PEACE KEEPER

狐目ねつき

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The 3 days

56話 条件

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「――で、親父。具体的にどうやって魔神の血をコントロールすればいいの?」

 アウルは正面に座る父に向けて覚悟と意志の強さを見せ付けると、元の本題へと話を戻した。
 ヴェルスミスはその問いへ答える前に、少しだけ顔を強張らせて聞き返す。

「……アウル。これからのお前は茨の道を歩むことになるぞ、いいのか?」

「魔神化を抑え人間として生活できるよう努力して、いずれはピースキーパー家を継ぐ……。それでいいんでしょ?」

 アウルに課せられた試練と使命。
 どちらも達成は困難だろう。
 しかし、臆したところで突き付けられた現実から逃れる術などない。
 それを悟っていた15歳の少年は、重圧に屈することなく容易く引き受けてみせたのだ。

「簡単に言ってのけてくれるが、どちらも一筋縄では行かないことなのはお前も承知しているだろう? 軽んじた口は慎め、アウル」

「……知ってるよ。でも、やるしかないでしょ」

 食卓を挟んで親子が火花を散らす。
 そのぶつかりあう火花が丁度飛び火するかの如く位置に座っていたシングラル。先程から二人の会話を黙って聞き続けていた男が、ようやく口を開く。

「おいおい、親子同士でそんな険悪になるなって。ヴェルスミス、息子相手に大人げないぞ」

「…………」

 忠告を受けたヴェルスミスは小さく溜め息をつき、黙ったまま食事を再開させる。

「アウリスト、ヴェルスミスはああ見えてお前を心配してるんだ。奴の気持ちも少しは理解してやれ」

「俺の心配なんかより質問に答えて欲しいんだけどね」

 諌めるシングラルを袖にし、アウルは視線を父から逸らさなかった。

「まあ落ち着けよアウリスト、な? 代わりに俺が質問に答えてやろう」

「……わかったよ。そういえばシングラルさんにも魔神の血が混ざってるんだよね」

 手っ取り早さに気付いたアウルは、初対面のシングラルに対し少しだけ親近感が湧いた。
 しかし――。

「そうだな。それと先に言っておくが……アウリスト。魔神の血をコントロールする方法に、明確な手段なんてものは実は存在しないんだ」 

「えっ……」

 早速の手詰まりに、アウルは開いた口が塞がらず愕然としかける。
 ただ、シングラルの面持ちには不思議と神妙さは無かった。

「ははは、そんなに落ち込むなよ。この答えの続きはちゃんとある。明確な手段は無いと言ったが、自分の内に眠る魔神に打ち克てば自然と暴走は起きなくなるんだ」

「自分の内に眠る、魔神……?」

「そうだ。だが、魔神に打ち克つというのは、自己を強く保ち自身の力に自信を持つということだ。その自信を裏付ける実力を備えればいい」

「…………!」

 そこまでの説明を受けてアウルは、ようやく自身のすべき事に気付き確信した。

 ――強くなればいい。

 ただ強くなることだけで魔神に打ち克て、ピースキーパーの名に恥じることなく当主の座を継ぐことが出来る。
 たとえそれまでの道程が険しいとしても、単純明快なその解決策は少年にとって明確な指標と成り得たのだ。

「……まあ、後は物理的に死にかけないことだな。どうやら血を多く流すと、魔神の血はマナを大量に発生させて一気に血管中を駆け巡るらしいんだが――」
「――ありがとう、シングラルさん。良くわかったよ」

