145 / 154
Beauty fool monster
85話 感謝と期待
しおりを挟む『――あ、そうそう』
それは、任務を終え北門をくぐり、ゲート内へ帰還した直後。思い出したかのようにジェセルが口を開いた。
『カレリア。私、今度結婚するから』
隣に立つカレリアへ、そう告げたのだ。
『…………?』
その藪から棒な報告は『化粧を変えてみた』とでも言わんばかりな程に何気のないものであった。
カレリアはまだ理解を示すことができず、眉を寄せて首を傾げる。
『ん、えっと……ジェス? 私にはちょっと言ってる意味がわかんないんだけどぉ……』
『“結婚する”って言ってるだけじゃない』
『誰が?』
『私が、よ』
正気でも疑うかのようにカレリアは再度確認をしたが、どうやら発言そのままの意味だったようだ。
『……はぁ!? なによそれ!? 私聞いてないわよ!?』
『だから今教えたのよ』
『だ、だだっ……誰とするのよっ!?』
『その内紹介するわ』
『誰なのよぉっ!?』
カレリアが物凄い剣幕で詰め寄る。
『とても素敵な人よ。私には勿体ないほどの、ね』
が、ジェセルは後ろめたさを微塵も感じさせることなく、さらりと言い退けた。
『……!』
驚きのあまりカレリアは唖然としていたが、冷静さを取り戻すと、ここ数週間の記憶を思い返す。
思い当たる節に思考回路が行き着くと、彼女は踵を返すかのようにジェセルへと背を向けた。
『……最近、任務が終わった後の付き合いが悪かったのはそういうコトだったのね。そっかぁ……ふーん、私が遊びに誘って断られてばっかだった裏で、ジェスはしっかりとヤル事はやってたんだぁ~、へぇ……』
『カレリア?』
ボソボソと背中越しに呟くカレリア。彼女の正面へ回り込む形で、ジェセルが様子を窺う。
『……抜け駆けなんてサイテーよっ! もう口きいてあげないんだからっ! ふんっ!』
そのジェセルへ嫉妬心をふんだんに含ませた恨み節をぶつけると、カレリアはぷいっと外方を向く。
『……そう、残念ね』
しかしジェセルは、至って平静を崩すこともなくそう返す。そして、カレリアを袖にするように王宮の方へ歩みを再開させたのだ。
『えっ? ちょっ、ジェスぅ~! 冗談だってばぁ! 行かないでよぉ~』
一転してカレリアが慌てふためく。どうやら怒っていたのは演技だったようで、直ぐ様ジェセルの後を追う。
『寂しかっただけなのぉ~! 怒んないでよ~!』
悠然と歩を進めるジェセルの横を歩き、駄々をこねるような口調でカレリアが機嫌を取る。
『別に、怒っていないわよ』
『ホント?』
『本当よ』
(ホントに本当ね……ふぅ)
カレリアは問い質しつつもジェセルの顔色を窺い、安堵する。
『じゃ、じゃあさ、任務の報告終わったら……二人でゴハン食べに行こ? 私オゴるからさ! ジェスの彼のハナシとか……色々と聞いてみたいなー、なんて』
『うーん……誘いは嬉しいけど、今日はこれから大事な約束があるのよ』
気を取り直すようにカレリアは誘ってみたが、またもや断られてしまう。
『約束って……その、例の彼と?』
『ええ』
『…………』
本来であればもう少し粘りたかったが、これ以上後ろ髪を引くような発言をすれば、今度こそ怒らせてしまうだろう。カレリアは経験則からそう判断した。
『そっか……わかったよ。じゃあ、また今度誘うからさ、その時にでも話してよ』
『ええ、もちろんよ。断ってばかりでごめんね。次は私から誘うわ』
納得を見せたカレリアに向けて、ジェセルはそう約束を取り付けると――。
『それと……ありがとね』
付け足すかのように、面と向き合い礼を述べたのだ。
『ん? 急にどしたの?』
『私、カレリアが居なければ……きっと、自分の恋愛について真正面から向き合うことなんて無かったわ』
『お、おう。そうなの?』
突然の感謝に、カレリアが少しだけ戸惑う。
『そうよ。カレリアがきっかけを与えてくれたから、私は今こうして、誰かを好きになることができたの。本当に……感謝しているわ』
『……そ、そうよねぇ! やっぱり、女子に生まれたからには……恋愛してナンボだもんねぇ! ホント良かったな~、ジェスに男ができるなんて……あははは~』
照れ隠しをするように笑いを含ませ、お礼へと応えるカレリア。
(うーん、別にそこまで意図してなかったんだけどなぁ……。合コン誘ったのだって、男の子の人数を揃えるつもりで呼んだだけだったし……。まあ、結果オーライ……になるのかなぁ?)
