PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Insight Inside

17話 資質と能力

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「あ、やっぱココに来てたんすね! お疲れーっす!」

 左右の扉が内にも外にも開く木製のスイングドアを開き、チャルドが兜を抱えながら店内に顔を出す。
 店内はガヤガヤと喧騒で溢れ返っていたが、彼の高いトーンの声のお陰で、スレイズの耳へその声は容易に届いた。

「おっ、チャルドか。良くここに居るってわかったなー。あ、ミアさん席一つ追加で」

「了解にゃーん」

 応えた後、冷静にミアネロへと伝えるスレイズ。
 店に訪れてから既に小一時間は経っているが、彼だけはまだ素面に近い状態を保っていたのだ。

 一方で、レノはと言うと――。

「おぉーい。チャルドぉ~。早く来ぉい。飲むぞぉー」

「ちょっ、レノさん? どしたんすかそんな酔っ払っちゃって……。すっかりデキ上がってんじゃないすか!」

 熟れたトマトのように顔を真っ赤にさせながらジョッキを片手にテーブルへ突っ伏す彼を見て、チャルドが驚愕する。
 普段の彼の飲みっぷりを良く知っているので、その驚きは尚更だろう。

「どうしてか知らないけど、いきなり何かに取り憑かれたかのようにガブガブ飲み始めたんだよ、コイツ」

 新たに用意されたイスに座りながら、その説明を受けてチャルドがまじまじとレノを見る。

「ほぇ~。レノさんがですか……珍しいこともあるもんっすねぇ。あ、ミアさんお久しぶりっす。今日もカワイイっすねえ。ビール一つくださいっす」

 ミアが了解を返し再び席を後にすると、チャルドは正面に座っていた空色の髪を生やした男の存在にようやく気が付く。

「……えっと、スレイズくん。こちらの方はどちら様っすか?」

「ああ、紹介するよ。ゼレスティア軍、親衛士団所属のビナルファ・ヴァイルスさんだよ」

「…………!」

 そうスレイズが簡素に紹介をすると、チャルドの顔色が途端に一変とする。

「よう、チャルドレートだっけか? 話はコイツらから聞いてたぜ。今日からガストニアここにしばらく世話になるからよ。まあよろしくな」

 つまみとして用意されたナッツをポリポリと咀嚼しながら、ビナルファが軽い挨拶をする。
 チャルドは絶句し、陸にうち上がった魚類のように口をパクパクとさせている。

「ほほほ……本物っすか? だ、だだ第4団士の、あの……」

「ぶはは、やっぱ有名なのね、俺」

 呂律が上手く回ってないチャルドに対しビナルファが満更でもなさそうに返す。するとチャルドは立ち上がり、背筋を整え、勢い良く頭を下げ始めたのだった。

「申し遅れましたっ! 自分、チャルドレート・ウィルキンと申します! 以後、お見知りおきをっ!」

 喧騒をかき消す程の大きな声で、畏まった挨拶をするチャルド。
 声質のせいもあってか店内中にその声は響き渡り、他のテーブルに着く客、従業員達の視線が一斉に青年へと集中する。

「チャルド、気持ちは解るが場所を考えろ。他の客に迷惑だぞ」

 スレイズがチャルドの着けていた腕甲を掴み、強引に着席させる。

「あ、あ、ああっ……そっすね! 申し訳ないっす」

 冷静になったチャルドは我に返るように席に戻り、改めてビナルファへと言葉を発する。

「あの……ビナルファ様」

「ん、なに?」

 気分が良さそうに見えるビナルファに向けて、青年は恐る恐ると訊く。

「握手……してもらっても、よろしいでしょうか……?」

「ああ、いいぜ」

 二つ返事をしたビナルファが、快く手を差し出してくれた。
 チャルドは慌てて手甲を脱ぎ、差し出された手に対し両手で有り難みを噛み締めるように固く握る。

 と、その光景を横で見ていたスレイズが、ニヤニヤとしながら口を挟む。

「お前、ほんとミーハーだよなー」

「ちょ、スレイズくん! やめて!」

 慌てて否定をするチャルドであった。


◇◆◇◆


 クラシカルな雰囲気が漂うバー。
 気品を醸し出す白い口髭をたくわえた年配の店主が、薄布でいたわるようにグラスを磨いている。

 エボニー素材で造られたテーブルカウンターには三人の戦士が腰を下ろし、酒を嗜む。



「……ふふ、やはり貴様は気付いていたか」

 グラスを片手に、薄笑いを浮かべるグレイム。
 対し、レノの名前を発したヴェルスミスはいつにも増して神妙さがその表情から窺えた。

「レノリアス、がどうかしたのか?」

 この国に来てからも行動をずっと共にしていたヴェルスミスの盟友であるシングラルでさえも、話題に挙がった青年の名前に首を傾げる。

 彼の疑問に答えるよう、ヴェルスミスは静かに口を開いた。

「まだ俺が若い時分、ゼレスティアの国立図書館にある古い文献で目にしたことがある。ガストニアにも、かつては辣腕を振るい、この国の舵取りをしていた人物――即ち国王が存在していた、と言うことを」

