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Brotherhood
23話 宿命
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ゼレスティア国、西門前――。
ゲートの外周は水を湛えた堀が周りを囲み、門は高さ6ヤールト余りもあるエボニーの木で造られたものだ。
この門は、堀の向こう岸に渡る際の跳ね橋としての役割も果たしていて、魔物の類いを一切寄せ付けない造りとなっている。
そのため、魔物が国内へと入り込むことが出来るタイミングは門が開いた時しかない。
ほとんどの魔物がそんなタイミングをピンポイントで狙いに来る知能など持ち合わせてる筈がなく、ゲートの内側に無理矢理入り込もうとするには空からでしか為し得ることができなかったのだ。
「――なあ今日の搬入部隊、帰ってくるのが遅くないか?」
門のすぐ側で警備をする兵士の一人が、そう呟く。
「確かに遅いな。いつもだったらもう見えてくるハズなんだが……」
もう一人の兵士が答える。
過去にあった事例に基づけば、搬入部隊の帰還が遅れている理由として考えられるのは『採掘した鉱物や鉄鉱石の量が多く、運搬に時間がかかっている』や『上位の魔物に出くわし、手こずっている』などが挙げられる。
「ビスタ様が搬入任務を担当するようになってからは、ここまで帰りが遅くなることなんてほとんど無かったのにな」
「うむ、それに兵の中でも指折りの実力者であるマックルとケルーンも就いてるし……と、あれは?」
会話の途中で、人影がこちらに近付いてくるのを目撃した兵士。
腰に差してある単眼鏡を構え、覗き込む。
覗き込んだ先には親衛士団第16団士のビスタ・サムエレスが、剣を握ったまま覚束ない足取りで歩いているのを捉えることができた。
「……ビスタ様だ! だが、他の兵士や荷馬車がいないぞ。どういうことだ?」
様々な疑問が兵士二人の頭の中で波打つ。
しかし躊躇っている暇はない、と判断を下した片方の兵士が提案をする。
「取り敢えず、門を降ろそう」
「あ、ああ」
相槌を打った兵士は連絡用の梯子を昇り、内側で門の開閉を担当している待機兵へと合図で開門を促す。
すると、ゆっくりとではあるが巨大な質量を持つ門が大きな音と共に橋として向こう岸に掛かり、西門は開かれたのだ。
「ビスタ様ー! ご無事ですか!」
兵士が駆け足で橋を渡り、ビスタの下へと。
辿り着き、声を掛け身を案じる。
「……無理だ」
「え?」
「あんな魔神、見たことない。みんな……みんなやられてしまった……」
両手で頭を抱えその場に膝をつき、憔悴した様子の団士。
明らかにただ事ではない。そう判断した兵士は、相方の兵士を急いで呼ぶ。
二人はビスタを肩を貸すように運び、ゲートの中に入った後は直ちに門を閉めさせた。
――弱りきったビスタを西門広場に運び終え、兵士が他の兵へと指示を出す。
「ラオッサ街道付近に魔神が現れた! 急いで作戦室にいるバズムント様に伝えてくれ!」
「……わかった!」
「それは、しなくていいよ――」
その言葉を言い終えるかどうかの刹那――
「えっ?」
――兵士二人の鮮血が舞った。
◇◆◇◆
「俺が……兄貴の代わりに?」
「そうだ」
聞き返すも、簡素に答えられる。
(……どうしよう、なんか変な話になってきた。そんなつもりじゃなかったんだけどなあ)
勝敗を勝手に決められ、どんな望みを言われるか想像もつかなかったアウル。
唐突に告げられたその命令とも言える望みに、頭を混乱させる。
それどころか本来は『兄と和解』をするのが目的だったため、手合いもコミュニケーションの手段として提案したものだ。
話の方向がこのような形に拗れてしまうとは、まさかとも思っていなかったのである。
しかしそんなアウルの思惑など兄は知る由もなく、勝者に与えられる権限を存分に行使したまでであった。
「"代わり"って事は、兄貴が抜けた親衛士団に俺が入る、ってこと?」
「そうなるな」
「どうして俺が……」
自分があの集団への入団を将来の選択肢に含んでいる覚えなどなく、動揺を隠せない少年。
だが、兄は語気を強めて更に言い放つ――。
「お前が、ピースキーパー家だからだよ」
「――っ!」
兄からのその言葉でアウルは、ピースキーパー家が名家たる由縁を思い出す。
今までアウルは『名家の落ちこぼれ』という肩書きを背負い、これまで生きてきた。それを本人も自覚はしていたし、そうやって割り切ることで重圧や責任とは無縁の生活を送ることが出来ていた。
しかしたった今クルーイルにそれを告げられた事により、彼の人生で初めて『使命』という名の言葉の重みが、心の中へとのしかかるように襲ってきたのだ。
「兄貴は……もう、親衛士団に戻らないの?」
先程見せた実力であれば、あのサクリウス達とまだまだ肩を並べて戦えるのでは?
