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Unstoppable melancholy
40話 錯綜の末に
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――男は走っていた。
王宮内ですれ違う兵に会釈をされたり、市街地で一般市民から挨拶の声をかけられても、彼は脇目も振らずただただ全速力でひた走るのみ。
(ピリム……! 頼む、無事であってくれ!)
巨体をフルに駆動させて走っていたのはバズムント。
脳内では愛する娘の安否を気にかけるばかり。
『残りの人生全てを懸けて愛する』と、ピリムが産まれた際に彼は誓いを立てていた。
今日に至るまで、自戒に近いその誓いを欠かした事は一度だってない。
離れ離れで暮らしていても、未だに溺愛の対象となるたった一人の娘の危機に対し彼は、残っている業務を放り出してでも安否の確認を優先させたのだった。
◇◆◇◆
「――ええと、ピエルミレ様。バズムント様は一体どちらへ……? フルコタ市で現地解散したと私が告げた途端、血相を変えて物凄い勢いで飛び出して行きましたけど……」
開いたままの作戦室のドアの側。
呆然としながら立ち尽くしているフェリィが尋ねる。
「どうやらいつもの子煩悩が発動したみたいですねえ。ククク……」
薄ら笑いを交え、エルミが答えた。
バズムントが作戦室を飛び出したのは、フェリィが成果の報告をしている最中であった。
彼は、天使教の拠点がフルコタ市だと先程エルミから聞いていた。
フェリィからは報告を受けた後、そのフルコタ市にて現地解散したと聞き及び『ピリムが危険に曝されてしまう』と短絡的に結び付け、馳せ参ずべく飛び出して行ってしまったのだった。
「……まあ、いいんじゃないですかね。放っておいても」
バズムントが戻るのを待つべきか、帰宅するべきかでもじもじと悩む様を見せているフェリィへ、エルミが促す。
「それより、フェリィ。これから貴女はしばらくの間、私の助手兼パートナーです。また昔みたいに仲良くしましょう。あ、もう敬称は付けなくて結構ですよ。敬語もやめてください」
それだけを言われると、フェリィは畏まっていた態度を改め、後頭部で結っていた髪をほどく。
セミロングのストレートな黒髪が、はらりと垂れていく。
「……わかったよ、エルミ。こうやって呼ぶのは親衛士団が設立されて以来だったか?」
「2年と214日振りですね。これからよろしくお願いします、フェリィ。仕事のご説明は追って致しますので、今日はもう帰りましょう」
「ああ」
二人は作戦室を後にし、各々帰宅することにした。
ピエルミレ・リプスとフェリィ・マーテルス。この二人の関係については、いずれ明かされることになるだろう――。
◇◆◇◆
――PM20:00、アーカム市。
「はぁっ、はぁっ……」
石造建築の一戸建て。
アーカム市の住宅街に建ち並ぶ家々の中では上等過ぎるほどの高級住宅。
かつては妻のシャリエと娘と三人で、仲睦まじく暮らしていたこの家。
今ではすっかり、稼いだ金を納めにいく為だけにしか足を運ぶことはない。
(頼むから家に居てくれよ……!)
