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Brotherhood
22話 兄と弟②
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学園にある武術場と同様、一面が緑の芝生で覆われているピースキーパー宅の庭。
そこに、二人の兄弟が相見えていた――。
「何が狙いだ、アウル」
先程の怒りがまだ冷めきっていないクルーイルが弟へと訊く。
「特にないよ。ただ兄貴に俺の力を見て貰いたいだけ、かな」
一方でアウルは、深い意味などを含ませずありのままの言葉でそう答えた。
「お前の力を……だと?」
クルーイルは不可解そうな面持ちだ。
そんな彼の疑問に答えるかのよう、アウルは隠し持っていたバンブレードを一本投げ渡す。この時のために学園からくすねてきたのだろう。
左手でそれを受け取ったクルーイルは訝しみながらも手に取って確かめ、ただの木剣だと認識する。
「これを使ってやるのか……? 手合いとやらを」
アウルはニッと笑うと、兄からの問いに答える。
「そうだよ。兄貴も学士時代に武術授業で良くやってたんでしょ? だったら都合がいいじゃん」
「落ちこぼれのお前なんかに俺の相手が務まるとでも思っているのか?」
「やってみなきゃわからないでしょ」
実力を弁えない弟の発言に、クルーイルは苛々とした様子。
しかし、家の中で激昂してた程の怒りではなかった。
更に言えば手合いの提案に少しだけ心が躍ったのか、木剣を手に馴染ませるように二度三度軽く振り、感覚を思い起こそうとすらしていた。
「フ……まあ、いいだろう。それで、勝敗の条件は?」
「“時間無制限のトーナメントルール”で、って言えばわかるよね?」
限られた単語だけで説明されたルール。
だがクルーイルには心当たりがあった。
「……! まだ、あのトーナメントはあったのか」
「あるよ。兄貴の代から始まったんでしょ?」
そう聞かれると、クルーイルは虚をつかれた表情を少しだけ緩める。
「……よく知っているな。じゃあ俺の戦績も知っているのか?」
「"3年間無敗"――だよね?」
「……そこまで知っておいて申し込んできた、ということでいいんだな?」
「当然!」
アウルはそう言うと、左肩を相手方向に向け、右手で木剣を握ったワイドな姿勢で構える。
対するクルーイルは両手で柄を握り、背筋をピンと整えた構えを見せた。
お互いに準備が整い、後は開始の合図だけと言ったところだった。
そこで、唐突にアウルが一つの提案を持ちかける。
「……兄貴、賭けをしてみない?」
「賭けだと……?」
構えを解かずにクルーイルが訝しむ。
「うん。勝った方が負けた方の言うことを何でも一つだけ聞く、ってのはどうかな?」
「……何が狙いなのかさっぱりだが、いいだろう。それで、お前が勝ったら俺に何を言い聞かせるつもりなんだ?」
アウルは少しだけ、躊躇う素振り。
そして、小さな声で呟く。
「――らそう」
「えっ?」
「――これからは仲良く暮らそう、兄貴」
――ああ、そうだったよ。
――俺はコイツのこういうところが心底ムカついてたんだ。
――俺がいくら殴っても、蹴っても、何食わぬ顔で接してきやがって。
「……わかった。お前が"勝ったら"な」
「兄貴は勝ったら何を望むの?」
「さあな。勝ってから考えるさ」
それを聞いたアウルは、軽く深呼吸をする。
いよいよ態勢は整った。
「――じゃあ、開始の合図は」
「いつでもこい」
合図の取り決めを一任されたアウル。
直後、芝生を強く蹴る。
少年の最初の狙いは、左脇腹への水平打ち。
(――初撃は、当てるつもりないんだろ? 狙いは……)
踏み込みの甘さから、クルーイルはアウルの目論みを見破る。
クルーイルの着ているコートを掠めるように空を切った初撃。
そのまま振りの遠心力をふんだんに乗せた回し蹴りが、彼を襲う。
――読み通り。
「……っ!」
アゴ先に向けて放った蹴撃は、あっさりと回避されてしまった。
(フ……いきなり顔面攻撃とはな)
動きと意識の不意をついたつもりでいたアウルだったが、軽々と躱されてしまったことに少しだけ驚く。
しかし、間髪を入れずに続けて次弾を放つ。
今度は短く持った木剣。喉元への素早い刺突を繰り出す。
高速の突きに対しクルーイルは、切っ先を自らの木剣の刀身で冷静に受け流してみせた。
そして突きの勢いを残したまま軽やかに後ろ手に回り込み、延髄へ一撃を叩き込んだ――。
「がっ……は……」
クリーンヒット。
芝生に滑り込むようにアウルが倒れ、痛みに悶える。
「試合なら一本……と言いたいところだが、俺の勝ちでいいのか?」
「……やだ。全然効いてないから有効な攻撃になってないし」
「……涙目になりながら何を言ってるんだお前は」
言われて初めてそれに気付いたアウル。
慌てて起き上がり、目尻を拭ってあくまでも強がりを見せる。
「……まあいい、俺もこの程度でお前を痛め付けたとは思えんしな」
クルーイルは再び両手で柄を握り、構え直す。
それに呼応するかのように、アウルも先程と同じ構えをとる。
「次は俺から仕掛けるぞ」
「……うん」
アウルのその返事と共に、クルーイルは踏み込み――。
(えっ――)
「……見えたか?」
いつものようにリーベ・グアルドを駆使し、寸でで攻撃を躱せるよう身構えていたアウル。
袈裟斬りの方向に放たれていた剣撃は、少年の鎖骨の側に寸でで止められていたのだ。
(み、見えなかった……)
戦慄し、思わず芝生に尻餅をついてしまう少年。
「その反応から察するに、見えてなかったようだな。なぜ見えなかったかお前にわかるか?」
唖然とするアウルは、強がる余裕すら見せることができない。
その質問に対して首を横に振る。
「今のはテクニックでもトリックでもなんでもなく、"俺の攻撃が速くてお前の回避が遅かった"。ただそれだけだ」
「――!?」
(……俺の回避が――遅い?)
