PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Peacekeeper

57話 別れではなく、旅立ち

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 一生に一度の晴れ舞台にも関わらず、本日の空模様は曇天と生憎の天気となってしまった。
 しかし運に恵まれたのか雨だけは一粒も降らず、会場となっていた武術場では滞ることなく式が執り行われた。

 卒業生達の巣立ちを見送る担い手となったのは、来賓した学士達の親御に加え、学園理事長と授業を担当した教士数人。それと、一つ下の学年である8修生全員が式に出席をしていた。
 それぞれの代表者が一人ずつ表に立ち、祝辞・訓辞・送辞を読み上げる。
 その後は卒業生を代表して、学術で9年もの間学年トップの成績を貫いたレスレイ・ケラスタが、答辞を返した。

 トラブルに見舞われる事なく迎えた式の終わりには、学園長から卒業認定書を一人ずつに手渡される。
 最後の一人が受け取ったところで、開園してから二百年以上の歴史を誇る『学武術園』の今年度の卒業式は全てのプログラムを終了し、幕を下ろした。



 式と同時に学園生活を終えた五十名弱の9修生全員は、一人一人に差異はあれど十年近く共に過ごしてきたクラスメートとの別れを惜しみ、悲しんだ。
 しかし涙を流す者は一人も現れず、各々が過去にしがみつくことなく自身の未来を見据え、人生の新たなるステージへと旅立つ挨拶をクラスメートに済ませていたのだった。
 そんな中――。



「……お、来たぞ。アウルー!」

 自身の性格を表すような明るい金色の髪と、眼鏡がトレードマークの少年。ライカート・ハーティスが、廊下と繋がる入り口に姿を表したアウルに向けて、大声で呼び掛けた。

「あ、ホントだ。アウルーー!」

 ライカが呼んだことで気付いた赤髪の少女。
 ピリム・ネスロイドも続けて呼び声を発す。
 周りに居た学士達も二人が呼んだ名前に反応を示し、視線のフォーカスを武術場の入り口へと向ける。

「おい、あれ見てみろよ……」
「ああ、本物だ……!」

 学士達は口々にざわめき、先に入り口へと駆けて行ったライカとピリムの後を追う。
 三ヶ月以上も学園を欠席していたアウルは、頻繁に会っていたライカ以外とは久々の顔合わせだ。
 苦楽を共にした学友との再開に、喜びを馳せた。

「みんな、久しぶり――」

「サクリウス様だーー!」
「カレリア様もいるぞおおお!」

 数十人余りの学士の群れは、アウルの両脇を通過。
 少年の後ろに立っていた親衛士団の二人の方へと、一目散に直進して行ったのだ。

「だーかーら、ココには来たくなかったんだっつーのっ!」

 真紅のスーツに身を包んだサクリウス・カラマイト。
 学士達に囲まれ、嫌々とした表情を浮かべる。

「ヴェルスミスが来たらもっと騒ぎになるんだから仕方ないでしょ? あ、学士の皆さんごきげんよう。みんなのカレリアちゃんだよー! 今日は卒業おめでとー!」

 銀髪の団士を諭しつつ、学士に囲まれながらも器用な応対を見せるカレリア・アネリカ。
 新調したパーマと赤いフレームの眼鏡、パリッとした着立ての良い薄桃色の礼服を着こなしての来園だった。


「まあ、そうなるよねー」

 団士の登場で賑わう人だかりを背に、乾いた笑顔の少年。
 先程カレリアが言ったように、実父であるヴェルスミスが来なかった理由は言わずもがなだろう。
 ただサクリウスとカレリアが親御として参列したのは、世話になった二人に自身の晴れ姿を見届けてもらいたいというアウルたっての希望を、ヴェルスミスが聞き入れた形となったのだ。
 ――ちなみに遅れて到着したのは、カレリアの身支度(主に化粧)に時間が掛かってしまったからだった。


「よっ、ちっとも似合ってねえな。その服」

 悠々と親友へ歩み寄り、ライカ。

「ライカこそ、全然似合ってないじゃん」

 この日の為に学園から一律に支給された藍色の礼服を着込み、見慣れないお互いの姿を指差し笑い合う二人。

「遅いわよ、もう……! ほんと最後の最後までだらしがないわねぇ」

「いいじゃないピリム。主役は遅れて登場するのがセオリーってものでしょ? ね、アウルくん」

 やれやれと言った表情のピリムと、それを笑顔で宥めるアイネ。

「遅れちゃってごめん。でも、二人とも相変わらず元気そうで良かったよ」

 来賓した団士二人に対し反応を示さなかった数人が、続々とアウルの元へと集う。

「やあ、アウルくん。ライカくんから聞いたけど魔神に襲われて入院してたんだってね。身体の方はもう大丈夫なのかい?」

 瓶底のようなレンズの眼鏡をかけたレスレイが、声を掛ける。

(……あ、そっか。そういう設定だったんだっけな)

 アウルが休学していた理由は公に出来なかったため、直接理由を説明したピリム・アイネ・ライカの三人には口裏を合わせるよう、嘘の情報をクラスメートや学園側に伝達させていたのだ。

「ああ、もう大丈夫だよ。レスレイ」

「それなら良かった。お兄さんの事は……僕も残念でならないよ。でもまずは、君が無事で何よりだ」

 素直な気持ちで無事を祝うレスレイ。
 彼はかつて、武術授業で起きた一件でアウルを敵視したこともあった。
 しかし、自身が心酔して止まなかった親衛士団を相手取り果敢に立ち向かう少年の姿を見て、レスレイは武を志していた一人の戦士見習いとしてアウルに畏敬の念を抱くようになっていたのだ。