息を切らし、玄関のドアの前でバズムントは切に願った。
そしてノックをすることなく、彼は勢い良くドアを開く。
「…………」
玄関の照明となるオレンジの灯飾が、バズムントを迎え入れる。
向かって左手に二階へ続く階段。右手にはトイレとリビングが面している廊下。
ピリムの自室は二階にあるので、すぐに革靴を脱ぎ階段へ向かおうとしたが、リビングから人影が現れる。
「あなた、こんな時間に何しに来たのよ……?」
怪訝そうな顔付きと疑問の言葉を同時にバズムントへ向けたのは、妻のシャリエ・ネスロイド。
ピリムより少しだけ大きい体躯に、茶色みがかかったベージュのロングヘアー。
娘の受け継いだ遺伝子が、髪の色以外は母親の方に色濃く出ているというのが大いに窺える顔立ちだった。
「…………っ!」
年齢は既に三十路半ばではあるが、娘と一緒に歩いていれば姉妹と間違えられてしまうほどの若々しい姿を保っているシャリエ。
バズムントが一瞬だけ空目してしまうのも無理は無かった。
「シャリエ、ピリムは帰ってないのか?」
「え? そういえば帰って無いわね……。アイネちゃんと任務帰りに遊んでるだけだと思うけど……」
リビングにある壁掛け時計へ目を配りながら、シャリエが返す。
「クソッ……!」
妻からの答えを聞くや否や、バズムントは無駄足を後悔する以上に、娘への気掛かりの度合いが倍に膨らむ。
それ以上シャリエへ何も言うことなく、直ぐ様フルコタ市へ向かおうとした。
――が、その時だった。
「パパ? どうしたの……?」
踵を返しかけたバズムントの背後に突如現れた少女。
その呼び名で彼を呼ぶのはこの世でただ一人。
彼が振り向いた先に立っていたのは、ピリムだった。
「ピリム……無事だったのか!」
「ハァ? 無事って……なにが? アタシ普通に任務から帰って来ただけなんだけど」
眉をひそめ、少女は父に返す。
その反応だけでバズムントの胸中が安堵に包まれる。
「いや……何でもない。お前さんが無事なら良いんだ……おかえり」
「意味わかんないんだけど……。まあいいや、ただいま」
訝しみつつ、とりあえずは帰宅の挨拶を返すピリム。
「とりあえずそんなところで突っ立ってないで中に入ったら? あなたの身体が邪魔でピリムが家に入れないわ」
「あ、ああ……そうだな。すまんな、ピリム」
シャリエからの声にバズムントはハッとし、慌てて大きな体を退かす。
「いいよ、パパ。先入りなよ」
「いや、俺はこれでもう帰るんだ。まだ仕事が残っててな」
「……?」
『何しに来たの』とでも言いたげなピリム。
表情がますます怪訝となる。
「……そういえば、ピリム。さっきフェリィから報告を聞いたぞ。今日の任務、調子が悪そうだったみたいだが、なにかあったのか?」
すれ違い様に心配をしたバズムント。
玄関に踏み入れようとしたピリムの足がぴたりと止まる。
「……だから、なによ?」
頭二個分以上身長が違う父に向けて、ピリムが睨みをつける。その話題には触れられたく無かったのだろう。
「その、巡回任務でお前さんが苦戦するなんて珍しいと思ってな……」
娘のカドが立つ目付きに対し、バズムントの語気が弱まる。
「それで心配して家まで駆け付けて来たってワケ……? 余計なお世話よ! いつもいつも仕事と私ばっか気にかけて……ママの事なんて全然愛して無いんじゃん! それで今こんな状態になってるの解らないの!?」
ピリムが言う"こんな状態"というのは、離婚間近になっているこの現状を指すのだろう。
バズムントは愛娘の相談に乗るつもりが逆鱗に触れてしまい、おまけに耳の痛い指摘を食らう羽目となったのだ。
「ピリム、お父さんにそんな事を言うのはやめなさい」
シャリエが嗜める。
その言葉にピリムは激昂をピタリと止め、我に返る。
「……ごめんなさい」
か細い声で、反省するピリム。
明らかに、情緒が安定していない。
不調の原因は定かではないが、やはり何かあるのだろう、とバズムントはこの瞬間確信する。
「あなた、用がないなら早く帰って。この子疲れてるのよ。そっとしてちょうだい」
「あ、ああ。すまん、ピリム」
シャリエが促し、バズムントは申し訳なさそうに謝る。
「パパ……一つだけ聞いていい? アウルが今日休んだのって、何か理由があるの?」
「ん、ああ。自宅で転んで腕を折ったらしく、しばらく休むと聞いているが……どうした?」
振り向き様に背後からピリムに問われ、バズムントは理由を答え問い返す。
「……何でもないよ、じゃあね」
そう言うと、ピリムは玄関のドアをバタンと閉めた――。
帰って早々、ピリムは食事も摂らずに自室へと向かう。
ピンクの花柄のカバーで寝具が統一されたベッドへ、少女はそのまま溶けるように寝転ぶ。
「疲れた……」
枕に顔を埋め、ピリムがぽつりと溢す。
アウルに対する想いと戸惑い。
それに付随するかのように、任務での不調。
更には、元気付けようとしてくれた親友アイネに対しての失言。