アウルはそう思い、話を逸らそうとした。
「……それは、もう無理だ」
しかし、苦笑混じりに答えた兄。
アウルは諦めず、もう一度聞く。
「どうして? 俺なんかより兄貴の方が全然強いんだから、兄貴が戻った方が……」
「お前もサクリウス達から聞いてるなら解ってるかもしれないが、俺は逃げたんだよ。戦いから……」
勿論アウルはその事実を知っていた。
クルーイルが魔神との戦闘で逃亡したのも、親衛士団に敵前逃亡が許されないのも、全てサクリウスから聞き及んでいた上で促していたのだ。
「知ってたよ。でも俺なんかがなるより、兄貴が戻った方が絶対良いって!」
「俺は、怖いんだよ……!」
「えっ……?」
いつも強く勤勉で実直。どんな時でも毅然と振る舞い、学士達から憧れの対象であったクルーイル。
そんな彼が、実弟にすら見せたことのない弱音を初めて見せたのだ。
「魔神達との戦いを思い出すだけで怖くて怖くて堪らないんだよ……! お前にはいつも偉そうな態度ばかり見せてはいるが、俺はもう戦場には戻りたくないんだ……!」
泣き言を漏らすクルーイルの剣を握る手は震えている。
アウルは、これが嘘でも演技でもないということが理解できた。
「頼む、アウル……俺の代わりにピースキーパー家の使命を果たしてくれっ!」
「兄貴……」
兄の初めて見る姿に、かける言葉が見付からない。
それでも自分にその使命は荷が重すぎると感じ、未だ決心することが出来ずにいた――。
ゲートの外周は水を湛えた堀が周りを囲み、門は高さ6ヤールト余りもあるエボニーの木で造られたものだ。
この門は、堀の向こう岸に渡る際の跳ね橋としての役割も果たしていて、魔物の類いを一切寄せ付けない造りとなっている。
そのため、魔物が国内へと入り込むことが出来るタイミングは門が開いた時しかない。
ほとんどの魔物がそんなタイミングをピンポイントで狙いに来る知能など持ち合わせてる筈がなく、ゲートの内側に無理矢理入り込もうとするには空からでしか為し得ることができなかったのだ。
「――なあ今日の搬入部隊、帰ってくるのが遅くないか?」
門のすぐ側で警備をする兵士の一人が、そう呟く。
「確かに遅いな。いつもだったらもう見えてくるハズなんだが……」
もう一人の兵士が答える。
過去にあった事例に基づけば、搬入部隊の帰還が遅れている理由として考えられるのは『採掘した鉱物や鉄鉱石の量が多く、運搬に時間がかかっている』や『上位の魔物に出くわし、手こずっている』などが挙げられる。
「ビスタ様が搬入任務を担当するようになってからは、ここまで帰りが遅くなることなんてほとんど無かったのにな」
「うむ、それに兵の中でも指折りの実力者であるマックルとケルーンも就いてるし……と、あれは?」
会話の途中で、人影がこちらに近付いてくるのを目撃した兵士。
腰に差してある単眼鏡を構え、覗き込む。
覗き込んだ先には親衛士団第16団士のビスタ・サムエレスが、剣を握ったまま覚束ない足取りで歩いているのを捉えることができた。
「……ビスタ様だ! だが、他の兵士や荷馬車がいないぞ。どういうことだ?」
様々な疑問が兵士二人の頭の中で波打つ。
しかし躊躇っている暇はない、と判断を下した片方の兵士が提案をする。
「取り敢えず、門を降ろそう」
「あ、ああ」
相槌を打った兵士は連絡用の梯子を昇り、内側で門の開閉を担当している待機兵へと合図で開門を促す。
すると、ゆっくりとではあるが巨大な質量を持つ門が大きな音と共に橋として向こう岸に掛かり、西門は開かれたのだ。
「ビスタ様ー! ご無事ですか!」
兵士が駆け足で橋を渡り、ビスタの下へと。
辿り着き、声を掛け身を案じる。
「……無理だ」
「え?」
「あんな魔神、見たことない。みんな……みんなやられてしまった……」
両手で頭を抱えその場に膝をつき、憔悴した様子の団士。