 そして、その念を抱いていたのはもう一人居た――。



「――よう、アウリスト。長い入院生活で身体の方がなまっちまってんじゃないだろうなあ? 今なら俺にも勝てないんじゃないのか?」

 狐のように切れ長の目。
 サクリウスにでも憧れているのか、同じ箇所で縛った長い黒髪。
 憎まれ口を叩きながらアウル達の前に現れた少年は、レスレイと同様かつてアウルをライバル視していた、パシエンス・ガイネスだった。

「げっ、面倒くさいのが来やがった。アウル、あっち行こうぜ」

「ライカートは黙ってろ! アウリスト、俺はな。お前に敗れたあの日から血の滲むような特訓を重ね続け、遂には栄えあるゼレスティア軍への入団内定を勝ち取ったのだ! どうだ、恐れ入ったか?」

 鼻高々とそう言ってのけた少年へ、アウルの代わりにピリムが言葉を返す。

「なによ。そんなんで自慢しちゃってバカみたい。内定だったらアタシも貰ってるわよ」

「あ、実は私も~」

 ピリムに続くように、アイネも元気良く手を高く挙げる。

「何イィッ!?」

 二人の少女が容易く言い放ったことでパシエンスは仰天し、茫然としてしまう。
 と、そこでライカが思い出したように焦りを見せる。

「そういえばアウル……お前進路はどうすんだよ? ずっと休学してたからどこも斡旋してもらってないんじゃ……」

「ああ、その事なんだけど……言うのすっかり忘れてた。実はもう、俺も軍に内定もらってるんだよね……」

「何イイイィッ!?」

 更に大きな驚声。
 パシエンスが遂に打ちのめされる。

「え、マジで……? ずっと欠席してたのにどうして?」

 目をぱちくりとさせ、疑問を口にするライカ。
 するとアウルは栗色の髪をポリポリと掻き、赤面させた表情を覗かせながら真相を語り出す。

「いや、その……なんだ。ライカが前に言ってた親父のコネ……で、なんだけど、さ……」

 力ない語尾で恥ずかしそうに話すアウル。
 その姿を見てライカは顎が外れでもするのではないか、といった具合に大爆笑をする。

「笑うなよ……! 仕方ないだろ……そうするしかなかったんだから」

「ガハハハハハハ……! ゴメンゴメンそうだよな、事情があるもんな! でもゴメンやっぱ笑わせて……ガハハハ――」

 アウルは握り拳を少しだけ固め、腹を抱えるライカの脳天に振り下ろす。
 痛みに打ち震えたのち、逆上を見せたライカに対し、興奮した馬を宥めるかのように取り抑えたのはピリムとレスレイ。

「ふふっ……。なんだ、そういうことだったのか! 驚かせやがって」

 真相を知ったパシエンスは、すっかり自信を取り戻し、再び不敵な笑みを覗かせていた。

「じゃあ、次に会うときは王宮の訓練場だな。その時に改めてリベンジをしてやるから首を洗って待ってろよ、アウリスト!」

 鼻っ面にビシッと指を差し、そう宣言した狐目の少年。


「うん、いつでも待ってるよ。パシエンス・・・・・

「――!!」

 指を差したポーズのままパシエンスは呆気にとられ、硬直。
 まさか自身の名前を呼んでもらえるとは思ってもいなかったようだ。

「……どうしたの? まあいいや、俺たちそろそろ帰るから、じゃあね」

 挙動が固まったままのパシエンスに対し、訝しむアウル。

「アウルくん、またいつか。僕とはしばらく会えないと思うけど……達者でね」

 ライカを落ち着かせることに成功したレスレイが、アウルへと再び歩み寄り別れを告げる。
 意味深に聞こえたその別れに、アウルは首を傾げた。

「どういうこと? レスレイも国軍志願じゃ……?」

「僕は、元々武術の方の成績はあまり良くなかったからね……。だから、せっかくなら他の卒業生よりもちょっとだけ優れた学力を活かして、そのまま"学術士"を目指そうと進路を切り替えたんだ。それに――」

「それに?」

「パシエンスや君達だったらこの国の平和を必ず維持できると思って、託したのさ」

 この国を守り続けてきた一族として生まれながら背負ってきた家柄に対する期待ではなく、個人に向けられたその想い。アウルの心が揺れ動く。


「レスレイ、任せて。この国は俺が絶対に守るよ」

 別れの握手を固く交わし、アウルは誓った。
 その誓いは、自分に言い聞かせるように、力強く響いた。


「あ、晴れた――!」

 アイネが雲の切れ間から顔を覗かせた太陽を指差す。
 次の瞬間、まるで彼女が指で操っているかの如く、灰色の雲はみるみると去っていく。
 次第に空は晴れ間を覗かせ降り注ぐ温かな日の光は、それぞれの道を歩み旅立っていく少年少女達の門出を祝福するように、武術場を照らし続けていた。



 ――卒業生への式辞で、誰かが言っていた。

『卒業は別れを惜しむものではなく、旅立ちをしゅくし合い、旅路の果てで再開を約束するもの』だと。

 その言葉を誰もが信じ、誰もが涙を流さず帰路につくのが、学武術園で行われる卒業式の伝統であった――。


◇◆◇◆


「もしかして……私達、完全なる出オチ?」

「だーかーらっ、ココには来たくなかったんだっつーの!」

 ――日が暮れるまで学士達に囲まれ、その日一日を終えた団士二人。

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