ヒロインは悪役令嬢(姉)の恋を応援したい

野部 悠愛

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プロローグ

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皆さんこんにちは
いきなりですが私、転生したようです。
え?意味が分からないって?
それはこちらのセリフです。
明らかに日本人では無い男女に抱かれている私。
どう見ても手は赤ん坊のそれで、
「アリシアはとってもとっても可愛いねぇ~…」
なんて言っている男性もどう考えても私の知っているお父さんでは無いし、呼ばれている名前も私のものではありません。
……そこから導かれる答えを、ライトノベルでよく見かける異世界転生以外に私は知りません。
それに、この父親と思しき男性、どこかで見た気がするのです。
………?そういえば、私の名前……アリシア?
聞き覚えがあるような気がします。
「ふふっ お兄様はアリシアにメロメロですのね。」
そんな男性を見てお上品に笑う母親らしき人ももちろん私の知っているお母さんではありません。
というか、お兄様とおっしゃいましたね。
ということはこの男性は私のお父さんでは無く、おじさんという事ですかね。
少し混乱してきました。誰か状況説明をしてください!
赤ん坊の頭では情報量が多すぎるのか、眠たくなってきました。もういいです。
おやすみなさい。理解し難い状況に、重くなる瞼を閉じて襲い来る眠気に身を任せて現実逃避してしまおうと思います。考えてもわからないですし……Zzz...
_______________________狭い場所、クローゼットでしょうか。
私はそこで身を小さくして隠れ、震えています。
寂しくて、苦しくて、喉が乾いて。
とても怖い。

あぁ、これはあの日だ。頭の片隅で冷静な私が呟きました。
『あの日』何月何日なのか、時間はいつなのか
そんなのは覚えていません。
私、『武内 杏(たけうち あん)』は日本で暮らす高校生で、バイトと家事に追われて過ごしていました。
……なんて、自分語りをする程は覚えていません。
やはり、1度死んだからなのでしょうか?記憶が曖昧です。
でも『あの日』のことだけはしっかりと今、思い出しました。

『あの日』はとても怖かったのです。
あの人、お父さんが帰って来て、珍しく私に笑いかけてくれました。
………ナイフを後ろ手に隠して。
お父さんは言いました。
「なぁ、杏。今までごめんな。一緒に母さんのところに行こうか。」
私は、わけもわからず逃げました。
もちろん、家の中ではすぐに見つかってしまうことくらい私にもわかっていました。
でも、玄関にはナイフを持ったお父さんがいて、横をすり抜けることは出来なかったのです。

足音が近ずいてくる度に震える体を抱きしめて、
息を潜めていました。
「杏、あん。かくれんぼなんて久しぶりだなぁ。」
お父さんは楽しそうに笑いました。
きっと、お父さんは狂ってしまっていたのです。
足音が近づいて来て、ついに私の隠れているクローゼットの前で止まりました。

暗かったところに光がさして、お父さんの顔が見えました。
お父さんは優しく、優しく笑っていました。
それは、私が今まで求めていた笑顔で、
その笑顔でナイフを振り上げるお父さんが怖くて、
それから先は視界が黒くなりました。

あぁ、と私は思います。
きっと、私はこの時に死んだのです。
お父さんの手で、ナイフで刺されて。
_______________________
目を覚ますと先程の見知らぬ男性と女性が微笑ましげに私のことを見ていました。

「アリシア、おきたのかい?おいで。」

男性が私に手を伸ばしました。

怖い。
私は咄嗟にそう思いました。
前世の死んだ時の夢を見て、男性、お父さんに対する恐怖を思い出した私にとっては、自分より大きなこの男性は
もはや恐怖の対象でしかないのです。

お父さんに殺された恐怖の記憶は、
とても強かったようです。
……他のことがあまり思い出せないほどに。

私は大泣きしました。泣いたら余計に酷いことをされるとわかっているのに、赤ん坊になった私には泣くしか気持ちを伝える手段がありません。

「アリシア?どうしたのかしら?先程お乳は飲ませましたのに。……?」
女性が優しく私のことを揺らします。
「アリシア、どうしたの?大丈夫よ、大丈夫。」
お母様がついてるわ
なんて言って女性、もといお母様は優しく微笑みました。
何度も背中を撫でてくれる手は優しくて、
少しずつ落ち着いて、また眠気に瞼を閉じました。
_______________________
「あんちゃん、立てる?」
優しい声と伸ばされる手、
あぁ、そうでした。
苦しいことばかりでも、助けてくれる人は確かにいました。

たった1人だけの私の味方……
でも、名前が、顔が思い出せません。

最期にありがとうと伝えたかったのに。

ねぇ、あなたは誰………?
_______________________
また目が覚めると、
男性とお母様が心配そうに私のことを見ていました。
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