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Liebe guard
05話 武術授業開始
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「ピースキーパー……。おまえ、なにか変な物でも食ったのか?」
信じられない、といった面持ちで少年が座る席の前に立つ数術教士。
アウルはというと、いつものように居眠りをすることなく、鉛筆をノートに走らせていた。
「何でそんなこと聞くんですか?」
「いや、おまえが俺の授業を真面目に受けているのが不思議でならないんだが」
教士として口走ってはいけないことをハミルクが漏らしてしまうほど、真面目に授業へと取り組むアウルというのは珍しいものだったのだ。
「……素直に喜んでくださいよ。あと先生、ここの公式俺まだよく理解できてないんで、教えてもらっていいですか?」
「あ、ああ……」
驚いていたのはハミルクだけではない。
教室にいる50名ほどの他の9修生全員が、アウルの変貌ぶりに言葉を失っていた。
中でも一番驚いていたのが、隣の席に座るライカだった。
青天の霹靂を目撃でもしたかのような、唖然とした表情で親友を見つめる。
「あー、なるほど。先にこっちから解いた方が楽なんですね」
数術教師歴20年を超すハミルクの教え上手のお陰もあり、すらすらと問題を解き、理解を深めていく少年。
ハミルクもその姿を見て気分が高揚したのか、嬉しそうにアウルに語りかける。
「覚えがいいなピースキーパー、やればできるんじゃないか。次は応用問題も教えてやろう」
「いえ、授業の中断になるんで後で個別に聞きに行きます」
ピシャっと遮断するように拒否されたハミルク。
そしてアウルの何とも優等生な発言に、思わず舌を巻いてしまう。
「お、おう……わかった。待ってるぞ」
ハミルクはそれだけを言い残し、教壇に戻って授業を再開させる。
「…………」
教士がその場から離れたのを確認したライカ。
隣に座る友人の方へ上半身だけを寄せ、小声で囁く。
「――お前、ほんとにアウルか?」
「……ライカまでそんなこと言うのかよ」
ノートに向かったまま、アウルが答える。
どうにも納得がいかないライカは、再び聞いた。
「アウルがこんなに真面目に授業を受けてるの、見たこと無かったからさ。いきなりそんなにやる気出すなんて、なんかあったのか?」
「たまたま眠くなかっただけだよ」
そう答えるアウルだが、時折欠伸を我慢する仕草を見せていることから、それが嘘だと言うことは明白であった。
しかし結局ライカはアウルの心境の変化の理由を知ることができず、そのまま数術の授業は終了を迎えてしまったのだ。
◇◆◇◆
午後からは、武術の授業が始まる―――。
ゼレスティアに於ける"武術"の定義とは、体術・剣術・攻撃魔術と、主に戦闘に於ける技術全般の事を指す。
授業を行う場は、一階にある学園内の設備。柔らかい芝生が一面に広がった武術場になる。
ここは血気盛んな年頃の学士達が、いくら好き放題に暴れても問題がないように設計が為されていた。
例えばこの芝生を火術で全て焼き払ったとしても、高度な特殊木術によって生み出された場なので、半日も経てば元通りの姿に戻るとか。
学武術園では、6修生までは前述した3つの武術の基礎的な部分をバランス良く学ぶのが常である。
7修生から卒業までの3年間は、個々の能力に応じて得意な分野を伸ばしていく、といった自主性を尊重させるカリキュラムが組まれていた。
そして30日間に一度だけ、7修生以降の学士の武術の授業は、学園に勤める教士が教えるのではなく、親衛士団第13・14・15団士の3人が特別教士として派遣され、直接武術を教授する、といったものであった。
ただ『教える』というのは飽くまでも建前だ。
親衛士団の3人がわざわざ学園に出向く真の目的は、学士達の中から特別優秀な人材を見極める為の視察、というのが実態。
勿論、学士達もその目的については全員周知をしている。
軍に入隊願望のある学士達にとっては、これ以上にない絶好のアピールチャンスだということも把握済みだ。
そして、かつてのクルーイルのように10代で親衛士団に入団するのを夢に見ている学士も多々いるので、この時間の為に日々研鑽を積んでいたのであった。