同様に、父への八つ当たり任せの暴言。
「アタシ……何やってんのかな」
仰向けになり、天井へ言い放つ。
空虚な空間に、その答えを導く者はいない。
ふと、少女は履いていたデニムのショートパンツのポケットに手を入れる。
取り出したのは、白い錠剤が何十粒も入ったコルクの栓がしてある小瓶――。
◇◆◇◆
『少し……考えさせてください』
嗤い、選択を委ねてきたワインロックに対し、ピリムは答えが出せないという旨を答えた。
『……まあ、すぐには決めれないだろうね』
その少女の反応を予測でもしていたかのようにワインロックがそう言うと、彼はおもむろに着ていたコートの懐へと手を突っ込む。
『これを渡しておくよ』
その言葉と共に小瓶をテーブルの上に置く。
『これは……?』
ピリムが不思議そうな目付きで、置かれた小瓶を見つめる。
『軍の研究士が開発した秘薬だ。それを一日一錠飲むだけで飛躍的に強くなれる。魔神に近い程の、ね』
『これを飲む……だけで?』
“そんな簡単に”、と表情だけで続きを述べワインロックへと視線を戻す。
『もちろんそんな簡単ではないよ、きっと凄く苦しむ事になる。飲むかどうかは、キミ自身で決めるといい』
ワインロックは、あくまで少女に選択を委ねた。
『飲まないと決めた時だけ、僕に返してくれればいい。それと、今日僕とここで会ったっていうのは他の人には内緒にしておいて欲しいな。僕、今日仕事をサボってここにきたんだ』
優しく口止め。
もちろん薬の事も他言無用とでも言わんばかりに。
『わかりました……ワインロック様と会ったことも、薬の事も、誰にも言いません』
◇◆◇◆
その後、別々に店を出た二人。
そして、今に至る。
「…………」
小瓶の中の錠剤。
中に詰まるは希望か、絶望か。
見つめながら思いに耽る。
「……ううん、やっぱりこんなのに頼っちゃダメだよね。決めた、明日からちゃんと頑張ろう」
考えた末、ピリムは改めた。
起き上がり、小瓶を木製の勉強机に置き、少女は夕食を食べに部屋を後にしたのだった。
王宮内ですれ違う兵に会釈をされたり、市街地で一般市民から挨拶の声をかけられても、彼は脇目も振らずただただ全速力でひた走るのみ。
(ピリム……! 頼む、無事であってくれ!)
巨体をフルに駆動させて走っていたのはバズムント。
脳内では愛する娘の安否を気にかけるばかり。
『残りの人生全てを懸けて愛する』と、ピリムが産まれた際に彼は誓いを立てていた。
今日に至るまで、自戒に近いその誓いを欠かした事は一度だってない。
離れ離れで暮らしていても、未だに溺愛の対象となるたった一人の娘の危機に対し彼は、残っている業務を放り出してでも安否の確認を優先させたのだった。
◇◆◇◆
「――ええと、ピエルミレ様。バズムント様は一体どちらへ……? フルコタ市で現地解散したと私が告げた途端、血相を変えて物凄い勢いで飛び出して行きましたけど……」
開いたままの作戦室のドアの側。
呆然としながら立ち尽くしているフェリィが尋ねる。
「どうやらいつもの子煩悩が発動したみたいですねえ。ククク……」
薄ら笑いを交え、エルミが答えた。
バズムントが作戦室を飛び出したのは、フェリィが成果の報告をしている最中であった。
彼は、天使教の拠点がフルコタ市だと先程エルミから聞いていた。
フェリィからは報告を受けた後、そのフルコタ市にて現地解散したと聞き及び『ピリムが危険に曝されてしまう』と短絡的に結び付け、馳せ参ずべく飛び出して行ってしまったのだった。
「……まあ、いいんじゃないですかね。放っておいても」
バズムントが戻るのを待つべきか、帰宅するべきかでもじもじと悩む様を見せているフェリィへ、エルミが促す。
「それより、フェリィ。これから貴女はしばらくの間、私の助手兼パートナーです。また昔みたいに仲良くしましょう。あ、もう敬称は付けなくて結構ですよ。敬語もやめてください」
それだけを言われると、フェリィは畏まっていた態度を改め、後頭部で結っていた髪をほどく。
セミロングのストレートな黒髪が、はらりと垂れていく。
「……わかったよ、エルミ。こうやって呼ぶのは親衛士団が設立されて以来だったか?」
「2年と214日振りですね。これからよろしくお願いします、フェリィ。仕事のご説明は追って致しますので、今日はもう帰りましょう」
「ああ」
二人は作戦室を後にし、各々帰宅することにした。
ピエルミレ・リプスとフェリィ・マーテルス。この二人の関係については、いずれ明かされることになるだろう――。
◇◆◇◆
――PM20:00、アーカム市。
「はぁっ、はぁっ……」
石造建築の一戸建て。
アーカム市の住宅街に建ち並ぶ家々の中では上等過ぎるほどの高級住宅。
かつては妻のシャリエと娘と三人で、仲睦まじく暮らしていたこの家。
今ではすっかり、稼いだ金を納めにいく為だけにしか足を運ぶことはない。
(頼むから家に居てくれよ……!)
