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The 3 days
54話 父と子
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ベッドの上、アウルが目を覚ます。
(…………?)
以前にも覚えのない睡眠から目を醒ました事はあった。
ただ今回は、見覚えのある木目の形やシミが天井にある。
此所が病室ではなく、自宅の二階にある自室だということがアウルは直ぐに理解できた。
シングルサイズのベッドの右隣は木造の壁に面している。
その壁に造られた窓から見える空はすっかりと雨が上がり、オレンジに照らされた雲が夕景に彩りを見せていた。
空模様から察するに、意識があった朝から半日近くは眠っていたことになる。
「痛っ……!」
敷き布団の上で寝そべったままの身体を起き上がらせようとするアウル。
昨日に癒えたばかりのものと同様の筋肉痛が再び全身を襲い、思わず顔をしかめた。
しかし、階段を昇り二階へと近付いてくる足音が聴こえてきたことによって、痛がっている場合でないことに気付かされる。
(誰だ――)
臨戦態勢が整わないままアウルは警戒をする。
ガチャリと音をたて、自室の扉が開いた。
「アウル、目覚めたか」
部屋に訪れたのは父――ヴェルスミスだった。
「親父……」
今日帰ってくると解っていながらいざ目の前に立っている姿を見てしまうと、2年振りの再開だ、少年が驚くのも無理はない。
「久し振りだな。体調はどうだ? 意識の方は確かか?」
その言葉を聞き、アウルは意識が無くなる直前までの記憶を遡らせる。
(あれ? そういえば俺、カレリアちゃんを見送った後、親父を待ってた筈なんだけど……確か知らない人がいきなり来て……)
「ヴェルスミス、息子は目覚めたか……って、なんだ。起きてるじゃないか」
アウルの疑問を解消するかのようなタイミングで、シングラルも二階に姿を現す。
魔神化の時は逆立っていたオールバックも、今ではピシッと綺麗にセットし直されていた。
「親父……。このおじさん、誰だっけ」
見覚えのある風貌の男。
朝に出会った筈だがすぐに意識を失ってしまったので、思い出せそうで思い出せない。
「意識はハッキリとしているようだな。コイツの正体は後できちんと教えてやる。だがその前にまずは単刀直入に言わせてくれ――」
部屋中をピリッとした緊張が走る。
アウルが息を呑む。
「――アウル、お前には魔人族の血が混ざっている」
改めて告げられた真実は、既にアウル本人も薄々気付いていた。
苦笑を混じらせ、少年は口を開く。
「……だろうね。で、これから俺はどうなるの? 王宮で監視生活? それとも――」
「――処刑はしない。無論、監視もだ」
息子の思考を読み取ったかのようにヴェルスミス。
遮り、否定し、続けた。
「お前はこれからこの家で俺と共に生活をしてもらう。お前が仮に暴走したとしても、親である俺が全責任を持ち、対処するつもりだ」
「――っ!」
アウルが唖然としたのは、自身に対する措置に関してではなかった。
父親が息子と二人で暮らす――。
何ら珍しい事ではない。
ただ、この家ではそんなありふれた当たり前の事が"当たり前"では無かったのだ。
言い様のない違和感を拭い去ることができなかったアウルは、ベッドの上に立ち上がり堪らず激昂する。
「なんだよそれ……! 今まで兄貴ばかり面倒見てさ……俺の事なんて少しも構っちゃくれなかったクセに……こういう時だけ親父ヅラかよ!」
「アウル……」
この世に生を受け、物心が付き始めてから今日までの十数年。
長い月日の間に溜め続けていた不満が遂に爆発し、叱責の言葉が少年の喉から次々と溢れ出る。