「――本日もご教授のほど、よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!!」」
生徒会長であるレスレイ・ケラスタが丁寧な挨拶で深々と頭を垂れると、他の学士達もそれに倣って挨拶をする。
「あー、そーいう堅苦しいのいーからさー、ちゃちゃっと始めちゃってくれよー」
煩わしそうにそう言い、学士達の頭を上げさせようとする男。
長身痩躯で銀髪を後ろで縛った髪型が目立つ彼は、第13団士のサクリウス・カラマイト。
「サクリウス、せっかく丁寧な挨拶をして貰ってるのにあまりそういう言い方をするなよ。彼等だって毎回毎回頭なんて下げたくないだろうし、形式的とはいえ、こうやって敬意を表してくれてるのだから僕達もそれに応えなきゃね。僕が彼等くらいの年齢の頃には~~」
「あーー、コイツの話始まるといつまで経っても授業が始まんねーから無視していーからなー」
唐突に自分語りを始めたサクリウスの隣に立つ男は、濃い緑髪で身長は低く、見た目だけなら学士と並んでも違和感がない程に幼く見えた。
彼の名は、ワインロック・フォーバイト。
序列は第14団士。
「じゃー、みんな適当に散らばってさっさと始めちゃってー!」
パンパンと手を叩き、始業の合図をするサクリウスだが、レスレイがそれを恐る恐る遮る。
「あ、あのぉ……第15団士のオリネイ様の御姿がお見えにならないようですが……?」
「……あれ? なんでいないんだっけ?」
その場にいる学士全員誰もが疑問に思っていた事をレスレイが代弁し、尋ねる。
サクリウスは少しだけ考える素振りを見せ、数瞬の間を置いて思い出す。
「あーーー、そーいえば街でナンパされた男とメシ行ってくる、とかって言われてたんだったわ」
「……はい?」
本業が違うとはいえ、およそ教士とは到底思えない理由での欠席。
その理由を聞いたレスレイを含む学士達は、開いた口が塞がらず。
「っつーわけで、今日は団士2人でお前らのこと見るから! じゃー、みんな適当に開始しちゃってー」
唖然とする学士達を無視し、勝手に授業を開始するサクリウス。
「……その時僕はこう言ったのさ、『君がそのミルクを飲み干す前にこの坂を登りきる!』とね。それを聞いたジェシカは思わず海に飛び込んで~~」
いつまで経っても無駄話を止めないワインロック。
そもそも来てすらいないオリネイ。
「……この人達、相変わらずだなぁ」
ライカがボソッとそう呟いた――。
信じられない、といった面持ちで少年が座る席の前に立つ数術教士。
アウルはというと、いつものように居眠りをすることなく、鉛筆をノートに走らせていた。
「何でそんなこと聞くんですか?」
「いや、おまえが俺の授業を真面目に受けているのが不思議でならないんだが」
教士として口走ってはいけないことをハミルクが漏らしてしまうほど、真面目に授業へと取り組むアウルというのは珍しいものだったのだ。
「……素直に喜んでくださいよ。あと先生、ここの公式俺まだよく理解できてないんで、教えてもらっていいですか?」
「あ、ああ……」
驚いていたのはハミルクだけではない。
教室にいる50名ほどの他の9修生全員が、アウルの変貌ぶりに言葉を失っていた。
中でも一番驚いていたのが、隣の席に座るライカだった。
青天の霹靂を目撃でもしたかのような、唖然とした表情で親友を見つめる。
「あー、なるほど。先にこっちから解いた方が楽なんですね」
数術教師歴20年を超すハミルクの教え上手のお陰もあり、すらすらと問題を解き、理解を深めていく少年。
ハミルクもその姿を見て気分が高揚したのか、嬉しそうにアウルに語りかける。
「覚えがいいなピースキーパー、やればできるんじゃないか。次は応用問題も教えてやろう」
「いえ、授業の中断になるんで後で個別に聞きに行きます」
ピシャっと遮断するように拒否されたハミルク。
そしてアウルの何とも優等生な発言に、思わず舌を巻いてしまう。
「お、おう……わかった。待ってるぞ」
ハミルクはそれだけを言い残し、教壇に戻って授業を再開させる。
「…………」
教士がその場から離れたのを確認したライカ。
隣に座る友人の方へ上半身だけを寄せ、小声で囁く。
「――お前、ほんとにアウルか?」
「……ライカまでそんなこと言うのかよ」
ノートに向かったまま、アウルが答える。
どうにも納得がいかないライカは、再び聞いた。
「アウルがこんなに真面目に授業を受けてるの、見たこと無かったからさ。いきなりそんなにやる気出すなんて、なんかあったのか?」
