っていただろう? その分のお金をかえしてくれるそうだ」
「え、そうなの? やた! またごはんたべれるね!」
ステラは喜んでいる。
「じゃあ、また気軽に寄ってね。君たちならいつでも歓迎だから。お疲れさまでした」
「お疲れ様でした」
「おつかれさまれした!」
オルランドとステラは店長にお辞儀をして事務所を出る。
「ステラさん、オルランドさん、お疲れ様! 今日は災難だったね。はい、どうぞ」
サムがオルランドに缶コーヒー、ステラにはリンゴジュースを渡した。
「これは?」「りんご!」
「これくらいしかできないけど、労いの気持ちだよ。またさ、嫌じゃなかったら寄ってって。飲み物くらいなら奢るしさ。今回は暇が殆どなかったけど、話もしたいしさ」
「ありがとうございます」
「サム、ありがと!」
「じゃ、レジにヒト来ちゃったから、いかないと。またね、お疲れ様!」
サムはふたりに手を振った。
「お疲れ様でした」
「おつかれさまれした!」
「……大変で、トラブルもあったが、悪くない職場であったな」
「そだね。おてつだいつかれたけど、てんちょも、サムも、いいヒトだった。また、ここのごはんかおうね!」
「ああ。では、帰ろうか」
「うん!」
こうして、オルランドとステラの、短くも長いコンビニ生活が幕を閉じた。
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