告げられた更なる衝撃。
益々と言葉を失ってしまったアウル。
対し、クルーイルは続ける。
「お前はリーベ・グアルドを俺から見て盗み、使いこなしてはいる。しかしそれは結局、学士レベルで通用する代物にしか過ぎない。本当に強い相手、自分の実力を圧倒的に上回る相手との実戦の経験が遥かに不足しているのがお前の現状だ」
「……!」
『――お前みたいな実戦経験がほぼゼロのような奴には――』
クルーイルのその言葉に、昼間サクリウスから言われた事が胸の内で反芻をする。
まさかこの場でも、再度弱点を言い当てられるとは微塵も思っていなかったのだ。
またもや力不足を痛感させられてしまったそんなアウルに、クルーイルは――。
「……もうわかっただろ。お前では俺には絶対に勝つことなんてできない。これ以上続けても無駄だ」
ここまで実力の差を見せ付けられてしまっては、反論の余地は皆無。
「…………」
沈痛な表情で沈黙する弟。
「――だから、俺の言うことを聞いてもらうぞ」
「え……えぇ!? 俺、参ったなんて言って……」
唐突に勝敗を決められてしまい、アウルは驚きの余りようやくと声を発す。
それをクルーイルが怒鳴って遮る。
「いいから良く聞けっ! お前はこれから――」
「――俺の代わりに新衛士団に入れ」
「えっ?」
そこに、二人の兄弟が相見えていた――。
「何が狙いだ、アウル」
先程の怒りがまだ冷めきっていないクルーイルが弟へと訊く。
「特にないよ。ただ兄貴に俺の力を見て貰いたいだけ、かな」
一方でアウルは、深い意味などを含ませずありのままの言葉でそう答えた。
「お前の力を……だと?」
クルーイルは不可解そうな面持ちだ。
そんな彼の疑問に答えるかのよう、アウルは隠し持っていたバンブレードを一本投げ渡す。この時のために学園からくすねてきたのだろう。
左手でそれを受け取ったクルーイルは訝しみながらも手に取って確かめ、ただの木剣だと認識する。
「これを使ってやるのか……? 手合いとやらを」
アウルはニッと笑うと、兄からの問いに答える。
「そうだよ。兄貴も学士時代に武術授業で良くやってたんでしょ? だったら都合がいいじゃん」
「落ちこぼれのお前なんかに俺の相手が務まるとでも思っているのか?」
「やってみなきゃわからないでしょ」
実力を弁えない弟の発言に、クルーイルは苛々とした様子。
しかし、家の中で激昂してた程の怒りではなかった。
更に言えば手合いの提案に少しだけ心が躍ったのか、木剣を手に馴染ませるように二度三度軽く振り、感覚を思い起こそうとすらしていた。
「フ……まあ、いいだろう。それで、勝敗の条件は?」
「“時間無制限のトーナメントルール”で、って言えばわかるよね?」
限られた単語だけで説明されたルール。
だがクルーイルには心当たりがあった。
「……! まだ、あのトーナメントはあったのか」
「あるよ。兄貴の代から始まったんでしょ?」
そう聞かれると、クルーイルは虚をつかれた表情を少しだけ緩める。
「……よく知っているな。じゃあ俺の戦績も知っているのか?」
「"3年間無敗"――だよね?」
「……そこまで知っておいて申し込んできた、ということでいいんだな?」
「当然!」
アウルはそう言うと、左肩を相手方向に向け、右手で木剣を握ったワイドな姿勢で構える。
対するクルーイルは両手で柄を握り、背筋をピンと整えた構えを見せた。
お互いに準備が整い、後は開始の合図だけと言ったところだった。
そこで、唐突にアウルが一つの提案を持ちかける。
「……兄貴、賭けをしてみない?」
「賭けだと……?」
構えを解かずにクルーイルが訝しむ。
「うん。勝った方が負けた方の言うことを何でも一つだけ聞く、ってのはどうかな?」
「……何が狙いなのかさっぱりだが、いいだろう。それで、お前が勝ったら俺に何を言い聞かせるつもりなんだ?」
アウルは少しだけ、躊躇う素振り。
そして、小さな声で呟く。
「――らそう」
「えっ?」
「――これからは仲良く暮らそう、兄貴」
――ああ、そうだったよ。
――俺はコイツのこういうところが心底ムカついてたんだ。
