6 / 9
第一章
第3話
しおりを挟む
ポンコツの車から一転、手入れの行き届いたパトカーを走らせる。大病院の住所は知っていたため、思いのほかスムーズに到着した。
車を止め、植物が溢れる道を歩き、病院の入り口の前に立つ。初めて訪れる場所ではあるが、何となく警戒してしまう雰囲気がある。子供心が残っている、という訳では無いと思いたい。
「うわ、広いなぁ……」
病院に入るのは久々だったこともあり、ついそんな風に呟いてしまった。ドラマで見るような清潔感のある院内は患者さんや看護師さんで溢れていた。
「け、警察の者です。あの、エルネスト・リナウド先生は、その、いらっしゃいますか?」
警察手帳を見せつつ受付の女性に旨を伝えると、話が既に伝わっていたためか、即座に奥に通された。しどろもどろになってしまったのは、相手が女性だったからで、警官として未熟だからでは無い。
案内された部屋は応接間。かなりの特別待遇と見ることも、隔離されたと見ることも出来る中々の対応だった。目的の医師は既にソファに腰掛けており、こちらに気づくと颯爽と立ち上がった。
「は、初めまして。ジャンティーレ・マリナンジェーリと申します!」
警察手帳を見せると、彼は物珍しそうにこちらの顔と手帳を見比べている。少しどもってしまったのはその医師が見覚えのある顔だったからである。
少しぼさっとした真っ白な髪。切れ長の赤い瞳。知的で整った顔立ち。間違いない。本来するべき典型的な挨拶の言葉は、頭から抜け落ちた。
「あの、ニュースで拝見しました。手術の成功おめでとうございます」
連続殺人に世間が震える中、唯一明るい話題がある。とある有名な俳優が抱えていた難病が治り、来月には芸能界に復帰するという物だ。
その主治医であり、手術を担当した医師が彼だ。中年ではあるが、ミステリアスな雰囲気や、顔立ちの良さもあいまって、人気が高い。特に3、40代の女性からの人気が高く、女性誌で特集も組まれたという。
「あぁ、あの取材ですね。やたら持ち上げられてしまって、なんともお恥ずかしい話です……」
確か調べによれば、元はこの病院の人間ではなく、設備の都合で一時的にここにいるだけだったはず。手術も終わり、俳優も来月には芸能界に復帰するという事は、彼もここを去るのだろうか。
「あの、この病院にはいつまで?」
情報はなるべく多い方がいい。ならば彼が近くにいるうちに沢山話を聞かなくては。
「あと一週間もしたら別の手術を行うために市外の病院に行かなくてはなりません」
寂しくなります。と、俯き加減に話す彼の表情は曇っていた。さて、気をゆるめる為の雑談はここまでだ。手帳とペンを取り出し、彼の目をじっと見る。
そう、ここに来たのは話を聞くためだけではない。警察は彼を疑っているのである。
理由は彼が第一発見者であること。何故深夜にあの様な廃病院に行ったのか。
そして何より、今回発見された凶器が、『メス』であること。
これらの疑問をぶつけ、たとえ彼が犯人で無くとも何かしらの手がかりを得る。それが、俺に与えられた仕事だった。
車を止め、植物が溢れる道を歩き、病院の入り口の前に立つ。初めて訪れる場所ではあるが、何となく警戒してしまう雰囲気がある。子供心が残っている、という訳では無いと思いたい。
「うわ、広いなぁ……」
病院に入るのは久々だったこともあり、ついそんな風に呟いてしまった。ドラマで見るような清潔感のある院内は患者さんや看護師さんで溢れていた。
「け、警察の者です。あの、エルネスト・リナウド先生は、その、いらっしゃいますか?」
警察手帳を見せつつ受付の女性に旨を伝えると、話が既に伝わっていたためか、即座に奥に通された。しどろもどろになってしまったのは、相手が女性だったからで、警官として未熟だからでは無い。
案内された部屋は応接間。かなりの特別待遇と見ることも、隔離されたと見ることも出来る中々の対応だった。目的の医師は既にソファに腰掛けており、こちらに気づくと颯爽と立ち上がった。
「は、初めまして。ジャンティーレ・マリナンジェーリと申します!」
警察手帳を見せると、彼は物珍しそうにこちらの顔と手帳を見比べている。少しどもってしまったのはその医師が見覚えのある顔だったからである。
少しぼさっとした真っ白な髪。切れ長の赤い瞳。知的で整った顔立ち。間違いない。本来するべき典型的な挨拶の言葉は、頭から抜け落ちた。
「あの、ニュースで拝見しました。手術の成功おめでとうございます」
連続殺人に世間が震える中、唯一明るい話題がある。とある有名な俳優が抱えていた難病が治り、来月には芸能界に復帰するという物だ。
その主治医であり、手術を担当した医師が彼だ。中年ではあるが、ミステリアスな雰囲気や、顔立ちの良さもあいまって、人気が高い。特に3、40代の女性からの人気が高く、女性誌で特集も組まれたという。
「あぁ、あの取材ですね。やたら持ち上げられてしまって、なんともお恥ずかしい話です……」
確か調べによれば、元はこの病院の人間ではなく、設備の都合で一時的にここにいるだけだったはず。手術も終わり、俳優も来月には芸能界に復帰するという事は、彼もここを去るのだろうか。
「あの、この病院にはいつまで?」
情報はなるべく多い方がいい。ならば彼が近くにいるうちに沢山話を聞かなくては。
「あと一週間もしたら別の手術を行うために市外の病院に行かなくてはなりません」
寂しくなります。と、俯き加減に話す彼の表情は曇っていた。さて、気をゆるめる為の雑談はここまでだ。手帳とペンを取り出し、彼の目をじっと見る。
そう、ここに来たのは話を聞くためだけではない。警察は彼を疑っているのである。
理由は彼が第一発見者であること。何故深夜にあの様な廃病院に行ったのか。
そして何より、今回発見された凶器が、『メス』であること。
これらの疑問をぶつけ、たとえ彼が犯人で無くとも何かしらの手がかりを得る。それが、俺に与えられた仕事だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
事故を起こさせない探偵 ―元刑事・天川の未来視事件録
立花 猛
ミステリー
事故は、予測できる。
だが――仕組まれた事故だけは、止められなかった。
過去、未来の断片が視えてしまう刑事・天川。
彼の前に現れる事故は、いつも「偶然」を装って起きる。
だが次第に、そこには“人為的な配置”の匂いが混じり始める。
事故を起こさせる組織。
合理性の名のもとに、犠牲を正当化する思想。
そして、判断を下すことで世界を守ってきた敵組織。
天川は知ってしまう。
この戦いは「悪を倒す物語」ではない。
正しさが人を壊す構造そのものとの対峙なのだと。
刑事として、未来視の能力者として、
天川は“倒さない選択”を選ぶ。
人を裁かず、告発せず、殉教者も生まない――
象徴そのものを成立不能にする、静かな反撃。
事故は起きなくなる。
だが、犠牲が帳消しになることはない。
これは、
未来を見る力を持った男が、
未来に頼らず生きることを選ぶまでの物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる