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ちゃむ

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第一章

第3話

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 ポンコツの車から一転、手入れの行き届いたパトカーを走らせる。大病院の住所は知っていたため、思いのほかスムーズに到着した。

 車を止め、植物が溢れる道を歩き、病院の入り口の前に立つ。初めて訪れる場所ではあるが、何となく警戒してしまう雰囲気がある。子供心が残っている、という訳では無いと思いたい。

「うわ、広いなぁ……」

 病院に入るのは久々だったこともあり、ついそんな風に呟いてしまった。ドラマで見るような清潔感のある院内は患者さんや看護師さんで溢れていた。

「け、警察の者です。あの、エルネスト・リナウド先生は、その、いらっしゃいますか?」

 警察手帳を見せつつ受付の女性に旨を伝えると、話が既に伝わっていたためか、即座に奥に通された。しどろもどろになってしまったのは、相手が女性だったからで、警官として未熟だからでは無い。

 案内された部屋は応接間。かなりの特別待遇と見ることも、隔離されたと見ることも出来る中々の対応だった。目的の医師は既にソファに腰掛けており、こちらに気づくと颯爽と立ち上がった。

「は、初めまして。ジャンティーレ・マリナンジェーリと申します!」

 警察手帳を見せると、彼は物珍しそうにこちらの顔と手帳を見比べている。少しどもってしまったのはその医師が見覚えのある顔だったからである。

 少しぼさっとした真っ白な髪。切れ長の赤い瞳。知的で整った顔立ち。間違いない。本来するべき典型的な挨拶の言葉は、頭から抜け落ちた。

「あの、ニュースで拝見しました。手術の成功おめでとうございます」

 連続殺人に世間が震える中、唯一明るい話題がある。とある有名な俳優が抱えていた難病が治り、来月には芸能界に復帰するという物だ。

 その主治医であり、手術を担当した医師が彼だ。中年ではあるが、ミステリアスな雰囲気や、顔立ちの良さもあいまって、人気が高い。特に3、40代の女性からの人気が高く、女性誌で特集も組まれたという。

「あぁ、あの取材ですね。やたら持ち上げられてしまって、なんともお恥ずかしい話です……」

 確か調べによれば、元はこの病院の人間ではなく、設備の都合で一時的にここにいるだけだったはず。手術も終わり、俳優も来月には芸能界に復帰するという事は、彼もここを去るのだろうか。

「あの、この病院にはいつまで?」

 情報はなるべく多い方がいい。ならば彼が近くにいるうちに沢山話を聞かなくては。

「あと一週間もしたら別の手術を行うために市外の病院に行かなくてはなりません」

 寂しくなります。と、俯き加減に話す彼の表情は曇っていた。さて、気をゆるめる為の雑談はここまでだ。手帳とペンを取り出し、彼の目をじっと見る。

 そう、ここに来たのは話を聞くためだけではない。警察は彼を疑っているのである。

 理由は彼が第一発見者であること。何故深夜にあの様な廃病院に行ったのか。

 そして何より、今回発見された凶器が、『メス』であること。

 これらの疑問をぶつけ、たとえ彼が犯人で無くとも何かしらの手がかりを得る。それが、俺に与えられた仕事だった。
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