息を切らし、玄関のドアの前でバズムントは切に願った。
そしてノックをすることなく、彼は勢い良くドアを開く。
「…………」
玄関の照明となるオレンジの灯飾が、バズムントを迎え入れる。
向かって左手に二階へ続く階段。右手にはトイレとリビングが面している廊下。
ピリムの自室は二階にあるので、すぐに革靴を脱ぎ階段へ向かおうとしたが、リビングから人影が現れる。
「あなた、こんな時間に何しに来たのよ……?」
怪訝そうな顔付きと疑問の言葉を同時にバズムントへ向けたのは、妻のシャリエ・ネスロイド。
ピリムより少しだけ大きい体躯に、茶色みがかかったベージュのロングヘアー。
娘の受け継いだ遺伝子が、髪の色以外は母親の方に色濃く出ているというのが大いに窺える顔立ちだった。
「…………っ!」
年齢は既に三十路半ばではあるが、娘と一緒に歩いていれば姉妹と間違えられてしまうほどの若々しい姿を保っているシャリエ。
バズムントが一瞬だけ空目してしまうのも無理は無かった。
「シャリエ、ピリムは帰ってないのか?」
「え? そういえば帰って無いわね……。アイネちゃんと任務帰りに遊んでるだけだと思うけど……」
リビングにある壁掛け時計へ目を配りながら、シャリエが返す。
「クソッ……!」
妻からの答えを聞くや否や、バズムントは無駄足を後悔する以上に、娘への気掛かりの度合いが倍に膨らむ。
それ以上シャリエへ何も言うことなく、直ぐ様フルコタ市へ向かおうとした。
――が、その時だった。
「パパ? どうしたの……?」
踵を返しかけたバズムントの背後に突如現れた少女。
その呼び名で彼を呼ぶのはこの世でただ一人。
彼が振り向いた先に立っていたのは、ピリムだった。
「ピリム……無事だったのか!」
「ハァ? 無事って……なにが? アタシ普通に任務から帰って来ただけなんだけど」
眉をひそめ、少女は父に返す。
その反応だけでバズムントの胸中が安堵に包まれる。
「いや……何でもない。お前さんが無事なら良いんだ……おかえり」
「意味わかんないんだけど……。まあいいや、ただいま」
訝しみつつ、とりあえずは帰宅の挨拶を返すピリム。
「とりあえずそんなところで突っ立ってないで中に入ったら? あなたの身体が邪魔でピリムが家に入れないわ」
「あ、ああ……そうだな。すまんな、ピリム」
シャリエからの声にバズムントはハッとし、慌てて大きな体を退かす。
「いいよ、パパ。先入りなよ」
「いや、俺はこれでもう帰るんだ。まだ仕事が残っててな」
「……?」
『何しに来たの』とでも言いたげなピリム。
表情がますます怪訝となる。
「……そういえば、ピリム。さっきフェリィから報告を聞いたぞ。今日の任務、調子が悪そうだったみたいだが、なにかあったのか?」
すれ違い様に心配をしたバズムント。
玄関に踏み入れようとしたピリムの足がぴたりと止まる。
「……だから、なによ?」
頭二個分以上身長が違う父に向けて、ピリムが睨みをつける。その話題には触れられたく無かったのだろう。
「その、巡回任務でお前さんが苦戦するなんて珍しいと思ってな……」
娘のカドが立つ目付きに対し、バズムントの語気が弱まる。
「それで心配して家まで駆け付けて来たってワケ……? 余計なお世話よ! いつもいつも仕事と私ばっか気にかけて……ママの事なんて全然愛して無いんじゃん! それで今こんな状態になってるの解らないの!?」
ピリムが言う"こんな状態"というのは、離婚間近になっているこの現状を指すのだろう。