明らかにただ事ではない。そう判断した兵士は、相方の兵士を急いで呼ぶ。
二人はビスタを肩を貸すように運び、ゲートの中に入った後は直ちに門を閉めさせた。
――弱りきったビスタを西門広場に運び終え、兵士が他の兵へと指示を出す。
「ラオッサ街道付近に魔神が現れた! 急いで作戦室にいるバズムント様に伝えてくれ!」
「……わかった!」
「それは、しなくていいよ――」
その言葉を言い終えるかどうかの刹那――
「えっ?」
――兵士二人の鮮血が舞った。
◇◆◇◆
「俺が……兄貴の代わりに?」
「そうだ」
聞き返すも、簡素に答えられる。
(……どうしよう、なんか変な話になってきた。そんなつもりじゃなかったんだけどなあ)
勝敗を勝手に決められ、どんな望みを言われるか想像もつかなかったアウル。
唐突に告げられたその命令とも言える望みに、頭を混乱させる。
それどころか本来は『兄と和解』をするのが目的だったため、手合いもコミュニケーションの手段として提案したものだ。
話の方向がこのような形に拗れてしまうとは、まさかとも思っていなかったのである。
しかしそんなアウルの思惑など兄は知る由もなく、勝者に与えられる権限を存分に行使したまでであった。
「"代わり"って事は、兄貴が抜けた親衛士団に俺が入る、ってこと?」
「そうなるな」
「どうして俺が……」
自分があの集団への入団を将来の選択肢に含んでいる覚えなどなく、動揺を隠せない少年。
だが、兄は語気を強めて更に言い放つ――。
「お前が、ピースキーパー家だからだよ」
「――っ!」
兄からのその言葉でアウルは、ピースキーパー家が名家たる由縁を思い出す。
今までアウルは『名家の落ちこぼれ』という肩書きを背負い、これまで生きてきた。それを本人も自覚はしていたし、そうやって割り切ることで重圧や責任とは無縁の生活を送ることが出来ていた。
しかしたった今クルーイルにそれを告げられた事により、彼の人生で初めて『使命』という名の言葉の重みが、心の中へとのしかかるように襲ってきたのだ。
「兄貴は……もう、親衛士団に戻らないの?」
先程見せた実力であれば、あのサクリウス達とまだまだ肩を並べて戦えるのでは?
アウルはそう思い、話を逸らそうとした。
「……それは、もう無理だ」
しかし、苦笑混じりに答えた兄。
アウルは諦めず、もう一度聞く。
「どうして? 俺なんかより兄貴の方が全然強いんだから、兄貴が戻った方が……」
「お前もサクリウス達から聞いてるなら解ってるかもしれないが、俺は逃げたんだよ。戦いから……」
勿論アウルはその事実を知っていた。
クルーイルが魔神との戦闘で逃亡したのも、親衛士団に敵前逃亡が許されないのも、全てサクリウスから聞き及んでいた上で促していたのだ。
「知ってたよ。でも俺なんかがなるより、兄貴が戻った方が絶対良いって!」
「俺は、怖いんだよ……!」
「えっ……?」
いつも強く勤勉で実直。どんな時でも毅然と振る舞い、学士達から憧れの対象であったクルーイル。
そんな彼が、実弟にすら見せたことのない弱音を初めて見せたのだ。
「魔神達との戦いを思い出すだけで怖くて怖くて堪らないんだよ……! お前にはいつも偉そうな態度ばかり見せてはいるが、俺はもう戦場には戻りたくないんだ……!」
泣き言を漏らすクルーイルの剣を握る手は震えている。
アウルは、これが嘘でも演技でもないということが理解できた。
「頼む、アウル……俺の代わりにピースキーパー家の使命を果たしてくれっ!」
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兄の初めて見る姿に、かける言葉が見付からない。
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