――俺がいくら殴っても、蹴っても、何食わぬ顔で接してきやがって。
「……わかった。お前が"勝ったら"な」
「兄貴は勝ったら何を望むの?」
「さあな。勝ってから考えるさ」
それを聞いたアウルは、軽く深呼吸をする。
いよいよ態勢は整った。
「――じゃあ、開始の合図は」
「いつでもこい」
合図の取り決めを一任されたアウル。
直後、芝生を強く蹴る。
少年の最初の狙いは、左脇腹への水平打ち。
(――初撃は、当てるつもりないんだろ? 狙いは……)
踏み込みの甘さから、クルーイルはアウルの目論みを見破る。
クルーイルの着ているコートを掠めるように空を切った初撃。
そのまま振りの遠心力をふんだんに乗せた回し蹴りが、彼を襲う。
――読み通り。
「……っ!」
アゴ先に向けて放った蹴撃は、あっさりと回避されてしまった。
(フ……いきなり顔面攻撃とはな)
動きと意識の不意をついたつもりでいたアウルだったが、軽々と躱されてしまったことに少しだけ驚く。
しかし、間髪を入れずに続けて次弾を放つ。
今度は短く持った木剣。喉元への素早い刺突を繰り出す。
高速の突きに対しクルーイルは、切っ先を自らの木剣の刀身で冷静に受け流してみせた。
そして突きの勢いを残したまま軽やかに後ろ手に回り込み、延髄へ一撃を叩き込んだ――。
「がっ……は……」
クリーンヒット。
芝生に滑り込むようにアウルが倒れ、痛みに悶える。
「試合なら一本……と言いたいところだが、俺の勝ちでいいのか?」
「……やだ。全然効いてないから有効な攻撃になってないし」
「……涙目になりながら何を言ってるんだお前は」
言われて初めてそれに気付いたアウル。
慌てて起き上がり、目尻を拭ってあくまでも強がりを見せる。
「……まあいい、俺もこの程度でお前を痛め付けたとは思えんしな」
クルーイルは再び両手で柄を握り、構え直す。
それに呼応するかのように、アウルも先程と同じ構えをとる。
「次は俺から仕掛けるぞ」
「……うん」
アウルのその返事と共に、クルーイルは踏み込み――。
(えっ――)
「……見えたか?」
いつものようにリーベ・グアルドを駆使し、寸でで攻撃を躱せるよう身構えていたアウル。
袈裟斬りの方向に放たれていた剣撃は、少年の鎖骨の側に寸でで止められていたのだ。
(み、見えなかった……)
戦慄し、思わず芝生に尻餅をついてしまう少年。
「その反応から察するに、見えてなかったようだな。なぜ見えなかったかお前にわかるか?」
唖然とするアウルは、強がる余裕すら見せることができない。
その質問に対して首を横に振る。
「今のはテクニックでもトリックでもなんでもなく、"俺の攻撃が速くてお前の回避が遅かった"。ただそれだけだ」
「――!?」
(……俺の回避が――遅い?)
告げられた更なる衝撃。
益々と言葉を失ってしまったアウル。
対し、クルーイルは続ける。
「お前はリーベ・グアルドを俺から見て盗み、使いこなしてはいる。しかしそれは結局、学士レベルで通用する代物にしか過ぎない。本当に強い相手、自分の実力を圧倒的に上回る相手との実戦の経験が遥かに不足しているのがお前の現状だ」
「……!」
『――お前みたいな実戦経験がほぼゼロのような奴には――』
クルーイルのその言葉に、昼間サクリウスから言われた事が胸の内で反芻をする。
まさかこの場でも、再度弱点を言い当てられるとは微塵も思っていなかったのだ。
またもや力不足を痛感させられてしまったそんなアウルに、クルーイルは――。
「……もうわかっただろ。お前では俺には絶対に勝つことなんてできない。これ以上続けても無駄だ」
ここまで実力の差を見せ付けられてしまっては、反論の余地は皆無。
「…………」
沈痛な表情で沈黙する弟。
「――だから、俺の言うことを聞いてもらうぞ」
「え……えぇ!? 俺、参ったなんて言って……」
唐突に勝敗を決められてしまい、アウルは驚きの余りようやくと声を発す。
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