「たまたま眠くなかっただけだよ」
そう答えるアウルだが、時折欠伸を我慢する仕草を見せていることから、それが嘘だと言うことは明白であった。
しかし結局ライカはアウルの心境の変化の理由を知ることができず、そのまま数術の授業は終了を迎えてしまったのだ。
◇◆◇◆
午後からは、武術の授業が始まる―――。
ゼレスティアに於ける"武術"の定義とは、体術・剣術・攻撃魔術と、主に戦闘に於ける技術全般の事を指す。
授業を行う場は、一階にある学園内の設備。柔らかい芝生が一面に広がった武術場になる。
ここは血気盛んな年頃の学士達が、いくら好き放題に暴れても問題がないように設計が為されていた。
例えばこの芝生を火術で全て焼き払ったとしても、高度な特殊木術によって生み出された場なので、半日も経てば元通りの姿に戻るとか。
学武術園では、6修生までは前述した3つの武術の基礎的な部分をバランス良く学ぶのが常である。
7修生から卒業までの3年間は、個々の能力に応じて得意な分野を伸ばしていく、といった自主性を尊重させるカリキュラムが組まれていた。
そして30日間に一度だけ、7修生以降の学士の武術の授業は、学園に勤める教士が教えるのではなく、親衛士団第13・14・15団士の3人が特別教士として派遣され、直接武術を教授する、といったものであった。
ただ『教える』というのは飽くまでも建前だ。
親衛士団の3人がわざわざ学園に出向く真の目的は、学士達の中から特別優秀な人材を見極める為の視察、というのが実態。
勿論、学士達もその目的については全員周知をしている。
軍に入隊願望のある学士達にとっては、これ以上にない絶好のアピールチャンスだということも把握済みだ。
そして、かつてのクルーイルのように10代で親衛士団に入団するのを夢に見ている学士も多々いるので、この時間の為に日々研鑽を積んでいたのであった。
「――本日もご教授のほど、よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!!」」
生徒会長であるレスレイ・ケラスタが丁寧な挨拶で深々と頭を垂れると、他の学士達もそれに倣って挨拶をする。
「あー、そーいう堅苦しいのいーからさー、ちゃちゃっと始めちゃってくれよー」
煩わしそうにそう言い、学士達の頭を上げさせようとする男。
長身痩躯で銀髪を後ろで縛った髪型が目立つ彼は、第13団士のサクリウス・カラマイト。
「サクリウス、せっかく丁寧な挨拶をして貰ってるのにあまりそういう言い方をするなよ。彼等だって毎回毎回頭なんて下げたくないだろうし、形式的とはいえ、こうやって敬意を表してくれてるのだから僕達もそれに応えなきゃね。僕が彼等くらいの年齢の頃には~~」
「あーー、コイツの話始まるといつまで経っても授業が始まんねーから無視していーからなー」
唐突に自分語りを始めたサクリウスの隣に立つ男は、濃い緑髪で身長は低く、見た目だけなら学士と並んでも違和感がない程に幼く見えた。
彼の名は、ワインロック・フォーバイト。
序列は第14団士。
「じゃー、みんな適当に散らばってさっさと始めちゃってー!」
パンパンと手を叩き、始業の合図をするサクリウスだが、レスレイがそれを恐る恐る遮る。
「あ、あのぉ……第15団士のオリネイ様の御姿がお見えにならないようですが……?」
「……あれ? なんでいないんだっけ?」
その場にいる学士全員誰もが疑問に思っていた事をレスレイが代弁し、尋ねる。
サクリウスは少しだけ考える素振りを見せ、数瞬の間を置いて思い出す。
「あーーー、そーいえば街でナンパされた男とメシ行ってくる、とかって言われてたんだったわ」
「……はい?」
本業が違うとはいえ、およそ教士とは到底思えない理由での欠席。
その理由を聞いたレスレイを含む学士達は、開いた口が塞がらず。
「っつーわけで、今日は団士2人でお前らのこと見るから! じゃー、みんな適当に開始しちゃってー」
唖然とする学士達を無視し、勝手に授業を開始するサクリウス。
「……その時僕はこう言ったのさ、『君がそのミルクを飲み干す前にこの坂を登りきる!』とね。それを聞いたジェシカは思わず海に飛び込んで~~」
いつまで経っても無駄話を止めないワインロック。
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