 これ以上は必要ないとでも言わんばかりに遮り、アウルは礼を告げた。
 少年は希望に満ちた笑みを浮かべている。

「まだ説明の途中なんだが……まあいいか。ピースキーパーの血が流れるお前ならきっと打ち克てる筈だ。頑張れ」

 シングラルが優しい口調で励ます。
 彼からの助言を真摯に受け止めたアウルは、再び父へと――。



「親父、お願いがあるんだけど、いいかな?」

 食事を終え、ナプキンで口を拭うヴェルスミスがアウルの呼び声に反応を示す。

「……聞いてやる。言ってみろ」



「今日から卒業までの間、俺は今より必ず強くなって、魔神の血をコントロールして、ピースキーパー家を継ぐと約束する。だから……俺を親衛士団に入れてほしい」

 力強く宣言し、要求をする少年。
 その要求はかつてのクルーイルが自身に要求した内容と一致していた。
 アウルは、兄との約束を忘れていなかったのだ。


「フ……お前からそんな言葉を聞けるとはな。いいだろう――」

 願うアウルに対し、ヴェルスミスは微笑む。
 締まった表情を見せていたアウルも、笑顔が綻びかけるが。

「――とでも言うと思ったか? 今のお前の実力で親衛士団の任務に就くのは自殺行為に等しい。それは無理な要求だ」

「なんだよそれ……」

 期待をさせられてからの、一気に地へ叩き落とされる感覚。
 アウルはがくりと肩を落とす。
 しかし、お構い無しにヴェルスミスは続けた。

「……力を見てやる。お前が学園を卒業した後。軍に入隊し、俺が充分だと思ったレベルにまで成長を見せた暁には親衛士団への入団を許可することを約束しよう」

「…………!」

 条件を付けた入団許可は、少年の沈みかけていた心を再びと浮かび上がらせた。

「半年後にはウェリーム大森林で大規模な魔神掃討作戦が控えている。その時点では新兵に過ぎないお前も、特別に同行を許す。そこでお前の成長の証を見せてみろ」

「――っ!」

 魔神との戦闘に新兵を引き連れるという異例の措置。
 その提言に対しシングラルが驚き、顔を強張らせる。

(……いいのか。ヴェルスミス)

 目標に向けて奮い立つアウルを横目に、シングラルが唇だけを動かして疑問を唱える。
 口の動きだけで言葉を読み取ったヴェルスミスも、アウルに悟られないよう同じく唇を動かす。

(いずれピースキーパー家を継ぐんだ。修羅道は早い内に歩ませるべきだ)

 非情ともとれるその判断。
 納得が行かない様子のシングラルだが、名家の"教育方針"に口を挟む義理は無かったので追及を喉奥にしまい込む――。


◇◆◇◆


「――ごちそうさまでした。親父、俺さっそく外で剣でも振ってくるよ。少しも時間無駄にしたくないしさ」

 食事を終えたアウルはそれだけを伝え、返事を待たずにドアの無い玄関を飛び出して行った。

「…………」

 筋肉痛など何のその。
 ひたむきに取り組む息子の姿。
 それを見たヴェルスミスが、思わず感傷に浸ってしまう。


「……シングラル、すまないがアウルに付き合ってやってくれないか。無理が祟らない程度に見張ってくれるだけでいい」

 ソファーに腰掛けていたヴェルスミスが、食器を片付けるシングラルに頼む。

「別に構わないが……ヴェルスミスは?」

「俺は……少し疲れたから一人にさせてくれ。片付けはやっておく」

 彼はソファーにそのまま寝転び、手の甲で目元を隠す。

「……了解」

 シングラルはそれだけで悟り、気を利かせ庭へと向かった。


 リビングに一人残ったヴェルスミス。
 自身よりも先に逝ってしまったクルーイルを思い、一人で静かに涙を流した。
 庭で剣を振るアウルを見ているとかつての長男の姿が脳裏を過ったのだろう。


 ――我が子が死んで悲しまない親なんていない。

 それは戦士として気高く生きてきたヴェルスミスも例外ではなく、息子の死を平等に悲しみ、悼んだ――。



 その後、シングラルは夜分遅くまでアウルの訓練に付き合い、朝には帰宅した。

 そして次の日からはアウルが強くなるための、ヴェルスミスによる本格的な訓練が始まった。
 基礎体力作りに始まり、体術による組み手、木剣を用いての手合いなど――。
 かつてのクルーイルへ行ったように、ありとあらゆる戦闘の技術を我が子へと叩き込む父、ヴェルスミス。
 学園に登園する事は許されなかったため、一日中ひたすら訓練に打ち込む息子、アウル。

 お互いに笑顔はほとんど見せることなく、必要以上の会話をすることはなかった。
 しかし黙々と訓練を続けた結果、二人の間には奇妙な信頼感が芽生え始める。
 それによってアウルが抱えていた親に対する遺恨も、少しずつではあるが薄れていったようだ。


 そして時は流れ――。
 月日が経ち、迎えた卒業式の日。
 この日はアウルが登園を許された唯一の日だった。
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