PEACE KEEPER

狐目ねつき

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High voltage

47話 爆発する理性

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 広場にて行き交う人々を一人、また一人と目で追う。そして雑踏に呑まれていったところで別の人物をフォーカスし直し、また追う。
 という無駄でしかない視線の動きを絶えず繰り返し、暇を潰す少年。

「はぁ、団士になる将来を嘱望されているこの俺が門前での警備任務だなんて……。バズムント様もひでぇ仕打ちだぜ」

 そう都合の良い虚言を含ませつつ、溜め息と愚痴を溢しているのは、少年兵のパシエンス・ガイネスだ。
 彼は今、東門の警備任務に駆り出されていた。

「あれほど面倒だと思ってた巡回任務ですら、今は恋しく思えてくるなぁ……」

 ここ最近はピリム達と共に、ゲート外での任務に明け暮れていたパシエンス。
『門の前で立つ』というだけの緊張感とは無縁な任務を強いられ、退屈と感じてしまうのは致し方無いのだろう。

「早く終わんねえかなぁ……」

「おい、ガイネス! 警備任務中は私語を慎め!」

「はーい! すんません!」

 嘆き、項垂れていたところで、対となるように門扉の片側で立っていた相方の警備兵が怒声混じりに嗜めてくる。

(くっそぉ……一般兵風情が未来の団士であるこの俺に気安く注意してんじゃねえよ! お前なんて数年後には俺に"様"を付けてるんだぜ……!)

 パシエンスは細い目付きを更に尖らせ、脳内で毒を捲し立てた。

「――ん?」

 と、再び視線を広場へ移したところで、パシエンスは見知った顔が人波の中にチラリと映った事に気付く。

(あの二人は……ネスロイドと、リフトレイ……!?)

 声には出さず、静かに驚く少年。

ネスロイドアイツ……任務に来なかったクセに、こんなところでなにやってんだ? リフトレイも……ネスロイドの様子を見てくるよう頼まれてたんじゃ無かったのかよ!?)

 思わず目を疑ってしまう。この場に現れる筈が無いと思っていた少女二人が、仲良く手を繋ぎ、まるで休日でも満喫するかのよう広場内を愉しげにねり歩いていたのだった。

(アイツら……任務サボりやがったな!)

 今すぐにでも駆け付け問い詰めたいところだが、現在は生憎任務中である。
 持ち場を離れてしまってはミイラ取りがなんとやら、という結果になってしまうのが解らないほど、パシエンスも愚かではなかった。

 沸々と湧き出てくる感情を押し殺しながら、少年は密かに決意をする。

(くそぉ、後でバズムント様にチクってやる!)

 ――なんとも心意気の小さい決意であったが、置かれた状況を鑑みるとベターな判断であろう。


(後で大目玉食らうとも知らずに……アイツら楽しそうにしやがって)

『羨ましい』という感情が少しだけ頭の中を過ったが、少年は意思を曲げることなくただただ少女達の動向の観察を続けていく。
 すると、遠目ではあるが徐々に二人の様子がおかしくなっていくことに気付き、少年は目を凝らして注視をする。

(――ん? なんか言い合いしてるな……ケンカか?)

 少女二人の足が止まり、手を繋ぎながら何やら問答をし合っているような様子が窺える。
 不審に思いつつ観察を続けていると、おもむろにピリムがアイネの方に向けて手を翳し――。

(は? どういうことだ? 嘘だろ……!?)

 十数ヤールト先で起こっている光景に、パシエンスは唖然とする。

(アイツ、人間相手に……魔術を撃ちやがった……!)

 ――そう、ピリムがアイネに向けて、火術を放ったのだ。


◇◆◇◆


 激しい炎が激流の如き勢いを伴い、アイネを襲う。

 今まで何度も唱えられていたピリムの十八番の火術イグニート
 ピリムとは幾度も肩を並べて戦いを共にしてきたアイネも、その術は何度も目にしていただろう。
 しかし火力・範囲・速度――全てが洗練されたその威力は、今までの比では無かった。
 おまけに至近距離、更には手を繋いだ状態だ。直撃を免れるのは不可能だとピリムは放った直後に確信をした。
 しかし――。



「――えっ?」

 と、零したのはピリム。
 なんと、炎の軌道が自身の意図しない方向――アイネの身体の横を通過していったのだ。

「…………」

 逸れていった炎をピリムが目で追う。
 あさっての方向へと飛んだ炎は、そのまま真っ直ぐ空を切り、後方に聳え立つ街を取り囲んだゲートの表面を焦がすのみに留まった。

 昼下がりに差し掛かろうとしていた、平和な雰囲気が漂う広場。
 昼食をこの辺りで過ごそうとしていた一般市民が行き交っていたが、突如として放たれた火術によって、安穏としていた広場に一度ひとたび衝撃がひた走る。
 術を放った瞬間を見ていた目撃者の数人から、騒ぎは瞬く間に拡がり、人々の視線は一瞬にして二人の少女へと注がれる。