――素直に喜べず、どこかむず痒さが残ってしまったカレリアだった。
その後二人は、王宮へと帰還し、本日終えた任務の成果をヴェルスミスへと報告する。
報告を終えたジェセルはカレリアと別れ、早速『とある場所』へと向かったのであった――。
◇◆◇◆
――ドメイル市、国立図書館、入口前。
『…………』
図書館に面する往来にて腕を組み、大木の如くどっしりと立ち尽くすアダマス。
入口の真ん前で立ちはだかるその様はさながら門番のようにも映り、あらゆる害敵を討ち払わんとする気概がその立ち姿から溢れ出ている。
それによって一般の利用客も、彼から発せられるただならぬ緊張感に気圧され、入り口に近寄れずにいた。
『――アダマス。アナタね、そんなところで立っていたら営業妨害で訴えられても知らないわよ?』
誰もが声を掛けられずにいる中、その緊張を解いたのはジェセルだった。
呆れ声と共に、行き交う人波の中から姿を見せたのだ。
『道理で……ああ。誰も入口に来なかったのはそういうことだったのか。てっきり閉館日なのかと疑ってしまったぞ』
アダマスが納得を口に出し、扉の前から巨躯を退かす。
『……入り口前を待ち合わせの場に指定したのは間違いだったようね』
アダマスの天然ぶりに対し、ジェセルはやれやれとした表情で、自身の選択が誤りだったと省みる。
『それとアダマス、どうしてそんな格好してるのよ? 私がアナタに買ってあげた服はどうしたの?』
一転して彼女は、革製の腰巻き一つのみを身に着けただけの姿のアダマスを指差し、苦言を呈す。
『布で締め付けられる感覚がどうにも苦手でな。やはりこの格好が一番戦いやすくてしっくりくる、ああ』
『……その格好はせめて任務の時だけにしてちょうだい。流石に周りの視線が痛いわよ』
『ああ。次からはそうしよう』
ジェセルが大きく溜め息をこぼす一方で、アダマスは満足げに笑んでいる。
アダマスは終身刑を言い渡され、服役をするにあたり、元より居を構えていた集合住宅の一室が引き払われていた。そう、出所をしても帰る家がなかったのだ。
更には金や服すらもまともに持ち合わせていない、衣食住の存在しない状態だったという。
それに見兼ねたジェセルが、自らの金を用い、最低限の暮らしを彼に保証させていたのだ。
『……それで、復帰するための手続きはもう済んだのかしら?』
『ああ、滞りなく終わった』
口元を歪ませてアダマスが応える。
出所から三日後。アダマスは早くも、軍属への復帰を果たしたのであった。
『ふふ……明日以降が待ち遠しい、って顔に書いてあるわよ』
我が子の成長を見届けるような眼差しで、ジェセルが微笑む。
待ち遠しいのは彼女も同様に、である。
アダマスと出会う数週間前、偶然にも見付けてしまった、一面が黒に染まった魔導書のページ。
その見開きにて魔筆で書かれた『謎の術』の正体を明かし、会得する――という彼女本来の目的が、本日遂に、叶おうとしているのだ。
(ここまで……短いようで、長かったわね)
反芻させるように、これまでの道程を胸中で思い起こす。
思えば、我が侭ばかりを貫き通し続けた数週間であった。
カレリアやエルミ、そしてアダマス。彼等の手助け無くしては今日、この機会は訪れなかっただろう。
(ワガママに付き合わせてしまった三人には……本当に、感謝しかないわね)
感謝の気持ちと溢れんばかりの期待を胸に、ジェセルは扉を開き、アダマスと共に図書館へと足を踏み入れる――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる