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第二部 〈有害の天使は嗤う〉
序幕 或る魔神の独白
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炎が焼き尽くしていく。
逃げ場を探し、生き延びようと足掻く生存本能もろとも。
炎が焼き尽くしていく。
救いに跪き、涙を流す無力な祈りもろとも。
辺りに広がるは、異形の者達による殺戮。
少し離れた小高い丘の上から、その光景を眺めるヒトの形をした人ならざるもの。
◇◆◇◆
何故、我らはヒト族を殺し続けるのか。
私の同胞に訊くと皆、口を揃えてこう言う。
『この大陸は我らのモノだ。それを守っているだけだ』と――。
ヒト族の有史は精々1600年が良いところ。
我らは三千年以上も前からこの大陸に根を下ろし、種族を繁栄させ、穏やかに暮らしていた。
――それだけなら良かったのだが、知らぬ間に他の大陸ではヒト族が文化を築き、我らがひっそりと暮らしていたこの大陸へと攻め入り同胞を殺したのが今日まで続いてる争いの発端だ。
この大陸には私達の血肉となる『力の源』が溢れ返る箇所が、各地に点在している。
力の源は私達に力を与え、生命を永らえさせてくれる。
私達の種族に"寿命"という概念は存在しないのだが、周期的にその力の源から発する光を浴びなければやがて死に、大気へと還るのだ。
ヒト族はその力を"マナ"と呼び、我らの安寧を虐げてでも、力を手に入れようとしてくる。
故に争いが起き、種の存続を守るため、我らは戦っているのだ。
同胞を殺され怒りに打ち震えた我らは見せしめとして、千年を費やして他の大陸に住むヒト族を全て葬り去った。
奴等は脆く、弱く、生まれて間もない赤子をあやすかの如く手を加えるだけであっさりと死に至ったのだ。
だが現在では何万分の一まで減ったヒト族は、知恵を振り絞った末、忌々しい巨壁を建造しここ300年は私達から逃げ隠れるように巨壁の中で生活を続けた。
それからの奴等は愚かにも同じ種族間で狭い領土を奪い合い、破滅の一途を辿るかに見えた。
が、我らを『魔神族』と呼び忌み嫌うことで、手に手を取り合い団結し再び牙を剥かせたのだ。
奴等の文明の進化速度は我らの想像を遥かに越え、ここ何十年かは劣勢を強いられているのが現状。
――ただ、その気になれば我らはヒト族なぞ簡単に根絶やせる力を持っているのも事実。
その結果が、今私の目の前に広がる火の海である。
しかし、私は時々思うのだ。
この争いの果てになにが残るのか?
共生の道は歩めないのだろうか?
そう疑問の渦に、私は悩み馳せるのだが
「……居たぞ。まさかこんな駐屯地の村にまでお出ましとはな」
ヒト族を相手取り
「俺達ガストニアの騎士を舐めてもらっちゃ困るな。村を襲った下位、中位魔神は全て殺った。後はお前だけだ……!」
向かってくる敵を
「死ねぇっっ!」
殺める度に
「っ……!」
全身が快感を包み、その考えは過ちだといつも気付かされる。
ヒトの命を絶つ瞬間というものは尊く、儚く、選ばれた私達にしか許されない行為なのだ。
ならば喜んで引き受けて見せよう。
この大陸が再び我らのモノになるまで。
私は殺し続けよう。
返り血の雨を浴びた私は、意図せず零れた笑顔のまま、踵を返した。
逃げ場を探し、生き延びようと足掻く生存本能もろとも。
炎が焼き尽くしていく。
救いに跪き、涙を流す無力な祈りもろとも。
辺りに広がるは、異形の者達による殺戮。
少し離れた小高い丘の上から、その光景を眺めるヒトの形をした人ならざるもの。
◇◆◇◆
何故、我らはヒト族を殺し続けるのか。
私の同胞に訊くと皆、口を揃えてこう言う。
『この大陸は我らのモノだ。それを守っているだけだ』と――。
ヒト族の有史は精々1600年が良いところ。
我らは三千年以上も前からこの大陸に根を下ろし、種族を繁栄させ、穏やかに暮らしていた。
――それだけなら良かったのだが、知らぬ間に他の大陸ではヒト族が文化を築き、我らがひっそりと暮らしていたこの大陸へと攻め入り同胞を殺したのが今日まで続いてる争いの発端だ。
この大陸には私達の血肉となる『力の源』が溢れ返る箇所が、各地に点在している。
力の源は私達に力を与え、生命を永らえさせてくれる。
私達の種族に"寿命"という概念は存在しないのだが、周期的にその力の源から発する光を浴びなければやがて死に、大気へと還るのだ。
ヒト族はその力を"マナ"と呼び、我らの安寧を虐げてでも、力を手に入れようとしてくる。
故に争いが起き、種の存続を守るため、我らは戦っているのだ。
同胞を殺され怒りに打ち震えた我らは見せしめとして、千年を費やして他の大陸に住むヒト族を全て葬り去った。
奴等は脆く、弱く、生まれて間もない赤子をあやすかの如く手を加えるだけであっさりと死に至ったのだ。
だが現在では何万分の一まで減ったヒト族は、知恵を振り絞った末、忌々しい巨壁を建造しここ300年は私達から逃げ隠れるように巨壁の中で生活を続けた。
それからの奴等は愚かにも同じ種族間で狭い領土を奪い合い、破滅の一途を辿るかに見えた。
が、我らを『魔神族』と呼び忌み嫌うことで、手に手を取り合い団結し再び牙を剥かせたのだ。
奴等の文明の進化速度は我らの想像を遥かに越え、ここ何十年かは劣勢を強いられているのが現状。
――ただ、その気になれば我らはヒト族なぞ簡単に根絶やせる力を持っているのも事実。
その結果が、今私の目の前に広がる火の海である。
しかし、私は時々思うのだ。
この争いの果てになにが残るのか?
共生の道は歩めないのだろうか?
そう疑問の渦に、私は悩み馳せるのだが
「……居たぞ。まさかこんな駐屯地の村にまでお出ましとはな」
ヒト族を相手取り
「俺達ガストニアの騎士を舐めてもらっちゃ困るな。村を襲った下位、中位魔神は全て殺った。後はお前だけだ……!」
向かってくる敵を
「死ねぇっっ!」
殺める度に
「っ……!」
全身が快感を包み、その考えは過ちだといつも気付かされる。
ヒトの命を絶つ瞬間というものは尊く、儚く、選ばれた私達にしか許されない行為なのだ。
ならば喜んで引き受けて見せよう。
この大陸が再び我らのモノになるまで。
私は殺し続けよう。
返り血の雨を浴びた私は、意図せず零れた笑顔のまま、踵を返した。
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