バズムントは愛娘の相談に乗るつもりが逆鱗に触れてしまい、おまけに耳の痛い指摘を食らう羽目となったのだ。
「ピリム、お父さんにそんな事を言うのはやめなさい」
シャリエが嗜める。
その言葉にピリムは激昂をピタリと止め、我に返る。
「……ごめんなさい」
か細い声で、反省するピリム。
明らかに、情緒が安定していない。
不調の原因は定かではないが、やはり何かあるのだろう、とバズムントはこの瞬間確信する。
「あなた、用がないなら早く帰って。この子疲れてるのよ。そっとしてちょうだい」
「あ、ああ。すまん、ピリム」
シャリエが促し、バズムントは申し訳なさそうに謝る。
「パパ……一つだけ聞いていい? アウルが今日休んだのって、何か理由があるの?」
「ん、ああ。自宅で転んで腕を折ったらしく、しばらく休むと聞いているが……どうした?」
振り向き様に背後からピリムに問われ、バズムントは理由を答え問い返す。
「……何でもないよ、じゃあね」
そう言うと、ピリムは玄関のドアをバタンと閉めた――。
帰って早々、ピリムは食事も摂らずに自室へと向かう。
ピンクの花柄のカバーで寝具が統一されたベッドへ、少女はそのまま溶けるように寝転ぶ。
「疲れた……」
枕に顔を埋め、ピリムがぽつりと溢す。
アウルに対する想いと戸惑い。
それに付随するかのように、任務での不調。
更には、元気付けようとしてくれた親友アイネに対しての失言。
同様に、父への八つ当たり任せの暴言。
「アタシ……何やってんのかな」
仰向けになり、天井へ言い放つ。
空虚な空間に、その答えを導く者はいない。
ふと、少女は履いていたデニムのショートパンツのポケットに手を入れる。
取り出したのは、白い錠剤が何十粒も入ったコルクの栓がしてある小瓶――。
◇◆◇◆
『少し……考えさせてください』
嗤い、選択を委ねてきたワインロックに対し、ピリムは答えが出せないという旨を答えた。
『……まあ、すぐには決めれないだろうね』
その少女の反応を予測でもしていたかのようにワインロックがそう言うと、彼はおもむろに着ていたコートの懐へと手を突っ込む。
『これを渡しておくよ』
その言葉と共に小瓶をテーブルの上に置く。
『これは……?』
ピリムが不思議そうな目付きで、置かれた小瓶を見つめる。
『軍の研究士が開発した秘薬だ。それを一日一錠飲むだけで飛躍的に強くなれる。魔神に近い程の、ね』
『これを飲む……だけで?』
“そんな簡単に”、と表情だけで続きを述べワインロックへと視線を戻す。
『もちろんそんな簡単ではないよ、きっと凄く苦しむ事になる。飲むかどうかは、キミ自身で決めるといい』
ワインロックは、あくまで少女に選択を委ねた。
『飲まないと決めた時だけ、僕に返してくれればいい。それと、今日僕とここで会ったっていうのは他の人には内緒にしておいて欲しいな。僕、今日仕事をサボってここにきたんだ』
優しく口止め。
もちろん薬の事も他言無用とでも言わんばかりに。
『わかりました……ワインロック様と会ったことも、薬の事も、誰にも言いません』
◇◆◇◆
その後、別々に店を出た二人。
そして、今に至る。
「…………」
小瓶の中の錠剤。
中に詰まるは希望か、絶望か。
見つめながら思いに耽る。
「……ううん、やっぱりこんなのに頼っちゃダメだよね。決めた、明日からちゃんと頑張ろう」
考えた末、ピリムは改めた。
起き上がり、小瓶を木製の勉強机に置き、少女は夕食を食べに部屋を後にしたのだった。
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