惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい

ねこたまりん

文字の大きさ
10 / 55
第一章 姿なき百の髑髏は、異界の歌姫に魂の悲歌を託す

骨肉の争いに疲れた女皇帝は、純白の屍衣を身に纏う(8)怪しい意訳

しおりを挟む
 強すぎる負の情念を避けて、歌が作られた時点での魂の想念や記憶を探りあて、できるだけ穏やかな形で具現化して、蘇生に導く…

 ビギンズとの話し合いで、今後の和歌蘇生のやり方が見えてきたことから、サラの中で、新たな和歌に向かう意欲が高まった。

「次の歌と意訳を、見せてくれないか」
「壁の修理は、もういいのか?」
「穴は残っているが、ミーノもそんなに不満ではなさそうだし、修理を急ぐ必要もないかと思う」
「みゃーん」

 サラは作業台の茶器などを手早く片付けて、布巾できっちりと拭きあげた。

 ビギンズは、和歌の記された古代紙を、保護ケースから取り出して作業台に起き、その横に意訳をまとめた報告書を並べた。

「『百人一首』という表題のもとにまとめられた歌集の、二番目の歌だ」 

 サラは居住いを正してヒギンズと向き合った。

「今回は、先に意訳を読んでおきたい。歌の魂の強すぎる情念に囚われないために」
「分かった。ただ、意訳が必ずしも歌の内容とは一致しないことだけは、頭に入れて置いてほしい。特に今は、研究班が狂奔しているので、なおさらだ」
「気をつけるよ」

 サラは報告書を手に取った。

………


 一年が、四つの期間に分けられている。

 最初の三ヶ月が春であり、その次に、夏と呼ばれる期間がやってくるのである。

 春の日々は過ぎ去って、夏がきたようであると、私は、儀式用のキメ顔で推測を述べるのである。

 樹木の皮で作った、純白の紙の服が、神の山に干されているという。

 私は見た。
 いや、私は見ていない。聞いたのだ。

 その山は、火の神や太陽の神との繋がりの深い山である。

 太陽の神は洞窟に引きこもり、裸踊りを覗いていた。

 山は、天空から降ってきて、ドジャーンと割れた。

 私のウィステリアの野っ原宮殿から、山は見える。

 純白の衣もはっきりと見える。

 しかし私は、見ていない。伝聞したのだ。

 春が過ぎ去って、夏が来たようだということを、私は伝聞により推測し、そのことを儀式用のキメ顔で述べるのである。
 


………


「…頭がくらくらしてきたんだが」
「気持ちは分かる」

 サラは困惑の表情をビギンズに向けた。
 ヒギンズも小粒の苦虫を噛んだような顔をしている。

「研究班は、何かおかしなものに取り憑かれてはいないのか」

「狂奔はしているが、憑き物のせいでおかしいわけではないだろう。あれは元々だ」

「安心していいのかどうか、わからないな」

「安心できる要素は何一つないが、意訳が全くの見当外れではないのは、間違いない」
「それはそれで、たちが悪いな」
「同感だ」

 サラはため息をつくと、再び意訳に目を向けた。

「純白の衣、というのが、歌の主要な要素なのだろうか。教授はどう思う?」
「意訳の中で、視覚的印象が最も強いのは、それだろうな」
「裸踊りの覗き見と、山が降ってきてドジャーンと割れたというのは…」

 想念を具現化することを考えて、サラは頭が痛くなった。

「その部分なのだが、巫術師の口寄せの内容を取り入れて、そういうことになったらしいのだ」
「そうなのか」

 ヒギンズは、自分の手帳のページをめくって、関連するメモ書きを見つけた。

「歌の中に出てくる山の名前だけに口寄せを行ったところ、山が空から降ってくるイメージが見えたらしい。裸踊りもだな」

「ということは、山の墜落や裸踊りを歌っているわけではないのか」

「私はそう思うのだが、その巫術師を強く信奉する研究者が、ゴリ押しで意訳に盛り込んだようだ」

「なるほど…」

 サラは、口寄せで探るべき想念を決めた。

「とりあえず、純白の服の記憶を探してみるよ」
「それがよさそうだな」



+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

疲れている某女皇帝

「次か? 次こそ出番なのだな!?」

天より智を授かりし皇帝

「そして明かされる黒歴史。ふっ」

首を切られたらしい皇子

「いいじゃないですか、お二人とも。僕なんて、メインでの出番はなしですよ。まあスピンオフに期待しますがね」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

氷の精霊と忘れられた王国 〜追放された青年、消えた約束を探して〜

fuwamofu
ファンタジー
かつて「英雄」と讃えられた青年アレンは、仲間の裏切りによって王国を追放された。 雪原の果てで出会ったのは、心を閉ざした氷の精霊・リィナ。 絶望の底で交わした契約が、やがて滅びかけた王国の運命を変えていく――。 氷と炎、愛と憎しみ、真実と嘘が交錯する異世界再生ファンタジー。 彼はなぜ忘れられ、なぜ再び立ち上がるのか。 世界の記憶が凍りつく時、ひとつの約束だけが、彼らを導く。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。 でも、非力なリコリスには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...