 そこまでの説明を聞き、シングラルも答えに辿り着く。


「まさか……」
「そして、その王の名こそ、"エスタルク・フォルデン"。レノリアスの遥か遠い祖先にあたる」


 真実を明かしたヴェルスミス。
 その両目は、眼前の"白獅子"の双眸をしっかりと見据えていた。

 その視線を袖にするかの如く、グラスの半分程まで残った蒸留酒をグレイムが一気に喉へ流し込む。
 口の中と鼻孔に返ってくる酒の風味を余韻のように味わいながら、彼はやがて言葉を紡ぐ。

「“何故、彼をあのような扱いに?” とでも聞きたそうな顔をしているぞ、ピースキーパー」

「…………」

 推察は概ね正解、といった所だろうか。
 ヴェルスミスは無言で応える。

「口外するような貴様達でも無いだろうし、答えてやろう。彼、レノリアス・フォルデンは確かに王族の末裔だ」

 彼は空になったグラスを、老齢の店主に返す。そして更にもう一杯同じ酒を注文し、続けた。

「貴様が名を出したかつての王エスタルクは、類稀な知見と政治的手腕で、この国を見事に治めたと伝えられている。それは事実だ。しかし、剣の才は全くと言って良いほどに無かった。それはレノリアス・フォルデンも同様、だから"あのような扱い"になるのだ」

「王となる者に武力の有無で計る必要があるのか?」

 シングラルが割って入る。

「当然、必要だ。エスタルクは大人しく政治だけに手腕を発揮していれば良かったものの、当時の騎士団の作戦指示にまで口を出すようになった。武力に限れば下級騎士にも及ばない彼から任務に対し逐一あれこれ言われては騎士達もたまったものではないだろう。彼等にも"矜持"というものが在るのだから。説得力を持たない者からの指示には従いたくないのが、騎士達の総意だったのだ」

「…………!」

 反論にシングラルが押し黙る。
 ゼレスティアの王である自身の実父と照らし合わせて考えると、思い当たる節があったのだろう。

 しかし、それを余所に今度はヴェルスミスが一言を刺す。


「そのが……仮に的確であってもか?」

「――っ」

 新たに注がれた酒が入ったグラスを、口に運ぼうとしたグレイムの手が止まる。

「……何が言いたい?」


洞察者イン・サイターという特殊能力を――セサエル、お前が知らない訳もあるまい」


 ヴェルスミスのその意表を衝いた言葉の後、緊張感を伴った静寂が場を包む。
 やがて――。


「ふふっ、ふははははは……まさかここまで博識だったとはな。ピースキーパー、恐れ入ったよ」

 グレイムが笑い声と共に、感服を目の前の男に送る。

「おい、ヴェルスミス。話が全く見えてこないぞ。イン……サイター、とは一体何だ?」

 論調のペースに追い付こうと、シングラルが必死に頭を捻る。

「ウチでいう、"リーベ・グアルド"のようなものだ。但しコレは、訓練で会得出来るような代物ではないがな」


 ――"洞察者イン・サイター"

 周囲を俯瞰するかのような目線で、事象を察知し、捉える事が出来る能力。
 "物凄く視野が開けて観察ができる"と言い代えてもいいだろう。

 例を挙げると。
 朝、目が醒めた時『眠い』という感情よりも、カーテンの隙間から射す陽光や小鳥の囀りなど、ほんの些細な物事に対し全てを一瞬で把握する事が可能となる。多人数で会話をする際には一人一人の僅かな顔色や表情の変化、数人が一度に話す口調・声色・内容、それら全てを脳内で文章に置き換えて整理することも可能になる。

 それはまるで自身が"物語の主人公"にでもなったかの如く、全ての事象を脳内で事細かに整理し、把握・認識・理解。その上で的確な判断を生み出すことが出来るという能力なのだ。

 天啓と呼ぶに相応しき知略や智謀を遺憾なく発揮していた嘗ての王、エスタルク・フォルデンもこの能力の持ち主で、それは現代に生きるレノリアス・フォルデンにも血脈と共に脈々と受け継がれていたのだった――。


「……いつから気付いていた?」

 若干の間を置き、グレイムが訊く。

「最初は、上位魔神が出現した時だ。誰もが下位魔神の討伐に安堵し喜びを馳せている間、あの青年だけは誰よりも早く危険を察知し、ビナルファに呼び掛けていた」

 数時間前へと記憶を遡らせるシングラル。
 ヴェルスミスは更に続けた。

「次は、俺が彼女――アルネイラに剣を渡し、シングラルの名を呼んだ時だ。レノリアスは真っ先に反応を示し、俺の考案に理解を示していた。そこで俺は悟った。レノリアスにも間違いなくイン・サイターの素質が受け継がれている、と」


 それだけを言い切ると、彼は久々にグラスに口を付ける。
 話し続け乾いていたのか、喉を鳴らしながら酒を一気に飲み干す。


「……全て正解だ。見事だ、ピースキーパー」

 今にでも拍手をするかの如く、グレイムが褒め称える。
 しかし――。


「それで? レノリアス・フォルデンの血筋と能力について確認が終わったところで何だというんだ? いくら洞察力に優れていたとしても、"この国"ではその能力は全く意味を為さない。それが事実であり、真実だ。いい加減この話は終わりにして、次に進めようじゃないか」

 話題を終わらせ、変えようとした彼だったが、ヴェルスミスがそれを遮る。

「待て、セサエル。ここからが本題なんだ」

「……なんだ?」

 グレイムが簡素に聞き返すと、ヴェルスミスは意を決した様に告げる。


「――半年後に控える魔神掃討作戦、レノリアスを作戦に帯同させたい」
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