 一目散に逃げる者や、興味本位で二人の周りを取り囲む者など、反応は様々。
 そんな市民達を背景に、二人の少女が相対をする。


「ねえ、なんで私の術当たらなかったの?」

 繋いでいた手をパッと離し、間合いをはかったピリム。
 確実に直撃すると思っていた術の軌道が逸れたのだ。
 疑問を口にせずにはいられなかったのだろう。

「……ピリム、人に向けて攻撃魔術を放つのはダメだよ?」

 アイネの口からは質問に対しての回答ではなく、ピリムがしでかした行いを嗜める声。

「そんな事はどうだっていいの! いいから答えてよ!」

 苛々とした口調で、ピリムが回答を促す。
 辺りを取り囲む野次馬の存在が鬱陶しく、より一層少女のストレスを溜める要因になっていた。

「私の能力は、光を操ることだよ。ピリムも知っているよね? だから、光の屈折を利用すればこんな風に――ね?」

 アイネはそう説明を交えると、自身とピリムの間合いの中間に術で形成した見えないレンズを発生させる。

「…………!」

 すると、ピリムの視界に居るアイネの身体とその背景が、半分に分裂でもしたかのようにブレて映ったのだ。

「ピリムの術は私には当たらないよ。だから……もうヤメようよ」

「…………っ!」

 アイネが言い切り、ピリムはギリッと歯を軋ませる。

「――皆さん、危険ですので離れてください! ほら、通して!」

 と、そこで注意を喚起する声と共に人混みをかき分け、取り囲む人々の輪の中へ入ってくる人物が現れた。

「今、火術を撃ったのは誰だ?」

 厳格な口調と共に姿を現したのは、パシエンスと共に門の内側で警備に従事していた一般兵だった。
 パシエンスも素知らぬ態度をとりつつ、相方の背中に隠れるようにして一緒に現れた。

「……ネスロイドと、リフトレイか。今日は休日だったか……まあいい。答えろ、今火術を唱えたのはどっちだ」

 二人の少女の間へ割って入り、再度訊ねる兵士。

「…………」

 アイネは唇をぎゅっと紡ぎ、押し黙る。
 このままピリムが捕らえられるといずれは母を殺害した容疑も判明し、恐らくは収監されたのち、然るべき処罰が下るだろう。

(……そう、これで良いの。一緒に居れないのは寂しいけど……)

 目を瞑り、これ以上ピリムが罪を重ねる恐れがなくなったことに、アイネは静かに安堵する。


「アタシだけど……何?」

 そんな黙りこくったままのアイネに対し、ピリムは特に悪びれることもなく答えてみせた。

「ネスロイドだったか。お前、市街地での攻撃魔術の使用が重罪だということを知らないわけないよな? 弁解は後で訊く。付いてこい」

 男が高圧的にそう言い放つと、ピリムの手首を強く掴み連行の手筈を踏もうとする。

「……触るな」

「はっ?」

 ピリムが静かに怒りを露わにし、男が聞き返す。
 途端、少女は掴まれていない方の手で男の胸に手を当て――。

(――"エラプティオ")

「……? お前、何をやって――――ぶっッッ!!」


 彼の言葉は途切れ、その先が紡がれることはなかった。
 男の全身は勢い良く風船を膨らませたかのよう急速に膨張し、内側から破裂したのだ。

(…………!)

 その一部始終を見ていたアイネの脳裏に、ピリムの自宅で目にしたシャリエ・ネスロイドの変わり果てた姿が過る。

 弾け飛ぶ肉片、臓物、血飛沫――。
 放射状に散ったそれらは、男の背後にいたパシエンスや野次馬の先頭に立つ人々の体や顔へ、ばしゃりと飛び散る。

 一瞬の静寂が辺りを包む。
 たった今何が起こったか、居合わせた人々が理解をするのに間を要するのは無理もない。
 あまりにも非日常な事態との遭遇だったが、やがて人々の脳はようやく理解をする。

 ――人間の身体が粉々に爆裂したのだ、と。

 途端、広場は阿鼻叫喚の渦へと変貌。

「あはははははははhaはhaははははははは――」

 悲鳴と血肉の雨を返り浴びた少女は高らかに笑う。
 顔に跳ねた血滴を拭おうともせず、呆然と立ち尽くしていたアイネへと向き直り――。


「この術なら、屈折もなにも関係ないよね? アイネ♪」

 まるでそれは自信満々にテストの回答を持ち寄ってくる生徒のように嬉々とし、それでいて悠然とした面持ちだった。

「…………」

 アイネに襲い来る感情は恐怖ではなかった。
 自身の命など、少しも惜しくはなく――。

(どうしよう、ピリムが……ピリムが……)

 ――ただ、友人が"壊れて"しまったことを嘆くばかりだった。
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