「今日だって帰ってきたのは兄貴が死んだからだろ!? 俺が、魔神族だからだろ!? 親父が今まで見てたのは兄貴や魔神であって……"俺"じゃない……!」
罵倒の勢いは留まる気配を見せなかった。
しかし、正面に立っていたヴェルスミスは唐突に床に膝をつき――。
「おいっ、ヴェルスミス……」
「今まですまなかった、アウル」
シングラルの制止を振り切り、その場に坐したヴェルスミス。
深々と頭を下げ、額を床に添える。
国の精鋭中の精鋭が集う親衛士団の団長――軍のトップに立つ彼が王以外に頭を下げる姿は、長い付き合いを誇るシングラルですら見たことがなかった。
当然、息子であるアウルも目撃したことなどない。
「やめろよ! そんな事したって……!」
「許してもらえるとは思っていない。ただ、謝らせてほしい。俺にはそれしかできない」
「~~~~~っ!」
信念のようなものを感じさせる堂々とした謝罪に、アウルが気圧される。
先程まで散々と溢れ出てきた罵倒の言葉も思い付かなくなってしまい、怒りの行き場を失くした少年は父の胸ぐらを掴む。
起き上がらせ、殴ろうとするが――。
「やめろ!」
「シングラル! 良いんだ」
少年の力強く握った拳をシングラルが掴み制止するが、手を離すようヴェルスミスが語気を荒げて言う。
しかし、アウルは殴れず。
襟を掴んだまま硬直してしまう。
その表情は怒りとも、哀しみともとれた。
「気が済むまで殴ると良い。今のお前にはその権利がある」
「……っ。ぅああぁああああっ!」
ゴンッ、と鈍い音が部屋中に鳴り響く。
しかしアウルの拳が捉えたのは父の顔面ではなく、床板だった。
父の顔を見ると死んだクルーイルの事を思い出してしまい、殴ることが出来なかったのだ。
「なんで……なんで……! 死んだのが兄貴で……なんで親父なんかが生きてるんだよ!」
「……俺も同感だ」
涙を流すことは無かったが、慟哭し、床を何度も殴り続ける少年。
拳の皮がめくれ、血が滲んできても構わず何度も何度も何度も殴る――。
(…………?)
以前にも覚えのない睡眠から目を醒ました事はあった。
ただ今回は、見覚えのある木目の形やシミが天井にある。
此所が病室ではなく、自宅の二階にある自室だということがアウルは直ぐに理解できた。
シングルサイズのベッドの右隣は木造の壁に面している。
その壁に造られた窓から見える空はすっかりと雨が上がり、オレンジに照らされた雲が夕景に彩りを見せていた。
空模様から察するに、意識があった朝から半日近くは眠っていたことになる。
「痛っ……!」
敷き布団の上で寝そべったままの身体を起き上がらせようとするアウル。
昨日に癒えたばかりのものと同様の筋肉痛が再び全身を襲い、思わず顔をしかめた。
しかし、階段を昇り二階へと近付いてくる足音が聴こえてきたことによって、痛がっている場合でないことに気付かされる。
(誰だ――)
臨戦態勢が整わないままアウルは警戒をする。
ガチャリと音をたて、自室の扉が開いた。
「アウル、目覚めたか」
部屋に訪れたのは父――ヴェルスミスだった。
「親父……」
今日帰ってくると解っていながらいざ目の前に立っている姿を見てしまうと、2年振りの再開だ、少年が驚くのも無理はない。
「久し振りだな。体調はどうだ? 意識の方は確かか?」
その言葉を聞き、アウルは意識が無くなる直前までの記憶を遡らせる。
(あれ? そういえば俺、カレリアちゃんを見送った後、親父を待ってた筈なんだけど……確か知らない人がいきなり来て……)
「ヴェルスミス、息子は目覚めたか……って、なんだ。起きてるじゃないか」
アウルの疑問を解消するかのようなタイミングで、シングラルも二階に姿を現す。
魔神化の時は逆立っていたオールバックも、今ではピシッと綺麗にセットし直されていた。
「親父……。このおじさん、誰だっけ」
見覚えのある風貌の男。
朝に出会った筈だがすぐに意識を失ってしまったので、思い出せそうで思い出せない。
「意識はハッキリとしているようだな。コイツの正体は後できちんと教えてやる。だがその前にまずは単刀直入に言わせてくれ――」
部屋中をピリッとした緊張が走る。
アウルが息を呑む。
「――アウル、お前には魔人族の血が混ざっている」
改めて告げられた真実は、既にアウル本人も薄々気付いていた。
苦笑を混じらせ、少年は口を開く。
「……だろうね。で、これから俺はどうなるの? 王宮で監視生活? それとも――」
「――処刑はしない。無論、監視もだ」
息子の思考を読み取ったかのようにヴェルスミス。
遮り、否定し、続けた。
「お前はこれからこの家で俺と共に生活をしてもらう。お前が仮に暴走したとしても、親である俺が全責任を持ち、対処するつもりだ」
「――っ!」
アウルが唖然としたのは、自身に対する措置に関してではなかった。
父親が息子と二人で暮らす――。
何ら珍しい事ではない。
ただ、この家ではそんなありふれた当たり前の事が"当たり前"では無かったのだ。
言い様のない違和感を拭い去ることができなかったアウルは、ベッドの上に立ち上がり堪らず激昂する。
「なんだよそれ……! 今まで兄貴ばかり面倒見てさ……俺の事なんて少しも構っちゃくれなかったクセに……こういう時だけ親父ヅラかよ!」
「アウル……」
この世に生を受け、物心が付き始めてから今日までの十数年。
長い月日の間に溜め続けていた不満が遂に爆発し、叱責の言葉が少年の喉から次々と溢れ出る。
「今日だって帰ってきたのは兄貴が死んだからだろ!? 俺が、魔神族だからだろ!? 親父が今まで見てたのは兄貴や魔神であって……"俺"じゃない……!」
罵倒の勢いは留まる気配を見せなかった。
しかし、正面に立っていたヴェルスミスは唐突に床に膝をつき――。
「おいっ、ヴェルスミス……」
「今まですまなかった、アウル」
シングラルの制止を振り切り、その場に坐したヴェルスミス。
深々と頭を下げ、額を床に添える。
国の精鋭中の精鋭が集う親衛士団の団長――軍のトップに立つ彼が王以外に頭を下げる姿は、長い付き合いを誇るシングラルですら見たことがなかった。
当然、息子であるアウルも目撃したことなどない。
「やめろよ! そんな事したって……!」
「許してもらえるとは思っていない。ただ、謝らせてほしい。俺にはそれしかできない」
「~~~~~っ!」
信念のようなものを感じさせる堂々とした謝罪に、アウルが気圧される。
先程まで散々と溢れ出てきた罵倒の言葉も思い付かなくなってしまい、怒りの行き場を失くした少年は父の胸ぐらを掴む。
起き上がらせ、殴ろうとするが――。
「やめろ!」
「シングラル! 良いんだ」
少年の力強く握った拳をシングラルが掴み制止するが、手を離すようヴェルスミスが語気を荒げて言う。
しかし、アウルは殴れず。
襟を掴んだまま硬直してしまう。
その表情は怒りとも、哀しみともとれた。
「気が済むまで殴ると良い。今のお前にはその権利がある」
「……っ。ぅああぁああああっ!」
ゴンッ、と鈍い音が部屋中に鳴り響く。
しかしアウルの拳が捉えたのは父の顔面ではなく、床板だった。
父の顔を見ると死んだクルーイルの事を思い出してしまい、殴ることが出来なかったのだ。
「なんで……なんで……! 死んだのが兄貴で……なんで親父なんかが生きてるんだよ!」
「……俺も同感だ」
涙を流すことは無かったが、慟哭し、床を何度も殴り続ける少年。
拳の皮がめくれ、血が滲んできても構わず何度も何度も何度も殴る――。
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